8 / 17
8「メガネ女子」初日
しおりを挟む
「これでよし」
「姉ちゃん、いきなりメガネなんてどうしたの?うちの家系でいきなり視力が悪くなるとは思えないんだけど、それって伊達?」
レンズを入れるということで、メガネは一週間後にメガネ屋さんで受け取ることになった。その間の一週間、隣の席の目黒君との仲は特に進展することはなかった。
進展がなかったのは、私がメガネ女子ではなかったからだ。だが、今日からは違う。一週間がたち、メガネを受け取った私はさっそく家からメガネをかけていくことにした。
朝、玄関を出ようと靴を履いていたら、弟にメガネを指摘された。
弟も例に漏れず、中学生になっても片目2.0でメガネ知らずの人生を歩んでいる。家を出ようと靴を履いていたところで面倒な弟だ。
「レンズは一応、紫外線カットとブルーライトカットが入っているよ。度は入っていないから伊達と言われれば伊達だけど、これは私の恋にとって必須アイテムだから。これがあれば、目黒君も私のことを見てくれるはず……」
「目黒君?ああ、家で話していた転校生のこと?また姉ちゃんは性懲りもせず、メガネをかけた男を好きになったの?」
「別にメガネをかけていたら誰だっていいわけじゃないし。それに、好きになったのは日好先生くらいで、他の人は」
「いやいや、自分の従兄を好きになるとかありえないでしょ。でも、確かにメガネが似合うしねえ」
「とりあえず、余計なこと言わなくていいから。あんただって、今の彼女はメガネをかけているでしょう?人の事、とやかく言える筋合いじゃ」
「はいはい。頑張ってくださいな」
自分のことを言われて、詮索されるのが嫌だったのか、弟は急に興味をなくしたかのように私に手を振ってきた。
「いってきます」
「いってらっしゃい。そのメガネ、似合っているわね。お母さんもメガネを買おうかしら?」
「いいと思うよ。今の時代、目も焼けるっていうし、サングラスとかいいかもよ」
母親がキッチンから出てきて、玄関から見送りに現れた。当然、母親もメガネをかけたことがない。その母親に似合っていると言われたら、身内からのひいきだとしてもうれしいものだ。目黒君も、私のメガネ姿に似合っているよと声をかけてくれるだろうか。
「おはよう!」
「おはよう!メガネ、さっそくかけているんだね。転校生君に何言われるか、気になるねえ」
朝、教室に入ると、珍しく親友のみさとがいたので挨拶する。みさとは私のメガネ姿にすぐに気づいてくれた。目黒君のことを話題にされて、妙に緊張してしまう。私だって何を言われるのかドキドキしているのだ。心を落ち着かせて自分の席に着くが、隣の席は空席で、まだ目黒君は登校していないようだ。
「みさとはどうして教室に?今日は部活の朝練はなかったの?」
「ううん。なんか、体調悪い人が出て急遽中止になった」
朝から運動していたら、体調も悪くなるものだ。5月中旬だというのに、すでに気温は高くなっている。私なら、朝練なんてしたくない。
「おはよう……。あれ、日好ってメガネかけていたっけ?」
「日好さん、目が悪くなかったよね?伊達メガネ?」
「なんか、知的に見える……。ああ、でも日好さんってもともと成績よかったもんね」
みさとと話していたら、続々とほかのクラスメイトが教室にやってくる。その中に目黒君の姿は見えない。体調でも崩したのだろうか。昨日は普通に登校していた気がする。
「もしかして、仁美の好き好きオーラに嫌気がさして不登校になったとか」
「不吉なこと言わないでよ」
親友が笑えない冗談を言ってくるが、まったく笑えない。もしそうだとしたら、私はこれから、目黒君への好意を隠して生きていかなくてはならない。それはきっと難しいだろう。そうなれば、目黒君は最悪の場合、転校してしまう可能性がある。
「まあ、好き好きアピールされて不登校なんてありえないけど。ほら、ようやくお待ちかねの転校生君のお出ましだ」
しばらく待っていたら、教室のドアを開けて目黒君が入ってきた。声をかけようと口を開いたが、その前に目黒君と目が合った。
「日好さん……」
目黒君は私の顔を見て驚いた様子を見せた後、顔をしかめた。これはあまり良い流れではない。親しい人間が髪を切った場合、大抵は「髪切った?似合うよ!」などとお世辞でもほめるのが普通だろう。それなのに、隣の席のクラスメイトがメガネをかけただけで、その不機嫌さはいかがなものか。
「目黒君、調子でも悪いの?そんなに仁美を睨んでどうしたの?」
私が言葉を失っている間に、親友のみさとがフォローしようと声をかける。しかし、目黒君は彼女の言葉を聞かずに、ずんずんと隣の自分の席を通り越して、私の顔をじいと見つめてくる。
「な、なに?に、似合ってい」
「どうしてメガネをかけた?視力は良かったはずだろう?」
不機嫌そうな顔をされては、正直にメガネを購入してかけ始めた理由を説明するしかない。それにしても、メガネ越しににらまれるとドキドキしてしまう。
「ま、前に話した、でしょう?目黒君はメガネの苦労を知ってほしいって。だから、私が『メガネ女子になります!』って宣言したのは覚えてる?それをじ、実行しているだ」
「もういい、好きにしろ」
説明は途中だというのに、目黒君は興味を失ったかのように私の話を遮った。自分の席に座って教科書などをリュックから取り出し、机の中にしまっている。
「これは脈ありかもよ」
「そうかなあ」
自分の席に座っていたみさとが私の席の方に振り向いて、意味深に笑っている。今のどこを見ていたら、脈ありだと言えるだろうか。
「姉ちゃん、いきなりメガネなんてどうしたの?うちの家系でいきなり視力が悪くなるとは思えないんだけど、それって伊達?」
レンズを入れるということで、メガネは一週間後にメガネ屋さんで受け取ることになった。その間の一週間、隣の席の目黒君との仲は特に進展することはなかった。
進展がなかったのは、私がメガネ女子ではなかったからだ。だが、今日からは違う。一週間がたち、メガネを受け取った私はさっそく家からメガネをかけていくことにした。
朝、玄関を出ようと靴を履いていたら、弟にメガネを指摘された。
弟も例に漏れず、中学生になっても片目2.0でメガネ知らずの人生を歩んでいる。家を出ようと靴を履いていたところで面倒な弟だ。
「レンズは一応、紫外線カットとブルーライトカットが入っているよ。度は入っていないから伊達と言われれば伊達だけど、これは私の恋にとって必須アイテムだから。これがあれば、目黒君も私のことを見てくれるはず……」
「目黒君?ああ、家で話していた転校生のこと?また姉ちゃんは性懲りもせず、メガネをかけた男を好きになったの?」
「別にメガネをかけていたら誰だっていいわけじゃないし。それに、好きになったのは日好先生くらいで、他の人は」
「いやいや、自分の従兄を好きになるとかありえないでしょ。でも、確かにメガネが似合うしねえ」
「とりあえず、余計なこと言わなくていいから。あんただって、今の彼女はメガネをかけているでしょう?人の事、とやかく言える筋合いじゃ」
「はいはい。頑張ってくださいな」
自分のことを言われて、詮索されるのが嫌だったのか、弟は急に興味をなくしたかのように私に手を振ってきた。
「いってきます」
「いってらっしゃい。そのメガネ、似合っているわね。お母さんもメガネを買おうかしら?」
「いいと思うよ。今の時代、目も焼けるっていうし、サングラスとかいいかもよ」
母親がキッチンから出てきて、玄関から見送りに現れた。当然、母親もメガネをかけたことがない。その母親に似合っていると言われたら、身内からのひいきだとしてもうれしいものだ。目黒君も、私のメガネ姿に似合っているよと声をかけてくれるだろうか。
「おはよう!」
「おはよう!メガネ、さっそくかけているんだね。転校生君に何言われるか、気になるねえ」
朝、教室に入ると、珍しく親友のみさとがいたので挨拶する。みさとは私のメガネ姿にすぐに気づいてくれた。目黒君のことを話題にされて、妙に緊張してしまう。私だって何を言われるのかドキドキしているのだ。心を落ち着かせて自分の席に着くが、隣の席は空席で、まだ目黒君は登校していないようだ。
「みさとはどうして教室に?今日は部活の朝練はなかったの?」
「ううん。なんか、体調悪い人が出て急遽中止になった」
朝から運動していたら、体調も悪くなるものだ。5月中旬だというのに、すでに気温は高くなっている。私なら、朝練なんてしたくない。
「おはよう……。あれ、日好ってメガネかけていたっけ?」
「日好さん、目が悪くなかったよね?伊達メガネ?」
「なんか、知的に見える……。ああ、でも日好さんってもともと成績よかったもんね」
みさとと話していたら、続々とほかのクラスメイトが教室にやってくる。その中に目黒君の姿は見えない。体調でも崩したのだろうか。昨日は普通に登校していた気がする。
「もしかして、仁美の好き好きオーラに嫌気がさして不登校になったとか」
「不吉なこと言わないでよ」
親友が笑えない冗談を言ってくるが、まったく笑えない。もしそうだとしたら、私はこれから、目黒君への好意を隠して生きていかなくてはならない。それはきっと難しいだろう。そうなれば、目黒君は最悪の場合、転校してしまう可能性がある。
「まあ、好き好きアピールされて不登校なんてありえないけど。ほら、ようやくお待ちかねの転校生君のお出ましだ」
しばらく待っていたら、教室のドアを開けて目黒君が入ってきた。声をかけようと口を開いたが、その前に目黒君と目が合った。
「日好さん……」
目黒君は私の顔を見て驚いた様子を見せた後、顔をしかめた。これはあまり良い流れではない。親しい人間が髪を切った場合、大抵は「髪切った?似合うよ!」などとお世辞でもほめるのが普通だろう。それなのに、隣の席のクラスメイトがメガネをかけただけで、その不機嫌さはいかがなものか。
「目黒君、調子でも悪いの?そんなに仁美を睨んでどうしたの?」
私が言葉を失っている間に、親友のみさとがフォローしようと声をかける。しかし、目黒君は彼女の言葉を聞かずに、ずんずんと隣の自分の席を通り越して、私の顔をじいと見つめてくる。
「な、なに?に、似合ってい」
「どうしてメガネをかけた?視力は良かったはずだろう?」
不機嫌そうな顔をされては、正直にメガネを購入してかけ始めた理由を説明するしかない。それにしても、メガネ越しににらまれるとドキドキしてしまう。
「ま、前に話した、でしょう?目黒君はメガネの苦労を知ってほしいって。だから、私が『メガネ女子になります!』って宣言したのは覚えてる?それをじ、実行しているだ」
「もういい、好きにしろ」
説明は途中だというのに、目黒君は興味を失ったかのように私の話を遮った。自分の席に座って教科書などをリュックから取り出し、机の中にしまっている。
「これは脈ありかもよ」
「そうかなあ」
自分の席に座っていたみさとが私の席の方に振り向いて、意味深に笑っている。今のどこを見ていたら、脈ありだと言えるだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる