私の大事な妹は

折原さゆみ

文字の大きさ
28 / 32

28ミコの居場所を知る方法

しおりを挟む
 車はどんどん公園から遠ざかっていく。車を運転しながら、清光はどこに向かおうか悩んでいた。自分の家に弟たちを招き入れるのは論外だった。せっかく安倍家から出ることができたのだ。彼らを家に案内したら、引っ越しまでして行方をくらましている意味がなくなってしまう。かといって、彼らの要求通りに監禁している人外の存在のもとに連れて行く気もなかった。

「どうしたものかねえ」

 ぼそりとつぶやいた言葉は静かな車内に思いのほか響いた。

「兄貴に与えられた選択肢は二つだけだ。兄貴の家に案内するか、こいつの妹がいる場所に案内するか」

「選択肢があるのはありがたいけど、それは嫌だなあ。だから、第三の選択肢を選んでもいいかな。第三と言っても、僕がやるべきことは二つになるね」

①清春とそこの彼女の記憶をいじって、そのままそれぞれの家に送り届ける
②彼女が連れている二匹の人外はこちらで回収、そのまま消去する

 清光は弟の選択肢を無視して、自分が考えた新たな選択肢を口にする。それは、清春たちにとっては最悪なものだった。


「車を停めろ」

 このまま車に乗っていたら、何をされるのかわからない。車を運転しているとはいえ、何か自分たちに仕掛けてくるかもしれない。歩武と清春が対応策を考えている間にセサミが口を開く。

「お前の気配は覚えた。後は、そこからあいつの監禁先を割り出すだけだ。これ以上、この車に乗っているのは無意味だし、危険だ」

 アルもセサミに続いて口を開く。なにやら、ミコの居場所を掴めたような感じに見える。歩武は彼らの言葉を信じることにして、清光に頼み込む。

「私からもお願いします。ミコのいる場所にも、あなたの家にも案内してくれないのなら、車に乗せてもらっている意味がありません」

「まったく、勝手に降りようとしやがって。兄貴、そう言うことだから、乗ってすぐだけど、オレ達は車から降りるから。どうせ、こいつの妹の居場所は教えてくれないんだろ?」

 清春も歩武たちの言葉に加勢する。


「そこまで僕の車から降りたいのなら、降りてもいいよ。ちょうど、清春たちが通っている学校があるから、そこで降りるといいよ」

 清光はこの状況を面白いと感じていた。どういった理屈かわからないが、人外の彼らには清光の気配からミコがいる場所を探し当てるすべを持っているようだ。しかし、彼女を監禁している倉庫には結界が張ってある。そう簡単に見つけられるはずがない。

「僕のもとに来て、君の妹を取り返せることを祈っているよ。とはいえ、僕も祓い師という人間だから、そんなに悠長に妹を消すのを待ってはいられないよ。そうだな。今日一日、彼女をこの世から消すのを待ってあげよう。それまでに僕の居場所と彼女の居場所を探り当てたら、君たちの勝利かな」

 待っているよ。


 案外あっさりと、清光は歩武たちが通う中学校の校門前で車を停めた。そして、歩武たちが車から降りるのを確認すると、そのまま車を走らせてどこかに走り去っていく。拍子抜けするほどあっけなく、歩武たちは車から降ろされた。

 去り際に残した言葉が歩武たちの心に重くのしかかる。中学校前で降ろされた歩武たちはとりあえず、清春の家に戻ることにした。


「兄貴には会えたけど、やっぱり、そう簡単に居場所を掴ませてはくれなかったな」

「セサミたちは、何かわかったみたいだけど、どうなの?」

「どうと言われたら、どうにかなりそうだとしか言えないな」

「詳しい話はこいつの家でしてやるよ」

 歩武たちは雲一つない晴天の下、日差しと暑さに耐えながら、清春の家を目指して歩き出した。




「それで、これからどうするんですか?お兄さんの居場所も、ミコの居場所もわからずじまいでしたけど」

 今朝、先輩の家から出たはずなのに、また戻ってきてしまった。清春の家のリビングで歩武は今後の計画について清春に問いかける。その答えを口にしたのは清春ではなかった。

「ねえ、歩武。僕、こいつのお兄さんにも言ったけど、あいつの居場所、わかったよ。でも……」

 ためらいがちのアルの言葉に歩武は首をかしげる。清春の兄に反論した時の威勢はなくなり、自身がなさそうにしている。頭から生えたうさ耳がたらりと垂れてしまっていた。

「いまさら、言葉を濁したって仕方ないだろ。どうせ、あいつのもとに向かったらわかることだ」

「どこにミコがいるの?わかるって何?もしかしてミコはもう」

『それは大丈夫』

 何やら意味深な言葉をつぶやくセサミに、思わず言葉を荒げて問い詰めてしまう。突然の大声に驚いたセサミがびくっと頭に生えた猫耳を揺らす。隣のアルも同じように耳を揺らしていた。しかし、すぐに歩武の言葉に返事する。息の合った言葉に少しだけ安心する歩武だが、彼らの話を詳しく聞く必要がある。

「お前ら、あいつの居場所が分かったような話し方だが、どうやって居場所を特定した?兄貴のことだから、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないはずだ」


「ジリリリリリ」

 歩武たちの会話は電話の音に中断された。音の在りかを探ろうと歩武が辺りを見渡すと、鳴っていたのは清春の家のリビングに設置されていた固定電話からだった。ディスプレイには『父』と表示されている。

「ああ、無視していいよ。きっと仕事の依頼で帰りが遅くなるという連絡だろう」

 電話の着信音が鳴り響く中、清春が無視していると、しばらくして音が鳴りやんだ。電話の音で思い出したのは歩武の両親のことだった。先輩の家に外泊するとは言ったが、今日何時ごろに家に帰るかは伝えていない。両親が心配していないか不安になったが、首を振って考えることを放棄する。さっさとミコを救出して一緒に帰れば良いだけの話だ。

「電話……」

 他のことを考えようとして、ふとミコが携帯を持っていたかどうかが気になった。そしてすぐにその疑問は解決する。歩武が持っていないのに、ミコが持っているはずがなかった。携帯電話を持っていたら、電話して居場所がすぐにわかったのになと思ったが仕方ない。


 ゴホン。

 清春の咳ばらいの音で、歩武は自分が今、何処にいて何をするべきかを思い出す。電話の音に中断されていたが、セサミたちがミコの居場所がわかりそうだという話をしていたのだ。清春と歩武がセサミたちに視線を向けると、彼らは顔を見合わせて頷き、説明してくれた。

「なんていうか、僕たちは人間の気配を察知できるし、同じ人外同士の気配なら、探せないこともないんだよ」

「あいつが歩武のことを探せていたのもそのおかげだな」

「そっか」

 彼らは人外の存在でそんなこともできたのか。道理でミコが私のことを見つけられないはずがなかったと、歩武はミコとの過去を思い出して納得する。


「それで、その力を使ってみても、あいつの居場所はわからなかった。何かに阻まれるような感じはあったけど、こいつの兄貴に会って確信した。阻まれている奴の気配があいつの物と同じだった」

「だったら、ミコの居場所がわかるってこと?だったら今すぐに」

『それは無理』

「どうして!」

 居場所がわかるのだったら、すぐにでも助けに行くべきだ。何をためらうことがあるのだろうか。

「兄貴の結界のせいか?」

 歩武の疑問を解決したのは清春だった。どうやら心当たりがあるらしい。

「あいつがそう簡単に尻尾を掴ませないと言っただろう?おそらく、あいつの結界の中に遠野さんの妹はいると思うけど、その結界を何とかしないと、中にいる妹は助けることは不可能だ」

「そんな」

「一つだけ、結界を破って助け出す方法があるけど、聞いてくれる?できれば、こんな方法を僕たちは取りたくはないんだけどね」

「でも、オレ達よりもあいつの方が歩武の心の割合を占めているからな。ここまでって感じだな。オレ達は覚悟ができている」

 絶望を突きつけられた歩武に告げられたのは、さらに絶望を突きつける彼らの言葉だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...