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14新学期~バイトの理想と現実~③
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私の家は貧しい。シングルマザーとして、母親が私を一生懸命育ててくれていることには感謝している。
私の容姿は普通くらいだ。すごい可愛いわけでもないし、特別不細工でもない。目は一重だが、二重にすることなんて簡単だ。肌が白いのは唯一、自慢できる部分だ。体型はやせ型なので太っているより全然、ましだ。
高校生になり、ようやく欲しいものを買えるお金を自分で稼げるようになった。大学に行ける余裕などないし、そこまでの学力もないので、高校卒業後の進路は就職一択だ。そのため、授業後はアルバイトに専念しようと思っていた。
幸いにして、私の高校はアルバイト禁止ではなかったので、私は自分の家の近くのファミレスでアルバイトをすることにした。
ある日、私は駅で見知った顔を見つけた。高校は電車で一駅の私立の高校に通っている。私立とはいえ、母子家庭に対しての補助があるので電車通学も出来ている。
「あれ、心愛(ここあ)じゃん。久しぶり」
「ひ、久しぶり。ひ、陽咲ちゃん、だよね?」
最寄り駅で電車を降りて改札に向かって歩いていたら、知り合いに声をかけられた。私は無視をしようとしたのだが、相手が私に気付いてしまった。仕方なく返事をするが、面倒な相手に会ってしまった。
「その制服、あの私立校の制服だよね?あそこって、宗教色強いみたいだけど、本当なの?」
汐留陽咲(しおどめひさき)。中学3年生の時のクラスメイトだ。双子で隣のクラスに姉の喜咲(きさき)がいた。クラスは違うが、双子は休み時間になるといつも一緒にいたイメージが強かった。登下校も常に2人一緒だった気がする。それは高校でも変わらないらしい。陽咲ちゃんの後ろには姉の喜咲ちゃんがいた。
私はこの姉妹があまり好きではなかった。特に妹の陽咲ちゃんは自由な感じの女子で苦手だった。中学のあの事件以来、あまり話さなくなったが、あの病気みたいな症状は治まったのだろうか。
「ごめんね。今日は、バイトの日なんだ。急がないと遅れちゃう」
「へえ、アルバイトしているんだね。どこでしているの?」
「別に、陽咲ちゃんには関係ないよね?」
しかし、彼女たちの近況など別に知りたいとは思わない。本当は、今日はバイトがない日なのだが、その場から早く立去りたくて嘘をつく。
「そっかあ。それは残念。バイトの面白い話とか聞けたら良かったのに。じゃあ、アルバイト、頑張ってね」
双子と一緒に歩きながら話していたら、改札口を出て外に出ていた。陽咲ちゃんが案外あっさりと私を開放してくれたことに驚いた。
「ごめんね、心愛さん。陽咲、同級生だからって、いきなり話しかけたら驚くでしょ」
「減るもんじゃないし、別にいいでしょ。それに、知り合いに声をかけたらダメなんて言う法律ないし」
喜咲ちゃんが妹の陽咲のことで私に謝ってきた。本当に謝る気持ちがあるのなら、私に声をかける前に止めて欲しかった。
「陽咲、さっさと家に帰ろう。あそこに新太がいる」
「おーい、心愛。一緒に帰ろうぜ」
面倒なことになってしまった。まさか、このタイミングで荒太が現れるとは思わなかった。いや、帰りの電車で【今日はバイトがないから、会えるね】とメッセージのやり取りをしていたことを思い出す。慌ててスマホでメッセージを確認すると、荒太から返信が来ていた。
【駅まで迎えに行くから、一緒に帰ろう】
荒太は私たちと同じ中学だった。彼は地元の高校に自転車で通学している。どうやら、私に会いたくて駅まで迎えに来てくれたらしい。いつもなら嬉しいが、今日はタイミングが悪い。
「うわ、こことここがくっつくのね」
「ていうか、荒太、前いた彼女とは別れたんだね」
「うわ、お前らかよ。最悪だな。心愛、こいつらに何か変なことは言われなかったか?」
彼らはお互いの存在に気付いて驚いていたが、すぐに全員が不機嫌そうな表情になる。
そういえば、荒太の家は陽咲ちゃんたちの隣だった。中学のあの一件以来、荒太は彼女達と距離を置いていたが、今はどうだろう。彼女達に出会っても、私と一緒に居てくれるだろうか。
荒太とは、バイトしているファミレスで偶然出会った。私がバイトしている時間に荒太が友達と一緒にご飯を食べに来て、そこから話しが弾んで付き合うことになった。
私が黙っていると、荒太が大きなため息を吐く。愛想をつかれたかと彼の表情をうかがうが、どうやらため息の原因は私ではないらしい。彼女達を嫌そうに睨みつけている。
「相変わらず、高校でも一緒に帰っているんだな。こんなところで会うとは思わなかったよ」
「私たちも、荒太に会うとは思わなかった。それで、前の彼女とは別れて、今は心愛ちゃんと付き合っているってことでいいんだよね?」
「そ、そういえば、心愛さん、バイトの時間は大丈夫?こんなところで私たちと話していたら遅れちゃうよ」
「そ、そうだね」
彼女達の仲はいまだに良くないようだ。そのことにほっとする。行動や言動がおかしい姉妹だが、容姿は悪くない。性格さえよければ、モテるはずだ。だからこそ、荒太の双子に対する態度がそっけなくて安堵している自分がいた。
しかし、姉の陽咲ちゃんの方は空気が読めるらしい。この場の空気が悪くなったのを察して、私を引き合いに出して、この場をお開きにしようとした。
「なに言っているんだ?心愛は今日、バイトないから、オレが迎えに来たんだろ?」
せっかく、ここから解放されると思ったのに、バカ正直な荒太がバイトがないことを暴露してしまった。そういう空気が読めないところが玉に瑕だがまあ、問題はない。今日はたまたま彼女たちと会ったが、高校が違うので滅多に会う事はないだろう。
「ソウナンダ。まあいいや、私たちも早く帰ろう。陽咲?」
「ねえ、今日は仕方ないけど、今度一緒にご飯でも食べに行こう?お互いの高校生活のこととか語り合おうよ。ああ、もちろん、荒太抜きの女子3人で」
「陽咲!」
「心愛、断れよ。こいつらと関わるとろくなことがないぞ」
「……。別にいいよ。私もいろいろ2人には聞きたいことがあるし」
帰り際、妹の陽咲ちゃんに連絡先の交換を求められた。喜咲ちゃんと荒太は反対のようだった。私だって、本当はこの姉妹と連絡先など交換したくない。でも、ここで別れてしまったら、彼女達に負けたような気がしてならない。何に対してなのかわからないが、負けてしまうのは嫌だった。
「でも、ひとつだけ条件があるの。女子3人じゃなくて、荒太もその場に同席させてもいい?それか、私のバイト先の同僚の男の子でもいいけど」
「はあ?何を言っているの。陽咲は」
「それがだめなら、連絡先の交換もなしってことで。だって、私は彼氏がいるのに、あなたたちはいない。高校生にもなって、彼氏のひとりもいない人と関わりたくないもの。私たちって、中学の時、大して仲が良くなかったでしょう?だから、3人で会うというのは気まずいし」
陽咲ちゃんが男の人がダメなことを思い出したら、口からスラスラと言葉がでてきた。そうだ、いくら頭が良くて容姿が良かったとしても、高校生にもなって彼氏の1人もいないなど、ありえない。私の高校の友達は全員、彼氏持ちである。
自分の言葉でようやく彼らに勝る部分を見つけてうれしくなる。陽咲ちゃんの沈んだ顔や喜咲ちゃんの怒った顔を見るだけで、勝ち誇った気分になる。隣の荒太も、私と同意見なのか、うんうんと頷いている。
「じゃあ、荒太、帰ろうか。今日は、お母さんは仕事が夜勤で、明日の朝にしか家に帰ってこないから家に誰もいないよ」
「それは誘っているのか?」
「さあね」
私と荒太は2人を置いて、さっさと家に帰ることにした。悔しかったら、私のように彼氏のひとりくらい作ればいい。
もっとも、男嫌いの陽咲ちゃんに彼氏などできるわけがない。そして、妹思いの喜咲ちゃんは陽咲ちゃんの嫌な事はしないので、彼氏は作らないだろう。
やはり、人は皆平等である。良いところもあれば、悪いところもある。
「すごいね。彼氏がいないだけでこのいわれよう。逆に尊敬するわ」
私たちが去った後、陽咲ちゃんが言った言葉を私たちが聞くことはなかった。
私の容姿は普通くらいだ。すごい可愛いわけでもないし、特別不細工でもない。目は一重だが、二重にすることなんて簡単だ。肌が白いのは唯一、自慢できる部分だ。体型はやせ型なので太っているより全然、ましだ。
高校生になり、ようやく欲しいものを買えるお金を自分で稼げるようになった。大学に行ける余裕などないし、そこまでの学力もないので、高校卒業後の進路は就職一択だ。そのため、授業後はアルバイトに専念しようと思っていた。
幸いにして、私の高校はアルバイト禁止ではなかったので、私は自分の家の近くのファミレスでアルバイトをすることにした。
ある日、私は駅で見知った顔を見つけた。高校は電車で一駅の私立の高校に通っている。私立とはいえ、母子家庭に対しての補助があるので電車通学も出来ている。
「あれ、心愛(ここあ)じゃん。久しぶり」
「ひ、久しぶり。ひ、陽咲ちゃん、だよね?」
最寄り駅で電車を降りて改札に向かって歩いていたら、知り合いに声をかけられた。私は無視をしようとしたのだが、相手が私に気付いてしまった。仕方なく返事をするが、面倒な相手に会ってしまった。
「その制服、あの私立校の制服だよね?あそこって、宗教色強いみたいだけど、本当なの?」
汐留陽咲(しおどめひさき)。中学3年生の時のクラスメイトだ。双子で隣のクラスに姉の喜咲(きさき)がいた。クラスは違うが、双子は休み時間になるといつも一緒にいたイメージが強かった。登下校も常に2人一緒だった気がする。それは高校でも変わらないらしい。陽咲ちゃんの後ろには姉の喜咲ちゃんがいた。
私はこの姉妹があまり好きではなかった。特に妹の陽咲ちゃんは自由な感じの女子で苦手だった。中学のあの事件以来、あまり話さなくなったが、あの病気みたいな症状は治まったのだろうか。
「ごめんね。今日は、バイトの日なんだ。急がないと遅れちゃう」
「へえ、アルバイトしているんだね。どこでしているの?」
「別に、陽咲ちゃんには関係ないよね?」
しかし、彼女たちの近況など別に知りたいとは思わない。本当は、今日はバイトがない日なのだが、その場から早く立去りたくて嘘をつく。
「そっかあ。それは残念。バイトの面白い話とか聞けたら良かったのに。じゃあ、アルバイト、頑張ってね」
双子と一緒に歩きながら話していたら、改札口を出て外に出ていた。陽咲ちゃんが案外あっさりと私を開放してくれたことに驚いた。
「ごめんね、心愛さん。陽咲、同級生だからって、いきなり話しかけたら驚くでしょ」
「減るもんじゃないし、別にいいでしょ。それに、知り合いに声をかけたらダメなんて言う法律ないし」
喜咲ちゃんが妹の陽咲のことで私に謝ってきた。本当に謝る気持ちがあるのなら、私に声をかける前に止めて欲しかった。
「陽咲、さっさと家に帰ろう。あそこに新太がいる」
「おーい、心愛。一緒に帰ろうぜ」
面倒なことになってしまった。まさか、このタイミングで荒太が現れるとは思わなかった。いや、帰りの電車で【今日はバイトがないから、会えるね】とメッセージのやり取りをしていたことを思い出す。慌ててスマホでメッセージを確認すると、荒太から返信が来ていた。
【駅まで迎えに行くから、一緒に帰ろう】
荒太は私たちと同じ中学だった。彼は地元の高校に自転車で通学している。どうやら、私に会いたくて駅まで迎えに来てくれたらしい。いつもなら嬉しいが、今日はタイミングが悪い。
「うわ、こことここがくっつくのね」
「ていうか、荒太、前いた彼女とは別れたんだね」
「うわ、お前らかよ。最悪だな。心愛、こいつらに何か変なことは言われなかったか?」
彼らはお互いの存在に気付いて驚いていたが、すぐに全員が不機嫌そうな表情になる。
そういえば、荒太の家は陽咲ちゃんたちの隣だった。中学のあの一件以来、荒太は彼女達と距離を置いていたが、今はどうだろう。彼女達に出会っても、私と一緒に居てくれるだろうか。
荒太とは、バイトしているファミレスで偶然出会った。私がバイトしている時間に荒太が友達と一緒にご飯を食べに来て、そこから話しが弾んで付き合うことになった。
私が黙っていると、荒太が大きなため息を吐く。愛想をつかれたかと彼の表情をうかがうが、どうやらため息の原因は私ではないらしい。彼女達を嫌そうに睨みつけている。
「相変わらず、高校でも一緒に帰っているんだな。こんなところで会うとは思わなかったよ」
「私たちも、荒太に会うとは思わなかった。それで、前の彼女とは別れて、今は心愛ちゃんと付き合っているってことでいいんだよね?」
「そ、そういえば、心愛さん、バイトの時間は大丈夫?こんなところで私たちと話していたら遅れちゃうよ」
「そ、そうだね」
彼女達の仲はいまだに良くないようだ。そのことにほっとする。行動や言動がおかしい姉妹だが、容姿は悪くない。性格さえよければ、モテるはずだ。だからこそ、荒太の双子に対する態度がそっけなくて安堵している自分がいた。
しかし、姉の陽咲ちゃんの方は空気が読めるらしい。この場の空気が悪くなったのを察して、私を引き合いに出して、この場をお開きにしようとした。
「なに言っているんだ?心愛は今日、バイトないから、オレが迎えに来たんだろ?」
せっかく、ここから解放されると思ったのに、バカ正直な荒太がバイトがないことを暴露してしまった。そういう空気が読めないところが玉に瑕だがまあ、問題はない。今日はたまたま彼女たちと会ったが、高校が違うので滅多に会う事はないだろう。
「ソウナンダ。まあいいや、私たちも早く帰ろう。陽咲?」
「ねえ、今日は仕方ないけど、今度一緒にご飯でも食べに行こう?お互いの高校生活のこととか語り合おうよ。ああ、もちろん、荒太抜きの女子3人で」
「陽咲!」
「心愛、断れよ。こいつらと関わるとろくなことがないぞ」
「……。別にいいよ。私もいろいろ2人には聞きたいことがあるし」
帰り際、妹の陽咲ちゃんに連絡先の交換を求められた。喜咲ちゃんと荒太は反対のようだった。私だって、本当はこの姉妹と連絡先など交換したくない。でも、ここで別れてしまったら、彼女達に負けたような気がしてならない。何に対してなのかわからないが、負けてしまうのは嫌だった。
「でも、ひとつだけ条件があるの。女子3人じゃなくて、荒太もその場に同席させてもいい?それか、私のバイト先の同僚の男の子でもいいけど」
「はあ?何を言っているの。陽咲は」
「それがだめなら、連絡先の交換もなしってことで。だって、私は彼氏がいるのに、あなたたちはいない。高校生にもなって、彼氏のひとりもいない人と関わりたくないもの。私たちって、中学の時、大して仲が良くなかったでしょう?だから、3人で会うというのは気まずいし」
陽咲ちゃんが男の人がダメなことを思い出したら、口からスラスラと言葉がでてきた。そうだ、いくら頭が良くて容姿が良かったとしても、高校生にもなって彼氏の1人もいないなど、ありえない。私の高校の友達は全員、彼氏持ちである。
自分の言葉でようやく彼らに勝る部分を見つけてうれしくなる。陽咲ちゃんの沈んだ顔や喜咲ちゃんの怒った顔を見るだけで、勝ち誇った気分になる。隣の荒太も、私と同意見なのか、うんうんと頷いている。
「じゃあ、荒太、帰ろうか。今日は、お母さんは仕事が夜勤で、明日の朝にしか家に帰ってこないから家に誰もいないよ」
「それは誘っているのか?」
「さあね」
私と荒太は2人を置いて、さっさと家に帰ることにした。悔しかったら、私のように彼氏のひとりくらい作ればいい。
もっとも、男嫌いの陽咲ちゃんに彼氏などできるわけがない。そして、妹思いの喜咲ちゃんは陽咲ちゃんの嫌な事はしないので、彼氏は作らないだろう。
やはり、人は皆平等である。良いところもあれば、悪いところもある。
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