朔夜蒼紗の大学生活③~気まぐれ狐は人々を翻弄する~

折原さゆみ

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35不自然な点が多い気がします

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「珍しいですね。あなたがバイトに遅刻するのは。何かあの狐の用事を頼まれたのですか?」

「いえ、ただ僕が昼寝をしていて遅れただけです。ご心配なく」


「ああ、そういえば、西園寺雅人とファミレスで話をした日のことですが、ニュースで報道されていなかったのですが、どうなったのですか?今朝、ファミレスの前を通りましたが、いきなり『先日、急きょ閉店しました。こちらの都合での閉店となります。申し訳ございません』っていう、張り紙が店の入り口に貼ってありましたが、あれって、もしかして……」

 二人が会話している最中にふと気づいたことが口にでる。西園寺雅人から逃げ出した時の記憶が新しいのでつい口にしたが、その前のジャスミンと彼氏だった男との事件もニュースで報道されていなかった。西園寺雅人が何らかの力を使って、報道を規制しているということだろうか。

「そのことなら、蒼紗さんの考えていることで間違いはないと思いますよ。どちらも西園寺雅人が関係していることで、彼が大事にならないようにうまく隠しているのでしょう」

「で、でもジャスミンたちの件は、ホテルの窓ガラスが割れていますし、確かあの時、銃声も聞こえていましたから、隠し通すのは無理かと思いますが」

「彼のような存在なら人の目をごまかすのは容易いでしょう。それに、窓ガラスなどもすでに修復されているはずです。その辺は抜かりなくやっていると思いますよ」

「ファミレスの件も同様です。さすがにあのファミレスを買い取ったので、続けるのは無理になったのでしょう」

 車坂と翼君が、二つの事件がなぜ、ニュースで報道されていないのかについて説明してくれた。ただし、肝心の西園寺雅人の正体はわからずじまいだった。






「こんにちは」

 そんな話をしているうちに、生徒が塾に来る時間になってしまったようだ。塾の扉が開き、生徒の挨拶が聞こえてきた。


 塾に最初に来たのは、私たちの会話の中に名前のあったゆきこちゃんだった。彼女の後ろには以前、ゆきこちゃんを迎えに来た叔母さんがいた。

「すいません。急なお話ですが、電話でもお話しさせてもらった通り、今日で塾を辞めたいと思います。残りの塾の回数はもったいないですけど、キャンセルで構いません」

 彼女の叔母さんが申し訳なさそうに、車坂に電話で伝えた内容を改めて私たちに説明した。

「いえいえ、ご家庭の都合もあるでしょうから、仕方ありません。ですが、雪子さんはこのことに納得はされているのでしょうか」

「私は大丈夫。だって、ゆきこたちは……」

「雪子、それ以上は。すいません。塾をやめるのは、雪子にとってつらいとは思いますが、納得してくれていますので、ご心配なく」


 こうして、ゆきこちゃんの最後の塾での授業が始まった。





 他の生徒たちが来る中、ゆきこちゃんは、私がそばにいて欲しいのか、普段なら簡単に解けるような問題もわからないと言って、質問してきた。

「今までは普通に解けていましたけど、今日はどうしましたか?」

「だって、急にわからなくなったんだもん」

 どうやら、ゆきこちゃんのおばさんが言った通り、塾をやめるのは彼女にとってつらい選択なのだろう。今日でお別れということもあり、少しでも私と一緒に居たいということだろうか。そうは言っても、ここは個人指導専門塾であり、講師と生徒が一対一で対応する塾ではない。お金を払って一対一が可能な塾もあるが、あいにく、この塾にそのようなシステムはなかった。ゆきこちゃんが私に構ってほしいからといって、彼女だけに応じることはできない。

「ごめんね。先生は他の生徒のところも見て回らなくちゃいけないので、少しの間、自分で問題を解くことはできますか?この問題は今までミスしたことがない問題です。要は、今までの復習です」

 ゆきこちゃんは今。算数の割り算の計算問題を解いていた。筆算を使うものになるが、いつもは何も言わず黙々と解けていたものだ。必死に私を呼び止める彼女を後ろに私は他の生徒の元に向かおうとした。


「ダメ。今日は、先生はゆきこのそばにずっといるの!」

 しかし、私が他の生徒の元に向かうことはできなかった。私の服の裾をゆきこちゃんが唐突につかんできたからだ。私が自分のそばを離れないように、しっかり裾を握りしめている。塾では紺色のカーディガンを羽織っているので、その紺色のカーディガンが伸びてしまうか心配なくらいに彼女は強く引っ張っていた。

「ゆきこちゃん。はなしてもらえるか、な」

 私の言葉が耳に入らないのか、ずっと私の服の裾を握りしめたままのゆきこちゃんに途方に暮れたが、徐々に服の裾から冷気が身体に流れ込んでくるのがわかった。やばいと思った時には、ゆきこちゃんに捕まれている服の裾から氷が張り、全身に氷の冷たさが伝わってきた。


「朔夜さん!」
「蒼紗さん!」

「朔夜先生!」

 車坂と翼君、ゆきこちゃんの慌てた声が聞こえたのを最後に私は意識を失った。
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