朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

文字の大きさ
36 / 59

36電話

しおりを挟む
「もしもし、朔夜ですけど」

「先輩!どこにいるんですか!ひいおばあちゃんが!」

 スマホを手に取り電話に出る。私が名乗ると、すぐにスピーカーモードにしているかのような大音量の声が部屋に響き渡る。スマホから聞こえる叫び声に、何事かと九尾やジャスミンが私に視線を向ける。

「ええと、ちょっと急用ができまして、家に帰らせてもらいました。あらかわ……。いえ、向井さんのひいおばあさんは私の目の前でいきなり倒れてしまったので、救急車を呼んでおきました」

「どうしていきなり帰るの!」

「だから急用ができ」

「ひいおばあちゃんは持病なんてなくて、身体は健康体だったのに!どうして!先輩もいなくなるし、ひいおばあちゃんは倒れるし、私……」

 私はただ、向井さんの家を訪ね、彼女、荒川結女と少し話をしただけだ。私だって、彼女の容態の急変に驚いている。向井さんは、自分の家族が倒れたことで気が動転しているのかもしれないが、いきなり開口一番で叫ばないで欲しい。その後も私の言葉に対して叫ぶような返事が続いたが、やがて声が沈んでいく。

とりあえず、向井さんとの電話を九尾たちも聞こえるように通話をスピーカーモードに設定する。おそらく、彼女の叫び声で、九尾たちも電話の相手がだれなのかわかっただろう。とはいえ、彼らにも電話の内容をしっかりと聞いてもらいたかった。スピーカーモードにしたスマホを机の上に置く。これで向井さんの声が部屋全体に聞こえるようになった。

ザーザーと向井さんの声に車の走行音が混じっていることに気付く。家の中ではなく、外で話しているのだろうか。散々叫び終え、少し落ち着いたのか向井さんの声が通常の音量に戻る。

「ひいおばあちゃんは、救急車で病院に運ばれました。私は今、病院の外にいます」

「そうですか」

 どうやら、私たちが彼女の家を出たあとに救急車は到着したようだ。病院に入院できたのなら、ひとまず安心である。

「先ほども言いましたが、いきなり向井さんの家からいなくなってしまってすみません。突然、急用ができまして。本当に急なことだったので、救急車を呼ぶのがやっとでした。本来なら、向井さんたちを呼んで、一緒に救急車を待つべきだったのに」

 ようやく話を聞いてもらえそうだ。自分の当時の状況を話すことにした。

「急用、ですか……。私たちもひいおばあちゃんの容態の変化に気付くことができず、先輩たちを家に招き入れてしまったので、先輩だけが悪いわけではありません。むしろ、救急車を呼んでくれたので助かりました」

「ひいおばあさんは、本当に持病とかなかったのですか?」

 向井さんは健康体だと言っていたが、本当だろうか。高齢になってくると、健康とは言っても、身体の外も中も弱ってくる。そのせいで、倒れてしまった可能性は捨てきれない。

「無駄なあがきはよせ。みっともない」

「蒼紗、やめなさい。それ以上は」

 私の横で九尾とジャスミンが首を横に振っている。彼らは私の質問の意図を理解していた。私だって本当はわかっている。彼女が倒れた原因は彼女自身の問題ではないことを。それでも聞かずにはいられなかった。質問の意図を理解していない向井さんは、少し考えるような間があったが、正直に答えてくれた。

「認知症が少し進んでいるかもしれない以外は、身体は至って健康です。あんな急に倒れるなんてことはありえません」

「わかりました。ひいおばあさんが無事なことを祈ります。では」

 ひとまず、救急車で荒川結女は病院に運ばれた。家でそのまま倒れたままではない。それがわかっただけでも向井さんからの電話はありがたかった。相手からかかってきた電話にも関わらず、つい、荒川結女の安否がわかり通話をこちらから切ってしまった。

 通話を終えた私に、複数の視線が突き刺さるのを感じた。顔を上げると、そこには難しい顔をしたジャスミンたちがいた。翼君も狼貴君も同じような表情で私を見つめていた。九尾だけは何を考えているのかわからない、薄い笑みを浮かべていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」 幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。 迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。 ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。 これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。 しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。 奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。 現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。 異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー 様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。 その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。 幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。 それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 ★第9回キャラ文芸大賞エントリー中! 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...