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38明寿の答え
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「誰だ!」
「佐戸さん、わざわざ学校に足を運んで下さらなくても」
教室に現れたのは佐戸だった。明寿が呼んだわけでもないのに、タイミングよく教室にやってきた。まるでこちらを監視しているかのようなタイミングでの登場にあきれてしまう。
「流星君のカウンセラーを担当しています、佐戸と申します。今日は彼の通院日だったのですが、授業時間が終わっても来なかったので、心配で学校まで足を運んでしまいました」
「カウンセラーって、白石。お前、病院にかかっていたのか?」
「ええと……」
「心の病ですよ。転校先での慣れない生活が心に支障をきたしていて。そうそう、その件で担任の先生にお話があるんでした」
心の病。実際に【新百寿人】たちは記憶障害の影響で心を病んでいる者も多く、精神科を受診していることが多い。明寿は記憶が残っていて、今の生活と今までの生活の差に戸惑っているが、まったく記憶のない人間の不安は明寿の何倍もの心労がかかるだろう。
「先生、あなた方先生の中に……」
突然の佐戸の登場に担任は困惑した表情を見せる。しかし、佐戸は気にすることなくにっこりと微笑み、佐戸の耳元に小声で話し掛ける。
佐戸が担任の耳に吹き込んでいるのは、先ほど明寿がスマホで見せた写真、荒島との関係についてだろう。今、この場から明寿を教室から出すための話題としてはうってつけだろう。
(とはいえ、佐戸さんに荒島との関係は言っていないんだけどな)
明寿は佐戸の情報収集能力の高さに感心する。
まさか、外部の人間にまで自分の同僚教師の犯罪を知られているとは思っていなかったはずだ。担任の表情がどんどん青ざめていく。
「そ、そのことはどうかご内密に」
「どうしましょうか。これは犯罪ですからねえ。ああ、こういうのはどうですか?」
佐戸がこの状況を楽しむかのようににやにやと笑っている。このままにしておいたら、なにを言い出すのかわからない。
「佐戸さん、私は平気です。だから、先生をこれ以上責めないでください」
「優しいねえ、流星君は。それで、昨日の三人の容態はどうですか?あまり良くないのでしょう?」
「ど、どうしてそれを!」
「どうしてって、そんなの、決まっているでしょう?彼らは皆、私が勤める病院に搬送されたのですから」
にっこりと微笑む佐戸の姿はまるで悪魔のようだった。こんな人の悪い笑顔を浮かべる相手を敵に回さなくてよかった。明寿は心の底から佐戸が自分の味方であることに感謝した。
佐戸が来たことで、明寿が起こした今回の件は不問になった。担任は佐戸に何を言われたのか、急におとなしくなり、話が終わって明寿と佐戸が教室を出る際には、ぺこぺこと頭を下げていた。
「佐戸さんは、いったい何者なのですか?」
教室を出て廊下を歩きながら、明寿は目の前を歩く相手に声をかける。
「流星君は、何者だと思いますか?」
「私が目覚めたときにそばにいた病院のスタッフ、私の復讐の手助けをしてくれた人物、敵に回さない方がよい相手……」
明寿は正直に佐戸について思いついたことを話していく。
高梨の敵を討つために、明寿は佐戸に甲斐の恋人を探してもらっていた。あの時は高梨の敵を討つことで頭がいっぱいだったが、よく考えたら佐戸には不可解な点も多い。
「流星君と同じ存在、といったら信じてもらえますか?」
「それはいったい……」
いつの間にか、下駄箱がある玄関に到着していた。佐戸は下駄箱の前で立ち止まると、くるりと明寿の方に振り返る。明寿を見つめる瞳からは感情が読み取れない。先ほどの笑顔はなく無表情の佐戸。明寿と同じ存在、ということは。
(私と同じ【新百寿人】だとでも言うのか。でも、それにしてはおかしい)
「冗談ですよ」
明寿の困惑した表情に佐戸は無表情から一転、人好きのする顔で苦笑する。普段から飄々としてとらえどころのない相手だが、今の発言が冗談には思えない。明寿は必死で考える。
【新百寿人】の特徴は記憶を失っていること。見た目に関しては10代のころに若返るが、それ以降は順当に年齢を重ねていく。佐戸がもし、【新百寿人】だとしてもおかしくはない。彼らと一般人との間に見た目の差はない。記憶がないのだって、本人にしかわからないことだ。わかることと言えば、戸籍くらいだ。役所に行って調べることは可能だが、本人以外の戸籍を取るのは容易ではない。
「そんなに考え込まないでください。今は私の正体よりも大切なことがあるでしょう?これからどうするつもりですか?彼らの始末は?」
佐戸の声にはっと我に返る。確かに甲斐たちをどうするのか考えるのが先決だ。本来なら、清水を殺すことで、甲斐が明と同じように大事な人間を失った絶望を味合わせてやりたい。しかし、今回の件でそれは難しくなった。甲斐は明寿を警戒するようになるだろう。清水に関しては、被害を恐れて学校を辞めさせるかもしれない。
とはいえ、彼らは今、佐戸が勤めている病院に入院しているようだ。だとしたら、彼らの命を握っているのは明寿ということだ。佐戸は明寿に協力的だ。明寿の一言で彼らは。
「佐戸さんは、どうしたらよいと思いますか?」
ここまで来て、明寿の心に迷いが生じる。当初は自分が人殺しになってでも、復讐したいと思っていた。しかし、実際それが出来る立場になってみると怖気づいてしまう。
「私はどちらでも構いません。流星君の言われた通りにします」
彼らを生かすも殺すもあなた次第です。
「私は……」
明寿が口にした答えに、佐戸は一瞬、目を見開いて驚きを示したが、すぐに無表情に戻りただ首を縦に振って頷いた。
「佐戸さん、わざわざ学校に足を運んで下さらなくても」
教室に現れたのは佐戸だった。明寿が呼んだわけでもないのに、タイミングよく教室にやってきた。まるでこちらを監視しているかのようなタイミングでの登場にあきれてしまう。
「流星君のカウンセラーを担当しています、佐戸と申します。今日は彼の通院日だったのですが、授業時間が終わっても来なかったので、心配で学校まで足を運んでしまいました」
「カウンセラーって、白石。お前、病院にかかっていたのか?」
「ええと……」
「心の病ですよ。転校先での慣れない生活が心に支障をきたしていて。そうそう、その件で担任の先生にお話があるんでした」
心の病。実際に【新百寿人】たちは記憶障害の影響で心を病んでいる者も多く、精神科を受診していることが多い。明寿は記憶が残っていて、今の生活と今までの生活の差に戸惑っているが、まったく記憶のない人間の不安は明寿の何倍もの心労がかかるだろう。
「先生、あなた方先生の中に……」
突然の佐戸の登場に担任は困惑した表情を見せる。しかし、佐戸は気にすることなくにっこりと微笑み、佐戸の耳元に小声で話し掛ける。
佐戸が担任の耳に吹き込んでいるのは、先ほど明寿がスマホで見せた写真、荒島との関係についてだろう。今、この場から明寿を教室から出すための話題としてはうってつけだろう。
(とはいえ、佐戸さんに荒島との関係は言っていないんだけどな)
明寿は佐戸の情報収集能力の高さに感心する。
まさか、外部の人間にまで自分の同僚教師の犯罪を知られているとは思っていなかったはずだ。担任の表情がどんどん青ざめていく。
「そ、そのことはどうかご内密に」
「どうしましょうか。これは犯罪ですからねえ。ああ、こういうのはどうですか?」
佐戸がこの状況を楽しむかのようににやにやと笑っている。このままにしておいたら、なにを言い出すのかわからない。
「佐戸さん、私は平気です。だから、先生をこれ以上責めないでください」
「優しいねえ、流星君は。それで、昨日の三人の容態はどうですか?あまり良くないのでしょう?」
「ど、どうしてそれを!」
「どうしてって、そんなの、決まっているでしょう?彼らは皆、私が勤める病院に搬送されたのですから」
にっこりと微笑む佐戸の姿はまるで悪魔のようだった。こんな人の悪い笑顔を浮かべる相手を敵に回さなくてよかった。明寿は心の底から佐戸が自分の味方であることに感謝した。
佐戸が来たことで、明寿が起こした今回の件は不問になった。担任は佐戸に何を言われたのか、急におとなしくなり、話が終わって明寿と佐戸が教室を出る際には、ぺこぺこと頭を下げていた。
「佐戸さんは、いったい何者なのですか?」
教室を出て廊下を歩きながら、明寿は目の前を歩く相手に声をかける。
「流星君は、何者だと思いますか?」
「私が目覚めたときにそばにいた病院のスタッフ、私の復讐の手助けをしてくれた人物、敵に回さない方がよい相手……」
明寿は正直に佐戸について思いついたことを話していく。
高梨の敵を討つために、明寿は佐戸に甲斐の恋人を探してもらっていた。あの時は高梨の敵を討つことで頭がいっぱいだったが、よく考えたら佐戸には不可解な点も多い。
「流星君と同じ存在、といったら信じてもらえますか?」
「それはいったい……」
いつの間にか、下駄箱がある玄関に到着していた。佐戸は下駄箱の前で立ち止まると、くるりと明寿の方に振り返る。明寿を見つめる瞳からは感情が読み取れない。先ほどの笑顔はなく無表情の佐戸。明寿と同じ存在、ということは。
(私と同じ【新百寿人】だとでも言うのか。でも、それにしてはおかしい)
「冗談ですよ」
明寿の困惑した表情に佐戸は無表情から一転、人好きのする顔で苦笑する。普段から飄々としてとらえどころのない相手だが、今の発言が冗談には思えない。明寿は必死で考える。
【新百寿人】の特徴は記憶を失っていること。見た目に関しては10代のころに若返るが、それ以降は順当に年齢を重ねていく。佐戸がもし、【新百寿人】だとしてもおかしくはない。彼らと一般人との間に見た目の差はない。記憶がないのだって、本人にしかわからないことだ。わかることと言えば、戸籍くらいだ。役所に行って調べることは可能だが、本人以外の戸籍を取るのは容易ではない。
「そんなに考え込まないでください。今は私の正体よりも大切なことがあるでしょう?これからどうするつもりですか?彼らの始末は?」
佐戸の声にはっと我に返る。確かに甲斐たちをどうするのか考えるのが先決だ。本来なら、清水を殺すことで、甲斐が明と同じように大事な人間を失った絶望を味合わせてやりたい。しかし、今回の件でそれは難しくなった。甲斐は明寿を警戒するようになるだろう。清水に関しては、被害を恐れて学校を辞めさせるかもしれない。
とはいえ、彼らは今、佐戸が勤めている病院に入院しているようだ。だとしたら、彼らの命を握っているのは明寿ということだ。佐戸は明寿に協力的だ。明寿の一言で彼らは。
「佐戸さんは、どうしたらよいと思いますか?」
ここまで来て、明寿の心に迷いが生じる。当初は自分が人殺しになってでも、復讐したいと思っていた。しかし、実際それが出来る立場になってみると怖気づいてしまう。
「私はどちらでも構いません。流星君の言われた通りにします」
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「私は……」
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