私の大事な妹は

折原さゆみ

文字の大きさ
23 / 32

23代わりの存在

しおりを挟む
「ここがオレの家だよ。両親は泊りがけで仕事をすることが多くて、今日もまた仕事で帰って来ないから、作戦会議にはもってこいだね」

 15分程歩いたところで、清春の家に到着した。歩武の家からそう遠くないということを知り、つい、尋ねてしまう。

「先輩って、もしかして、私と小学校だったんで」

「違うよ。最近、ここに引っ越してきたんだ。この家は、母方の実家になるんだけど、祖父が亡くなって、祖母も老人ホームに入ってしまって、空き家になっていたところをオレ達家族が有り難く使わせてもらうことにした」

「そうなんですか」

 間髪入れずに否定されてしまったが、そんなに歩武と一緒の小学校だと嫌なのだろうか。

「その話は置いておいて。さっさと家に入ろう。夜はまだ冷えているから、このまま外に居たら、風邪をひいてしまう」

 考え込む歩武の背中を押す。清春が玄関のカギを開けて家の中に入っていく。家の中に入る前に、改めて外観を確認する。普通の一軒家で、歩武の家よりは古い印象があったが、それでも周りの家と比べて目立つということもない。しかし、屋根の瓦が妙に印象に残った。歩武の記憶に引っかかることがあった。


「そういえば、この家、見覚えあるかも。確か、偏屈じいさんとばあさんが住んでいることで有名だったかもしれない」

「だから、言いたくなかったんだよ」

「そうか、彼らがいなくなって、そこに先輩が引っ越してきたのか……」

 ぼそりとつぶやいた独り言を目ざとく聞きつけた先輩が大げさに嘆いて見せる。どうやら、祖父母の悪い噂を自分と一緒にしないでほしいということらしい。

「早く入ろうぜ」

 セサミの言葉で、歩武と清春は互いに顔を見合わせ、頷き合う。四人は清春の家に入った。



 家の中も、外観と同じようにありふれた普通の内装だった。玄関を入って右側にキッチンとリビングがあり、奥には二階に続く階段がある。きょろきょろと辺りを見渡していた歩武に先輩が苦笑する。

「他人の家に入ったことはないの?」

「いや、ミコと一緒にいる時間が多かったので、小学校も中学校も、友達と呼べる相手はいなかったので」

 先輩は歩武の言葉に一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐにゴホンと咳ばらいをしてごまかす。

「今にして思えば、私はどれだけミコに依存して生きてきたのかわかります。実は、他人の家に招かれたのは、これが初めてかもしれません」

「ううん。その初めてが、男の先輩の家っているのは、なかなかやばいかもね。よかったよ。君たちが遠野さんの後をついてきてくれて。そうでないと、オレの気持ち的に落ち着いて作戦会議なんてできないから」

 深刻そうな顔で話す歩武に、清春は努めて明るい声で言い放つ。そのまま彼女たちをリビングに案内した。

夕食は家にあった即席麺で済ますことになったが、急の訪問でごちそうが出るとは思っていなかったので、歩武は文句を言わずにさっさと麺をすすって食べ終える。セサミとアルたちは、食事を必要としないため、その場で興味深そうに歩武たちの食事の様子を観察していた。



「ねえ、歩武ってさ、先輩のことを実際にどう思っているの?」

 清春が夕食後、風呂の準備をしてくると席を離れた瞬間を待っていたのか、急にアルが口を開く。先ほどまで黙っていたセサミも同じことを聞きたかったようだ。お尻から出ている尻尾が揺れている。

「どうって言われても……」

 急な質問だったが、歩武は真剣な表情で見つめてくるので、彼女なりの先輩に対する思いを素直に口にする。

「特に何も思わないかな。ミコを助けるために協力してくれる先輩としか思っていないよ。そもそも、私と先輩は、こんなことがなければ接点もなかった。住む世界が違うからね。何を期待しているのか知らないけど」

 色恋沙汰を期待しているのなら、無駄だから。


 動物のくせに、人間みたいに一丁前に色恋沙汰に興味を持っているのだろうか。だとしたら、歩武に憑りついても面白くはないはずだ。今まで、好きになった人はいないし、気になった人もいない。常に頭の中をしめていたのは妹のミコのことだった。

「ふうん。歩武ってさ、もし、あいつがいなくなったら心が病んで自殺とかしそうだなって思って。今から心配になっていたんだ」

「自殺されても困るけど、でもさ、あながちこいつの言うことは間違っていないと、オレも思う。最悪、自殺より性質の悪いことが起こるかもな。例えば」

 あいつをこの世から消した奴を皆殺しにするとか。

 彼らは、色恋沙汰になど興味を持ってはいなかった。歩武の予想を裏切り、かなり真剣に歩武の将来を案じてくれていた。とはいえ、かなり歩武のことを危ない人と認識している。

「ミコがいなくなるなんてありえないけど、もし、もしも、ミコが私のもとからいなくなっても、私は」

 その後に続く言葉が口から出てこない。途中で喉元に引っかかり、どうしても最後まで言葉が続かない。

 ただ、「ミコがいなくなっても、自殺はしないし、いなくなった原因を作った奴らを皆殺しにしない」と言えばいい。普通の思考の持ち主なら簡単に口にできる言葉である。それが今の歩武にはできなかった。


「こりゃあ、本当に重症だね。まあ、あいつだって不老不死なわけじゃないし、いずれ、歩武の前からいなくなる時が来る。その時の心がまえを今からしておくことも必要だと僕たちは言いたいわけだよ」

「そうそう、そう言うことだから」

 自分たちの言葉が予想外に歩武に深刻な影響を与えたことを知り、慌てて二匹は弁解する。しかし、ミコがいない将来を考えなくてはいけないということに、歩武は精神的ダメージを負っていた。



「何か、オレが風呂の準備をしている間にずいぶんと話が盛り上がっていたみたいだな。お葬式みたいな空気になっているが、この短時間で何があった?」

 風呂の準備を終えてリビングのソファに座る歩武たちの元に戻ってきた清春は、部屋の空気がどんより重く暗いものになっていることに気付いた。雰囲気を和らげようと軽い口調で問いかけるが、その問いは逆効果だった。

「ねえ、お前は歩武の妹に代わる存在になりえる?」

 うさ耳を生やした少年が清春の問いを無視して逆に質問する。どう答えたら正解だろうか。ちらりと部屋の空気が暗くなった原因だろう人物を横目で確認する。

「ミコ以外にミコの代わりなんていないよ。ペットじゃあるまいし。先輩に変なこと聞かないで」

「だけど、実際問題、代わりになるかと聞かれたら、代わりにはならなそうだよな」

 清春に対しての彼らの評価は最悪らしい。先ほどのうさ耳少年とは別の、もう一人の猫耳少年が口を開く。人外の存在と比較されて、代わりにはならないと言われてしまう。

「あいつの代わりになるなんて、死んでもごめんだ。そもそも、オレ達は噂の当人を助けるためにここに集まっている。そんなにオレのことを馬鹿にするなら、この話はここで打ち切りだ。ハイ。解散。さっさと家に帰れ」

カチンと来た清春はつい、言ってはいけない言葉を口にしてしまう。この場で最も口にしてはならない言葉だと気づいたが、もう遅い。

 しばらく、その場に沈黙が流れる。最初に口を開いたのは、意外にも歩武ではなく、彼女に憑りつく二人の少年だった。

「別にお前の力なんてはなから期待なんてしていない。最初から、僕たちだけで探しに行けばよかったんだ」

「人間の奴なんかに頼むからこうなる。結局、人間なんて都合が悪くなると、すぐに裏切る。最低な生き物だ。行くぞ。オレ達がそばに居れば、夜だろうが安全だ」

「う、うん。先輩。今までありがとうございました。今後は私たちだけで妹を取り戻します。もしかしたら、先輩のお兄さんにひどいことをしてしまうかもしれませんが、多めに見てくださいね」

 それに同調して、歩武もソファから立ち上がり、ぺこりと頭を下げて帰り支度を始める。あまりにもあっさりとした幕引きに、戸惑う清春だが、ここで彼女を家に帰してしまったらまずいという本能が働いた。

「ま。まて。そんなに簡単にオレは人を裏切ることはしない。さっきのは、遠野さんの妹と比較されて、ついかっとなってしまっただけだ。とりあえず、風呂にでも入って、少し落ち着いた方がいい。オレも、その間に頭を冷やすから」


 そもそも、彼らが相手にするのは、自分の兄なのだ。兄相手にただの中学生と彼女に憑りつく二匹の動物の霊だけでは到底太刀打ちできるとは思えない。力がある自分でもきっと、彼には敵わない。そんな兄と対峙するとは命がけの行為でもある。だから、自分は彼らを引き留めたのだ。

 清春は己の発言に勝手に弁解していた。まずいとは思ったが、それでも彼らを止めなければならないという理由にはならない。さっさと彼女たちとの縁を切った方がいいはずなのだ。

 よくわからない自分の心の動きに戸惑っていたが、その間に、彼女の方でも考えることができたらしい。三人はこそこそと話し合う。

「私もつい、売り言葉に買い言葉で帰るって言ったけど。今の状況でお兄さんの家を知っているのは先輩だけだよ。それに、相手は先輩のお兄さんだから、性格とか行動とかがわかる人がいた方が救出には有利だよね」

「まあ、それはわかるが、本当にそれだけで協力を続けてもいいものか。だって、相手はおれたち人外を祓う仕事をしている奴だ。慎重になってもいいと思う」

「どっちがいいかなんてわからないねえ」

 5分程、歩武たちは先輩の家に泊るか話し合っていた。その間に、実際にどうやって彼女の妹らしき存在を兄のもとから奪い返すかの算段を立てていた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...