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12名前について
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「私は、自分の名前が男っぽいっていじめられていたことはミコも知っているよね?でもね、この名前を付けてくれた両親は、私のためにこの名前を一生懸命考えてくれた。それをからかわれるのは当然嫌な思いもするし、不快だった」
「そりゃそうでしょ。だから私はお姉ちゃんのために」
突然、自分の名前について語りだした歩武に、ミコは戸惑いながらも意見する。それに対して、そうじゃないと歩武はさらに話を続けていく。
「確かにミコのおかげで名前に対してのいじめやからかいは減った。ううん、完全になくなったといってもいい」
妹がどんな手を使ったのかはいまだにわからないが、ミコが歩武の前に現れてから、名前に関することで悩むことは少なくなった。
「あれ、ミコが現れてから……」
自分の名前の件で過去を振り返っていてあることに歩武は気づいてしまった。ミコは本当に自分の妹だろうかと。双子ということになっているので、生まれたときからずっと一緒に生活してきたはずだ。それなのに、なぜ、『ミコが現れてから』という、表現を自分はしているのだろうか。
「それで、結局、何が言いたいの?お姉ちゃんの名前の件と、こいつらに名前をつけてやった件がどう関係してくるのかな」
歩武の独り言のようなつぶやきをミコは聞かなかったふりをしてくれたようだ。今はミコが妹ではないという疑念について考えるよりも、セサミたちの名前について話さなくてはならない。
「ええと、だから……。ミコのおかげで私は名前のことでからかわれることはなくなった。でも、それと同時に名前を呼ばれる回数が減ったの」
あゆむくーん。おとこおんなのあゆむー。あゆー。あゆむー。
自分の名前を呼んでくれた同級生を思い出す。小学生の軽い冗談みたいなもので、誰もいじめだと思っていなかったのかもしれない。
とおのさん。とおのー。とおのいもうとー。
最近の自分の呼ばれ方を振り返る。苗字呼びだと、どこかよそよそしい感じがした。どちらかというと、今の苗字呼びの方が歩武にとっては、嫌だなと思うようになった。
「なるほど。だったら、今からでもお姉ちゃんのことを名前で呼ぶように、学校中に根回ししようか?それくらい、私には朝飯前だよ。なんだ、そう言うことか。それならもっと早く言ってよ。そうしたら、こいつらに名前を付けるなんて面倒なことにならなかったってことでしょう?」
歩武の寂しそうな表情の意味に気付くことなく、ミコは勘違いしたことを言い始める。
お姉ちゃんがそんなことで悩んでいたなんて気づかなかった。
言葉の中に潜む『そんなことで』というミコの呆れが歩武には伝わってくる。
「そうじゃないの。どうして、私の気持ちがわからないの?」
〇
ミコがなんてことないように、歩武の名前呼びを復活できると言い放つが、歩武は首を振って彼女の言葉を拒否した。強制的に呼ばせたいわけではないのだ。歩武の気持ちをまるで理解していない。ただ名前を呼ばれるだけではダメなのだ。なぜ、それがわからない。
「わからないよ。確かに名前は重要だけど、その重要性がお姉ちゃんにはわかっていない。お姉ちゃんは人間で彼らは人外。その辺をわきまえたうえで名前を付けるのならいいけど、どうせ」
何も考えずにつけたでしょう?
「だったら何だっていうの?漫画やアニメじゃあるまいし、名前を付けたくらいで何が変わ」
「くらい、で済まないんだよ」
「そうそう、人間が思っている以上に名前は大切なものだ」
ミコの言葉にカチンときた歩武が言い返すと、今まで黙って聞いていた彼らが口をはさんできた。どうやら、人外の存在にとって、名前は重要なものらしい。とはいっても、歩武は人間であるので、彼らの事情など知る由もない。
「まあ、知らないのも無理はないか。簡単に言うとね」
『名前を付けた相手に従わなくてはいけない』
「つまり、彼らはお姉ちゃんが名前を付けたせいで、お姉ちゃんの言葉に従わざるを得なくなったというわけ」
「そ、そんな重要なことだったら、早く言ってよ、で、でも」
「言いたいことはわかる。彼らがお姉ちゃんの名前を拒否すれば、認めなければ契約は成立しない。なのに、こいつらは」
「俺たちはお前にやられるよりも、この人間に従う方が、都合がいいと思ったんだ」
「僕も、同じです。彼女と一緒なら、きっと僕のこの濁った気持ちもなくなるかもって」
ミコは再度、呆れたため息を吐いたが、最終的に彼らの行為を認めざるを得なかった。壁時計に目を向けた彼女は、そこで自分に用事があったことを思い出す。
「名前の件はあきらめるから、くれぐれもお姉ちゃんに迷惑をかけないでよ。ごめんね。お姉ちゃん、名前について彼らをどう従えるのか説明しようと思ったんだけど」
急に慌てて部屋を出ようとしたミコに、歩武もそういえばとミコの言動を振り返る。確か今日は予定があるとか言っていた。しかし、歩武はそこでふと疑問が生じてつい、質問してしまう。
「私より大事な用事があるの?」
ミコは姉である歩武のことを優先にして生きていると思っていた。名前のことも、他のことについても。いつも歩武のことを気にしながら、姉のことを第一に考えながら一緒に生活してきた。それに慣れ切っていた歩武が、今のミコの行動に疑問に思うのは自然な成り行きだった。自分の姉中心に生きてきた妹が突然、他に用事があると出かけるのは不自然である。
「私だって、本当はこいつらとお姉ちゃんを残して出かけたくはないんだよ。だけど、あいつが私を脅すから、仕方ないの。私はいつでもお姉ちゃんが最優先事項だから!それだけは信じて頂戴!今回だって」
「お前らって、ゆがんでるよなあ」
このまま姉妹喧嘩に突入しようかという修羅場を止めたのは、間延びした猫耳少年の言葉だった。
「ご、ごめんね。話はまた帰ってからするね。そろそろ家を出ないとやばいから。行ってきます!」
猫耳少年、セサミの言葉に我に返ったミコはその後、慌てて歩武の部屋を出ていった。バタバタと階段を下りる音が聞こえた。
〇
「何の用事なんだろう」
自分の部屋から妹が出て行った。妹にも妹の生活がある。なぜ、今まで気づけなかったのだろう。歩武は自分がそこまで妹に依存していたことを知り、背筋が凍る思いがした。そんな歩武の深刻そうな顔を見た二人は、顔を見合わせて頷き合う。
ぼん
突然、二人の周りに白い煙が立ち上る。何事かと驚いた歩武は次の瞬間、何者かにベッドに押し倒されていた。
「な、何事」
押し倒した相手を確認しようと自分の腹の上に乗っている存在を見ると、白と黒のぶち模様の猫と白い毛に赤い瞳のウサギだった。
「せ、セサミとアルだったのか。いきなりとびかかってこないでよ。驚くじゃない」
見知った存在が自分にとびかかってきたことに安堵していると、二匹はぐりぐりと頭を歩武の腹にこすりつける。可愛らしい様子に思わず笑みがこぼれる。恐る恐る二匹の身体に手を触れると、一瞬びくっと震えたものの、抵抗する様子はなかった。
「ちゃんと触れることができるんだね。本物みたいに温かくはないけど、ふわふわしてるね」
彼らはすでに亡くなった存在で、本来ならこの世に居てはいけない存在である。しかし、歩武の手にはしっかりと動物特有のふわふわとした毛並みを感じることができた。
しばらく歩武は彼らの身体を優しくなで続けていた。初めて会った時は半透明で触れることができなかったのに、急に触れることができるようになった理由を歩武は考えることはなかった。
〇
「ねえ、ミコが帰って来ないんだけど」
「あいつのことなら心配することはないだろ」
「そうそう、僕を食おうとした奴だし、心配しなくても」
「でも……」
ミコが出かけてから一日半が経過した。今日はもう、日曜日の夜である。土曜日の夜は知り合いの家に泊めてもらったのだろうと思ってあまり心配はしていなかったが、日曜日の夜になっても、ミコは帰宅しなかった。
「そもそも、あいつは本当にお前の妹なのか?よく思い出せよ。いつからあいつはお前のもとで暮らすようになった?」
歩武は夕食と入浴を終えて自分の部屋にいた。セサミとアルはこの週末はずっと歩武の部屋にいた。たまに外に出かけることがあったが、ほとんどの時間を部屋で過ごしていた。その間に歩武たちの仲は深まり、気さくに話せるような間柄にまで進展した。セサミの鋭い指摘にミコは頭を抱えたくなる。
両親はミコが帰って来ないことを特に心配する様子はなかった。日曜日の夕食時、歩武は、ミコが心配だと口にした。その瞬間だけ、思い出したかのように心配するだけだった。まるで、歩武が口にするまでミコの存在を忘れていたかのようだった。最近感じた、ミコに対する疑念がさらに膨れ上がっている、それでも妹だと信じたい心が、疑念を心の奥底にしまい込む。
「ミコは私の妹で間違いないよ。だってそうでしょ。今までだって、これからだって、ずっと一生、私のたった一人の妹なのよ……」
「自分に言い聞かせている時点で、妹ではないと言っているようなものだけど」
「うるさい!」
セサミに続いて、アルも歩武の心をへし折るかのような言葉を吐く。そんなことを言われても、歩武はミコが妹だと信じたかった。そもそも、歩武の妹でなかったら、ミコという存在は何者なのだろう。考えるだけで怖くなる。
「とりあえず、家に帰らなくても明日、学校には来ると思うけどな。隣のクラスだったよな。きっと、昼休み辺り、当たり前のようにお前の前に現れる気がするぞ」
「もしかしたら、あの時の彼氏とか言っていた男の家に泊っていて、今頃、二人でラブラブな時間を過ごしているかもしれないし」
歩武の心配そうな顔にセサミとアルが慌てて彼女なら大丈夫だと励ます。ちなみに、土曜日に猫とウサギの姿で押し倒して以来、彼らはずっと動物の姿のまま過ごしていた。ベッドに腰かけている歩武のひざの上に二匹はごろりと横になっていた。二匹の気遣うような視線に歩武は心配かけまいとカラ元気で答える。
「そ、そうだよね。ミコのことだから心配いらないよね。明日になったら学校で何食わぬ顔で挨拶してくるよね。うん、絶対そうだ」
妹のミコは今日は家に帰って来ない気がした。帰って来ない妹のために夜更かししても仕方ない。歩武は自分に言い聞かせると、二匹を膝から追い払い、ベッドから立ち上がる。明日の学校の準備を素早く終えると、またベッドにダイブする。セサミとアルも彼女に会わせて一緒にベッドに飛び乗った。
「お休み、セサミ、アル」
『お休み、歩武』
二人がいてくれて本当によかった。ミコがいない夜を過ごすかと思うと、とても眠れる状況ではない。土曜日の夜は目が冴えっぱなしだった。それを解消してくれたのが彼らだった。ずっとそばに寄り添ってくれたおかげで、歩武は何とか眠ることができた。
今日もまた、彼らに救われてしまった。歩武は二匹を抱え込み、目をつむる。彼らはおとなしくされるがままだった。
歩武はミコがいない夜も、ぐっすりと眠ることができた。
「そりゃそうでしょ。だから私はお姉ちゃんのために」
突然、自分の名前について語りだした歩武に、ミコは戸惑いながらも意見する。それに対して、そうじゃないと歩武はさらに話を続けていく。
「確かにミコのおかげで名前に対してのいじめやからかいは減った。ううん、完全になくなったといってもいい」
妹がどんな手を使ったのかはいまだにわからないが、ミコが歩武の前に現れてから、名前に関することで悩むことは少なくなった。
「あれ、ミコが現れてから……」
自分の名前の件で過去を振り返っていてあることに歩武は気づいてしまった。ミコは本当に自分の妹だろうかと。双子ということになっているので、生まれたときからずっと一緒に生活してきたはずだ。それなのに、なぜ、『ミコが現れてから』という、表現を自分はしているのだろうか。
「それで、結局、何が言いたいの?お姉ちゃんの名前の件と、こいつらに名前をつけてやった件がどう関係してくるのかな」
歩武の独り言のようなつぶやきをミコは聞かなかったふりをしてくれたようだ。今はミコが妹ではないという疑念について考えるよりも、セサミたちの名前について話さなくてはならない。
「ええと、だから……。ミコのおかげで私は名前のことでからかわれることはなくなった。でも、それと同時に名前を呼ばれる回数が減ったの」
あゆむくーん。おとこおんなのあゆむー。あゆー。あゆむー。
自分の名前を呼んでくれた同級生を思い出す。小学生の軽い冗談みたいなもので、誰もいじめだと思っていなかったのかもしれない。
とおのさん。とおのー。とおのいもうとー。
最近の自分の呼ばれ方を振り返る。苗字呼びだと、どこかよそよそしい感じがした。どちらかというと、今の苗字呼びの方が歩武にとっては、嫌だなと思うようになった。
「なるほど。だったら、今からでもお姉ちゃんのことを名前で呼ぶように、学校中に根回ししようか?それくらい、私には朝飯前だよ。なんだ、そう言うことか。それならもっと早く言ってよ。そうしたら、こいつらに名前を付けるなんて面倒なことにならなかったってことでしょう?」
歩武の寂しそうな表情の意味に気付くことなく、ミコは勘違いしたことを言い始める。
お姉ちゃんがそんなことで悩んでいたなんて気づかなかった。
言葉の中に潜む『そんなことで』というミコの呆れが歩武には伝わってくる。
「そうじゃないの。どうして、私の気持ちがわからないの?」
〇
ミコがなんてことないように、歩武の名前呼びを復活できると言い放つが、歩武は首を振って彼女の言葉を拒否した。強制的に呼ばせたいわけではないのだ。歩武の気持ちをまるで理解していない。ただ名前を呼ばれるだけではダメなのだ。なぜ、それがわからない。
「わからないよ。確かに名前は重要だけど、その重要性がお姉ちゃんにはわかっていない。お姉ちゃんは人間で彼らは人外。その辺をわきまえたうえで名前を付けるのならいいけど、どうせ」
何も考えずにつけたでしょう?
「だったら何だっていうの?漫画やアニメじゃあるまいし、名前を付けたくらいで何が変わ」
「くらい、で済まないんだよ」
「そうそう、人間が思っている以上に名前は大切なものだ」
ミコの言葉にカチンときた歩武が言い返すと、今まで黙って聞いていた彼らが口をはさんできた。どうやら、人外の存在にとって、名前は重要なものらしい。とはいっても、歩武は人間であるので、彼らの事情など知る由もない。
「まあ、知らないのも無理はないか。簡単に言うとね」
『名前を付けた相手に従わなくてはいけない』
「つまり、彼らはお姉ちゃんが名前を付けたせいで、お姉ちゃんの言葉に従わざるを得なくなったというわけ」
「そ、そんな重要なことだったら、早く言ってよ、で、でも」
「言いたいことはわかる。彼らがお姉ちゃんの名前を拒否すれば、認めなければ契約は成立しない。なのに、こいつらは」
「俺たちはお前にやられるよりも、この人間に従う方が、都合がいいと思ったんだ」
「僕も、同じです。彼女と一緒なら、きっと僕のこの濁った気持ちもなくなるかもって」
ミコは再度、呆れたため息を吐いたが、最終的に彼らの行為を認めざるを得なかった。壁時計に目を向けた彼女は、そこで自分に用事があったことを思い出す。
「名前の件はあきらめるから、くれぐれもお姉ちゃんに迷惑をかけないでよ。ごめんね。お姉ちゃん、名前について彼らをどう従えるのか説明しようと思ったんだけど」
急に慌てて部屋を出ようとしたミコに、歩武もそういえばとミコの言動を振り返る。確か今日は予定があるとか言っていた。しかし、歩武はそこでふと疑問が生じてつい、質問してしまう。
「私より大事な用事があるの?」
ミコは姉である歩武のことを優先にして生きていると思っていた。名前のことも、他のことについても。いつも歩武のことを気にしながら、姉のことを第一に考えながら一緒に生活してきた。それに慣れ切っていた歩武が、今のミコの行動に疑問に思うのは自然な成り行きだった。自分の姉中心に生きてきた妹が突然、他に用事があると出かけるのは不自然である。
「私だって、本当はこいつらとお姉ちゃんを残して出かけたくはないんだよ。だけど、あいつが私を脅すから、仕方ないの。私はいつでもお姉ちゃんが最優先事項だから!それだけは信じて頂戴!今回だって」
「お前らって、ゆがんでるよなあ」
このまま姉妹喧嘩に突入しようかという修羅場を止めたのは、間延びした猫耳少年の言葉だった。
「ご、ごめんね。話はまた帰ってからするね。そろそろ家を出ないとやばいから。行ってきます!」
猫耳少年、セサミの言葉に我に返ったミコはその後、慌てて歩武の部屋を出ていった。バタバタと階段を下りる音が聞こえた。
〇
「何の用事なんだろう」
自分の部屋から妹が出て行った。妹にも妹の生活がある。なぜ、今まで気づけなかったのだろう。歩武は自分がそこまで妹に依存していたことを知り、背筋が凍る思いがした。そんな歩武の深刻そうな顔を見た二人は、顔を見合わせて頷き合う。
ぼん
突然、二人の周りに白い煙が立ち上る。何事かと驚いた歩武は次の瞬間、何者かにベッドに押し倒されていた。
「な、何事」
押し倒した相手を確認しようと自分の腹の上に乗っている存在を見ると、白と黒のぶち模様の猫と白い毛に赤い瞳のウサギだった。
「せ、セサミとアルだったのか。いきなりとびかかってこないでよ。驚くじゃない」
見知った存在が自分にとびかかってきたことに安堵していると、二匹はぐりぐりと頭を歩武の腹にこすりつける。可愛らしい様子に思わず笑みがこぼれる。恐る恐る二匹の身体に手を触れると、一瞬びくっと震えたものの、抵抗する様子はなかった。
「ちゃんと触れることができるんだね。本物みたいに温かくはないけど、ふわふわしてるね」
彼らはすでに亡くなった存在で、本来ならこの世に居てはいけない存在である。しかし、歩武の手にはしっかりと動物特有のふわふわとした毛並みを感じることができた。
しばらく歩武は彼らの身体を優しくなで続けていた。初めて会った時は半透明で触れることができなかったのに、急に触れることができるようになった理由を歩武は考えることはなかった。
〇
「ねえ、ミコが帰って来ないんだけど」
「あいつのことなら心配することはないだろ」
「そうそう、僕を食おうとした奴だし、心配しなくても」
「でも……」
ミコが出かけてから一日半が経過した。今日はもう、日曜日の夜である。土曜日の夜は知り合いの家に泊めてもらったのだろうと思ってあまり心配はしていなかったが、日曜日の夜になっても、ミコは帰宅しなかった。
「そもそも、あいつは本当にお前の妹なのか?よく思い出せよ。いつからあいつはお前のもとで暮らすようになった?」
歩武は夕食と入浴を終えて自分の部屋にいた。セサミとアルはこの週末はずっと歩武の部屋にいた。たまに外に出かけることがあったが、ほとんどの時間を部屋で過ごしていた。その間に歩武たちの仲は深まり、気さくに話せるような間柄にまで進展した。セサミの鋭い指摘にミコは頭を抱えたくなる。
両親はミコが帰って来ないことを特に心配する様子はなかった。日曜日の夕食時、歩武は、ミコが心配だと口にした。その瞬間だけ、思い出したかのように心配するだけだった。まるで、歩武が口にするまでミコの存在を忘れていたかのようだった。最近感じた、ミコに対する疑念がさらに膨れ上がっている、それでも妹だと信じたい心が、疑念を心の奥底にしまい込む。
「ミコは私の妹で間違いないよ。だってそうでしょ。今までだって、これからだって、ずっと一生、私のたった一人の妹なのよ……」
「自分に言い聞かせている時点で、妹ではないと言っているようなものだけど」
「うるさい!」
セサミに続いて、アルも歩武の心をへし折るかのような言葉を吐く。そんなことを言われても、歩武はミコが妹だと信じたかった。そもそも、歩武の妹でなかったら、ミコという存在は何者なのだろう。考えるだけで怖くなる。
「とりあえず、家に帰らなくても明日、学校には来ると思うけどな。隣のクラスだったよな。きっと、昼休み辺り、当たり前のようにお前の前に現れる気がするぞ」
「もしかしたら、あの時の彼氏とか言っていた男の家に泊っていて、今頃、二人でラブラブな時間を過ごしているかもしれないし」
歩武の心配そうな顔にセサミとアルが慌てて彼女なら大丈夫だと励ます。ちなみに、土曜日に猫とウサギの姿で押し倒して以来、彼らはずっと動物の姿のまま過ごしていた。ベッドに腰かけている歩武のひざの上に二匹はごろりと横になっていた。二匹の気遣うような視線に歩武は心配かけまいとカラ元気で答える。
「そ、そうだよね。ミコのことだから心配いらないよね。明日になったら学校で何食わぬ顔で挨拶してくるよね。うん、絶対そうだ」
妹のミコは今日は家に帰って来ない気がした。帰って来ない妹のために夜更かししても仕方ない。歩武は自分に言い聞かせると、二匹を膝から追い払い、ベッドから立ち上がる。明日の学校の準備を素早く終えると、またベッドにダイブする。セサミとアルも彼女に会わせて一緒にベッドに飛び乗った。
「お休み、セサミ、アル」
『お休み、歩武』
二人がいてくれて本当によかった。ミコがいない夜を過ごすかと思うと、とても眠れる状況ではない。土曜日の夜は目が冴えっぱなしだった。それを解消してくれたのが彼らだった。ずっとそばに寄り添ってくれたおかげで、歩武は何とか眠ることができた。
今日もまた、彼らに救われてしまった。歩武は二匹を抱え込み、目をつむる。彼らはおとなしくされるがままだった。
歩武はミコがいない夜も、ぐっすりと眠ることができた。
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