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53エピローグ
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世間を騒がした児童連続不審死は、犯人が遺体で見つかったため、捜査はそこで終了となった。時間売買会社の取締役が、利益に目がくらんで児童に時間売買を強制させていたということになっており、時間売買による代償が世間に知られることになった。
「今日は二件の時間売買が予定に入っているよ。お姉ちゃん」
「わかった。お母さん、塩の管理は大丈夫?」
「誰に言っているの?きちんと新しいものに変えているから大丈夫よ」
『相変わらず、頑張っているね。頑張りすぎて身体を壊さないようにしなよ』
『お前らに死なれると、オレ達の退屈しのぎがなくなるから、できるだけ長生きしろよ』
事件から15年後、愛理は大学を卒業して社会人として働いていた。事件直後、時間売買についての議論が活発となり、時間売買そのものが政府によって禁止された。今では時間売買を行う業者はなくなり、時間売買というものが昔のものとなりつつあった。亡くなった最上の会社はもちろん、百乃木の会社も倒産となった。
そんな中で、愛理は、昼間は会社の一般事務員として働きながら、夕方や休日に時間売買を行っていた。事件があってから、ずっと時間売買について考えていた。社会人になって三年目になり、ようやく決意が固まった。
愛理は時間売買について真剣に考えた結果、自分なりの考えをまとめ、それを家族や白亜、黒曜に話すことにした。
「私、世間が時間売買を禁止しているけど、時間売買をしていきたいと思ってる」
「愛理、どうして!あんな危険な事件が起きてしまったのよ。それなのにまだそんなことを言っているの!」
「お姉ちゃん、本気なんだね」
「私は反対だな」
当然、家族には猛反対された。しかし、愛理は自分の考えを変えることはなかった。
「確かに、あの事件では、時間売買の闇みたいなものが世間に知られてしまった。でも、それは知らなきゃいけない事実だった。その事実を知っても時間売買したい人は一定数いると思う」
愛理は少しの間、百乃木たちとともに、時間売買を実際に行っていた。その時に出会った人々は、もしかしたら時間売買をしなければ良かったかもしれない。先に亡くなった妻の願いをかなえるため、老人たちの最期を見たくない。理由は様々だが、彼は必死に生きていた。そんな人のことを無下にすることは愛理にはできなかった。
「それにね、私、気付いたんだ。私、時間売買をしたけど、あまり、時間が減ったとか、寿命が縮んだとか感じてないんだよね。あと」
愛理が時間売買をしようと思った理由は、実際に見た時間売買の人々に感化されただけというわけではなかった。その事実を告げると、家族は息をのんで、何を言っていいかわからず、しばらく無言となった。
『気付いていたか。そう、愛理、君みたいな人間を僕は初めて見たよ』
『オレもそうだ』
頭の中で、人外の二人の少年の声が聞こえる。その声に愛理は頷く。
「私ね、ここ数年、まったく姿が変わっていないんだ。たぶん、高校卒業したくらいからかな。だから」
『時間が減らない、だから時間売買をしても自分は大丈夫』
『自分の時間が減らないから、安心して他人に時間をあげられるっていうわけか』
愛理は一度深呼吸して、言葉を続ける。
「私は大丈夫だよ」
最終的に母親と妹の美夏は、愛理が時間売買を行うことに納得してくれた。父親は、最後まで反対し、気味が悪い娘だと言って、家を出て行ってしまった。母親はそのことに憤慨し、離婚にまで発展してしまった。
こうして、愛理は時間売買を行うことになった。とはいえ、愛理を訪ねてきた人全員に時間売買を行うことはなかった。相談に訪れた人から話を聞き、本当に必要なのかを踏まえたうえで、きちんと副作用のことも含めて納得してもらって初めて、時間売買を行うことにしていた。必要とあれば、警察や病院、関係機関に連絡を入れることもしていた。
「時は金なり。清めの塩の縁(えにし)は大切に」
愛理は、訪れた人々には、必ず伝える言葉だ。
「今日は二件の時間売買が予定に入っているよ。お姉ちゃん」
「わかった。お母さん、塩の管理は大丈夫?」
「誰に言っているの?きちんと新しいものに変えているから大丈夫よ」
『相変わらず、頑張っているね。頑張りすぎて身体を壊さないようにしなよ』
『お前らに死なれると、オレ達の退屈しのぎがなくなるから、できるだけ長生きしろよ』
事件から15年後、愛理は大学を卒業して社会人として働いていた。事件直後、時間売買についての議論が活発となり、時間売買そのものが政府によって禁止された。今では時間売買を行う業者はなくなり、時間売買というものが昔のものとなりつつあった。亡くなった最上の会社はもちろん、百乃木の会社も倒産となった。
そんな中で、愛理は、昼間は会社の一般事務員として働きながら、夕方や休日に時間売買を行っていた。事件があってから、ずっと時間売買について考えていた。社会人になって三年目になり、ようやく決意が固まった。
愛理は時間売買について真剣に考えた結果、自分なりの考えをまとめ、それを家族や白亜、黒曜に話すことにした。
「私、世間が時間売買を禁止しているけど、時間売買をしていきたいと思ってる」
「愛理、どうして!あんな危険な事件が起きてしまったのよ。それなのにまだそんなことを言っているの!」
「お姉ちゃん、本気なんだね」
「私は反対だな」
当然、家族には猛反対された。しかし、愛理は自分の考えを変えることはなかった。
「確かに、あの事件では、時間売買の闇みたいなものが世間に知られてしまった。でも、それは知らなきゃいけない事実だった。その事実を知っても時間売買したい人は一定数いると思う」
愛理は少しの間、百乃木たちとともに、時間売買を実際に行っていた。その時に出会った人々は、もしかしたら時間売買をしなければ良かったかもしれない。先に亡くなった妻の願いをかなえるため、老人たちの最期を見たくない。理由は様々だが、彼は必死に生きていた。そんな人のことを無下にすることは愛理にはできなかった。
「それにね、私、気付いたんだ。私、時間売買をしたけど、あまり、時間が減ったとか、寿命が縮んだとか感じてないんだよね。あと」
愛理が時間売買をしようと思った理由は、実際に見た時間売買の人々に感化されただけというわけではなかった。その事実を告げると、家族は息をのんで、何を言っていいかわからず、しばらく無言となった。
『気付いていたか。そう、愛理、君みたいな人間を僕は初めて見たよ』
『オレもそうだ』
頭の中で、人外の二人の少年の声が聞こえる。その声に愛理は頷く。
「私ね、ここ数年、まったく姿が変わっていないんだ。たぶん、高校卒業したくらいからかな。だから」
『時間が減らない、だから時間売買をしても自分は大丈夫』
『自分の時間が減らないから、安心して他人に時間をあげられるっていうわけか』
愛理は一度深呼吸して、言葉を続ける。
「私は大丈夫だよ」
最終的に母親と妹の美夏は、愛理が時間売買を行うことに納得してくれた。父親は、最後まで反対し、気味が悪い娘だと言って、家を出て行ってしまった。母親はそのことに憤慨し、離婚にまで発展してしまった。
こうして、愛理は時間売買を行うことになった。とはいえ、愛理を訪ねてきた人全員に時間売買を行うことはなかった。相談に訪れた人から話を聞き、本当に必要なのかを踏まえたうえで、きちんと副作用のことも含めて納得してもらって初めて、時間売買を行うことにしていた。必要とあれば、警察や病院、関係機関に連絡を入れることもしていた。
「時は金なり。清めの塩の縁(えにし)は大切に」
愛理は、訪れた人々には、必ず伝える言葉だ。
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