汐留一家は私以外腐ってる!

折原さゆみ

文字の大きさ
20 / 55

4陽咲のクラスメイトが家にやってきます④

しおりを挟む
「お、お邪魔します。ひ、陽咲さんの、クラスメイトの、す、鈴木麗華、です」

「どうぞどうぞ、あなたが陽咲のお友達ね。遠慮なく上がって頂戴。お帰り、喜咲に陽咲」

『ただいま』

 私たちはやっと家に帰ることができた。あの後、荒太の母親が真っ先に我に返り、息子とその彼女を無理やり家に引っ張り込んで、事なきを得た。面倒な相手がいなくなったと思ったら、タイミングよく、うちのくそ親が家から顔を出し、私たちを呼びに来た。

 私と陽咲の声がハモってしまったが、仕方ない。いくら嫌いな相手でも、帰宅の挨拶くらいはしておくべきだろうと思っての行動だ。麗華は、荒太たちと出会った時に見せた余裕がどこにいったのか、またおろおろと落ち着きをなくしていた。私たちの母親を目の前に、がちがちに緊張して、私のくそ親に対する挨拶の声もどもってしまい、かっこいい恰好が台無しだ。

「そんなに緊張しないでも大丈夫。いつも通り、麗華らしくしていればいいよ」

 陽咲がフォローするが、全然効果がなく、麗華の身体はがちがちに固まったままだった。まるでロボットのようなかくかくした動きで靴を脱ぎ、私たちの家に上がっていく。




「お茶とお菓子を準備していたけど、もうお昼の時間になるわね。お昼はどうするの?簡単なものならあなたたちの分まで作るけど?」

「じ、自分は、そこまで迷惑は」

『じゃあ、私たちの分も作ってよ』

 母親の言葉に、三人の声が同時に発せられた。麗華は他人の家だからなのか、昼食まで作ってもらうのは遠慮すると断りの言葉を、私と陽咲は反対に、作ってもらう気満々だった。意外にも、このくそ親は料理が案外得意であった。

「あら、三人仲良く、外で昼ご飯を食べるとかはしなくていいの?それこそ、二次元で親の料理を食べたいなんて言う子供はあまりいないと思うけど」

「家に帰ってきたのに、また出かけるのは面倒。それに、お父さんにも麗華のことを紹介したい」

 陽咲がしれっと、今日、麗華を家に招いた最大の理由を口にする。昼時ということもあり、お腹も減っていたこともあり、私は頭が回らなかった。すっかり麗華が家に来た目的を忘れていた。

「紹介なんて、そんな私は、そんなたいそうな人間では」

「そこまで卑下する必要はないよ。そもそも、麗華さんが下というのなら、あいつらは全員、さらに最下層のごみクズになっちゃうから。『月とすっぽん』だよ。もちろん、麗華さんが月で、すっぽんはうちのくそ家族」

「相変わらずヒドイいいようだね。お母さん、悲しくなっちゃう。どこで教育を間違えたのかしら。ああ、まあ、どこかはわかっているけど」

「そんなクズたちが、実はめちゃくちゃ好きな喜咲は、とってもかわいいよ」


 私の言葉は、彼女たちクズ家族にたいした攻撃にはなっていなかった。さらりと受け流し、二人は目を合わせて、微笑み、私を生暖かい目で見つめてくる。すでに麗華がうちの家族がおかしなことを知っているだろうと思っての発言だったのに、当の本人は驚いたような顔をしていた。

「陽咲さんも、お母様もとても良い人です。どうしてそんなことを言うのですか?」

「いや、だって、麗華さん、うちの親のこと、陽咲から聞いているでしょ。うちの親は」





「おや、何を楽しそうに話しているのかな?」

 私のもう一人の家族が現れた。まさかの家族全員が麗華の前に集まってしまった。最後の登場は、父親だ。


「は、初めまして。陽咲さんの、ク、クラスメイトのす、鈴木麗華と申します。今日は、家に招いて頂き、あ、ありがとうございます」

 麗華は、すぐに父親にも挨拶する。父親は、麗華の様子を見ると、優しく微笑んで緊張しないでと話しかける。

「麗華さんだね。陽咲から話しは聞いていたよ。とても可愛らしいね。陽咲が夢中になるのもわかるかな。それはそうと、雲英羽さん、お客さんを玄関に立たせたまま話しているのは失礼だよ」

「ごめんなさい。つい、お話をしたくなって。ほら、喜咲も陽咲も早くリビングに麗華さんを案内しなさい。お昼はすぐにできるから、少し待っていて」

 私たちはようやく玄関からリビングに入ることができた。それからは、料理をする母親を除いて、私と陽咲、麗華さんの三人で和やかに会話をする予定だった。それなのに。





「麗華さんは、陽咲から僕たちのことをどういう人間だと言われていた?」

「麗華さんは、どんな漫画や小説、アニメが好き?」

「麗華さんは、陽咲のどこが好き?出会いは?」


「ええと、私は……」

「おいくそ父。そこまでにしておけよ。麗華さんが困ってる」

「戸惑っている麗華もかわいい!困惑顔もなかなか魅力的ね。お父さん、もっとせめていいわよ。私が許す!」

 暇なくそ父が、なぜか私たちの会話に割り込み、あまつさえ、麗華を質問攻めにしていた。それを止めもしないで、陽咲はもっとやれという始末。返答に困った彼女は、もはや涙目になって、私に視線で助けを求めた。

「あのねえ、あんたたち、マジで人として……」





「私をさしおいて、楽しそうねえ。悠乃さん、ご飯ができたから、準備を手伝ってくれるかしら。麗華さん、後で、私にもいろいろお話を聞かせてね」

 思わぬところから、助けの手が入った。これで、質問攻めからは免れたと、ほっと一息ついている彼女には悪いが、まだまだこれは序の口だ。彼らが麗華をそうやすやすと見逃すはずがない。


 昼ご飯は、どうしたわけかオムライスだった。家でオムライスなどあまり作らないのに、珍しい。

「各自、自分が好きな人をケチャップでかくことを義務とします」

 いや、ただ面白そうだから、このメニューにしたのだろう。

「汐留喜咲LOVE ハート」

「汐留雲英羽 ハート」

「汐留悠乃LOVE×2 ハート」

「み、皆さんすごい必死に書いていますね」

 オムライスに書かれた内容に引き気味の麗華。気持ちはわかるが、そんなことで引いていてはこの家になじむことはできない。

「これが通常運転ですけど、それでも私たちとつき合えるのなら、それはもう、あなたもおかしな奴ということになります」



 当然、母親の命令に私が従うことは……。

「それって、あのラノベの登場人物でしょう。喜咲も正直者ねえ」

「ええ、あのキャラよりも、私の推しの女性ヒロインの方が絶対いいよ!」

「お父さんは、そのキャラクター好きだよ。でも、一番は雲英羽さ」


「うるさい!」

 つい、バカ正直にケチャップで好きな人(ラノベの登場人物)を書いてしまった。今日も汐留家は平和そのものだ。


「私もかけました!」

『汐留陽咲 LOVE ハート』

『おーーー!』

 そして、その中に早くもなじみつつある、陽咲の友達は、前途多難な未来が待っているに違いない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...