朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

文字の大きさ
52 / 59

52私は幸せですよ

しおりを挟む
『お邪魔します』

 二人を自宅に招くことにしたが、ちょうど、九尾たちは家を留守にしていたようだ。家には誰もいなかった。彼らと鉢合わせにならなくて良かった。ジャスミンはともかく、綾崎さんと彼らを合わすのはあまりよろしくなかった。

 彼女たちは恐る恐る玄関から上がっていく。何を緊張しているのかわからないが、妙におどおどしている二人をリビングに案内する。

「それで、ジャスミンは、どうして電話を勝手に切ったのですか?」

 彼女たちは客人になるため、ソファに座らせる。とりあえず、先にジャスミンに電話の件について尋ねることにした。ジャスミンは目を泳がせて、何を言おうか迷っているようだ。

「ええと、その、今回の件って、結局、む、向井さんが発端だった、訳じゃない?だから、これ以上、蒼紗と関わらせるのは、ま、まずいかなと」

 ジャスミンは、私が向井さんと通話していることに気付いていた。ということは、最初から通話を聞いていたのだろうか。気配がまったくなかったが、彼女なら難なく盗み聞きはできそうだ。

それにしても、いまだにジャスミンも綾崎さんも挙動不審で落ち着きがない。まだ、私からは怒りのオーラみたいなものが出ているのだろうか。

「はあ」

 ともかく、親友として、彼女は私を心配してくれているのはわかった。しかし、その行動が悪い方向に進んでいるのは良くない。勝手に他人の電話を切ってしまうのはダメだろう。きつく言っておかなければならない。ため息をついたのがいけなかったのか、二人がびくっと肩を震わせる。

「あ、あの、でも、佐藤さんの言うことも、まちがって、はいません」

 別に私はジャスミンたちを脅しているわけでも、殺そうとしているわけでもない。それなのに、綾崎さんが泣きそうになりながらも、ジャスミンのことをかばいだした。

「電話の件はひとまず置いておきましょう。話は長くなりそうですから、ひとまずお茶を入れますね」

 このまま彼女たちに怯えられたままでは話ができない。いったん、互いに落ち着く時間を作ろうと席を立つ。キッチンに向かう私に二人は声をかけることはなかった。


「お待たせしました」

 冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注いでいく。人数分用意して、お盆に載せてジャスミンたちのもとに向かう。お茶だけでは寂しいと思ったので、一口サイズの包装がされたチョコレートも一緒に載せる。

「ありがとう」
「ありがとうございます」

 少し落ち着いたのか、二人はお礼を言って麦茶に口をつける。私も彼女たちの対面のソファに座り、同じように麦茶を飲む。

「話は変わりますけど、ジャスミンたちに送られてきた謎の手紙のことなんですけど、聞いてもいいですか?」

「さ。佐藤さん。蒼紗さんに話しちゃったんですか?あれほど秘密にしようと言っていたのに」

「仕方ないでしょ。どうせ、蒼紗に隠し事なんてできやしないんだし」

「それもそうですけど……」

「謎の手紙についてはジャスミンが話してくれました。その件ですが、犯人が何者かわかりました。彼女はもう、あなたたちに、今回のようないたずらを仕掛けることはないので安心してください」


 こそこそと二人が話しているが。気にせず話を続ける。私は彼女たちに嫌がらせをしているのが彼らだと思っていたが、それは間違いだった。とりあえず、今後はこのようないたずらがなくなることを伝えておきたかった。

「ご丁寧に教えてくれてありがたいけど、いったい何者が私たちにあんな変な手紙を送ってきたの?私が犯人のもとに乗り込んで、お灸をすえたかったんだけど……」

「それには及びません。もう、彼女にいたずらはできませんから」

 ジャスミンは自分で犯人を見つけて懲らしめたかったようだが、それは無理な話だ。犯人である「荒川結女」はもう、この世にいないのだから。

「蒼紗さんは、その犯人と知り合い、だったんですか?泣いていますよ」

「はあ。話さなくてもいいこと口にするからそうなるのよ」

 綾崎さんの声に慌てて自分の目元を触ってみると、濡れているのがわかった。荒川結女のことを少し思い出しただけなのに、この状態とは。自分の心と身体の感情の不一致に呆れてしまう。

「この話はこの辺にしましょう。蒼紗がそう言うんだったら、私たちにいたずらはされないってことでしょ。だったら、もっと楽しい話題をしましょう。ほら、今日から夏休みなんだから、一緒に遊ぶ計画でも立てるとか」

「それはいいですね。一緒に海とかお祭りとかに行きたいですね。蒼紗さんの水着姿も浴衣姿も見てみたいです!」

「綾崎さん、たまにはいいこと言うわね。そうそう、夏休みなんだから、イベント盛りだくさんでしょ。何からやっていくか話し合うわよ!」

 まったく、この二人は私の気も知らないで勝手なことを言い始める。しかし、そのおかげか、すぐに目元が渇き、新たに濡れることはなかった。

 さようなら。私の幼馴染。私は彼女たちと一緒に居られて幸せですよ。

 目をつむり、軽い黙とうをささげる。

『蒼紗(さん)』

「寝ていませんよ。それで、私は夏休みに何をさせられるんですか?」

 二人の私を呼ぶ声が聞こえて目を開ける。そこには笑顔の二人の親友の姿があった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」 幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。 迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。 ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。 これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。 しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。 奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。 現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。 異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー 様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。 その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。 幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。 それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 ★第9回キャラ文芸大賞エントリー中! 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...