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41話されること、話されないこと
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「あと二日で夏休みになります。残り二日、気を引き締めて頑張っていきましょう!」
次の日、朝のHRでも担任から清水の自殺の件の報告はなかった。清水は教師ではなく、事務員で生徒とのかかわりは薄いため、学校側が生徒に伝えることをやめたのだろうか。
相変わらず、甲斐は学校を休んでいたが、クラスメイトの甲斐への興味は薄れ、だれひとり、甲斐の欠席を心配することはない。親しそうに見えて、最近の若者の交友関係は淡白だと実感させられた。
「突然だが、荒島先生が退職となりました。理由は……」
清水のことは話せなくても、荒島についての処分については連絡があった。昨日、佐戸に明寿と荒島との関係を公表して欲しいと依頼した。明寿が担任に見せたスマホに残していた証拠写真や動画を佐戸のスマホに転送した。佐戸はその後、警察に証拠をもっていったのだろう。自ら警察に被害を訴えても良かったが、そこは保護者ともいえる佐戸に頼んだ方が良いと判断した。第三者から告発されたら、警察は高校に調査に入るに違いない。
学校側がいくら荒島の不祥事を隠そうにも、警察に通報されてしまえば言い逃れはできない。
担任の言葉に教室内がざわめきだす。
「あの噂って、マジだったのか」
「あんな清楚って感じの先生が、ねえ」
「私は最初から怪しいと思っていたよ」
(さて、担任はどう出るのか)
「静かに。残り二日だから、英語の授業は自習となる。静かに自習に励むように。それと、白石。この後、少し話をしたいんだが、職員室に先生と一緒に来てくれ」
「ワカリマシタ」
朝のHRが終わる直前、担任は明寿を呼び出した。前回は放課後だったが、今回は今すぐに内密に話がしたいらしい。明寿もまた、担任の話を聞きたかったので、素直に頷いた。
「白石君、こちらに来なさい」
教室を出た担任の後を明寿はおとなしくついていく。朝のHR後はすぐに一限目が始まるが、授業時間をまたいでも話したい急用な話があるのだろう。歩きながら、担任は世間話のノリで明寿に背を向けたまま話し出す。
「三人は結局、スマホを使わずに部屋から出たそうですよ」
明寿は三人を閉じ込めた後、彼らがどうやって準備室を出たのかを知らない。しかし、その話は荒島と明寿との関係を暴露したことで、不問になったはずだ。どうして今更、蒸し返すようなことを口にするのか。
廊下を歩きながら、明寿は窓の外に目を向ける。外は夏らしい雲一つない晴天で、太陽がギラギラと輝いている。気温も30度を超えて外は夏真っ盛りの暑さとなっているが、教室の温度は空調が入っていて快適だ。とはいえ、教室は扉をしめ切っているため、廊下まで冷気は届かない。歩いているだけでうっすらと汗ばむほどの気温だ。
「スマホを使って助けを呼べば、すぐにでも外に出られたでしょうに。とはいえ、助けに来た人が、三人が閉じ込められている状況を不審に思うことは間違いない」
「何が言いたいんでしょうか?」
「ちなみに、甲斐君と清水さんは閉じ込められてすぐにスマホを使おうとしたみたいですが、荒島先生がスマホで外部に連絡を取ることを拒んだみたいだよ。とはいえ、準備室は二階にあったから、最終的に何とか窓から三人とも脱出することに成功したらしい」
明寿は英語準備室の場所を頭に思い浮かべる。準備室は一年生の教室の近くにある。校舎の二階にあるので、もし、窓から飛び降りたとしても、死ぬことは無いだろう。それに、校舎の近くには木が植えられている。そこまでひどい怪我を負わずにすぐに病院から退院できたのはそのおかげか。
「私も同席するが、白石。聞かれたことには正直に答えるように」
「ワカリマシタ」
話しているうちに職員室に到着する。しかし、担任は職員室に入ることなく、職員室の手前にある校長室の前で立ち止まる。
(大事になったな)
荒島との関係を警察に通報したのだ。大事になってもおかしくはない。荒島との関係は証拠写真や動画を見せれば一発でばれる。証拠があるのに、明寿が今更なにを口にすることがあるのか。本人から事情を聞きたいのだろうが、明寿の口から特に語ることは無い。
それにしても、明寿は隣に立つ担任を見上げて首をかしげる。担任とはクラスのHRと授業でしかお世話になっていない。正真正銘、教師と生徒の関係だが、先ほどの会話は妙に意味深に聞こえる。明寿が甲斐ら三人を閉じ込めたとでも言いたげだった。そうなると、下手なことを口走っては墓穴を掘ってしまう。
「先生、僕、急にお腹が」
今ここで、体調不良で早退しようと口を開いたが、途中で言葉を止める。担任が心配そうに顔を覗き込んでくるが、にっこりと微笑んでごまかす。
「いえ、大丈夫です」
警察が来たら逃げてばかりはいられないだろう。ここで一度、話をつけておけば、何度も話す羽目にはならないだろう。
トントン。
担任が校長室の扉をノックする。そして、そのまま扉を開けて中に入っていく。明寿もそれに続いて校長室に足を踏み入れた。
次の日、朝のHRでも担任から清水の自殺の件の報告はなかった。清水は教師ではなく、事務員で生徒とのかかわりは薄いため、学校側が生徒に伝えることをやめたのだろうか。
相変わらず、甲斐は学校を休んでいたが、クラスメイトの甲斐への興味は薄れ、だれひとり、甲斐の欠席を心配することはない。親しそうに見えて、最近の若者の交友関係は淡白だと実感させられた。
「突然だが、荒島先生が退職となりました。理由は……」
清水のことは話せなくても、荒島についての処分については連絡があった。昨日、佐戸に明寿と荒島との関係を公表して欲しいと依頼した。明寿が担任に見せたスマホに残していた証拠写真や動画を佐戸のスマホに転送した。佐戸はその後、警察に証拠をもっていったのだろう。自ら警察に被害を訴えても良かったが、そこは保護者ともいえる佐戸に頼んだ方が良いと判断した。第三者から告発されたら、警察は高校に調査に入るに違いない。
学校側がいくら荒島の不祥事を隠そうにも、警察に通報されてしまえば言い逃れはできない。
担任の言葉に教室内がざわめきだす。
「あの噂って、マジだったのか」
「あんな清楚って感じの先生が、ねえ」
「私は最初から怪しいと思っていたよ」
(さて、担任はどう出るのか)
「静かに。残り二日だから、英語の授業は自習となる。静かに自習に励むように。それと、白石。この後、少し話をしたいんだが、職員室に先生と一緒に来てくれ」
「ワカリマシタ」
朝のHRが終わる直前、担任は明寿を呼び出した。前回は放課後だったが、今回は今すぐに内密に話がしたいらしい。明寿もまた、担任の話を聞きたかったので、素直に頷いた。
「白石君、こちらに来なさい」
教室を出た担任の後を明寿はおとなしくついていく。朝のHR後はすぐに一限目が始まるが、授業時間をまたいでも話したい急用な話があるのだろう。歩きながら、担任は世間話のノリで明寿に背を向けたまま話し出す。
「三人は結局、スマホを使わずに部屋から出たそうですよ」
明寿は三人を閉じ込めた後、彼らがどうやって準備室を出たのかを知らない。しかし、その話は荒島と明寿との関係を暴露したことで、不問になったはずだ。どうして今更、蒸し返すようなことを口にするのか。
廊下を歩きながら、明寿は窓の外に目を向ける。外は夏らしい雲一つない晴天で、太陽がギラギラと輝いている。気温も30度を超えて外は夏真っ盛りの暑さとなっているが、教室の温度は空調が入っていて快適だ。とはいえ、教室は扉をしめ切っているため、廊下まで冷気は届かない。歩いているだけでうっすらと汗ばむほどの気温だ。
「スマホを使って助けを呼べば、すぐにでも外に出られたでしょうに。とはいえ、助けに来た人が、三人が閉じ込められている状況を不審に思うことは間違いない」
「何が言いたいんでしょうか?」
「ちなみに、甲斐君と清水さんは閉じ込められてすぐにスマホを使おうとしたみたいですが、荒島先生がスマホで外部に連絡を取ることを拒んだみたいだよ。とはいえ、準備室は二階にあったから、最終的に何とか窓から三人とも脱出することに成功したらしい」
明寿は英語準備室の場所を頭に思い浮かべる。準備室は一年生の教室の近くにある。校舎の二階にあるので、もし、窓から飛び降りたとしても、死ぬことは無いだろう。それに、校舎の近くには木が植えられている。そこまでひどい怪我を負わずにすぐに病院から退院できたのはそのおかげか。
「私も同席するが、白石。聞かれたことには正直に答えるように」
「ワカリマシタ」
話しているうちに職員室に到着する。しかし、担任は職員室に入ることなく、職員室の手前にある校長室の前で立ち止まる。
(大事になったな)
荒島との関係を警察に通報したのだ。大事になってもおかしくはない。荒島との関係は証拠写真や動画を見せれば一発でばれる。証拠があるのに、明寿が今更なにを口にすることがあるのか。本人から事情を聞きたいのだろうが、明寿の口から特に語ることは無い。
それにしても、明寿は隣に立つ担任を見上げて首をかしげる。担任とはクラスのHRと授業でしかお世話になっていない。正真正銘、教師と生徒の関係だが、先ほどの会話は妙に意味深に聞こえる。明寿が甲斐ら三人を閉じ込めたとでも言いたげだった。そうなると、下手なことを口走っては墓穴を掘ってしまう。
「先生、僕、急にお腹が」
今ここで、体調不良で早退しようと口を開いたが、途中で言葉を止める。担任が心配そうに顔を覗き込んでくるが、にっこりと微笑んでごまかす。
「いえ、大丈夫です」
警察が来たら逃げてばかりはいられないだろう。ここで一度、話をつけておけば、何度も話す羽目にはならないだろう。
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