この声が君に届くなら

折原さゆみ

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50団対抗リレー

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 体育祭は順調に進み、光詩たちの団は優勝争いに食い込むほどの勝利を収めていた。光詩自身は部活に入っていないため、団の役に立ったとは言えないが、それでも今年の体育祭は今までで一番印象に残るものとなった。

 アリスは部活動対抗リレー以外に団対抗リレーにも出場することになっていた。団対抗リレーは、一位を取ればかなりの点数がもらえるので、リレーの前には、今までの競技よりたくさんの応援者が校庭の周りを埋め尽くす事態となった。

「お兄ちゃん、最後はびしっと決めようね」
『う゛ん゛』

 光詩と夜奏楽はアリスが出た二つの競技と同じように、アリスの応援のために校庭の中央にやってきた。

皆、団の勝敗の行方がリレーにかかっていることで、応援にもやる気が満ちているようだ。生徒たちの熱気が午前中と違う気がした。

「それにしても、今日はよく合うよね。まあ、アリスの応援っていう共通点があるから当たり前か」

『ま゛あ゛、そう゛だな』

 思い返せば、確かにアリスの言うとおりだ。今日応援した二つの競技では、いずれも妹の夜奏楽と一緒に応援している。応援する場所は限られているが、こうも隣で応援するという偶然があるのだろうか。

『よ゛そら゛、も゛しかして、お゛ま゛え……』

 そこでようやく、光詩は夜奏楽が自分に気を使っているかもしれないという可能性に気づく。


「位置について」

 光詩の言葉はリレー開始の合図で遮られる。

(とはいえ、聞いてもはぐらかされそうだな)

 リレーが始まるのに、他のことを考えてはアリスの応援に集中できない。光詩は夜奏楽に尋ねるのをやめ、スタート位置の選手を確認する。アリスは部活動対抗リレーに続き、第一走者で、すでにスタート位置で走る態勢をとっていた。


 バンッ。

ピストルの合図で、団対抗リレーがスタートした。一瞬の静寂の後、すぐに校庭は大音量の声援が校庭に響き渡る。

「赤、ファイトー」
「白、イケー」
「黒、一位だー」

「アリス―、ファイト―」
『あ゛り゛す、ファイ゛ト』

 夜奏楽は、二回の応援と同じように、他の声援に負けないくらいの大声で親友を応援する。光詩もまた、全力で応援しようと口を開くが、やはり、周りのようには大声での声援は難しい。

(それでも、オレは)

【団対抗のリレーもよろしくお願いします!】

 リレー後に会ったアリスのお願いが頭をよぎる。午前中の二回の応援はアリスの耳に届いていた。しかし、光詩自身が自分の応援に満足できたとは言えない。

『あ゛り゛す、がん゛ばれ゛』

 団対抗リレーも一人が走る距離は100mほどであり、時間にして数十秒。あっという間に走り切ってしまう。全力で走っているときに応援者と目が合うことはまずないだろう。

(でも今、アリスと目が遭った気がする)

 なんとなく、走っているアリスが嬉しそうな顔をしていた。こんな簡単なことで嬉しそうにするのなら。

『あ゛り゛すー、そのままい゛けー』

 一気に視界が開けた気がする。声がガラガラだから何だというのだ。ちゃんと応援している本人に気持ちが伝わればいいのだ。そして今、光詩の応援の声は好きな人の耳に届いていると知っている。だとしたら、やることは一つに決まっていた。
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