人類はスマホに寄生されました

折原さゆみ

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7仲間

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 次の日の夕方、紫陽とすみれは、緊張した様子でが家に来るのを待っていた。電話で約束を取り付けたはいいが、何時ごろ彼らの家にやってくるのか、具体的な時刻を知らされていなかった。紫陽は同じクラスだが、授業が終わるとすぐには教室から出ていき、話すことができなかった。電話をしても、意図的に取らなかったのか、何か理由があって出られなかったのかわからないが、が紫陽の電話に出ることはなかった。

「ねえ、お兄ちゃん、あやのさんって、本当にスマホに意識を乗っ取られているのかな。ただ、お兄ちゃんが優しくしないせいで、怒って拗ねているだけじゃない?」

 すみれには、幼馴染のあやのがスマホに意識を乗っ取られていることを説明した。はスマホに寄生されてはいるものの、今以上にスマホは成長していないこと、彼女の意識は、スマホの人口知能が乗っ取っていることなどを簡単に説明した。

 話を聞いたすみれは、最初は信じておらず、最終的に納得したように見えたが、今朝になって、やはり兄の間違いだと指摘した。

「ピンポーン」

 学校から帰宅してからずっと、玄関のインターフォンがいつ鳴らされるか、じっと様子を観察していた二人が、即座に画面越しの相手に声をかける。

「どちら様ですか?」

「白々しいな。昨日、お前たちの家に行くと言っていただろう?まさか、忘れていたのか?」

 玄関にはの姿があった。紫陽が最近見慣れている無表情で淡々と言葉を口にする。二人は彼女を迎えるために玄関に向かった。

「紫陽だけでなく、妹まで出迎えに来てくれるとは、ずいぶんと我は歓迎されているようだな」

「なんか、いつものあやのさんと話し方が違うね。やっぱりお兄ちゃんの言う通り、中身は別人、ということなの?」

「真似することも可能だが、こちらの方が我は話しやすい」

 話しながらも、あやのは靴を脱ぎ、家に上がる。紫陽たちは彼女をリビングに案内した。両親は現在二人で旅行に出かけていて、今週は家に居ない。から話を聞くには好条件と言えた。

 リビングのソファに座るよう勧め、の向かいに紫陽たちは座った。何か飲み物でも持ってこようかと妹のすみれが気を利かせるので、紫陽と《あやの》》は、コーヒーを妹に頼むことにした。


「それで、我はお前らに面白い話をしようとやってきたわけだが」

 コーヒーをスマホの握られていない右手で優雅に飲みながら、彼女は無表情のまま彼らに話しかける。

「面白いと何度も言っているが、いったい何が面白いのか、オレ達には全くわからない。もったいぶらずにさっさと教えてくれ」

「私からもお願いします。お兄ちゃんから、簡単に事情は聞いているけど、あなたの口から直接話を聞きたい」

 兄妹からの言葉に、彼女は気をよくしたのか、すぐに本題に入った。しかし、最初に発した言葉は彼らを困惑させるものだった。

「お前ら兄妹には、我らの成長を止める力があるようだ」


 一瞬、彼らの家に静寂が訪れた。言っている意味が理解できない二人は、お互いに顔を見合わせ、首をかしげる。その様子を見た彼女がため息を吐きながら、仕方なさそうに説明を始めた。

「我もにわかには信じがたいが、しかし、信じるしかないようなことが実際に起きているのだ。目の前にいる我がその証明だとは思わないか?」



 幼馴染のあやのの意識をスマホが乗っ取ったのだと、彼女は常々言っている。左手にはいまだにタブレットサイズのスマホが握られたままだ。タブレットサイズにまで成長したスマホは、それ以上成長することはなく、幼馴染の左手に居座り続けている。

「我のような存在が他に存在すると思うか?」

 再び、質問を投げかける彼女だが、返事を期待してはいないようだ。自問自答のように勝手に回答を述べ始める。

「我のネットワークを介して調査してみたが、さすがに我以外にも似たような症例は何件が見つかった。だが、世界中を探しても、わずか数件というレアケースだ。世界各国が見つけ次第、我らみたいな存在とその関係者を捕獲しているそうだ」

「世界に数例」

「捕獲」

 話を聞いていた二人は、それぞれ彼女の印象深い言葉を反芻する。兄は世界に数例という事実に驚かされ、妹はその数例に当たるケースの該当者や関係者が捕縛されるということに困惑していた。

「それから、もう一つ。その数例を探している専門機関ができたそうだ。彼らは一般人を装いながら、我らを血眼になって探している。そう、例えば、自らの手を犠牲にしてでも追いかけるそうだ」

 ぞっとするような冷たい視線を向けられた紫陽は、の言葉に、ある女性を頭に思い浮かべる。そうだとしたら、それはいつからだろうか。

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