人類はスマホに寄生されました

折原さゆみ

文字の大きさ
24 / 59
5寄生された人間

1

しおりを挟む
「お前はまさか」

「そのまさかだが、なにか問題はあるのか。この女の意識は我が乗っ取った。女はお前に会いたいという思いが強くてな。最後の頼みだというものだから、学校に来てやったまで」

 左手にスマホを握りしめたあやのは、反対の手でスマホを愛おしそうに撫でた。まるでわが子を愛でるような手つきに嫌な予感を覚える。紫陽は恐る恐る目の前の女子生徒に問いかける。

「じゃあ、お前はではないのか?」

、で間違いはない。ただ、中身は彼女とは限らないが」

 あやのの顔をしていながら、話していることはどこか他人行儀であるこの女子生徒に、紫陽は困惑する。しかし、今は昼休みで、もうすぐ5時間目が始まってしまう。あやのが学校に来てしまった以上、教室に入るだろう。このまま、彼女を野放しにしていれば、クラスメイトに不審がられることは間違いない。

 紫陽の心配をよそに、スマホの意志が宿ったらしい、は廊下を見渡してのんきにあくびをしていた。その様子は人間らしくて微笑ましいが、言っていることが人間とは思えないものだった。

「今までは人間に持ち運ばれていたから、自分で身体を動かして移動するというのは新鮮だ。人間の身体は意外に疲れやすいものだな。紫陽とこの女が所属するクラスはここか。この時間だと5時間目が始まる頃合いか」

「お、おい。お前があやのではなく、スマホの意志らしいことは、クラスの奴らには絶対にばらすなよ」

 堂々と教室に入ろうとするに、自分の正体をばらさないよう忠告するが、紫陽の言葉が聞こえなかったように教室のドアを開けて中に入っていく。

 ちょうど、タイミングよく、昼休み終了のチャイムが教室に鳴り響いた。



「鵜飼さん、体調はよろしいのですか?」

 5時限目は数学だった。数学の先生は紫たちの親くらいの中年の男性教師だった。教師の手にはスマホが握られておらず、包帯も巻かれていない。スマホに触る時間が少ないのか、スマホを持っていないのだろう。

 今日も欠席の連絡が入っていたにも関わらず、午後から登校してきたあやのに、数学教師は不審そうな顔で問いかける。

「先生、こいつは無理して学校に来たみたいです。親に止められたのに、無理やり登校したらしくて。ほら、顔色もよくないでしょう?僕が保険室に連れていきます。それで、今日は帰らせます。彼女の両親は共働きで迎えには来られないと思うので、僕は家が近いので、送っていきます、だから、僕も早退します」

教師の言葉に答えたのは、質問された本人ではなかった。紫陽がすらすらと言い訳のように彼女の状況を語り始める。よどみない答えに数学教師は驚いた様子をしていたが、特に追求することはなかった。意外にも、あっさりと紫陽とあやのの早退を認めてくれた。

「顔色が良くないのは本当のようですね。一度保健の先生に診てもらった方がいいかもしれません。せっかく学校に来てくれて悪いですけど、早退した方がいいでしょう。鷹崎君もそこまで言うのなら、鵜飼さんについてあげなさい」


「失礼します。行くぞ。

「仕方ない」

は、左手を制服のポケットに突っ込んで席を立つ。それを確認した紫陽も立ち上がり、教室を後にする。

 教室に入った途端、すぐに早退することになったクラスメイトに対し、教室で授業を受け続けることになる他のクラスメイト達は特に反応を示すことはなかった。ただし、皆うつむいて、机の下で何か作業をしている様子が見られた。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...