汐留一家は私以外腐ってる!

折原さゆみ

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5それぞれの体育祭と文化祭①~双子の場合~(3)

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 テストが終わり、いよいよ体育祭と文化祭が近づいてきた。夏も始まろうとしている六月、教室は梅雨の気配も感じ始めていた。ムシムシと、何もしなくてもイライラするいやな季節である。

「では、うちのクラスの文化祭での出し物、それから同時に体育祭と文化祭での役割も決めていこうと思います」

 私はぼんやりとクラスの室長が話しているのを眺めながら、芳子たちのことを考える。今頃になって、彼女たちの言い分も少しは理解できた。体育祭と文化祭が同時に行われ、どちらかの役に徹すれば、どちらかは必ず、おろそかになってしまう。両立できない感じがもどかしく感じた。

 確かに体育祭と文化祭を同時に行ってしまえば、それだけ、勉強する時間が増える。さらに、二学期である秋にやるのではなく、一学期の夏にやれば、受験期の一番の正念場の秋冬を勉強に専念できるのは間違いない。




「まずは、文化祭の出し物ですが、やりたいものがある人は挙手してください」

 誰も手を挙げる者はいなかった。ここが二次元であるならば、必ず、クラスのお調子者が挙手してこう言うだろう。

「メイド喫茶」

 それ以外では「お化け屋敷」「食べ物屋」などもあるだろう。または演劇というのも考えられる。いずれにせよ、二次元必須の出し物だ。しかし、現実世界ではそんなことを言う奴はいない。クラスメイトは皆、頭を下げ、誰かが何かを言うのを待っている。

 いや、待っているのではない。どうでもいいのだ。かくいう私もその一人だ。誰も文化祭や体育祭に期待していない。そもそも、この学校に来た時点で、高校の学校行事に精を出す生徒は少ないだろう。

 うちの学校は曲がりなりにも進学校だ。文化祭や体育祭などの学校行事を楽しむために高校に入学したわけではない。入学したほとんどの生徒は、大学に進学するために、進学率が高いと言われる、いわゆる進学校であるこの高校を選んだはずだ。そんな生徒に学校行事に全力を尽くせという方がおかしい。


 誰も何も発言しないまま、時間だけが過ぎていく。クラスの室長もこのままではまずいと感じているのか、言葉に焦りが混ざり始める。

「ええと、このままでは、うちのクラスの文化祭の出し物が決まらないのですが、何か、思いついたことでもいいので、発言してくれると……」




「お前ら、やる気あるのか!」

 とうとう、沈黙に耐えかねた担任が怒り出す。私のクラスの担任は、一昔前の熱血教師だった。体育教師ということもあり、体育祭にはとても気合が入っている。さらには、祭り好きらしく、文化祭もクラスが一致団結して何かを作り上げ、それによってクラスの絆が深まると考えている節がある。

「オレは今まで、たくさんの卒業生を見送ってきたが、お前達みたいな生徒は初めてだ。なんだ、このやる気のない態度は!お前らみたいなやる気のない奴は、社会に出て役に立たんぞ!オレが以前担任した学年は……」

 担任はくどくどと、お前たちはダメだ、やる気がないのはいかん、オレが持った今までのクラスは……など、私たちに関係ないことで説教し始めた。お前の持っていたクラスと私たちは別物だ。同じ人間ではないので、同じようにするのは不可能だ。

 それに、うちの学校が進学校ということを忘れているのだろうか。


「あ、あの先生は何がしたいのですか?」

 勇気ある生徒が担任に質問する。担任は待っていましたとばかりに話し出す。

「そうだなあ。まずは体育祭から攻めていこうか。応援団から決めていこう。体育祭一番の花形でもあるからな。それから体育祭の種目決め。もちろん、すべての競技で優勝を目指すぞ!後は、文化祭の最優秀企画賞も欲しい。そのために決めることは山ほどあるぞ!」

 担任とクラスの温度が全く違っている。クラスの雰囲気は、一気に真冬の零下まで下がっていく。反対に担任は、真夏の外出危険レベルの猛暑なみの気温だ。

 こうして、無理やり、担任の独断により、体育祭と文化祭の出し物や係り、種目が決定した。





「いくら何でもありえないよね。うちらが発言しないのをいいことに、あいつ、やりたい放題じゃん!」

「面倒くさいことしかないね」

 結局、文化祭の出し物は、喫茶店をすることになった。担任がどうしてもやりたいと言い出したからだ。何を提供するかと思えば、女子がエプロンをつけて、お菓子とジュースを売るという、テンプレ的な喫茶だった。男子は裏方らしい。

 体育祭の応援団員も勝手に決められた。クラスの顔面偏差値を勝手に推し量り、顔のいいものが率先して選ばれた。それに加えて、運動神経がいいものも応援団員として選出された。文化祭のマスコットも、今流行りのキャラクターになった。マスコット制作メンバーは、いわゆる陰キャと呼ばれる人々によって構成された。


「でもさあ、私たちは楽だよねえ。あいつに女子認定されていないみたいで、カフェは裏方だし、体育祭も戦力として認められていないから、ほとんど何もしなくていいし、ある意味ラッキーってやつ」

「こなでの言う通り、私たちは運がいい。喜咲にとっては最悪だろうけど」

「どうして、私だけ」

 今日は、陽咲は私の教室にはやってこなかった。どうやら、体育祭と文化祭の準備を昼休みに行うようだ。

 担任は私に期待しているようだった。応援団に勝手に決められ、文化祭の喫茶店では店員役を任されてしまった。


「今時、生徒より燃えてる先生って珍しいよね。そもそも、現実世界では学校行事ごときに燃えないっていうのが、最近の流行りというか、世の流れだって言うのにね」

「そうそう、そのうち、文化祭も体育祭も二次元だけのイベントになりそうだよ」

「芳子もこなでもそれでいいの?」




『どうして?』

 真顔で聞き返されてしまい、私が逆に困惑してしまう。

「どうしてって、だって、この前二次元と三次元の違いで盛り上がっていたでしょう。てっきり、三次元でも二次元と同じように楽しみたいのかなと思って」

『ぷっ』

 私の言葉に、今度は吹き出されてしまう。何か間違ったことを言っただろうか。

「面白いねえ。喜咲は。あれはフィクションだからいいんでしょ。あれが現実に自分たちが行うってなれば、話は別。私たちは傍観者で、遠くからそれを見守りたいの。当事者になって楽しみたいわけじゃないから」

「そうそう、芳子の言う通り。所詮、あれはフィクション。よく考えてみてよ。あんな派手なイベントを自分たちで準備して、実行して、片付けするなんて面倒くさいこと、喜咲はやりたい?その後に大学受験が待っているのに、やる時間ある?」

「ない、です」

「よろしい。では、私たちは裏方で適当に頑張るので、喜咲は表舞台で私たちの言っている意味を実感しなさい」




 体育祭と文化祭は、二人にとっては、ぼちぼち楽しいイベントとなったようだ。私はと言うと、ただきつかっただけで、大して面白くなかった。確かに練習はきつくて、その分、達成感を得たが、ただそれだけだ。喫茶の店員も、客が男ばかりで、気持ちの悪い視線を向ける奴が多すぎて、彼らに殺意が湧いた。


 現実と三次元を一緒にしてはいけないと実感したイベントだった。

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