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4陽咲のクラスメイトが家にやってきます①
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「喜咲、今日も一緒にお弁当」
「いい加減、自分の教室で食べることを覚えろ」
「いつも通り、口が悪いねえ、しおどめっちは。あれ、そこの後ろにいる人は?」
昼休み、私はいつものように、隣の教室からやってくる妹の陽咲を追い出そうとした。しかし、今日は彼女の後ろに誰かいることに気付いた。
「ああ、この子は私の彼氏だよ!」
『彼氏!』
「鈴木麗華(すずきれいか)です。あなたが陽咲のお姉さまですか?」
『お姉さま!』
陽咲の後ろにいた彼女が自己紹介をする。いや、性別上はおそらく、彼女で間違いはないだろう。私の高校は、女性はブレザーにスカート、男性はブレザーにスラックスと決められている。彼女はスカートを履いていた。しかし、陽咲の彼女に対する紹介がそれだと矛盾している。ただし、女子の制服に身を包んではいるが、髪型や立ち姿からは別の印象を受けた。もしかして……。
「そうそう、彼女こそ、私の最愛の姉、汐留喜咲だよ。ああ、麗華は私の大事な彼氏ということになっているから、両親にも近々報告するね」
「なっ!」
「すごいねえ、相変わらず喜咲の妹は」
「やばい。これって、女の三角関係とかに発展しちゃうかも!」
私は、いきなりの妹の暴露に驚きすぎて、言葉が出てこない。妹の言葉を理解することができなかった。私が言葉を出せないうちに、どんどん話は進んでいく。まさかの両親に合わせるというところまで進んでしまっていた。
「いいなあ、麗華さんは。私も早く、しおどめっちの家に挨拶に行きたいな」
「私も、喜咲、私たちを早く両親に紹介してよ」
「私は、本当に陽咲さんの家に伺ってよろしいのでしょうか?」
「いいよ。今週の休みにでも遊びにおいで。確か、お父さんは部活の大会もないから、日曜日にでもうちにきなよ!そうしたら、お父さんも麗華に会えるからね」
陽咲はあっさりと麗華と呼ばれる女子を家に招くことを許可した上に、今週末には呼ぶつもりのようだ。
「私は認めないからね!」
慌てて会話に参加するが、誰も私を擁護してくれるものはいなかった。
そんなこんなで、陽咲に丸め込まれ、今週の日曜日に、陽咲のクラスメイトである鈴木麗華は、私の家に来ることになった。芳子やこなでより早く、陽咲のクラスメイトが家に来るとは思っていなかった。私はかなり動揺していた。このままでは、芳子やこなでを私の家に招くことを回避したのに、その意味がなくなってしまう。
とはいっても、予定が覆ることはない。陽咲が自分の意見を通そうとして、私がそれを止められたことはない。やると言ったらやる子だ。そうと決まれば、後はどうやって両親の腐った部分を見せないかを考えることが先決となる。
「ねえ、お母さん、お父さん、今週の日曜日に、うちに友達を連れてきてもいいかな?」
話が決まった木曜日の夜、珍しく夕食前にくそ父が帰ってきたため、久しぶりに家族四人で夕食をとることになった。さっそく、陽咲は両親に、昼休みに私たちに紹介した彼女を家に招いてもよいか確認する。
両親は驚いて、思わず箸を動かす手を止めた。今日の夕飯はお好み焼きで、くそ母の口元には青のりとお好みソースが付着していた。くそ母は落ち着こうとしているのか、湯呑みに入ったお茶をゆっくりと飲み干していた。くそ父も同じようにお茶を飲んだ。
今まで、陽咲が友達を家に呼んだことはなかった。私も陽咲の行動に最初は驚かされた。しかし、やはり。私の両親はくそだった。思考が一般人とは異なっていた。
「そうなの。私は別にお友達を家に連れてきても構わないけど、ああ、でも、何を着たらいいかしら。陽咲の友達なら、きちんと正装して会わなくちゃいけないわね。ああ、お友達は陽咲の趣味を知っているのかしら?知っているのなら、私もそれに合わせて本棚を整理する必要があるわ」
「ふむ。雲英羽さんの言う通り、服装には気をつけなくてはいけないね。それと、僕の部屋の本棚も陽咲の趣味にそろえた方がいいだろうか」
服装云々はまあ、理解できるが、そのあとに続く、陽咲の趣味に合わせた本棚を作るとはいったいどういう思考をしているのか。陽咲もオタクだが、くそ両親がBLオタクなら、妹は百合オタクだ。同じオタクのくくりでもだいぶ系統が違っている。男同士の恋愛か、女同士の恋愛かの違いで、同性同士の恋愛ものが好きだという、世間から外れていることに変わりはないが。
「それには及ばない。彼女にはお母さんたちのことも話してあるし、私のトラウマについても話しているから」
「なっ!陽咲、あんた何他人にうちのくそ両親のこと話してくれちゃってるの!」
さらりと、陽咲は飛んでもないことを言いだした。私だって、くそ両親のことを芳子たちに話していないのに。陽咲が両親のことを話したということは、私の両親がくそだということを話していることと同じだ。トラウマの件も話しているということは、そういうことだ。
「それなら、大丈夫ね。心配して損した気分だわ。知っているのなら、陽咲の好みに本棚を整理する必要はないものね」
「でも、よかったな、陽咲。陽咲は喜咲にべったりだったから、高校でも友達ができるか心配していたんだぞ」
そんな発言を聞いて、なぜか二人は安心したようで、陽咲に友達ができたことに感動して涙ぐみだした。この家族が狂っていると思うのは、こういう瞬間だ。私には理解不能な行動が私を苛立たせる。
「陽咲、あんたはこいつらのことを他人に話して恥ずかしくないの!」
つい、怒鳴ってしまった。今まで和やかに話していた夕食の雰囲気が一気にぶち壊れる。しまったと思ったが、勢いに任せて私の口からは、暴言が次々と飛び出していく。
「自分の男アレルギーの発祥の原因を忘れたの?あんなくそな両親を友達に紹介してどうするの?陽咲、あんたまで変な目でみられたら、辛いのはあんたなのよ!」
びしっと両親に指を突き刺し、大声で叫んでしまった。そんな様子をあっけにとられた顔で、両親も陽咲も私を見つめている。そんな彼らを見て、私は我に返る。恥ずかしげもなく両親を他人に紹介しようとする妹が信じられなくて、つい激昂してしまった。
「喜咲、あんた本当に私たちが嫌いなのね。とはいえ、仕方のないことかもしれないわね」
「喜咲、喜咲の気持ちもわからなくもないが、そこまで言う必要はないんじゃないかな。お父さんもお母さんも、そこまで言われるとさすがに傷つくよ」
両親は、私の言葉に怒ることなく、静かに諭してきた。傷ついているというのは本当らしい。悲しそうな寂しそうないろいろな負の感情が混ざった表情をしていた。
「ねえ、喜咲って、結局何がそんなにむかつくの?」
そんな雰囲気を壊すかのように、のんきな声が私にかけられる。陽咲が私にわかりきったことを質問する。
「決まっているでしょう。このくそ両親が……」
「確かにうちの両親にむかつくのはわかるけど、根本は違うでしょう?いや、もしかしたら、嫌い嫌いも好きの内ってやつかな」
「嫌い嫌いも……」
「好き……」
陽咲の言葉を反芻する両親に嫌な予感がした。大好きなBLを読んでいるときのような、嬉しそうな表情を両親がともに浮かべていた。陽咲は、両親の嬉しそうな顔に大げさに頷く。
「おお、さすが私の両親。気付いてくれましたか?」
「それって、本当は、喜咲ちゃんは、心の奥底では、私たちも、BLもす」
「まじで一回死んでくれないかな」
「ということは、これはもしや、あれか。いや、今のところ、ツンしか見たことがないが、デレが見られる可能性も」
『ツンデレ』
私の言葉を聞き流し、くそ両親と陽咲の三人が声を合わせて、一つの言葉を口にする。それは、見事にハモっていた。あまりにきれいなハモりを見せたので、私はあきれて何も言うことができなかった。
「それで、友達を家に呼びたいと言っていた話だけど、陽咲、あなたのお友達ってどんな子なのかしら?」
私が『ツンデレ』という、意味不明なことを言いだした陽咲のせいで、本題である陽咲の友達を家に呼ぶという話は、途中で終わってしまうのかと思われた。しかし、母親はすぐに本題を思い出したようで、改めてどんな子なのか問いただす。
「私が好きみたいで、なんか私と喜咲のイチャイチャを見て喜んでいる人。でも、悪い子じゃないよ」
「それって」
「うん。私もこっち側の人間なのかなって思って、誘ってみたら、もとはノーマルだったみたい。でも、今は完全にこっち側だね。初心者向けの百合を進めたら、がっつり沼に落ちた」
「まあ、はまると出られないのは、気持ちはわかるなあ。そうか、陽咲の友達も沼にはまってしまった人なんだね」
「陽咲は良いお友達と出会えたのね。お母さん、本当に嬉しいわあ!」
私を無視して、彼女のクラスメイトの鈴木麗華についての話で盛り上がる三人。調子に乗った陽咲は、さらに彼女の情報をくそ両親に開示する。
「それに、私が男アレルギーなことを心配して、自分が私を守るんだって、彼氏役を買って出てくれた。最初はそんな感じだったんだけど、今では男装が趣味になったみたいなんだよね」
「ちょっと待った。陽咲、あんたそんな重要なこと、なんで私に早く言わなかったの?」
教室で会った彼女の姿はそう言うことだったのか。髪型や立ち姿がどうにも女子に見えなかったのは。彼女の男装の理由が理解できた。これから家に呼ぶ人間が、まさかの趣味を持っていたなんて知りたくなかった。その趣味に至ったきっかけが陽咲だなんて、考えたくもなかった。妹のせいで、哀れな犠牲者が出てしまったというわけだ。
「早く言うも何も、喜咲なら気付くと思っていたけどね。それで、麗華のことだけど、そんな彼女を家に招いても、何の問題もないわよね」
にっこりと威圧的に微笑まれ、私はたじろいだが、それとこれとは話が違う。いくら、やばい趣味に目覚め、くそ両親と妹側の世界に飛びこんだとしても、関係ない。やはり、私はくそ両親を他人に紹介したくはなかった。
「その顔だと、納得していないみたいだけど、もう麗華には今週末遊びに来ていいよって言ったのは、その場にいた喜咲も聞いていたでしょう。今更ドタキャンは無理。どうせなら、喜咲もあの二人を呼んだらいいんじゃない?」
「あらあら、喜咲にも友達ができたのね。いつでも家に呼んでいいわよ」
「お父さんにも紹介してくれるとうれしいなあ」
こうして、私の説得も無駄に終わり、週末に陽咲の友達(彼氏?)だという彼女が家に来ることになってしまった。
「いい加減、自分の教室で食べることを覚えろ」
「いつも通り、口が悪いねえ、しおどめっちは。あれ、そこの後ろにいる人は?」
昼休み、私はいつものように、隣の教室からやってくる妹の陽咲を追い出そうとした。しかし、今日は彼女の後ろに誰かいることに気付いた。
「ああ、この子は私の彼氏だよ!」
『彼氏!』
「鈴木麗華(すずきれいか)です。あなたが陽咲のお姉さまですか?」
『お姉さま!』
陽咲の後ろにいた彼女が自己紹介をする。いや、性別上はおそらく、彼女で間違いはないだろう。私の高校は、女性はブレザーにスカート、男性はブレザーにスラックスと決められている。彼女はスカートを履いていた。しかし、陽咲の彼女に対する紹介がそれだと矛盾している。ただし、女子の制服に身を包んではいるが、髪型や立ち姿からは別の印象を受けた。もしかして……。
「そうそう、彼女こそ、私の最愛の姉、汐留喜咲だよ。ああ、麗華は私の大事な彼氏ということになっているから、両親にも近々報告するね」
「なっ!」
「すごいねえ、相変わらず喜咲の妹は」
「やばい。これって、女の三角関係とかに発展しちゃうかも!」
私は、いきなりの妹の暴露に驚きすぎて、言葉が出てこない。妹の言葉を理解することができなかった。私が言葉を出せないうちに、どんどん話は進んでいく。まさかの両親に合わせるというところまで進んでしまっていた。
「いいなあ、麗華さんは。私も早く、しおどめっちの家に挨拶に行きたいな」
「私も、喜咲、私たちを早く両親に紹介してよ」
「私は、本当に陽咲さんの家に伺ってよろしいのでしょうか?」
「いいよ。今週の休みにでも遊びにおいで。確か、お父さんは部活の大会もないから、日曜日にでもうちにきなよ!そうしたら、お父さんも麗華に会えるからね」
陽咲はあっさりと麗華と呼ばれる女子を家に招くことを許可した上に、今週末には呼ぶつもりのようだ。
「私は認めないからね!」
慌てて会話に参加するが、誰も私を擁護してくれるものはいなかった。
そんなこんなで、陽咲に丸め込まれ、今週の日曜日に、陽咲のクラスメイトである鈴木麗華は、私の家に来ることになった。芳子やこなでより早く、陽咲のクラスメイトが家に来るとは思っていなかった。私はかなり動揺していた。このままでは、芳子やこなでを私の家に招くことを回避したのに、その意味がなくなってしまう。
とはいっても、予定が覆ることはない。陽咲が自分の意見を通そうとして、私がそれを止められたことはない。やると言ったらやる子だ。そうと決まれば、後はどうやって両親の腐った部分を見せないかを考えることが先決となる。
「ねえ、お母さん、お父さん、今週の日曜日に、うちに友達を連れてきてもいいかな?」
話が決まった木曜日の夜、珍しく夕食前にくそ父が帰ってきたため、久しぶりに家族四人で夕食をとることになった。さっそく、陽咲は両親に、昼休みに私たちに紹介した彼女を家に招いてもよいか確認する。
両親は驚いて、思わず箸を動かす手を止めた。今日の夕飯はお好み焼きで、くそ母の口元には青のりとお好みソースが付着していた。くそ母は落ち着こうとしているのか、湯呑みに入ったお茶をゆっくりと飲み干していた。くそ父も同じようにお茶を飲んだ。
今まで、陽咲が友達を家に呼んだことはなかった。私も陽咲の行動に最初は驚かされた。しかし、やはり。私の両親はくそだった。思考が一般人とは異なっていた。
「そうなの。私は別にお友達を家に連れてきても構わないけど、ああ、でも、何を着たらいいかしら。陽咲の友達なら、きちんと正装して会わなくちゃいけないわね。ああ、お友達は陽咲の趣味を知っているのかしら?知っているのなら、私もそれに合わせて本棚を整理する必要があるわ」
「ふむ。雲英羽さんの言う通り、服装には気をつけなくてはいけないね。それと、僕の部屋の本棚も陽咲の趣味にそろえた方がいいだろうか」
服装云々はまあ、理解できるが、そのあとに続く、陽咲の趣味に合わせた本棚を作るとはいったいどういう思考をしているのか。陽咲もオタクだが、くそ両親がBLオタクなら、妹は百合オタクだ。同じオタクのくくりでもだいぶ系統が違っている。男同士の恋愛か、女同士の恋愛かの違いで、同性同士の恋愛ものが好きだという、世間から外れていることに変わりはないが。
「それには及ばない。彼女にはお母さんたちのことも話してあるし、私のトラウマについても話しているから」
「なっ!陽咲、あんた何他人にうちのくそ両親のこと話してくれちゃってるの!」
さらりと、陽咲は飛んでもないことを言いだした。私だって、くそ両親のことを芳子たちに話していないのに。陽咲が両親のことを話したということは、私の両親がくそだということを話していることと同じだ。トラウマの件も話しているということは、そういうことだ。
「それなら、大丈夫ね。心配して損した気分だわ。知っているのなら、陽咲の好みに本棚を整理する必要はないものね」
「でも、よかったな、陽咲。陽咲は喜咲にべったりだったから、高校でも友達ができるか心配していたんだぞ」
そんな発言を聞いて、なぜか二人は安心したようで、陽咲に友達ができたことに感動して涙ぐみだした。この家族が狂っていると思うのは、こういう瞬間だ。私には理解不能な行動が私を苛立たせる。
「陽咲、あんたはこいつらのことを他人に話して恥ずかしくないの!」
つい、怒鳴ってしまった。今まで和やかに話していた夕食の雰囲気が一気にぶち壊れる。しまったと思ったが、勢いに任せて私の口からは、暴言が次々と飛び出していく。
「自分の男アレルギーの発祥の原因を忘れたの?あんなくそな両親を友達に紹介してどうするの?陽咲、あんたまで変な目でみられたら、辛いのはあんたなのよ!」
びしっと両親に指を突き刺し、大声で叫んでしまった。そんな様子をあっけにとられた顔で、両親も陽咲も私を見つめている。そんな彼らを見て、私は我に返る。恥ずかしげもなく両親を他人に紹介しようとする妹が信じられなくて、つい激昂してしまった。
「喜咲、あんた本当に私たちが嫌いなのね。とはいえ、仕方のないことかもしれないわね」
「喜咲、喜咲の気持ちもわからなくもないが、そこまで言う必要はないんじゃないかな。お父さんもお母さんも、そこまで言われるとさすがに傷つくよ」
両親は、私の言葉に怒ることなく、静かに諭してきた。傷ついているというのは本当らしい。悲しそうな寂しそうないろいろな負の感情が混ざった表情をしていた。
「ねえ、喜咲って、結局何がそんなにむかつくの?」
そんな雰囲気を壊すかのように、のんきな声が私にかけられる。陽咲が私にわかりきったことを質問する。
「決まっているでしょう。このくそ両親が……」
「確かにうちの両親にむかつくのはわかるけど、根本は違うでしょう?いや、もしかしたら、嫌い嫌いも好きの内ってやつかな」
「嫌い嫌いも……」
「好き……」
陽咲の言葉を反芻する両親に嫌な予感がした。大好きなBLを読んでいるときのような、嬉しそうな表情を両親がともに浮かべていた。陽咲は、両親の嬉しそうな顔に大げさに頷く。
「おお、さすが私の両親。気付いてくれましたか?」
「それって、本当は、喜咲ちゃんは、心の奥底では、私たちも、BLもす」
「まじで一回死んでくれないかな」
「ということは、これはもしや、あれか。いや、今のところ、ツンしか見たことがないが、デレが見られる可能性も」
『ツンデレ』
私の言葉を聞き流し、くそ両親と陽咲の三人が声を合わせて、一つの言葉を口にする。それは、見事にハモっていた。あまりにきれいなハモりを見せたので、私はあきれて何も言うことができなかった。
「それで、友達を家に呼びたいと言っていた話だけど、陽咲、あなたのお友達ってどんな子なのかしら?」
私が『ツンデレ』という、意味不明なことを言いだした陽咲のせいで、本題である陽咲の友達を家に呼ぶという話は、途中で終わってしまうのかと思われた。しかし、母親はすぐに本題を思い出したようで、改めてどんな子なのか問いただす。
「私が好きみたいで、なんか私と喜咲のイチャイチャを見て喜んでいる人。でも、悪い子じゃないよ」
「それって」
「うん。私もこっち側の人間なのかなって思って、誘ってみたら、もとはノーマルだったみたい。でも、今は完全にこっち側だね。初心者向けの百合を進めたら、がっつり沼に落ちた」
「まあ、はまると出られないのは、気持ちはわかるなあ。そうか、陽咲の友達も沼にはまってしまった人なんだね」
「陽咲は良いお友達と出会えたのね。お母さん、本当に嬉しいわあ!」
私を無視して、彼女のクラスメイトの鈴木麗華についての話で盛り上がる三人。調子に乗った陽咲は、さらに彼女の情報をくそ両親に開示する。
「それに、私が男アレルギーなことを心配して、自分が私を守るんだって、彼氏役を買って出てくれた。最初はそんな感じだったんだけど、今では男装が趣味になったみたいなんだよね」
「ちょっと待った。陽咲、あんたそんな重要なこと、なんで私に早く言わなかったの?」
教室で会った彼女の姿はそう言うことだったのか。髪型や立ち姿がどうにも女子に見えなかったのは。彼女の男装の理由が理解できた。これから家に呼ぶ人間が、まさかの趣味を持っていたなんて知りたくなかった。その趣味に至ったきっかけが陽咲だなんて、考えたくもなかった。妹のせいで、哀れな犠牲者が出てしまったというわけだ。
「早く言うも何も、喜咲なら気付くと思っていたけどね。それで、麗華のことだけど、そんな彼女を家に招いても、何の問題もないわよね」
にっこりと威圧的に微笑まれ、私はたじろいだが、それとこれとは話が違う。いくら、やばい趣味に目覚め、くそ両親と妹側の世界に飛びこんだとしても、関係ない。やはり、私はくそ両親を他人に紹介したくはなかった。
「その顔だと、納得していないみたいだけど、もう麗華には今週末遊びに来ていいよって言ったのは、その場にいた喜咲も聞いていたでしょう。今更ドタキャンは無理。どうせなら、喜咲もあの二人を呼んだらいいんじゃない?」
「あらあら、喜咲にも友達ができたのね。いつでも家に呼んでいいわよ」
「お父さんにも紹介してくれるとうれしいなあ」
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