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2数学教師
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「それでは5時間目の授業を始めます」
午後の授業は数学だった。メガネをかけた日好光紀(ひよしみつき)という名の数学教師は、私と苗字が同じだった。日好という珍しい苗字は、今まで私の家族や親せき以外に見たことがない。同じ苗字を持つ彼はいったい何者なのか。
結論から言うと、教壇で数学の授業をしている教師は私の従兄だ。
色白というには不健康なほど青白い肌に一重で糸目。お世辞にも世間でのイケメンとはかけ離れているが、私には関係ない。メガネをかけていれば何も問題はない。
私の家族は遺伝的に視力が良い人間ばかりだ。私の両親は裸眼で片目1.2。両目だと余裕で2.0見えるし、弟も私もそれに倣って同じくらいよく見える。祖父母も老眼にはなっているが、その前まではメガネいらずの生活をしていた。
親戚も同じような視力を持っていて、視力補正用としてのメガネを使用する人間はひとりしかいなかった。それが、教壇で授業を行っていた数学教師の日好光紀だった。視力が悪いのでメガネをかけている。
私が現在、高校2年生で17歳。日好先生は23歳で年の差5年。生徒と教師という関係を除けば、恋愛対処になってもおかしくはない。おかしくはないのだが。
「なんだか、それは違う気がするんだよなあ」
「……ということだから、次の問題を日好さん、前に来て解いてくれますか?」
「ワカリマシタ」
従兄のメガネ姿をじっくりと眺めながら考えていたら、彼が私に黒板に書かれた問題を解くよう指示してきた。
こう見えて、私は家で予習・復習をしっかり行うタイプだ。既に予習済みの問題が解けないわけがない。私は返事をして黒板の前まで席を立ち、歩いていく。私と先生の関係はクラスメイトの大半が知っていたので、彼が私を指名することに誰も異論を唱えることはない。
すらすらと日好先生に言われた問題の回答を黒板に書いていく。回答が終わりチョークを置いて、チラリと日好先生の様子をうかがうと、にっこりと微笑みを向けられる。
「やっぱり、ないよなあ」
「何か言いましたか?」
「いえ、これで正解か、少し不安に思っただけです」
ぼそりと心の声が口から出ていたようだ。ただし、内容までは聞き取れなかったようだ。黒板に書かれた私の回答に日好先生は満足げに頷く。メガネの奥の瞳が嬉しそうに細められる。うん、ヤッパリメガネ姿の人間は最高だ。もういっそ、全人類、メガネを標準装着にしてもいいくらいだ。そう思うのだが、どうにも恋愛感情は育たない。
「ありがとうございます。正解ですよ。席に戻って大丈夫です」
私はおとなしく席に戻った。前の席に座るみさとが振り向いて親指を立てているが、なんの真似だろうか。前から話しているが、日好先生とどうこうなりたいとは思っていない。
席に戻ったあとも、しばらく日好先生がどうして恋愛対象にならないのか、ずっと考えていたが、従兄という関係しか思いつかなかった。
「今日の授業はここまで」
それから、あっという間に時間が経ち、数学の授業が終わりを告げた。考え事をしていながらも、私の手元のノートにはしっかりと黒板の板書が清書されている。我ながら素晴らしい能力だ。周りを見わたすと、授業終わりでようやく眠りの世界から現実に戻ってきたクラスメイトたちが必死で黒板に書かれたことをノートに懸命に板書していた。その中には親友のみさとも含まれていた。
「ねえ、今日の板書部分、後で見せて」
休み時間になり、日直が黒板に書かれた文字を消し始めた。すると、今まで前を向いていたみさとが急に後ろを振り返り、両手を合わせてきた。
「また授業中、寝ていたの?ていうか、結局今日も、板書が間に合わなかったんだね」
前の席に座るみさとの後ろ姿が、途中から丸まっていたが、どうやら爆睡していたらしい。部活が大変だからと言って、勉学をおろそかにしてはいけない。私だって部活をしているのに、授業中は寝ていないし、今も特に眠気を感じることはない。視界も頭もクリアな状態だ。
「仕方ないでしょ。それで、見せてくれるの?」
「はいどうぞ。毎回言っているけど、次からは寝ないでしっかりと授業中にちゃんとノートを取りなよ」
「わかってるって」
ノートを見せるくらい構わないが、ノートを写すだけでは学力は身につかない。私の忠告は、みさとには大して心に響いていないようで、適当な返事をされてしまう。
他のクラスメイトたちは、次の授業の合間までのつかの間の休憩時間を友達との雑談などで盛り上がっていた。
「持つべきものは友達だね。ありがとう」
みさとは私からノートをもらうと、その場では書かずに机の中にしまい込む。どうやら、今から書き写すのではなく、家に帰ってからするらしい。家に帰ってノートがないのは困るが、復習するのに絶対に必要ではない。教科書を使って復習することにしよう。
そうこうしているうちに、休み時間終了のチャイムがなり、6時間目が始まるのだった。6時間目は古典で、5時間目の数学と同じようにみさとは授業中、爆睡していた。
午後の授業は数学だった。メガネをかけた日好光紀(ひよしみつき)という名の数学教師は、私と苗字が同じだった。日好という珍しい苗字は、今まで私の家族や親せき以外に見たことがない。同じ苗字を持つ彼はいったい何者なのか。
結論から言うと、教壇で数学の授業をしている教師は私の従兄だ。
色白というには不健康なほど青白い肌に一重で糸目。お世辞にも世間でのイケメンとはかけ離れているが、私には関係ない。メガネをかけていれば何も問題はない。
私の家族は遺伝的に視力が良い人間ばかりだ。私の両親は裸眼で片目1.2。両目だと余裕で2.0見えるし、弟も私もそれに倣って同じくらいよく見える。祖父母も老眼にはなっているが、その前まではメガネいらずの生活をしていた。
親戚も同じような視力を持っていて、視力補正用としてのメガネを使用する人間はひとりしかいなかった。それが、教壇で授業を行っていた数学教師の日好光紀だった。視力が悪いのでメガネをかけている。
私が現在、高校2年生で17歳。日好先生は23歳で年の差5年。生徒と教師という関係を除けば、恋愛対処になってもおかしくはない。おかしくはないのだが。
「なんだか、それは違う気がするんだよなあ」
「……ということだから、次の問題を日好さん、前に来て解いてくれますか?」
「ワカリマシタ」
従兄のメガネ姿をじっくりと眺めながら考えていたら、彼が私に黒板に書かれた問題を解くよう指示してきた。
こう見えて、私は家で予習・復習をしっかり行うタイプだ。既に予習済みの問題が解けないわけがない。私は返事をして黒板の前まで席を立ち、歩いていく。私と先生の関係はクラスメイトの大半が知っていたので、彼が私を指名することに誰も異論を唱えることはない。
すらすらと日好先生に言われた問題の回答を黒板に書いていく。回答が終わりチョークを置いて、チラリと日好先生の様子をうかがうと、にっこりと微笑みを向けられる。
「やっぱり、ないよなあ」
「何か言いましたか?」
「いえ、これで正解か、少し不安に思っただけです」
ぼそりと心の声が口から出ていたようだ。ただし、内容までは聞き取れなかったようだ。黒板に書かれた私の回答に日好先生は満足げに頷く。メガネの奥の瞳が嬉しそうに細められる。うん、ヤッパリメガネ姿の人間は最高だ。もういっそ、全人類、メガネを標準装着にしてもいいくらいだ。そう思うのだが、どうにも恋愛感情は育たない。
「ありがとうございます。正解ですよ。席に戻って大丈夫です」
私はおとなしく席に戻った。前の席に座るみさとが振り向いて親指を立てているが、なんの真似だろうか。前から話しているが、日好先生とどうこうなりたいとは思っていない。
席に戻ったあとも、しばらく日好先生がどうして恋愛対象にならないのか、ずっと考えていたが、従兄という関係しか思いつかなかった。
「今日の授業はここまで」
それから、あっという間に時間が経ち、数学の授業が終わりを告げた。考え事をしていながらも、私の手元のノートにはしっかりと黒板の板書が清書されている。我ながら素晴らしい能力だ。周りを見わたすと、授業終わりでようやく眠りの世界から現実に戻ってきたクラスメイトたちが必死で黒板に書かれたことをノートに懸命に板書していた。その中には親友のみさとも含まれていた。
「ねえ、今日の板書部分、後で見せて」
休み時間になり、日直が黒板に書かれた文字を消し始めた。すると、今まで前を向いていたみさとが急に後ろを振り返り、両手を合わせてきた。
「また授業中、寝ていたの?ていうか、結局今日も、板書が間に合わなかったんだね」
前の席に座るみさとの後ろ姿が、途中から丸まっていたが、どうやら爆睡していたらしい。部活が大変だからと言って、勉学をおろそかにしてはいけない。私だって部活をしているのに、授業中は寝ていないし、今も特に眠気を感じることはない。視界も頭もクリアな状態だ。
「仕方ないでしょ。それで、見せてくれるの?」
「はいどうぞ。毎回言っているけど、次からは寝ないでしっかりと授業中にちゃんとノートを取りなよ」
「わかってるって」
ノートを見せるくらい構わないが、ノートを写すだけでは学力は身につかない。私の忠告は、みさとには大して心に響いていないようで、適当な返事をされてしまう。
他のクラスメイトたちは、次の授業の合間までのつかの間の休憩時間を友達との雑談などで盛り上がっていた。
「持つべきものは友達だね。ありがとう」
みさとは私からノートをもらうと、その場では書かずに机の中にしまい込む。どうやら、今から書き写すのではなく、家に帰ってからするらしい。家に帰ってノートがないのは困るが、復習するのに絶対に必要ではない。教科書を使って復習することにしよう。
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