朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

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28向井さんの家に行く③

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「む、向井さん?」

「とり合えず店を出ましょう」

 綾崎さんが驚いたような表情で向井さんを見つめるが、説明は後だ。ここで店員に目をつけられたら面倒だ。私は突然寝てしまった向井さんを翼君と一緒に支えながら店を出るために歩き出す。その後ろには、事情を理解したジャスミンが黙ってついてくる。

「あの、向井さんは」

『ちょっと、黙っていてくれますか』

 私たちの緊迫した様子が伝わらないのか、なおも綾崎さんが私たちに問いかける。すでに周りの客が私たちに注目し始めている。私たちは目立ってはいけない存在だ。そのため、店内で騒ぎ出しそうな彼女と目を合わせ、つい、能力を発動させてしまった。

 私と綾崎さんの周りが黄金に輝き始める。私の瞳も黄金に輝いているだろう。綾崎さんは私の言葉に従い、口を閉じる。

「まったく、そのすぐに能力に頼ってしまう癖、やめた方がいいわよ。まあ、今回に限っては仕方のないことだけど」

「別に能力に頼っているわけでは。なんていうか、つい無意識に能力を発動させてしまうというか……」

「それを止めた方がいいと言っているの」

 何とか、店員に不審気な視線を向けられたが詮索されることなく、会計を終えて店を出た。外は運よく雨は止んでいたので、傘を使わなくてすんだ。

 とりあえず、人目の付かないところまで行こうと歩いていると、近くに公園を発見した。公園のベンチまで向井さんを運び、身体をよこたわらせる。歩いている途中でジャスミンに能力の使用について文句を言われてしまう。

ジャスミンの言うことは一理あるため、強く反論できない。適当にごまかしながらも別のことを考える。店員の視線が痛かったが、なぜか誰も私たちに話しかけてこなかった。どうしてだろうか。

「それはそこの蛇娘のおかげだろう」

 向井さんをよこたわらせて空いた隙間に腰を下ろして一息ついていると、私の心を読んだ九尾が理由を説明してくれた。ジャスミンや九尾、翼君に狼貴君、綾崎さんはベンチの周りに立っていた。九尾の言葉に納得する。ジャスミンも能力を使っていたというのなら、お互い様である。自分のことを棚に上げていたことになる。私の非難めいた視線に気づいたジャスミンは罰が悪そうに視線をそらしながら話題をそらすために、向井さんに話しかける。

「そんな説明要らないでしょ。それで、向井さん、あなたは私の忠告を聞いていたのかしら?」

「ちょっと、向井さんは」

『蒼紗は面白い奴らと知り合いになったものだ。いつまでもあんたたちの会話を聞いていたいが、こっちには残された時間は少ない。さっさと私の家に来てくれないかねエ』

 寝ているはずだと言おうとしたが、その言葉は当の本人によって遮られる。慌てて彼女の容態を確認すると、いつの間にか目を覚ましたようで、ベンチに寝かせていたはずの身体を持ち上げて、こちらの様子をじっと観察していた。


「あの、私の顔に何かついているでしょうか」

 しかし、向井さんは私たちの視線に気づくと、正気に戻ったのか辺りをきょろきょろしながらも、私に不思議そうな視線を向けてきた。先ほどまでの話し方も雰囲気も全く感じられない。いつも通りの向井さんに戻っていた。

「いいえ、ついていないわ。ところで、向井さんって自分の記憶が飛んでいるなって経験ある?」

「じゃ、ジャスミン。そんな質問しては」

「ええと、それはもしかして」

『とりあえず、私の家にさっさと来なさい!』

 話している途中で、また向井さんの雰囲気と話し方が変化する。しかしまたすぐに元の向井さんの意識に戻る。


「あ、あれ、私、何の話をしていましたっけ?」

 向井さんに取り憑いているのは、おそらく、私の幼馴染だろう。長時間、ひ孫の身体を乗っ取るつもりはないらしいが、さっさと私たちを自分の家に来て欲しいらしい。ここはおとなしく彼女の言う通り、彼女の家にお邪魔した方がよさそうだ。

「向井さん、ここで時間を食っていていても仕方ないので、家に案内してもらえますか?きっと、ひいおばあさんも、首を長くしてあなたの帰りを待っていると思います」

「私からもお願いするわ。あと、そこにいるガキ3人も行くことになったから」

「わ、ワカリマシタ」

 私の言葉に続いて、ジャスミンも向井さんに頼み込む。九尾たちのことまで言及していたが、それは私の言うべきセリフである。向井さんは今の状況を理解しきれていないのか、頭にはてなマークを飛ばしていたが、素直に頷き家に向かって歩き出す。その後を私たちはおとなしくついていくことにした。綾崎さんは私たちが話している間、一言も話すことはなかった。

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