私の大事な妹は

折原さゆみ

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「どうして、私を連れ出したの?」

 学校を出てすぐに、歩武は高木に質問する。ミコがいなかったのは、多少は予想ができたが、理由がわからないというのは気がかりだった。もっと詳しくミコのことを聞きだすことができたかもしれないと、口調には疑問と怒りが含まれていた。

「ううん。なんていうか、この前、ふくちゃんの件でお世話になったお礼?みたいな感じかな。いや、違うか。あのね、実は」

「やっと学校から出たと思ったら、こんなところで長居をするつもりなのか。オレは遠野さんを学校から離れた場所まで連れてきてほしいと言ったはずだけど」

 質問に答えかけた高木だったが、途中で邪魔が入る。聞き覚えがある声に驚いて確認すると、二人の前には清春が立っていた。今日もまた、前髪で目を覆い隠し、黒ぶちのメガネをかけていた。他の生徒にばれないように変装しているらしい。


「先輩がどうして……」

「私は言われたとおりに遠野さんを学校から連れ出しました。じゃあ、遠野さん、後は先輩と話したらいいよ。私は家に帰るから」

 なぜ、清春は高木を使って歩武を学校の外に呼びだしたのだろうか。昨日は学校内ではミコの救出作戦はできないと言っていた。だから、必然的に放課後になるということはわかっていた。しかし、わざわざ高木を使って歩武を呼びだしていることが疑問だった。

 高木は歩武を清春のもとに連れていくことが目的だったようで、目的が達成できたためか、すぐにその場からいなくなった。残された歩武と清春は、いつまでも通学路に立ち止まって話をするわけにもいかず、ゆっくりと歩き出す。向かっている先は歩武の家だった。


「昨日の今日で申し訳ないけど、遠野さんの家にお邪魔してもいいかな」

「別に構いませんけど、ミコのことで何か、進展があったんですか?」

 歩きながら清春が歩武に話しかける。当然、二人の会話の内容はミコのことになり、清春の言葉にミコに何かあったのかと心配になる。歩武の予想は的中してしまい、清春は言いにくそうに口を開いたり閉じたりしながらも、歩武の質問に答えていく。

「まあ、進展と言えば進展だね。事態はあまり良い方向に進んでいないみたいだ。昨日、兄からオレ宛に電話があった」

 清春は昨日の兄からの電話の内容を思い出す。兄はミコの生存権は自分にあると言ってきた。そして、一つの要求を弟に突き付けてきた。


『オレが預かっている化け物が『お姉ちゃん』には手を出すなと言っていてな。そのお姉ちゃんとやらの身柄をこちらに引き渡してもらえないか』

 兄の要求にすぐには応えることができなかった。隣で心配そうに清春を見つめる彼女に苦笑しながら、電話の内容をかいつまんで説明する。

「君の妹さんはやはり、兄に捕まってしまったようだ。兄に捕まるほど弱いとは思えないが、弱みを握られた可能性がある」

「捕まった……。じゃあ、ミコは今、私の助けを待っているということ。先輩!」

 歩武は清春の話の途中にも関わらず、大声を出す。歩武の反応を予想していた清春は、特に驚く様子はなく、淡々と説明を続ける。

「落ち着いて。捕まってはいるが、おそらく、まだ君の妹は無事だ。兄の最近の傾向だと、祓うべき相手だと判断した相手に対して、いたぶる趣味がある。弟のオレでも彼女は興味深い相手だから、兄にとっても同じはずだ。だから、兄が興味を持っている間に救出する必要がある」

「いたぶるって、ミコは本当に無事なの?私たちがこうして話している間にも、先輩のお兄さんに……」

 殺されてはいないとは言われても、清春の兄に死ぬよりひどいことをされているかもしれない。いつもミコに守られてばかりなので、今回は歩武が助ける番だ。

「確かに何をされているのかはわからない。オレとしても、今回の件を機に、兄にオレたちの仕事から外れてもらうように仕向けたい」

 清春たち家族は、兄の身勝手な行動に嫌気がさしていた。払う必要もない霊を無理やり払ってしまう兄のやり方に不満があった。

 とはいえ、真っ向から反論しても兄はまったく取り合ってくれない。悔しいことに、実力は兄の方が弟の清春よりも数段上だった。しかし、今回の件でミコという存在を兄から救出することができたら、一矢報いることができるかもしれない。清春にはミコの救出を手伝う理由があった。親切心からだけでなく、下心も持ち合わせていた。


「ということだから、できるだけ兄のもとに向かうのは早い方がいい。だからこそ、昨日の今日で、遠野さんの家で作戦会議をしようと思ったわけ」

「わかりました。もともと、すぐにでもミコのもとに行って助けてあげたかったから、作戦会議を私の家ですることに問題はありません」

「話が早くて助かるよ。それに、君の家に居る彼らも、今回の件で役に立ちそうだ」

 話しているうちに、歩武の家に到着する。昨日のように、帰宅が遅いということはなかったので、セサミたちが玄関前で待ち構えていることはなかった。




「ただいまあ」

 幸い、両親はまだ帰宅していなかった。家の駐車場には車が一台も停められていなかった。急を要するとはいえ、両親に清春の説明をするのは面倒だったので、運が良かったと歩武は胸をなでおろす。

 カバンから鍵を取り出して玄関のドアを開ける。家の中に入ると、大声で帰宅の挨拶をする。両親がいないことは明白だが、それでも今の歩武の家には、彼ら以外にも住人が存在した。

「そんなに大声出さなくても、聞こえるよ」

「今日は早かったな。ていうか、またそいつを連れてきたのかよ」

 ほどなくして、二階から彼らがやってきた。猫耳少年とうさみみ少年二人がやってくるのを見て、清春は苦笑する。

「君たちはやっぱり、遠野さんの家に居候していたんだね」

「だったらどうだっていうの?歩武はどうしてこんな奴を家に引き入れようと思ったのかな?場合によっては、僕たちの敵になるかもしれないんだよ」

「そうそう、オレは、あまりいい気はしないけどな」

 歩武が清春を連れてきたことに、セサミとアルは不満のようだ。不機嫌そうな態度を隠そうともせず、清春を睨んでいる。対する清春は、彼らの視線を受け流して、家に上げてくれるよう歩武に頼み込む。

「まあまあ、これは遠野さんの頼みでもあるから、オレをそんなに邪険に扱わない方がいい。とりあえず、家に上げてくれるかな。玄関で話していても埒が明かないからね」

「す、すいません、セサミもアルも、先輩をそんなに睨まないで。今から、ミコの救出作戦を立てるから、セサミたちも協力してね」

 二人はミコに対して、あまり良い印象を持っていないが、今回はそうも言っていられない。ことは一刻を争うのだ。使える存在はどんどん使っていきたいところだ。歩武は二人にもミコの救出を手伝ってもらう気満々だった。


 三人は歩武の部屋に向かうことにした。

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