朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

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43思わぬ出会い

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 向井さんと別れて病室を出たが、九尾たちを見つけることはできなかった。向井さんの母親の相手をしていたと思うが、何処にいるのだろうか。

 とりあえず、病院から出ようと入り口のある中央の病棟まで歩いていく。途中で何人かの看護師に遭遇したが、会釈だけして通り過ぎる。そのまま、荒川結女の病室の場所を教えてくれた受付の場所までたどり着く。

「本当にどこに行ったのでしょうか?」

 ここまで来たのにも関わらず、九尾たちの姿は見当たらない。もしかして、私に声もかけず、勝手に彼らだけで家に帰ってしまったのだろうか。もしそうだとしたら、あまりにも薄情すぎる。

彼らがこのまま見つからない場合、どうやって家に帰ればいいというのか。行きは無料で帰りは公共交通機関を使って、お金をかけて帰れと言っているのも同然である。てっきり、行きも帰りも空を飛んで移動するものだとばかり考えていたため、ここに来て帰りの手段について悩む羽目になった。


「こんなところで何をしているのですか?」

 受付から少し離れたところで悩むこと数分、私に声をかける者が現れた。見覚えのある声に視線をあげると、そこにいたのはバイト先の上司だった。塾での恰好と同じ、黒い上下のスーツをかっちりと着こんでいた。

「それはこちらのセリフです。どうして、『死神』のあなたが」

「人が集まる場所で堂々と口にする言葉ではありません。話は外で聞きましょう。近くに喫茶店があります」

 つい、無意識に疑問が口から出てしまう。彼が人間ではなく『死神』という、空想上の存在だと知っているため、軽々しく口にしてしまった。これを聞いた周りの人間の反応はどうかということまで頭が回らなかった。慌てて口を押えるが意味はない。そんな私の様子に車坂は呆れた表情を見せる。

「己の失言に気付いたようですね。まったく、どれだけ年齢を重ねてきたのか知りませんが、少しは世間体とやらを気にした方がいいですよ」

 さらには死神のくせに、ずいぶんと人間臭いことを言いだした。私だって世間体とやらを気にして生きている。むしろ、二度目の大学生活を送る前は、いかに平穏に他の人間と同じように生活するかに全神経を注いでいた。

「あなたに言われなくても、私はちゃんと世間体を気にしていますから」

 とはいえ、最近は前よりも世間体とか常識とかを気にしなくなった。二度目の大学生活で彼らに出会い、私の中の価値観が変わってしまったのかもしれない。

「大学に入ってから世間体をあまり気にしなくなった、ということですか?まあ、彼らと一緒に生活をしていれば、そうなりますか。まったく、仮にも本当の人間が世間から外れてしまっているとは嘆かわしい」

 まったく、口の悪い死神である。人外の存在のほうがよほど人間らしい思考をしているとは皮肉なものである。私の方が歴とした人間であるのに。

「そんなことを話している暇はありませんでしたね。では、場所を変えましょう」

 車坂はさっさと病院の外に出ていく。慌てて私も後を追って歩き出す。病院を出る前に一度後ろを振り返ったが、やはり九尾たちの姿を見つけることはできなかった。

 外は雨が止んでいて、どんよりとした曇り空が広がっていた。病院は空調が効いていたため、快適な温度であったが、外に出た瞬間にむっとした湿気が押し寄せてくる。じめじめとした空気に嫌な季節だなと思った。


「それで、どうしてあなたが病院にいたのですか?」

 車坂の言う通り、病院の近くに喫茶店があったのでそこに入ると、お昼前にも関わらず、結構な人でにぎわっていた。朝食と昼食を合わせたブランチでも食べようとしているのだろうか。それでも、席が満席ということはなく、私と車坂はすぐに店内の奥の席に案内された。

「死神が病院に行く理由なんて一つだと思いませんか?」

 席に着いてすぐに、私は疑問に思っていたことを質問する。それなのに、車坂は誰もが知っていると言わんばかりの回答をよこしてきた。死神の役割、仕事。考えられることは。

「病院で死んだ人の魂の回収」

 声に出してみると、なるほど。疑問に思うほどのものでもなかった。

「わかっているなら、わざわざ聞かないでください。近々不審死する予定の高齢女性がいるみたいですよ。どうやら、能力者が関わっているみたいなので調査しろと、上の者から言われています」

 出来の悪い子供を見るような目を向けないでほしいが、そんなことを口にはしない。それより、いまさらりと重要なことを暴露したことに戸惑いを隠せない。

「能力者、ですか」

「おや、てっきりあなたが関係していることかと思ったのですが」

「怪しいからと言って、私のせいにしないでください」

 私がトラブルメーカーだと思われているのは心外だ。しかし、大学に入ってからの事件の数を考えると、あながち間違いとは言えないのが悲しいことだ。

「別に何でもあなたのせいにはしていませんよ。ただ、今回の被害女性と面識のある人間の中に面白い人間を見つけたものですから」

 聞きたくないですか?

 車坂はわざとらしく驚いた反応を見せたが、最後の言葉は声を潜めてにっこり笑いながら放つ辺り、確信犯だ。どうせ、私が是と言わなくても、勝手に話してくれるだろう。

 能力者の被害者、被害者の高齢女性と面識のある面白い女性、なんて心当たりは一人しか見当たらない。私は黙秘を貫くことにした。 
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