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11報われない想い
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「白石君は、転校生なんだ」
「そうです。最近、転校したばかりでまだ、全然この高校になじめてなくて」
「そりゃあ、すぐに新しい生活になじめるわけないでしょ。かくいう私だって、一年生の夏にこの高校に転校してきたけど、いまだにこの生活になじめていないもの」
「先輩も、転校生、だったんですね」
お弁当を二人で完食した後、明寿と高梨は直ぐに自分たちの教室に戻る気になれず雑談していた。
「そうそう、だから、転校生としても私の方が先輩というわけだ。それにしても、白石君とは今日、初めてあったはずなのに、全然そんな気がしないなあ。なんでだろ」
首をかしげている高梨の意見に明寿も同意見だった。明寿もまた、高梨とは初めて会った気がしない。とはいえ、明寿の場合は高梨が自分の妻の若いころ似ているからという理由があった。
「文江さんという女性の夢は、どんな内容なんですか?」
ふと、疑問に思ったことを明寿は高梨に質問する。文江というのは妻の名前だが、その名の女性の夢を見たなど言われたら、期待してしまう。
「ずいぶんと突っ込んだ質問してくるね。エエト、夢の内容は」
高梨が口を開いたが、タイミング悪く、昼休み終わりを告げるチャイムが空き教室に鳴り響く。
「時間切れだね。白石君は明日もここに来る?私は明日も来ようかなと思ってるけど」
「き、きます。教室にはなんだか居づらいので」
「じゃあ、明日、夢の話をしてあげる」
白石君に会えるのなら、私はもう少し生きようかな。
ぼそりとつぶやかれた声は明寿の耳には届かなかった。
「先輩、また明日」
「そうだね、また明日」
二人は急いで空き教室を出て階段を下りていく。三年生の教室は三階で一年生の教室は二階だ。三階で先輩とは別れることになり、明寿は高梨に声をかける。高梨は一瞬、驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔で手を振り教室に向かって歩いていく。明寿もまた、自分の教室に戻るために階段を下りた。
(高梨先輩がいれば、高校生活も頑張れる気がする)
明寿の心は高揚していた。彼女がいれば、怖いものなしだと思えた。
「昼休み、どこで弁当を食べていた?」
「どこだっていいでしょう?私がどこで昼を食べようと、甲斐君に教える義理はないはずです」
教室に戻って席に着くと、前の席の甲斐が不機嫌そうに明寿に話し掛ける。クラスメイトはそんな甲斐には興味を示さず、席の近い同士で雑談に興じていた。
「俺たち、友達だろ。友達のことが気になるのは当たり前のことだ。明日は一緒に飯を食おうぜ」
「ごめん、明日もまた教室では」
ガラガラガラ。
今日はタイミングが悪いことが多い。明寿の言葉を遮るように、午後の授業の数学の先生が教室に入ってくる。
「では、始めましょう」
『お願いします』
先生が来てしまい、甲斐は舌打ちをしながらも、前を向いて授業の準備を始める。その背中を見ながら、明寿は考える。
(先輩とも話はしたいが、甲斐君とも話すことは多そうだ)
甲斐というクラスメイトが自分に執着する理由が【新百寿人】だとしたら、隠し通さなくてはならない。そのためにはなぜ、彼が【新百寿人】に固執しているのかしる必要がある。
とはいえ、明寿は昼休みのことを思い出す。高梨先輩と過ごす時間はとても楽しかった。明寿は高梨のことをずっと考えていて午後の授業に集中できなかった。
次の日も、明寿は4階の空き教室で先輩の高梨と一緒にお昼を取ることにした。4時間目終了のチャイムが鳴ると同時に、明寿はカバンを持って教室を出る。高梨に会えると思ったら【新百寿人】に生まれ変わってよかったとさえ思えた。
「本当に来たね。お姉さん、君が来るのか半信半疑だったんだけど」
4階までの階段をダッシュで駆け上がり、明寿は息を切らせて空き教室になだれ込む。そこにはすでに高梨が机といすを準備して、のんびりとスマホをいじっていた。スマホ以外に荷物が見当たらない。昼食はどうするのだろうか。
「こ、こんにちは。た、高梨先輩」
「ハハハ。私に会いたくて急いできたのに、なんで挨拶ごときに緊張してるの。あきく、いや白石君って面白いねえ」
高梨は明寿の緊張した様子を見て口元を抑えて笑い出す。そんな先輩の様子は微笑ましかったが、明寿には高梨の言葉に驚いていた。
(昨日、自己紹介したはずだ。なのに、なぜ私の名前を言い間違えたのか)
自己紹介では明寿のもともとの名前【鈴木明寿】を言いそうになったが、途中で言い直したはずだ。それなのに、どうして。
【あきくん】
それは明寿が妻から呼ばれていたあだ名だ。それを高梨が知っているはずがない。やはり、高梨は明寿の妻、文江が【新百寿人】として生まれ変わった姿なのか。
明寿が急に無言になったのを見て、高梨は椅子から立ち上がり、明寿に近付いて顔を覗き込む。
「ごめんね。私が笑ったから怒った?」
「い、いえ。ち、近いのでは、離れてください」
(でも、見れば見るほど、先輩は)
若いころの妻にそっくりだ。
妻と別れてから二年。なぜ、今になって妻の若いころにそっくりの女性に出会ってしまったのか。このままでは高梨を妻として見てしまいそうだ。もし仮に高梨が明寿の妻「文江」だとしても、記憶を失っているので、明寿のことを思い出すことはない。明寿の思いが報われることはない。
「そうです。最近、転校したばかりでまだ、全然この高校になじめてなくて」
「そりゃあ、すぐに新しい生活になじめるわけないでしょ。かくいう私だって、一年生の夏にこの高校に転校してきたけど、いまだにこの生活になじめていないもの」
「先輩も、転校生、だったんですね」
お弁当を二人で完食した後、明寿と高梨は直ぐに自分たちの教室に戻る気になれず雑談していた。
「そうそう、だから、転校生としても私の方が先輩というわけだ。それにしても、白石君とは今日、初めてあったはずなのに、全然そんな気がしないなあ。なんでだろ」
首をかしげている高梨の意見に明寿も同意見だった。明寿もまた、高梨とは初めて会った気がしない。とはいえ、明寿の場合は高梨が自分の妻の若いころ似ているからという理由があった。
「文江さんという女性の夢は、どんな内容なんですか?」
ふと、疑問に思ったことを明寿は高梨に質問する。文江というのは妻の名前だが、その名の女性の夢を見たなど言われたら、期待してしまう。
「ずいぶんと突っ込んだ質問してくるね。エエト、夢の内容は」
高梨が口を開いたが、タイミング悪く、昼休み終わりを告げるチャイムが空き教室に鳴り響く。
「時間切れだね。白石君は明日もここに来る?私は明日も来ようかなと思ってるけど」
「き、きます。教室にはなんだか居づらいので」
「じゃあ、明日、夢の話をしてあげる」
白石君に会えるのなら、私はもう少し生きようかな。
ぼそりとつぶやかれた声は明寿の耳には届かなかった。
「先輩、また明日」
「そうだね、また明日」
二人は急いで空き教室を出て階段を下りていく。三年生の教室は三階で一年生の教室は二階だ。三階で先輩とは別れることになり、明寿は高梨に声をかける。高梨は一瞬、驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔で手を振り教室に向かって歩いていく。明寿もまた、自分の教室に戻るために階段を下りた。
(高梨先輩がいれば、高校生活も頑張れる気がする)
明寿の心は高揚していた。彼女がいれば、怖いものなしだと思えた。
「昼休み、どこで弁当を食べていた?」
「どこだっていいでしょう?私がどこで昼を食べようと、甲斐君に教える義理はないはずです」
教室に戻って席に着くと、前の席の甲斐が不機嫌そうに明寿に話し掛ける。クラスメイトはそんな甲斐には興味を示さず、席の近い同士で雑談に興じていた。
「俺たち、友達だろ。友達のことが気になるのは当たり前のことだ。明日は一緒に飯を食おうぜ」
「ごめん、明日もまた教室では」
ガラガラガラ。
今日はタイミングが悪いことが多い。明寿の言葉を遮るように、午後の授業の数学の先生が教室に入ってくる。
「では、始めましょう」
『お願いします』
先生が来てしまい、甲斐は舌打ちをしながらも、前を向いて授業の準備を始める。その背中を見ながら、明寿は考える。
(先輩とも話はしたいが、甲斐君とも話すことは多そうだ)
甲斐というクラスメイトが自分に執着する理由が【新百寿人】だとしたら、隠し通さなくてはならない。そのためにはなぜ、彼が【新百寿人】に固執しているのかしる必要がある。
とはいえ、明寿は昼休みのことを思い出す。高梨先輩と過ごす時間はとても楽しかった。明寿は高梨のことをずっと考えていて午後の授業に集中できなかった。
次の日も、明寿は4階の空き教室で先輩の高梨と一緒にお昼を取ることにした。4時間目終了のチャイムが鳴ると同時に、明寿はカバンを持って教室を出る。高梨に会えると思ったら【新百寿人】に生まれ変わってよかったとさえ思えた。
「本当に来たね。お姉さん、君が来るのか半信半疑だったんだけど」
4階までの階段をダッシュで駆け上がり、明寿は息を切らせて空き教室になだれ込む。そこにはすでに高梨が机といすを準備して、のんびりとスマホをいじっていた。スマホ以外に荷物が見当たらない。昼食はどうするのだろうか。
「こ、こんにちは。た、高梨先輩」
「ハハハ。私に会いたくて急いできたのに、なんで挨拶ごときに緊張してるの。あきく、いや白石君って面白いねえ」
高梨は明寿の緊張した様子を見て口元を抑えて笑い出す。そんな先輩の様子は微笑ましかったが、明寿には高梨の言葉に驚いていた。
(昨日、自己紹介したはずだ。なのに、なぜ私の名前を言い間違えたのか)
自己紹介では明寿のもともとの名前【鈴木明寿】を言いそうになったが、途中で言い直したはずだ。それなのに、どうして。
【あきくん】
それは明寿が妻から呼ばれていたあだ名だ。それを高梨が知っているはずがない。やはり、高梨は明寿の妻、文江が【新百寿人】として生まれ変わった姿なのか。
明寿が急に無言になったのを見て、高梨は椅子から立ち上がり、明寿に近付いて顔を覗き込む。
「ごめんね。私が笑ったから怒った?」
「い、いえ。ち、近いのでは、離れてください」
(でも、見れば見るほど、先輩は)
若いころの妻にそっくりだ。
妻と別れてから二年。なぜ、今になって妻の若いころにそっくりの女性に出会ってしまったのか。このままでは高梨を妻として見てしまいそうだ。もし仮に高梨が明寿の妻「文江」だとしても、記憶を失っているので、明寿のことを思い出すことはない。明寿の思いが報われることはない。
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