双子~それでも二人は共に生きていく~

折原さゆみ

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3祖父との電話

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 母親はそれからも自分の夫が生きているかのような発言を何度も繰り返した。そのたびに双子は仕事だといってごまかしてきたが、それも限界に近付いてきた。しかし、母親の精神はそれ以上に病んできていた。

「ただいま。」
「お帰り。今日も二人に分裂しているのね。二人もあなたがいるなんて、なんて私はしあわせ者なのかしら。」

 自分の息子と夫の区別がつかなくなってきている。調子が良いときは自分の息子と認識することができるが、悪いときは父親と間違える。そんな時、双子は臨機応変に対応してその場を乗り切ることにしている。

「そうだね。君みたいな素晴らしいお嫁さんがいて、僕は幸せ者だよ。」

 自分たちの父親と間違えているときは、大抵自分の息子のことは忘れているので、そのまま父親のふりをしていればよい。しかし、今日はそうもいかない事情があった。

「ごめん、今日はまたこれから仕事が入っているんだ。帰ってきてさっそくで申し訳ないけど、また出かけるね。その代わり、俺たちの息子たちがそばにいるから、息子たちに何かあったら相談すること。」

 ヒナタがそう言って、家を出る。続いてミツキもそれに続いて家を出る。G玄関を出て、母親が追ってこないことを確認すると、双子は深いため息を同時にはく。

「どうしようか。このままだと進路について母さんと話すことはできない。」
「そうだ。本当にどうしたらいいだろう。先生との三者面談の日にちが決まっていないのは俺たちだけだからね。」

 双子は今日、母親に中学校の三者面談の日程を確認しようとしていた。しかし、この状態では面談できるか怪しいところである。

ふと、ヒナタはこの前会った自分の祖父の顔が頭に浮かんだ。母親は無理なら、祖父に頼んでみてはどうだろうか。祖父の家の電話番号は覚えている。


「ミツキ、母さんは無理そうだから、おじいさんに面談に来てもらうのはどうだろうか。」
「ヒナタも同じことを考えていたのか。俺もそれを考えてみた。明日、先生に相談してみるか。」

 面談を自分たちの祖父に来てもらうことに決めて、再び双子は自分たちの家に入る。


「ただいま、母さん。今日は遅くなってごめん。友達と寄り道していたら、遅くなって。」
「ただいま。ミツキが寄り道しているのに付き合っていたら僕も遅くなった。」

 口々に帰りが遅くなったことを説明する。母親はそんな様子の双子を見てほほ笑んだ。どうやら、今は、自分の息子と認識しているようだ。


「お帰り。まったく、寄り道は仕方ないけど、今の世の中、何が起こるかわからないから、なるべく寄り道せずにまっすぐ家に帰ってくること。」

「そうだね。次回から気をつけます。」
「気を付ける。」



 次の日、双子はそれぞれの担任に三者面談は母親ではなく、自分の父方の祖父とやってほしいと頼み込んだ。担任はどうして母親ではないかと聞いてきたが、わざわざ本当のことを言う必要はない。


「母さんは今、俺たちのために仕事をしていて、休みが取りにくいから頼み辛くて。」
「仕事を始めたばかりだから、忙しいんだ。迷惑をかけたくはない。」

 双子は相談していた通りの内容を担任に伝えた。しかし、どちらの担任もしつこく母親との面談を望んでいた。

「一緒に住んでいるのなら、ぜひ母親と君の進路のことを話したい。」

 ヒナタの担任は熱血感あふれる男の若い教師だった。

「仕事をしているとは言っても、連絡先も聞いていないわよ。それに、もし仕事をしていたとしても、自分の息子の進路を決める大事な面談なんだから、休みをとってもらいなさい。」

 ミツキの担任は、独身のヒステリック気味な女性教師である。

 どちらの担任もかたくなに、母親との面談を望んでいて、祖父との面談に取り付けることはできなかった。




「マジでやばいけど、どうしよう。あの状態で学校に来て俺たちの進路について話せるものか。」
「僕もそう思う。こうなったらおじいさんに直接電話して話をつけてもらうしかない。」


 家に帰り、母親にただいまの挨拶をして、すぐに電話の受話器を持ってヒナタの部屋に双子は急いだ。都合がよいことに双子の部屋は鍵もかけられるが、防音設備もされていて、音が漏れる心配がなかった。



「プルプルプル………。」

「もしもし。下屋敷ですが。」

「僕は水藤ヒナタと言います。実はお話ししたいことがあって電話しました。今、お話しして大丈夫ですか。」

「大丈夫だよ。私も君たちと一度話をしたかったところだからちょうどよい。ところで、この電話はどこからかけているのかい。もしかして、家からかけているのかな。」

「はい、そうですけど。自分の部屋でかけていますし、この部屋は鍵もかかるし、防音設備もされているので、母に聞かれることはないと思います。」

「そうかもしれないが、君のお母さんは何をするかわからないからね。電話だとゆっくり話すことができない。どうだい。今週の土曜日にでも私の家に遊びに来ないかね。久しぶりに顔が見たくなってきたところだよ。」

「わかりました。ではその時にお話しします。ほら、ミツキもおじいさんに挨拶しなよ。」


「お久しぶりです。ミツキです。とはいっても、声が似ていてわからないかもしれませんが。」

「そんなことはない。私は君たちのことを間違えたりはしないよ。よく観察すると、声も違うし、顔も違う。ミツキ君の声は少し、ヒナタ君よりも低い気がするしね。」

 おじいさんは双子の区別がつく数少ない人のようだ。双子は祖父と土曜日に会う約束を交わし、電話を切った。


「よかったね。これで三者面談は何とかなりそうだ。」
「そうかな。でもまあ、おじいさんに会って話すのはいいと思うよ。そうすれば、直接おじいさんが学校に電話してくれるかもしれないし。」

 双子はそう言って、電話の後、ほっとしたように胸をなでおろす。しかし、彼らの祖父と土曜日に会うことはなかった。祖父の言う通り、双子の母親は文字通り、何をしでかすかわからない女だった。
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