私の大事な妹は

折原さゆみ

文字の大きさ
10 / 32

10うさ耳少年

しおりを挟む
「それで、中庭を荒らしていたお前が、どうしてお姉ちゃんに目をつけた」

「逆に聞くけど、お前はどうしてこの人間の妹なぞという存在で居着いている?」

「質問を質問で返さないでくれる?あなたが今、どんな立場でこの場にいるのかわかっているの?お姉ちゃんの前だから手を出さないだけで」

「わかっている。まあ、お前がどうしてこの人間に憑いているのか興味がわいただけだ。確かに今の僕の立場は弱い。先に僕の用件から話すとしよう」

 歩武たちが彼女の部屋に入ると、すぐにミコは歩武のベッドに腰かける。そして、ようやく手に掴んでいたウサギを解放する。ウサギは歩武がいることで、ミコが自分に手を出さないことを知ったのか、ミコの質問に強気な態度で返答する。歩武はそんな妹と一匹の様子を見ながら、床にクッションをひいて静かに見守ることにした。セサミはミコたちの会話に興味がないのか、部屋の隅であくびをして丸くうずくまっていた。



「ただいまあ」

 しかし、いつまでも彼女たちの会話を聞いているわけにはいかなかった。玄関が開く音がして、続いて両親の声が歩武の部屋まで聞こえてきた。歩武は妹と人外二匹に静かにしているよう伝えて、階下に降りて両親を出迎えることにした。

「おかえり。遅かったね」

「ごめんね。お父さんが、仕事が早く終わったから一緒に買い物しようと誘ってきて」

「別にいいだろ。おいしいものも土産に買ったし」

どうやら、父親の仕事帰りに両親二人で仲良く買い物をしていたらしい。

「夕食はすぐにできるから、歩武、手伝ってくれる?」

「う、うん。とりあえず、荷物を置いて着替えてきなよ。私もいったん、自分の部屋に戻るね。すぐに手伝いに行くよ」

 歩武は両親にそう伝えると、急いで自分の部屋に戻る。両親は首をかしげてその様子を見ていたが、特に何も言うことはなかった。

 そして、歩武は気づくことはなかった。帰宅した両親は歩武のことは気遣っていたが、もう一人の娘、ミコについて言及することがないことに。




「そうかそうか。お前もオレと同じ目にあっていたとはな。それは同情するぞ」

「お前らなど同情する価値もない」

「決めた。やっぱり僕もこの家に住むことにする!」

 自分の部屋にノックは不要とばかりに、歩武は少々乱暴に部屋のドアを開ける。するとそこには、妹のミコと猫耳少年と半透明のウサギがベッドの上で話し合いをしていた。歩武が両親の相手をしている間に、何を話していたのだろうか。

「断る!これ以上、お姉ちゃんの周りに変な奴らを置いておくわけにはいかない」

「オレも反対だ。せっかくの居場所をこいつに奪われたくはない」

「そんなことを言っていいのか。そっちがその気なら、僕にも考えがある」

 何やら不穏な雰囲気となってきた。いったい、ウサギにどんな考えがあるというかわからないが、このまま話を続けさせているわけにもいかない。歩武は彼らの会話に割り込むことにしたが、あっさりと無視される。


「ねえ、お母さんたちが帰ってきてから、私は夕食を食べに一階に下りるけど、ミコたちはどうす」

「僕が中庭を荒らしていることは知っているだろう?この家に住むことを許してくれるのなら、やめてやる。ただし」

 やめないのなら、もっと大変なことをしてやる。

「別に構うものか。お姉ちゃんに被害が及ばないなら、学校が破壊されようが生徒や先生が怪我しようが死のうが関係な」

「それは困る」

 半透明のウサギの言葉に対し、ミコはすがすがしいほどに無関心だった。姉の歩武以外に興味がないのは相変わらずである。両親の帰宅を告げたことを無視されたが、ここは突っ込むべきだと、思わず歩武はウサギに話しかけていた。


「ほら、お前の大事な人間は困っている。それでも意地を張って僕をここに住まわせないつもりか」

「うっ。ねえお姉ちゃん。こいつを家に住まわせるより、学校でお姉ちゃんの見えないところで被害が出ている方がいいと思わない?」

「被害が出るのがわかっているのに、無視はできないよ。それに」

 すでに訳の分からない人外を一匹、歩武の家に居候させているのだ。今更一匹くらい半透明のウサギが増えたところで問題はないはずだ。ウサギと猫という点が気になるが、彼らは本物の動物ではない。すでに死んでいる身で、いわゆる幽霊という存在である。捕食者と非捕食者の関係でウサギが食べられてしまうことはないだろう。

「はあああああ。最後まで言わなくてもいいよ。わかってるよ。お姉ちゃんが、超が付くほどお人好しなこと」

「だったら」

「一つ条件がある」

「ああ、可能な限りで聞いてやる」

 この短時間でずいぶんと態度が変わった。ミコたちにおびえていたように見えたのに、今では対等に口を利くまでになっている。どういう心の変化だろうか。いったい、どのような条件を付けるのか、歩武も気になるので、黙ってミコの言葉に耳を傾ける。

「普段は人間の姿に擬態しろ。その姿を見ていると、無性に動物的本能が抑えられなくなる時がある。この家に居る時くらいは姿を変えて過ごせ」

「ふむ。そんなことか。それは別に構わないが、僕にそんなことができるかな。とはいえ、やるしかないのか」

 ミコはどうにもウサギを見ると、襲ったり食べたくなったりする衝動に駆られるらしい。ウサギは首をかしげて思案していたが、やがて納得したのか突然、白い煙がウサギから立ち上る。


「これでいいのか?」

 思わず目をつむり、煙が消えたころを見計らって歩武が目を開けると、目の前には白兎ではなく、うさ耳が生えた少年がその場に立っていた。歩武よりも身長が低く、見た目は小学校低学年ほどに見えた。白い髪に真っ赤な瞳は人間ではアルビノであるとごまかせなくもない。とはいえ、頭から生えウサギの耳とお城の尻尾はごまかせない。

「まあまあの出来だな。どうせ、お姉ちゃん以外の人には姿が見えないから、それくらいが限度か。耳がなければさらに良かったが」

「無茶言わなよ。そこの猫も耳と尻尾が出たままだ。お前ほど完全に人間に化けられるのは珍しい」

「それもそうだ。それに、耳と尻尾があった方が、歩武の家に同情を買えてちょうどいいだろう?」

 人間に化けるときに、ウサギの耳が残ってしまったことをミコが指摘すると、今まで黙っていたセサミが口を開く。

「当たり前だ。私はお姉ちゃんのために生きている。そのために人間の姿が必要ならば、完全に擬態するまで」

 セサミの言葉にミコが返答するが、歩武にはミコの言葉が理解できない。しかし、今はそれどころではなかった。

白ウサギが人間に化けたのだろうことは予測できたが、本当に歩武以外の人間には姿が見えないのだろうか。ウサギの時は半透明で、いかにも幽霊みたいな特徴だったが、今のうさ耳少年はその半透明さが完全になくなっていた。きちんと足は部屋の床を踏んでいるので、見た目にはコスプレした少年にしか見えない。

「人間の姿の時は、実体があるんだね」

 半透明絵ではないのならば、触れることができるのだろうか。無意識に歩武は目の前のうさ耳少年の手を握っていた。温かさはないが、しっかりとした人間の手と同じような感触がある。

「まったく、不用意に手を出してはダメだよ」

「やはり、人間はあったかいな。懐かしい」

 歩武に手を握られたウサギはなんと、涙を流していた。手を握ってはいけなかったのかと、とっさに手を離そうとしたが、少年に強く握り返されてしまった。彼らの後ろでは、オレも人間の姿の時は実体があるのを忘れているのか、と嘆いていた。




「ねえ、僕の話を聞いてくれる。僕は昔、君の通う学校で飼育されていたウサギだったんだよ。あのね、僕は、本当は」

「あゆむー。いつまで部屋にこもっているの!さっさと降りてきなさい!」

 うさ耳少年が泣き止むまで待ち、ようやく彼の方から話を切り出したかと思ったら、邪魔が入る。そういえば、歩武は夕食の手伝いをしなければならなかったことを思い出す。階下から、母親の歩武を呼ぶ声が聞こえてきた。


「はーい」

とりあえず、両親に怪しまれないように歩武は部屋のドアを開けて、大声で返事する。タイミングが悪いが、仕方ない。壁にかけられた時計を見ると、すでに19時を過ぎていた。夕食の時間としてちょうどよい時間となっていた。

そもそも、今日は同じクラスの高木の件で帰宅が遅いので、夕食の時間がすぐに来るのはわかっていたことだ。

「ミコ、さっさと下に下りて夕食を食べよう。話はまたそれから」

「私はいらない。それに、あいつらが呼んでいるのはお姉ちゃんだけでしょう?私は特にお腹が減っていないから大丈夫。こいつらとこの家で過ごすにあたってのルール決めをしておきたい」

「わ、わかった。じゃあ、お母さんにもミコは夕食はいらないと言っておくね」

 最近、ミコは歩武たち家族と一緒に食事をとらなくなった。何か、心境の変化があったのかもしれない。とはいえ、歩武はミコも含めて家族4人で一緒に食事をとりたかった。しかし、ここで無理強いしても仕方ない。歩武は一人で、一階で待つ両親のもとに向かった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...