転校生をバカにすることなかれ

折原さゆみ

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きっかけ~小学校編~

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 待ちに待ったお別れ会当日がやってきた。学校が開くと同時に玄関に急ぐ。かねてより考えていた計画を実行していく。一つ一つ丁寧に作業を進めていく。一人で時間はかかったが、児童がやってくる頃には終わらせることができた。

 早く学校に来ていることがばれては怪しまれるので、いったん裏口から出て、玄関にもう一度向かう。さも、今登校したばかりを装って玄関に行くと、うちのクラスの児童が騒いでいた。

「私の上履きがないんだけど。」

「私も私も。」

「俺のもないぞ。」



「私の上履きもない。」

 私もその仲間に加わる。何人もの上履きがない事実は瞬く間にクラス中に伝わっていく。

「もしかしたら、誰かクラスを嫌っている人がいて、その人がクラス全員の上履きを隠したのかもしれないね。」

「でも、クラスで浮いた子はいなかったし、それにうちのクラスにいじめがあったとは思えないけど。」

「そうだよ。うちのクラスは仲が良かったでしょ。」

 



 クラスのみんなが慌てているところを通り抜ける。靴下のまま一日を過ごすのは靴下が汚れてしまって嫌なので、職員室に行ってスリッパを借りに行く。
 
「失礼します。上履きを忘れたので、借りてもいいですか。」

 近くにいた先生に声をかけると、どうしたのかと理由を聞かれた。今日は木曜日で上履きを忘れるということはありえないと思ったのだろう。

「実は……。上履きが誰かに隠されてしまったようで……。」

 私がさも盗まれてどうしようもないという暗い表情で話すと、すぐに納得したようで、快くスリッパを貸してくれた。先生なんてちょろいものである。学年とクラス、名前を聞かれてので、正直に答えておく。

「担任に伝えておくわね。あなたはクラスに戻りなさい。」

 優しい先生である。その言葉に頷き、私は職員室を後にした。




 教室に向かうと、そこでも慌てたような声が聞こえてきた。

「私の作品がない。」

「俺のもない、というか、クラス全員の作品がなくなっているぞ。」

 慌てたような声が教室のあちこちから聞こえてきた。私はすでに笑いが止まらなかった。クラス中が慌てふためいている姿は見ていてとても面白い。当然、なくなっている理由を知っているので、私はあわてる必要はない。クラスメイトに助言することにした。 


「誰かが、破り捨てているのかもしれないよ。ごみ箱の中とか探してみようよ。」

 そう言って私はごみ箱の中をみんなに見せる。そして、わざとコケるようにして中身をぶちまけた。

 中身は宙を舞い、ひらひらと教室中に花吹雪のように広がった。それは、クラスメイトが必死で探していた彼らの作品だった。




「あったあ。誰がこんなひどいことを。」

「ほんとだ。私の作品がこんなに細切れに。ひどいよお。一生懸命作ったのに。」

「見て、私たちの作品以外にも何か落ちているよ。」

 クラスメイトはひらひらと舞い落ちる自分の作品の残骸を必死で拾い集めている。そこで、作品の残骸以外にも何か見つけたようだ。

 作品の細切れの中に紛れている封筒のようなものを拾った児童が中身を確認する。そこにはクラスメイトの名前と本人の秘密が書かれていた。


「鈴木玲音。好きな女子は同じクラスの高橋みゆき。告白できずに常に彼女のことを見ている。重度のアニメオタク。アニメのヒロインに少し似ているので好きになった。」

「田中ともみ。彼女は実は優等生を装っているがそんなことはない。宿題は全て自分の弟にやらせている。実際にテストの点数は良くない。」




「なっ、何だこれは。」

「きゃー。」

 クラスはさらに騒然とした。封筒を開けたクラスメイトが次々に悲鳴を上げる。このままではお別れ会どころではない。しかし、悲劇はまだ終わっていない。

  私は教室におかれたCDプレーヤーのスイッチを入れた。私が録音した素晴らしい物語が大音量でクラス中に響き渡る。


「4年2組の皆さん、私はこのクラスの主である。君たちにはこのクラスを卒業するお祝いとして、私からのとっておきのプレゼントを与えることにした。」

 私の声を加工した機械音が淡々と流れだす。突然の音声に一瞬、クラスが静かになった。その静けさの中、音声は途切れることなく続いていく。


「さて、まずは上履きだ。一年間、ご苦労様という感謝を上履きには伝えることにした。君たちがいかに上履きのお世話になっているのか、実感してもらおうという企画だ。そして、君たちの作品だが、私が懇切丁寧に処分させてもらった。どうせ、家に持ち帰ってもごみになるくらいなら、きれいな花吹雪にでもした方が世のためという私なりの気づかいだ。」


 今日の出来事を懇切丁寧に説明する謎の音声にクラス中は再び騒ぎ出す。

 
 クラスメイトの一人が音源を突き止めたようだ。すぐにCDプレーヤーの電源をオフにする。ただし、そんなことで止まるような優しいクラスの主ではない。

 また、どこからか、先ほどの続きが流れ出す。


「さて、花吹雪の中の君たちへの封筒は受け取ってくれただろうか。それは私がクラスで見てきた個人的な評価といったところだ。君たちへの通知表といってもいい。有り難く受けとってくれたまえ。」

 CDプレーヤーが止められることは想定内だったので、教室の数か所にボイスレコーダーを仕込んでおいたのだった。一つが止まれば、他の場所のものを動かせば音声は途切れることはない。我ながら良い考えだと思った。


「最後に私本人から、君たちにこのクラスを卒業するにあたってお祝いの言葉を述べて終わりにしよう。」

 最初は音の発生源を探そうとしていたクラスメイトは、次第に謎の音声内容に興味がわいたようで、音源を探さずに熱心に聞き入っていた。

「4年2組を卒業おめでとう。そして、君たちにとっておきの不幸が訪れることを願っている。」

 音声はここで終わりとなった。朝からのよくわからない騒動がこれで終わったと思ったのだろう。

 
 私は呆然としているクラスメイトを横目にこっそりと教室内に隠していたボイスレコーダーを回収する。私はクラス内にいた女に目配せした。女は一つ頷き、CDプレーヤーからCDを取り出し、クラス内に響き渡る声で叫んだ。

「いったい誰がこんなことをしたのかしら。こんなことをするようなみんなじゃないと信じたいけど、実際に起きてしまったことは仕方ない。」

 今朝からの騒動に非常に驚いたと同時に悲しいという絶妙な表情をした。そのまま、CDを割ってしまう。まるで、この音源を憎んでいるかのように。
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