人類はスマホに寄生されました

折原さゆみ

文字の大きさ
31 / 59
7仲間

しおりを挟む
 紫陽の学校の保健教師が謎の死を遂げてから、一カ月が経過した。季節は初夏を迎え、蒸し暑い日が続いていた。マスコミもようやく落ち着きを見せ始め、普段通りの生活を取り戻しつつあった。

「お前は、本当に成長しないんだな」

「われの知能が高いということかもしれんな」

「嘘つけ」

 相変わらず、あやのに寄生したスマホが彼女の意志を乗っ取り続けていた。紫陽は次第に彼女の口調に慣れつつあった。の左手のスマホに目を向けるが、タブレットサイズくらいに成長したスマホはその後、成長を止めていた。そのため、常にタブレットを携帯しているように見えるだけで、それ以外に目立って不審な点はない。



「おはよう。あなたたちは今日も仲がいいのね」

 そんな二人の会話に口をはさむのは、隼瀬だった。休み時間に二人で話しているところに隼瀬がやってきた。

 隼瀬にはあやのがスマホに意識を乗っ取られたことを話していない。話そうとしたら、自身に止められた。これは二人だけでの秘密にして欲しいと懇願された。無表情でそのようなことを言われたが、彼女はあやのの姿をしている。思わず幼馴染にするように、反射的に断ろうとしたが、何とか秘密にすることを了承した。

「別に仲は良くない。ただ、世間話をしていただけだ」

「のんきなものね。周りがこんな状況下でよく、世間話なんてものに花を咲かせられるものだわ」

 クラスの教室内をぐるりと見まわした隼瀬がぼそりとつぶやく。クラスの大半は右手を包帯に包まれているか、片手で支えられないほど大きく成長したスマホを手に張り付けていた。彼女の言う通り、のんきに話をしている状況ではないのかもしれない。


 保健教師の死後も、スマホが人間に寄生する事件は起こり続けていた。そして、スマホが成長をして、宿主の身体を押しつぶしてしまうという悲劇もたびたび報告されていた。

「そういえば、あやのさん、あなたもスマホに寄生されているけど、身体は大丈夫なの?」

「本当は手を切断したいところだけど、そうなると今後の生活が不自由になるから、どうにかして、手の切断以外に方法がないのか考えているの。だから、切断は少し待ってほしいと両親にお願いしているの」

 いつも紫陽に見せている無表情から一変、隼瀬の疑問に答えるは普段のあやのの表情を完璧にまねていた。紫陽が見ていても、自分の幼馴染が話しているようにしか見えない。ただし、紫陽にはそれこそが彼女の不自然さだと感じ、彼女がスマホに寄生され、意識が乗っ取られているという印象を受けた。

「誰にそんな悠長なことを言われたの?」

「誰にって言われても、自分で考えたことだけど、私の考えはそんなに変なことかしら?」

 ちらりと紫陽に視線を向けたに、紫陽は苦笑を返すしかない。その反応をどう受け取ったのか、隼瀬は自分の右手に視線を移す。

「まあ、人それぞれ考えがあるのはわかるけど、早いところ、スマホを切断する手術を受けた方がいいわ」

 自分の右手を見つめながら、隼瀬はゆっくりと手を握ったり閉じたりを繰り返す。よく見ると、その動作がなんとなくぎこちないように見える。彼女の行動につられて、紫陽も自分自身の手を同じように握ったり閉じたりと動かしてみる。

「彼女の手の動きが気になるとは、お前もよく人を観察しているな」

 いきなり、に耳もとでささやかれた。驚いて紫陽は思わず大声を出してしまう。

「やめろ。お前のその声は、今は聞きたくない!」

 大声は、タイミングよくチャイムの音にかき消される。チャイムの音を合図に、クラスメイト達は自分の席に戻りだす。紫陽も同じように席に戻ると、しぶしぶといった様子でと隼瀬も自分の席に着こうと動き出す。

しかし、その途中で面白いことを思いついたかのように、が紫陽に話かける。今度は耳もとではなく、正面から視線を合わせて小声でささやかれる。


「彼女の手について詳しく知りたいのなら、触ってみればいい。消しゴムでも落として、拾ったついでに握って確かめるといい」

「何を言って」

 意味深に微笑んだはそのまま、紫陽の返事も聞かずに席に戻ってしまった。


「では、授業を始めます。今日は……」

 黒板を眺めながら、紫陽は先ほどの彼女の言葉の意味を考える。手を触ってみればいいというのはどういうことだろうか。授業を聞きながらも、紫陽の頭の中は、に言われた言葉の意味を考えていた。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...