朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

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50うら若き女子大生の会話

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「ええと、それはありがとうございます。休んだ理由、ですよね。それは……」

 心配してくれたのはありがたい。とはいえ、自分の幼馴染が殺されて、その犯人とも呼べる組織を壊滅させようとした。それに対する諸々の疲れがたまり、休んでいたとは言えない。

『それは?』

 しかし、何か言わなければならない。私の言葉の続きを待ちわびている人達がいる。意を決し、口を開く。

「こんなことで休むなんて、というかもしれませんが、実はあの日の朝、私の知り合いが大変な目にあう夢を見て。それで気が気じゃなくて、その知り合いに会いに行っていました」

「知り合い、ねえ。その知り合いは、蒼紗のとってどのレベルだったの?私たちみたいな親友レベルの知り合い?それとも家族とか親戚の類?恋人、お世話になった先生?」

「気になりますね。知り合いとは言っても、蒼紗さんの性格からして、一度会っただけの人とは思えません。だとしたら、こんなことっていうのは間違っています。大学を休む理由としては充分ですよ」

「知り合いのレベル……」

 正直に、自分の幼馴染と言っていいものだろうか。もし、彼女のことを深く突っ込まれたら説明に困るが、ここまで言ってくれた彼女たちに隠し事はしたくない。

「知り合い、というのは私の幼馴染、です。ずいぶんと会っていなかったのですが、最近、偶然にも出会う機会がありまして、それで再会を懐かしんでいたら、嫌な夢を見てしまって……」

 いてもたってもいられなくなって、彼女に会いに行ってしまった。

 嘘ではない。ただし、私の幼馴染はすでに90歳を越えた高齢女性である。彼女たちが想像するような年の近い、10代や20代の人間ではない。

「幼馴染との偶然の再会、ですか。そ、それはちなみにお、男ですか。お、女ですか?」

「偶然の再会って、蒼紗のことだから、綾崎さんが言うようなロマンチックなことにはなっていないと思うけど」

「そんなことないですよ!蒼紗さんだからこその、ドラマチックでロマンチックなことが起きて……。ううん、確かになさそうですね」

「だから言ったでしょう。蒼紗のことだから、『お久しぶりです。元気そうで何よりです』『蒼紗こそ、昔と変わらないわねえ』なんていう会話しかしてないわよ」

 せっかく私が彼女たちに幼馴染との再会の話をしたというのに、ジャスミンも綾崎さんも好き勝手言っている。別に間違ってはいないが、なんだか無性に腹が立つ。なんだか、私には、ロマンチックやドラマチックなことが起きないような干物女だと思われていないだろうか。

「わ、私だって、劇的な出会いぐらいありますからね!」

『ブハッ』

 二人が急にむせ始めた。慌てて麦茶を口にしてごまかそうとしているが、その背中は小刻みに震えていた。私のことを笑ったことはバレバレだ。

「私のことを馬鹿にしていますね。笑っていられるのも今のうち」



「面白そうな話をしていますね」

「お断りします」

 突如、うら若き女子大生の会話に水を差す野蛮な男が現れた。即座にお断りすると、苦笑される。断るのは当たり前であるのに、なぜ笑っているのか理解不能だ。そもそも、私はこの男が心底嫌いだ。

「年寄りは引っ込んでいてください。駒沢先生」

「そうそう、誰もあんたなんかおよびじゃないの」

「こ、駒沢先生、どうしてここに?」

 私とジャスミンは嫌な顔を隠そうとせずに、駒沢を睨みつける。綾崎さんは駒沢信者なので、会うことができて驚きと喜びを露わにしていた。駒沢は、私たちの反応を面白そうに眺めながらも、私たちの席から離れようとはしなかった。あろうことか、私の隣の席に座ってしまう。昼食は食べ終えたのか、缶コーヒーを片手に話し始めた。

「仮にも、私はあなた方の大学の先生なのですから、そこの二人は、その嫌悪に満ちた態度を見せるのはやめなさい。ここで会ったのはただの偶然ですが、良い機会ですので、一つ、面白い話を聞かせてあげましょう」

 ちなみに私の正面にジャスミンと綾崎さんが座っている。以前に私の隣の席を取り合ってもめたため、妥協案として正面に座ることにしたようだ。

「もったいぶらずに、さっさと結論を言ってください。大学生は暇な時間がなくて忙しい身なんですよ」

 今日で大学の前期の授業が終わりなので、時間はあるのだが、こいつと一緒にいる時間は短い方がいい。不機嫌な表情を顔に載せると、駒沢は残念そうな表情をしていたが、すぐに本題に入ってくれた。

「実は、あなた方の後輩にあたる『向井陽菜』が退学を決めたようです」

 告げられた言葉に私たちは息をのむ。向井さんとは、荒川結女の見舞いに行った病院で会って以降、顔を合わせていない。大学の敷地は広いが、同じ文系で学部も同じはずだったのに、テスト期間中に会わなかったことを疑問にも思わなかった。

「それがどうしたというの。たかだか大学生の一人が退学したことを、わざわざ私たちに話す理由は何?」

 駒沢の言葉にいち早く反応したのはジャスミンだった。確かに、大学を辞める学生は一定数存在する。それをいちいち私たちに報告する必要はない。しかし、そんなことは駒沢だってわかっているはずだ。いったい、何を企んでいるのだろうか。

「佐藤さんの言う通り、残念なことに、大学を辞める学生さんがいることは事実です。しかし、彼女は、あなた方と親しかったでしょう?何か、退学の理由でも知っているのかと思いましてね」

 今後の大学の授業で活かすことができればと思いまして。

 最後の言葉は明らかに取ってつけたような理由である。どうやら、彼女の退学理由を詳しく知らないらしい。とはいえ、私自身も彼女の退学を知ったのは、隣に座る男の口からだった。隣から視線を強く感じるが、無視して無言を貫く。

 もし、理由を知っていたとしても、この男には話したくはない。

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