メガネバカップル

折原さゆみ

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6準備は整った

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「みさと、あんたはどこでメガネ買ってるの?」

 昼休み、私は目黒君に宣言した通りのメガネ女子に生まれ変わるため、親友のみさとに相談していた。私の周りには視力がよい人間が多いため、メガネに詳しい人間はいない。家族は全員、私と同じでメガネにお世話になったことがない。日好先生はメガネをかけているがなんとなく相談がしにくい。

 その点、今はコンタクトにしているが、みさとはれっきとしたメガネ女子だ。相談するなら、実際にメガネをかけて過ごしていた人に聞くのが一番だ。

「あれ、本気だったんだ」

「私が嘘や冗談が苦手だって知っているでしょ。マジだから」

「いやあ、仁美のメガネ転校生にかける情熱がすごいわ」

 昼食はみさとと一緒にお弁当を食べている。前の席の彼女が椅子の向きを変えて私と向かい合わせになるように座り、お弁当箱を机に置く。目黒君は隣の席だが、クラスの男子たちに誘われて購買に出掛けて留守にしている。相談するなら今しかない。

「当たり前でしょう?彼は私の」

『運命の相手』

 私の言葉は親友と見事なハモリをみせた。みさとが私にカッコつけてウインクを決めたが、全然ときめかない。もし、彼女がメガネをかけて同じ仕草をしたら、私はきっとときめいただろう。とりあえず、今はその仕草が煩わしいだけだ。

「まあ、私が買っている店なら、高校生にも手が出やすい値段だと思うから教えてもいいけど、メガネって結構高いよ。でもさ、私が買っているのは処方箋がある、度が入ったメガネだよ。伊達でかけるメガネとはまた別物だと思うけど」

「そうかなあ」

 みさとと私は手を合わせて軽く「いただきます」と小声で挨拶をして、各自持参したお弁当箱を開ける。みさとのお弁当はオムライスのようだ。オムライスはラップに包まれていて、某モンスターの形になっていた。ご丁寧にほっぺたはケチャップで、耳や目などは海苔で付けられていた。

 みさとはラップを外して、付属していたケチャップの袋を破った。そして、なんの躊躇もなくモンスターの顔にケチャップをかける。そして、彼女がオムライスをスプーンですくうと、中からオレンジのケチャップライスが出てきた。

 伊達メガネと度が入ったメガネはやはり違うのだろうか。せっかくメガネをかけるなら、自分に似合うメガネが欲しい。メガネ屋さんならいろいろな種類のメガネをかけてみて、店員さんに相談しながら、一番似合うメガネを購入できる気がしたが。

「メガネ女子になるよりも、もっと確実な男の攻め方がある気がするけどなあ」

「どんにゃやつ?」

 つい、食べながら話をしてしまった。卵焼きを頬張りながらもみさとの言葉の意味を考える。確実な男の攻め方とか、そんなものがこの世に存在するのだろうか。

ちなみに、私のお弁当はいつもと同じ、卵焼きにソーセージ。コロッケにミニトマトだ。

「いや、仁美にあざとさはないしなあ。ところで、メガネ女子になるのはわかったけど、理由はあるの?ていうか、どうして、わざわざ目が悪くないのにメガネをかける必要が?」

 みさとの疑問はもっともだ。私はファッションとして、つまり伊達メガネをかけるつもりはない。私はメガネをかけている人が好きだが、私自身がメガネをかけている姿を見てもときめかない。自分にときめくなんてとんだナルシストくらいだろう。

「みさとも聞いていたでしょ、目黒君、メガネの苦労を知る人がタイプだって」

「いやいや、それはおかしい。あんたの脳みそ、ついにいかれたの?目黒君、そんなこと言ってないでしょ」

 確かに、タイプとは言っていなかった気がするが、同じようなことだ。要するに彼に好意を持ってもらうために必要なのは『メガネの苦労を知る』。それだけはわかった。

「はあ、その様子だと、本気でメガネをかけたいわけね。いいわ、今日は木曜日でちょうど部活もないし、放課後、一緒にメガネ屋に行ってあげる」

「ありがとう、みさとさま!お礼にメガネをおご」

「いらない」

 せっかくの私の感謝を親友はバッサリと切り捨てる。親友は高校に入り、モテるようになったらしい。いわゆる高校デビューというやつだ。

 メガネが今までモテるのを邪魔していた、と本人は言っているが、それは違う。メガネ美人だったからこそ、コンタクトにして素顔がさらされ、モテるようになったのだ。メガネにも素の要素はある程度必要である。とはいえ、私からしたらメガネをかけたらどんな人でも魅力がアップする。

「何を熱心に話していたの?」

「それは」

「メガネ女子になる準備についてです!」

 隣の席の目黒君がクラスメイトの男子を引き連れて教室に戻ってきた。どうやら、自分の席で昼食を取るらしい。目黒君は自分の席に座り、他の男子たちは彼から離れていった。目黒君は袋からンドイッチ2つと牛乳パックを机に置く。

「もしかして、ボッチ飯?」

「お前、本当に僕の事好きなの?」

「もちろん、運命の」

「いや、言わなくていい」

 メガネの買う準備は整った。あとは私に似合うメガネをかけて、メガネの苦労を目黒君と分かち合い、仲を深めるだけだ。
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