双子~それでも二人は共に生きていく~

折原さゆみ

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19新学期の前に

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 新学期を明日に控え、双子は母親がいる家に戻っていた。母親がミツキを自分の夫の偽物だと勘違いして、包丁で刺そうとした日から、一週間が経過していた。あの日、逃げた先で結城彰人と出会い、双子は決意を新たにしていた。


「俺は、お前たちが憎い。俺たちの家庭を崩壊させた女の息子だ。でも、崩壊させたのはお前たちの母親であって、ヒナタやミツキじゃない。そう、オレは、お前たち双子はあの女の二人の息子だ。」


 結局、あの日は彰人の好意に甘えて、双子は彰人の部屋に泊まらせてもらった。彰人は、自分の思いを双子に包み隠さずに話すことにした。それを聞いて、彰人が自分たちを双子と認識していることがわかった。それだけで、今の双子にとって、彰人は信用できる人物だった。


「そういえば、僕たちを間違えなかったのは、彰人さんが初めてだよな。」

「そうそう。あいつ、おれたちのこと、一度だって間違えたことがないよな。ある意味、恐ろしい奴。」





「夏休みが始まるまではここに居てもいいぞ。」

 泊めてもらった次の日、彰人は双子を心配して、夏休みまでの残りの一週間も自分の部屋に泊まっていかないかと双子に提案した。双子は彰人の好意を断った。

 再び母親の居る家に戻った双子は、また、母親が包丁を持って現れたらと不安で仕方がなかったが、それでも、自分の家に戻ることに決めていた。

 改めて、自分の家の前までやってきた双子は、インターホンを鳴らす前に、祖父からもらった電話で、家に連絡することにした。


「もしもし。やっと帰ってきたのね。今までどこに行っていたの。」

 電話がつながってすぐに、母親は相手がだれかわかったように話し出す。やはり、彼女は、双子が祖父から渡された携帯電話の番号を知っていたのだ。予想できたこととは言え、改めて、母親の狂気に触れた気がした。


「もしもし、かあさん。僕、ヒナタだけど、もうすぐ新学期が始まるから、そろそろ家に戻った方がいいかと思って。」

「もしもし、ミツキだけど、おれたち、宿題とかしっかりやったから、家に入れてくれれば母さんの家事の負担を減らせると思うよ。」


 電話はつながったが、母親の気分次第で、いつ通話が切られてもおかしくない状況だ。双子はまず、電話で、自分たちが実の息子であることをはっきりとさせようと考えていた。

「ふうん。匠さんったら、今度は私の息子になりきるつもりね。気が早いんだから。仕方ない。それで、二人なのは、どうしてかしら。」


 どうやら、うまく食いついたようだ。いまだに父親と思い込んでいるようだが、この際、目をつむることにする。とりあえず、自分たちが双子で、中学生だと認識してくれればいい。


「双子の設定なんだ。ほら、母さん、いやあずさは、子供は二人くらい欲しいと言っていただろう。双子なら、一気にその願いをかなえられるだろう。」

「なるほど。それはいい考えね。確かに私は、子供は二人ほど欲しいと思っていたわ。匠さんは何でもお見通しね。ということは、匠は今、二人で一つということよね。」


「そ、そうだよ。だから、一人をひどい目にあわせたり、差別したりしたら、オレはこの世から消えてしまうからね。」

「そうなのね。わかった。外は暑いから、いったん中に入って、詳しい話を聞きましょう。」

 双子は必死に会話をつなげていた。そして、無事に双子は家に入れてもらえることになった。


 家に入って、双子は異臭に顔をしかめた。廊下には埃がたまり、うっすらと積もっていた。リビングに向かうと、そこには、空き缶や食べ終わった弁当の容器が散乱していた。空き缶をよく見ると、ほとんどがアルコールだった。


「ごめんなさいね。あなたがいなくて、私、寂しくて仕方なくて。そういえば、匠さんって、今は呼ばない方がいいのかしら。」


「そうだね。僕はヒナタ。」
「俺はミツキ。」

 双子は部屋の状況を見て、心が痛んだ。それでも、怒りを抑えることはできない。最愛の夫が亡くなって、悲しいのは理解できる。理解はできるが、そこから目を背けて、現実逃避を決めるのはいかがなものか。息子もいるというのに、一人現実逃避を決め込んでいる。さらには、自分たち息子に父親の姿を見ている。

「わかった。でも、似すぎていて、どちらがどちらかわからないから。何か目印でも欲しいところね。」


 ヒナタとミツキは顔を見合わせる。あたりを見渡し、何か身につけられるものはないかと探していると、床に赤いリボンが落ちていた。とっさにそれを拾い、ヒナタは右の手首に巻き付ける。


「この赤いリボンを手首にしているのが、兄のヒナタ。」

「じゃ、じゃあ何もつけていなくて、メガネをかけているのが、弟のミツキだ。」

 ヒナタの提案に慌てて、ミツキも近くにあったメガネを装着する。それは、父、匠が愛用していたメガネだった。どうして、この場にあるのかわからなかったが、これで目印になるだろう。

 母親の顔をうかがうと、母親はなぜか涙を流していた。

「ああ、やっぱり、匠さんね。でも、今は息子だったわ。わかった。赤いリボンとメガネね。覚えたわ。」



 双子は安堵した。まずは、この家で双子として生活はできるようにした。残る課題は山済みだが、一つずつ地道に解決していけば、何とかなりそうだと双子は思っていた。
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