朔夜蒼紗の大学生活③~気まぐれ狐は人々を翻弄する~

折原さゆみ

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42春休みの計画を立てつつも、明日が何の日か気になります

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「春休み中、と言っても三月ですが、京都に行ってきます」

「好きにしたらいい。われは行かぬぞ」

「一人で行きたいから問題はありません」

 西園寺雅人、いや七尾という、九尾の昔の眷属という存在にファミレスで出会ってから、ずっと考えていた。私に何ができるのか、いったい何が最善策なのか。ちょうど三月は予定が入っていなかった。車坂が私のシフトなのに、勝手に私の三月のシフトをすべて外してしまった。そういうことで、私の三月の予定はなくなってしまった。

 そこで、春休み、正確には三月の過ごし方について、私なりに計画を立てた。車坂が後始末をしろとあんなに言っていた。バイトのシフトを外したのは、私に京都に行けということだったのだろうか。西園寺家が今どうなっているのか、一人で確かめに行きたくなった。

 九尾に京都に一人で行くと宣言したが、そうと決まれば、宿や電車などを探す必要がある。西園寺家について調べる傍ら、観光も楽しみたい。お金も時間もたくさんあるので、京都を思いっきり楽しめる計画を立てよう。私は、午前中を使って、パソコンで宿や電車などを調べることにした。

 ちなみに、ファミレスで会って以来、西園寺雅人、七尾には会っていない。てっきり、九尾が私の家に居候させろとか言ってくるのかと思ったが、そういうわけではないらしい。家には九尾と翼君と狼貴君が居候しているのみだ。

 調べるのに夢中で、私はあることをすっかり忘れていた。ジャスミンが大好きなイベントが明日に控えていることを。






ジャスミン 「明日は、蒼紗の家に集合!持ち物は各自持ち寄ること」

綾崎さん  「了解です!腕によりをかけて作ります!」

ジャスミン 「蒼紗は家で待つのみでOKです」

蒼紗    「明日何かあるのですか?誰か誕生日とかですか?なぜ、私の家に集合になっいるのか謎です」

ジャスミン「そんなところも超カワー」

綾崎さん 「でも、珍しいです。佐藤さんが私を誘ってくれるなんて」

ジャスミン「今回だけ特別よ」

蒼紗   「私の質問を無視しないでください!」


 スマホがメッセージを受信した。中身を確認すると、ジャスミンと綾崎さんのグループメッセージだった。いったい、明日何があるというのだろうか。部屋の壁に掛けてあるカレンダーを見るが、よくわからない。今日が二月十三日で、明日が二月十四日ということだけはわかった。

 私の質問に答える気がなさそうなので、私は昼食にしようと、スマホを閉じて、パソコンをシャットダウンした。一階に降りていくと、いい匂いがキッチンからしてきた。甘いチョコのような香りだ。どうやら、翼君か狼貴君が昼食を作ってくれているらしい。いや、甘い匂いから考えると、お菓子かもしれない。最近では、食事の支度を彼らがしてくれるので、おいしいものに常にありつける状況でとても助かっている。お菓子でも料理でもどちらでも構わない。急にお腹が減ってきたので、何か食べるものがあればありつきたい。


 そういえば、明日、ジャスミンと綾崎さんが私の家にくることになっていた。当然、家には九尾たちがいることになる。明日突然何かの用事で家を空けることになるとは思えない。二人が家にくることをどう説明したらいいか考える。しかし、リビングからのいい匂いには勝てない。私は考えるのが面倒になって、匂いの正体を確かめるためにリビングに向かった。





「甘い匂いの正体はチョコでしたか」

「ええと、明日はきっと蒼紗さんは予定があると思うので、今日にしようかと思いました」

「日ごろの感謝だな」

「なんだ、ああ、人間がやっている変なイベントものか。われは甘いものは好物だから、歓迎だが」

「九尾は感謝の気持ちをどうやって伝えるつもりですか。これだけお世話になっているのだから、何か用意した方がいいですよ」

「言うようになったの。われは神であり、もらうことはあっても、自ら施しを与えるなどせん。どうしてもというなら、それ相応の対価が必要だ」


「いったい明日、何があるのですか?ジャスミンや綾崎さんもなにか明日、大事なイベントがあるようでしたが」




『はああああ』

 私の発言に三人は大げさにため息を吐く。いったい、私が何をしたというのか。そんなに大事な日なのだろうか。明日、二月十四日は。

「ここまでくると、長生き云々の問題ではない気がします」

「そこまでわれは言うてまい。明日が来れば自然とわかるのだから、このままにしておくか」

「それはそれでひどい気がする」

 こそこそと、何やら三人で話し合っている様子に、私は疎外感を感じていた。


「別に明日が何の日だろうが、私には関係ありません。それより、早く昼ご飯にしましょう」


「こうしてみると、お主もわれに比べてまだまだ青臭いガキだな」

「その姿で言われても説得力がありませんがね」





 チョコは固めて食べるものではなかったようだ。昼食はなぜか、チョコフォンデュで、パンや果物をチョコにつけて食べていると、ソファのスマホが音を立てて、メッセージが来たことを主張した。

「誰かが蒼紗さんに連絡してきているのではないですか?」

「別にいいですよ。先に食べてしまいましょう。チョコフォデュは初めて食べました。チョコを溶かしてそれにつけて食べるだけで、こんなにおしゃれな食べ物になるんですね」

「喜んでくれたようでうれしいです。明日はきっと、もっといいものが食べられると思いますよ」

「どういうこ」

 メッセージを受信したスマホが、今度は電話が来たと騒がしく振動した。私に連絡をよこす人物は数えるほどしかいない。このタイミングでかけてくるのは、一人しか思いつかない。



「はい。蒼紗ですけ」

「やっとでた。明日のことだけど、返事が適当だから、どうせなら、声も聴くついでにと思って電話してみたけど、元気そうで何より」

「調子が悪いなんて一言も言っていないですけど、明日は一体の何の日ですか。九尾たちも明日を楽しみにしていろ、なんてことを言っているのですが。それで、今日の昼食はチョコフォンデュだったのですが、これと明日のイベントは何の関係」

「ふうん、あの子たちも人並みの記憶を持ち合わせていたのね。わかったわ。明日を楽しみに待つことが蒼紗の仕事ね。じゃあ、また明日会いましょう!蒼紗の家に行くから居留守とか、出かけてはダメよ!」

「まって」

「ツーツー」

 ジャスミンの唐突な電話は、ジャスミンによって、これまた唐突に終わりを告げた。

「まあいいや、どうせ、今日の明日で京都に行くことはないし、明日を楽しみますか」


「ふむ。明日あの蛇娘が来るのか。われたちも家に居て、明日のイベントを大いに楽しむことにしよう」

 ジャスミンたちが明日、私の家に来ることを私の口から話す必要がなくなった。九尾が私とジャスミンの会話を聞いて察したようだ。明日は九尾たちも家に居て、彼女たちと何かのイベントで盛り上がるそうだ。


 私は明日が何の日かわからないまま、明日を待つことにした。
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