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16学校での噂
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「おはよう」
「おはよう」
教室にたどりついた愛理は、クラスメイトからの挨拶に応えて自分の席に着く。席に着くが、特にやることもなく、窓を眺めながら、今朝見た夢について考えていた。
朝からずっと考えていたが、夢のことが頭から離れることがなかった。あれは、時間売買を行った老人だった。あのようなものを時間売買のたびに視ることになるのだろうか。
「人のプライバシーを覗き見るみたいでいやだな」
「何が嫌だって?」
「大河」
今は休み時間。天気がいいので、クラスメイトの大半は校庭に出て、ドッジボールや鬼ごっこなど、子供らしい遊びに興じている。教室に残っているのは、読書好きの女子が一人、宿題を忘れて一生懸命やっている男子が一人、そのほかには、愛理と愛理の幼馴染である大河だけだった。
「何をしけた顔をしているのかと思えば、大きな独り言。美夏は元気が取り柄だったのに、人が変わったみたいにおとなしくなったと思えば、お前も前にもまして生気がない顔をしている」
「だからどうだっていうの。美夏がああなったのは、美夏のせいじゃないでしょう。美夏を責めることは許さない!」
「わかっているよ。まあ、そんなことは、今はどうでもいい。噂で聞いたんだが、お前、年上の男性と怪しい関係なんだって?」
「はあ」
大河は声を潜めて愛理に問いかける。教室にいた他の二人は、愛理たちに興味がないのか、黙々と読書や宿題をしていた。
「うちの親の友達が、お前が公園で怪しい男と話しているのを見たってさ。通報しようかと思ったけど、すぐに車に乗っていなくなったから、通報しようがなかったんだってさ」
「そ、それは」
「おまえさ。ここ最近、授業が終わるとすぐに教室から出ていくよな。それと関係があるのか?何か、危ないことに首を突っ込んでいるんじゃ」
愛理は動揺していた。まさか、知り合いに百乃木との接触を見られているとは思わなかった。どうにかごまかそうと言い訳を考えていると、タイミングよく、休み時間終わりのチャイムが鳴り響く。
「ちゃ、チャイムが鳴ったから、次の授業の準備をしなくちゃ。その話は、わ、私じゃないよ。他人の空似なんじゃないの?」
「そんなわけ」
話はそこで終わった。次の授業は音楽で、音楽室に移動しなければならない。愛理は急いで教科書とリコーダーをロッカーから取り出し、音楽室に急いだ。
愛理は残りの半日を、大河の疑うような視線に絶えながら授業を受けることになった。
「さようなら」
今日は、二回目の時間売買が行われる予定だった。集合場所は前と同じ、いつもの公園だった。大河に言われたこともあり、愛理は、今後は慎重に行動しようと思っていた。幸い、今回は集合時間が夕方五時となっていたため、時間に余裕があった。急いで家に帰らなくても、間に合う時間だった。大河の視線を振り切って、家に着くと、すでに家には美夏が帰宅していた。
「ただいま。珍しいね。美夏が先に家に帰っているなんて」
事件の前までは、一緒に学校から帰宅することが多かったが、事件後、記憶を失った美夏は一人で家に帰るようになり、愛理と一緒に帰宅することはなかった。しかし、美夏の友達が美夏を心配して一緒に帰っているので、家に着くのは、愛理の方が早いことが多かった。
「おかえり、愛理。愛理は、私に隠し事していないよね?」
「隠し事、いったい何のこと?」
「いいや、ないならいいんだよ。ただ、友達が、愛理が怪しい男と」
「それは噂だよ、他人の空似。大河も言っていたけど、まちがいだから、気にしなくていいよ」
「わかった」
愛理は玄関で靴を脱ぎ、美夏のそばを通り抜けようとする。そういえば、今日は自分のことを愛理と呼んでくれた。記憶が戻りつつあるのだろうか。
「おねえちゃん」
ぼそっと美夏がつぶやいた。ささやくような小さな声で言われた言葉を愛理は聞き取ることができなかった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
愛理が何か言ったかと美夏に問いただすが、何と言ったのか答えることはなかった。
「おはよう」
教室にたどりついた愛理は、クラスメイトからの挨拶に応えて自分の席に着く。席に着くが、特にやることもなく、窓を眺めながら、今朝見た夢について考えていた。
朝からずっと考えていたが、夢のことが頭から離れることがなかった。あれは、時間売買を行った老人だった。あのようなものを時間売買のたびに視ることになるのだろうか。
「人のプライバシーを覗き見るみたいでいやだな」
「何が嫌だって?」
「大河」
今は休み時間。天気がいいので、クラスメイトの大半は校庭に出て、ドッジボールや鬼ごっこなど、子供らしい遊びに興じている。教室に残っているのは、読書好きの女子が一人、宿題を忘れて一生懸命やっている男子が一人、そのほかには、愛理と愛理の幼馴染である大河だけだった。
「何をしけた顔をしているのかと思えば、大きな独り言。美夏は元気が取り柄だったのに、人が変わったみたいにおとなしくなったと思えば、お前も前にもまして生気がない顔をしている」
「だからどうだっていうの。美夏がああなったのは、美夏のせいじゃないでしょう。美夏を責めることは許さない!」
「わかっているよ。まあ、そんなことは、今はどうでもいい。噂で聞いたんだが、お前、年上の男性と怪しい関係なんだって?」
「はあ」
大河は声を潜めて愛理に問いかける。教室にいた他の二人は、愛理たちに興味がないのか、黙々と読書や宿題をしていた。
「うちの親の友達が、お前が公園で怪しい男と話しているのを見たってさ。通報しようかと思ったけど、すぐに車に乗っていなくなったから、通報しようがなかったんだってさ」
「そ、それは」
「おまえさ。ここ最近、授業が終わるとすぐに教室から出ていくよな。それと関係があるのか?何か、危ないことに首を突っ込んでいるんじゃ」
愛理は動揺していた。まさか、知り合いに百乃木との接触を見られているとは思わなかった。どうにかごまかそうと言い訳を考えていると、タイミングよく、休み時間終わりのチャイムが鳴り響く。
「ちゃ、チャイムが鳴ったから、次の授業の準備をしなくちゃ。その話は、わ、私じゃないよ。他人の空似なんじゃないの?」
「そんなわけ」
話はそこで終わった。次の授業は音楽で、音楽室に移動しなければならない。愛理は急いで教科書とリコーダーをロッカーから取り出し、音楽室に急いだ。
愛理は残りの半日を、大河の疑うような視線に絶えながら授業を受けることになった。
「さようなら」
今日は、二回目の時間売買が行われる予定だった。集合場所は前と同じ、いつもの公園だった。大河に言われたこともあり、愛理は、今後は慎重に行動しようと思っていた。幸い、今回は集合時間が夕方五時となっていたため、時間に余裕があった。急いで家に帰らなくても、間に合う時間だった。大河の視線を振り切って、家に着くと、すでに家には美夏が帰宅していた。
「ただいま。珍しいね。美夏が先に家に帰っているなんて」
事件の前までは、一緒に学校から帰宅することが多かったが、事件後、記憶を失った美夏は一人で家に帰るようになり、愛理と一緒に帰宅することはなかった。しかし、美夏の友達が美夏を心配して一緒に帰っているので、家に着くのは、愛理の方が早いことが多かった。
「おかえり、愛理。愛理は、私に隠し事していないよね?」
「隠し事、いったい何のこと?」
「いいや、ないならいいんだよ。ただ、友達が、愛理が怪しい男と」
「それは噂だよ、他人の空似。大河も言っていたけど、まちがいだから、気にしなくていいよ」
「わかった」
愛理は玄関で靴を脱ぎ、美夏のそばを通り抜けようとする。そういえば、今日は自分のことを愛理と呼んでくれた。記憶が戻りつつあるのだろうか。
「おねえちゃん」
ぼそっと美夏がつぶやいた。ささやくような小さな声で言われた言葉を愛理は聞き取ることができなかった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
愛理が何か言ったかと美夏に問いただすが、何と言ったのか答えることはなかった。
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