189 / 253
番外編【ファンが増えました】9私の趣味は……
しおりを挟む
「どうして、梨々花さんが私のペンネームを知っているんですか?」
今日はたまたま、河合さんと二人きりの昼休憩となった。控室でこっそりと彼女に話しかける。
朝の更衣室でのことが気になった。私の作品はBL(ボーイズラブ)がメインで、一般的には『腐女子』と呼ばれる部類の人間が読むジャンルとされている。梨々花ちゃんは見た目からは普通の女性という印象を受けるが、私のペンネームを知っていた。
ということは、私の作品を読んだことがある。だとしたら、彼女は私たちと同じ『腐女子』になるのだろうか。
「それはですね……」
河合さんは、まるでいたずらに成功した子供のようなとてもうれしそうな表情で、私の耳元に顔を近づけて囁く。
「なぜそんなことを言ったんですか!」
その内容を聞いた私は思わず叫んでしまう。慌てて周囲を確認するが、私と河合さん以外に控え室に人はいない。誰かが扉をノックしてくる様子もなかったのでほっとした。
「ちょっと、声が大きいですよ、先輩。ただ私の趣味を教えただけなのに、なぜそんなに驚いているのですか?」
河合さんに注意されてしまったが、私が悪いわけではない。彼女が変なことを言うから驚いたのだ。
最近、梨々花さんは河合さんにべったりとまとわりついているが、そこで個人的なことをたくさん聞かれるらしい。生年月日、家族構成、趣味、マイブーム、好きな人のタイプなど様々で、その中の趣味を答えるときに私のペンネームを口にしたらしい。
「別に趣味で【BL作品を読む】と答えることは構いません。しかし、どうしてそこで私のペンネームを出したのですか?」
「どうしてって、先輩のファンを一人でも増やすためでしょう?現状、リアルなファンが私とおおたかっちだけじゃあ、少ないと思いませんか?今こそ、新たなファンを獲得するチャンスだと思いまして」
「いやいや、確かにファンが増えるのは嬉しいですよ。でも、それが寄りにもよって、私を嫌っている梨々花さんと言うのはちょっと……」
河合さんの言いたいこともわかるし、梨々花さんじゃなければ、喜んでいただろう。いや、もし私の作品を読んでいるのが会社の同僚だとしたら、それも気まずい。どうせなら、まったくの赤の他人がファンの方がよい気がする。
「そもそも、私がなぜ、腐女子ではなさそうな梨々花ちゃんにBLを趣味だと伝えたかと言いますとね」
正直、梨々花ちゃんと距離を置きたかったからなんです。
「はあ」
「先輩だって感じているでしょう?ここ最近のあの子の行動を。私のストーカーよろしく、いつでもどこでも、私を見つけるとすぐに近寄ってくるんですよ。おまけに紗々先輩を目の敵にしているみたいで、先輩と話していると邪魔してくるし」
どうやら、河合さんも梨々花さんの行動には迷惑しているようだ。傍から見ても迷惑そうだと思うのだったら、本人はそれの何倍も迷惑かもしれない。
「でも、距離を置かれるどころか、結局、私の言葉をきっかけに、梨々花ちゃんは『腐女子』の道を歩み始めてしまいました」
「そ、そうなんですね」
「これにはさすがの私も驚きました。まさか、距離を置いてもらおうとして発した言葉が、逆に私たちの仲を深めることになるとは」
「言っている意味がわかりません」
私たちの仲を深めるとはいったいどういうことか。
「簡単なことですよ。先輩の作品を読むという共通点ができてしまったわけです。そうなれば、私たちの仲が自然と深まるのは当然のことです」
自信ありげに答える河合さんに、思わず呆れた視線を送ってしまう。結局、河合さんは梨々花さんと距離を置くほど、嫌いになり切れていないということだ。彼女の心の読むのは難しい。
河合さんは一般人を一人、腐女子に変えてしまったらしい。別に腐女子が増えること自体に問題はない。他人の趣味趣向に口を出すものでもない。私が口にすべき言葉は。
「梨々花さんは、私の作品を読んで何か言っていましたか?」
私の新たな読者となった梨々花さんの私の作品に対する感想を聞くこと。私の素性を知りたがっていた様子を見る限り、面白くないということはないだろう。
「気になりますか?」
「あ、当たり前です」
「どうしようかなあ。梨々花ちゃんの許可も得ずに話してもいいかなあ」
急にもったいぶった話し方をし始めた河合さんにイライラするが、黙って続きを促す。許可がいるようなことではない。サッサと私に伝えて欲しい。
「どうせなら、三人での食事会の時に直接、聞いてみたらいいじゃないですか?」
「それはやはり、私の素性を梨々花さんにばらすってこと……」
「先輩は梨々花ちゃんが嫌いかもしれないですけど、話してみると、案外面白い子ですよ。彼女って」
「だからと言って、私の正体をばらしてよい理由にはなりません」
まったく、河合さんの身勝手さにはあきれるばかりである。
今日はたまたま、河合さんと二人きりの昼休憩となった。控室でこっそりと彼女に話しかける。
朝の更衣室でのことが気になった。私の作品はBL(ボーイズラブ)がメインで、一般的には『腐女子』と呼ばれる部類の人間が読むジャンルとされている。梨々花ちゃんは見た目からは普通の女性という印象を受けるが、私のペンネームを知っていた。
ということは、私の作品を読んだことがある。だとしたら、彼女は私たちと同じ『腐女子』になるのだろうか。
「それはですね……」
河合さんは、まるでいたずらに成功した子供のようなとてもうれしそうな表情で、私の耳元に顔を近づけて囁く。
「なぜそんなことを言ったんですか!」
その内容を聞いた私は思わず叫んでしまう。慌てて周囲を確認するが、私と河合さん以外に控え室に人はいない。誰かが扉をノックしてくる様子もなかったのでほっとした。
「ちょっと、声が大きいですよ、先輩。ただ私の趣味を教えただけなのに、なぜそんなに驚いているのですか?」
河合さんに注意されてしまったが、私が悪いわけではない。彼女が変なことを言うから驚いたのだ。
最近、梨々花さんは河合さんにべったりとまとわりついているが、そこで個人的なことをたくさん聞かれるらしい。生年月日、家族構成、趣味、マイブーム、好きな人のタイプなど様々で、その中の趣味を答えるときに私のペンネームを口にしたらしい。
「別に趣味で【BL作品を読む】と答えることは構いません。しかし、どうしてそこで私のペンネームを出したのですか?」
「どうしてって、先輩のファンを一人でも増やすためでしょう?現状、リアルなファンが私とおおたかっちだけじゃあ、少ないと思いませんか?今こそ、新たなファンを獲得するチャンスだと思いまして」
「いやいや、確かにファンが増えるのは嬉しいですよ。でも、それが寄りにもよって、私を嫌っている梨々花さんと言うのはちょっと……」
河合さんの言いたいこともわかるし、梨々花さんじゃなければ、喜んでいただろう。いや、もし私の作品を読んでいるのが会社の同僚だとしたら、それも気まずい。どうせなら、まったくの赤の他人がファンの方がよい気がする。
「そもそも、私がなぜ、腐女子ではなさそうな梨々花ちゃんにBLを趣味だと伝えたかと言いますとね」
正直、梨々花ちゃんと距離を置きたかったからなんです。
「はあ」
「先輩だって感じているでしょう?ここ最近のあの子の行動を。私のストーカーよろしく、いつでもどこでも、私を見つけるとすぐに近寄ってくるんですよ。おまけに紗々先輩を目の敵にしているみたいで、先輩と話していると邪魔してくるし」
どうやら、河合さんも梨々花さんの行動には迷惑しているようだ。傍から見ても迷惑そうだと思うのだったら、本人はそれの何倍も迷惑かもしれない。
「でも、距離を置かれるどころか、結局、私の言葉をきっかけに、梨々花ちゃんは『腐女子』の道を歩み始めてしまいました」
「そ、そうなんですね」
「これにはさすがの私も驚きました。まさか、距離を置いてもらおうとして発した言葉が、逆に私たちの仲を深めることになるとは」
「言っている意味がわかりません」
私たちの仲を深めるとはいったいどういうことか。
「簡単なことですよ。先輩の作品を読むという共通点ができてしまったわけです。そうなれば、私たちの仲が自然と深まるのは当然のことです」
自信ありげに答える河合さんに、思わず呆れた視線を送ってしまう。結局、河合さんは梨々花さんと距離を置くほど、嫌いになり切れていないということだ。彼女の心の読むのは難しい。
河合さんは一般人を一人、腐女子に変えてしまったらしい。別に腐女子が増えること自体に問題はない。他人の趣味趣向に口を出すものでもない。私が口にすべき言葉は。
「梨々花さんは、私の作品を読んで何か言っていましたか?」
私の新たな読者となった梨々花さんの私の作品に対する感想を聞くこと。私の素性を知りたがっていた様子を見る限り、面白くないということはないだろう。
「気になりますか?」
「あ、当たり前です」
「どうしようかなあ。梨々花ちゃんの許可も得ずに話してもいいかなあ」
急にもったいぶった話し方をし始めた河合さんにイライラするが、黙って続きを促す。許可がいるようなことではない。サッサと私に伝えて欲しい。
「どうせなら、三人での食事会の時に直接、聞いてみたらいいじゃないですか?」
「それはやはり、私の素性を梨々花さんにばらすってこと……」
「先輩は梨々花ちゃんが嫌いかもしれないですけど、話してみると、案外面白い子ですよ。彼女って」
「だからと言って、私の正体をばらしてよい理由にはなりません」
まったく、河合さんの身勝手さにはあきれるばかりである。
0
あなたにおすすめの小説
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件
中島健一
恋愛
織原朔真16歳は人前で話せない。息が詰まり、頭が真っ白になる。そんな悩みを抱えていたある日、妹の織原萌にVチューバーになって喋る練習をしたらどうかと持ち掛けられた。
織原朔真の扮するキャラクター、エドヴァルド・ブレインは次第に人気を博していく。そんな中、チャンネル登録者数が1桁の時から応援してくれていた視聴者が、織原朔真と同じ高校に通う国民的アイドル、椎名町45に属する音咲華多莉だったことに気が付く。
彼女に自分がエドヴァルドだとバレたら落胆させてしまうかもしれない。彼女には勿論、学校の生徒達や視聴者達に自分の正体がバレないよう、Vチューバー活動をするのだが、織原朔真は自分の中に異変を感じる。
ネットの中だけの人格であるエドヴァルドが現実世界にも顔を覗かせ始めたのだ。
学校とアルバイトだけの生活から一変、視聴者や同じVチューバー達との交流、eスポーツを経て変わっていく自分の心情や価値観。
これは織原朔真や彼に関わる者達が成長していく物語である。
カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる