19 / 47
17夏休み終盤
しおりを挟む
お盆も終わり、夏休みも終盤に近付いてきた。そろそろ、新学期に向けての準備を始めなければならない。一度、母親がいる家に戻って、今後を話しあう必要がある。
「おじいさん。すいません。夏休みが終わる前に一度、母のもとにもどろうと思うんですが。」
祖父は相変わらず、双子を父が子供の姿になって戻ってきたと勘違いしていた。現実逃避を続けていた。それでも、双子が父のふりをすることはなかった。それにも慣れたようで、祖父は双子がおじいさんと呼ぶことを訂正しなくなった。
「そうかい。夏休みも、もうすぐ終わりだからねえ。しかし、匠。その格好であずささんの前に戻るのはお勧めしないなあ。まるで、あずささんの息子のような年ごろではないか。そういえば……。」
「はあ。」
ミツキは大きなため息をつく。ヒナタも同じだったが、祖父の前ではさすがに遠慮していた。そもそも、自分たちはあずさの正真正銘の息子である。その恰好でといわれても、大人の姿になることもできないし、若返ることもできない。
「しかし、あずささんもきっと匠のことを心配していると思うから、一度あずささんに顔を見せるのもいいだろう。」
ただし、と付け加えた言葉は、いまだに祖父が現実逃避をしているという証拠だった。
「あずささんを困らせないように、一人だけで行きなさい。私はもう慣れたが、いきなり匠が二人も現れたら、さすがのあずささんも驚くだろうから。」
祖父は、いまだに、ヒナタとミツキのどちらかが偽物であると信じていたが、どちらが匠か判断に迷っていた。そのため、最近では、どちらも本物の匠で、自分の愛が深すぎて、双子に分裂してしまったと思うことにしたようだ。どちらにしよ、現実逃避なのは変わりがない。
「僕たちは二人で一つのようなものです。だから、いつも二人で行動をしなくてはいけません。もし、離れ離れにしたら、きっと僕たち二人は生きてはいないでしょう。」
ヒナタは宣言する。その言葉に祖父は納得したのだろうか。二人で家に戻ることに反対はされなかった。
「ごほ、ごほっ。では、あずささんの家までは、執事に頼むとしよう。私は少し気分がすぐれないので、一緒に行くことは遠慮しておくよ。」
話は終わったようで、祖父は双子の前から去っていく。去っていく姿からは、弱弱しさが感じられた。
「じいさん、どこか身体の具合でもわるいのか。」
「わからないけど、僕たちが来る前から、持病があって、病院にはよくいっていたみたいだから、悪いところはあるだろうね。」
双子が祖父の家で夏休みを過ごしている間に、祖父の容態は悪化していた。先ほどのように急に咳をしたり、青白い顔をしていたりと、具合が悪そうだった。そのたびに大丈夫だと気を張っていたが、それでも心配になった。
「このまま家に帰って、戻ってきたら、じいさんが、なく……。」
「口に出していいことと悪いことがあるぞ。とはいっても、やばいかもしれない。」
双子の嫌な予感は的中していたが、それを知るのはもう少し先のことだった。
荷物をまとめ、久しぶりに実家に向かっていた車の中で、執事が双子に話しかけてきた。普段、双子に話しかけることはなく、身の回りの世話を黙々としている影のような人だった。
「あなたたちのおじい様、幸之助様のことは、執事として申し訳なく思っています。しかし、それも長くはないでしょう。老人の最後の気の迷い、願いとして、もう少しおつきあいください。」
「やはり、どこか身体の調子がすぐれないのでしょうか。」
「お恥ずかしいことで。隠しているようなので、執事の私が話していいことかわかりませんが、それでも、私個人としては、話しておきたいことです。」
夏休みも終わりに近づいていたが、外は相変わらずの猛暑であった。車の中は冷房が効いていたので、涼しい空間であった。
「下屋敷家には息子が二人いました。二人の息子をおじい様は、それはそれはかわいがっておられました。それこそ、目に入れてもおかしくはないほどに。ただし、それは幼いころのこと。兄の方は優秀だったが、弟の方は出来があまりよくありませんでした。両者の差が広がるにつれて、兄弟での扱いに差が生まれました。兄の方は、兄弟での差別を良しとはしませんでした。もちろん、弟の方もですが……。」
話は実家に着く直前まで続いた。話を聞いた双子は、衝撃を受けた。とはいえ、先が長くないと言われた祖父のために、自分たちができることは限られていた。不本意ながら、老人の最後の願いをかなえることに決めた双子だった。
「おじいさん。すいません。夏休みが終わる前に一度、母のもとにもどろうと思うんですが。」
祖父は相変わらず、双子を父が子供の姿になって戻ってきたと勘違いしていた。現実逃避を続けていた。それでも、双子が父のふりをすることはなかった。それにも慣れたようで、祖父は双子がおじいさんと呼ぶことを訂正しなくなった。
「そうかい。夏休みも、もうすぐ終わりだからねえ。しかし、匠。その格好であずささんの前に戻るのはお勧めしないなあ。まるで、あずささんの息子のような年ごろではないか。そういえば……。」
「はあ。」
ミツキは大きなため息をつく。ヒナタも同じだったが、祖父の前ではさすがに遠慮していた。そもそも、自分たちはあずさの正真正銘の息子である。その恰好でといわれても、大人の姿になることもできないし、若返ることもできない。
「しかし、あずささんもきっと匠のことを心配していると思うから、一度あずささんに顔を見せるのもいいだろう。」
ただし、と付け加えた言葉は、いまだに祖父が現実逃避をしているという証拠だった。
「あずささんを困らせないように、一人だけで行きなさい。私はもう慣れたが、いきなり匠が二人も現れたら、さすがのあずささんも驚くだろうから。」
祖父は、いまだに、ヒナタとミツキのどちらかが偽物であると信じていたが、どちらが匠か判断に迷っていた。そのため、最近では、どちらも本物の匠で、自分の愛が深すぎて、双子に分裂してしまったと思うことにしたようだ。どちらにしよ、現実逃避なのは変わりがない。
「僕たちは二人で一つのようなものです。だから、いつも二人で行動をしなくてはいけません。もし、離れ離れにしたら、きっと僕たち二人は生きてはいないでしょう。」
ヒナタは宣言する。その言葉に祖父は納得したのだろうか。二人で家に戻ることに反対はされなかった。
「ごほ、ごほっ。では、あずささんの家までは、執事に頼むとしよう。私は少し気分がすぐれないので、一緒に行くことは遠慮しておくよ。」
話は終わったようで、祖父は双子の前から去っていく。去っていく姿からは、弱弱しさが感じられた。
「じいさん、どこか身体の具合でもわるいのか。」
「わからないけど、僕たちが来る前から、持病があって、病院にはよくいっていたみたいだから、悪いところはあるだろうね。」
双子が祖父の家で夏休みを過ごしている間に、祖父の容態は悪化していた。先ほどのように急に咳をしたり、青白い顔をしていたりと、具合が悪そうだった。そのたびに大丈夫だと気を張っていたが、それでも心配になった。
「このまま家に帰って、戻ってきたら、じいさんが、なく……。」
「口に出していいことと悪いことがあるぞ。とはいっても、やばいかもしれない。」
双子の嫌な予感は的中していたが、それを知るのはもう少し先のことだった。
荷物をまとめ、久しぶりに実家に向かっていた車の中で、執事が双子に話しかけてきた。普段、双子に話しかけることはなく、身の回りの世話を黙々としている影のような人だった。
「あなたたちのおじい様、幸之助様のことは、執事として申し訳なく思っています。しかし、それも長くはないでしょう。老人の最後の気の迷い、願いとして、もう少しおつきあいください。」
「やはり、どこか身体の調子がすぐれないのでしょうか。」
「お恥ずかしいことで。隠しているようなので、執事の私が話していいことかわかりませんが、それでも、私個人としては、話しておきたいことです。」
夏休みも終わりに近づいていたが、外は相変わらずの猛暑であった。車の中は冷房が効いていたので、涼しい空間であった。
「下屋敷家には息子が二人いました。二人の息子をおじい様は、それはそれはかわいがっておられました。それこそ、目に入れてもおかしくはないほどに。ただし、それは幼いころのこと。兄の方は優秀だったが、弟の方は出来があまりよくありませんでした。両者の差が広がるにつれて、兄弟での扱いに差が生まれました。兄の方は、兄弟での差別を良しとはしませんでした。もちろん、弟の方もですが……。」
話は実家に着く直前まで続いた。話を聞いた双子は、衝撃を受けた。とはいえ、先が長くないと言われた祖父のために、自分たちができることは限られていた。不本意ながら、老人の最後の願いをかなえることに決めた双子だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる