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10弟と会う
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2月というまだまだ寒さ真っ盛りの冬の外はとても寒い。ダウンにマフラー、手袋と防寒対策はしていたが、それでも寒さが身に染みる季節である。家を出た私は最寄り駅までの道のりを急ぎ足で歩いていた。
弟の家は私の家から電車で1時間ほどの場所にある。家を出たのが20時過ぎだったので、まだ電車は走っている。最寄り駅までは歩いて10分程なので、歩きながら今後のことについて考える。
私は会社で事務の仕事をしている一般人だ。学生のころは、容姿の良さからモデルなども経験したが、どうにもあの華やかな世界が私には合わなかったので、転職した。そもそも、私は人見知りでコミュ障の陰キャなのである。容姿だけ見れば、陽キャの分類に位置するかもしれないが、容姿だけだ。一言話す機会があれば、私が陰キャの中身がばれてしまう。
モデルとしては結構人気があったと思う。辞めるときにはかなり引き止められたし、両親や弟にももったいないと言われた。彼とのデートの際にはファンだと言われる店員と出会った。しかし、この仕事を本業にすることはためらわれた。事務の仕事は容姿に関係がなく、黙々と自分の作業をするだけでいいので、私には向いていると言えた。会社とのトラブルもなく、今の仕事は気に入っている。
(仕事を辞めなくてよかった)
同棲する際、最初は彼が私に仕事を辞めても大丈夫なことを言っていた。
『僕が真珠さんを養ってあげますよ』
それに甘えて仕事を辞めていたらどうなっていたことか。お金に不安があっては、いざ、別れようとしたときにためらいが生じる。そこについては彼に流されなくて良かったとほっとしている。別れても家を新たに探すだけで何とかなるのは不幸中の幸いだ。
「まあ、今後のことは今後のこと。今はいかに穏便に別れられる方法を探して実行するか、を考えなくちゃ」
私の独り言は夜中の真っ黒な空に消えていく。空を見上げると、澄んだ夜空に冬の星座がキラキラと輝いていた。
「それでさ、彼女がさ、俺が家に帰るって言っているのに、ご飯の準備していないんだぜ。あり得ないだろ」
「マジか。でもさ、最初は飲み会があるって連絡したんだろ?その後、飲み会が急遽キャンセルになって、お前は連絡もなしに帰った。仕方ないと思うが?」
「でもさ、普通、恋人の夕食くらい準備しとくだろ。マジ使えない女。顔だけはいいんだけどなあ」
電車に乗ると、席は帰宅の人で混雑していた。たまたま、席が一人分空いていたので座っていたら、私の目の前の男二人組の声が耳に入ってきた。どうやら、私と同じ状況に陥っている女性がいるようだ。まだまだ男尊女卑の考えは残っているようだ。家事は女性の仕事だと思っている男性が一定数いるらしい。
(私も、同じようなことをされていますけどね)
口には出さないが心の中でつぶやく。そういえばとスマホで彼からのメッセージを確認する。そこには未読のメッセージが一件入っていた。
『今から帰る』
ずいぶんと簡素なメッセージだ。これだけでは夕食がいるのかいらないのかわからない。時間は19時35分。私が夕食を食べ終わり、食器を片付けていた時間だ。そもそも、夕食がすぐにできると思う方がおかしい。
(むかつくなあ。でも、弟に会うのを考えたら眠くなってきた)
そんな事を考えているうちに睡魔が訪れる。今日は金曜日で仕事をしていたのだ。疲れているのは当然だが、今ここで寝てしまったら、降りる駅を通り過ぎて寝過ごしてしまう可能性がある。私は必死に目を開けて、残りの電車の時間を睡魔と闘いながら過ごすのだった。
弟は駅から徒歩10分ほどの場所にある、高層マンションに住んでいる。なんとか睡魔に打ち勝ち、弟の住むマンションの最寄り駅で電車を降りることができた。その後は夜の冷たい風に当たり、眠気は一気に吹き飛んだ。
弟が住むマンションに入り、エントランスで部屋番号を押して弟の応答を待つ。
「ああ、姉さん。待っていたよ。入って、入って」
すぐにロックを解除してくれて、私はエレベーターに乗りこんで彼の部屋を目指す。弟はモデルと言う仕事が天職だったのか、社会人になってもモデルを本業にしている。人気モデルと言うこともあり、セキュリティがしっかりしたマンションに住んでいる。ちなみに弟の名前は保科大弥(ほしなだいや)。ダイヤとしてモデル活動をしている。
「お邪魔します」
「どうぞ、もうすぐアリアが帰ってくるから、話はそれからだね。ちょうどお土産の紅葉饅頭があるから先に食べようか。ああ、そういえば、緑茶も良いものがあったから、今から出すね。ああ、今は夜だから緑茶はまずいか」
「いやいや、そんなに気を遣ってもらわなくても」
「いいの、いいの、僕が姉さんにしたいだけだから」
弟のダイヤはモデルとして大活躍している。本来なら、私などが気軽に会って話せる相手ではない。容姿だけは似ているが、中身は全く違う。弟のダイヤは自分の容姿を理解して、常に堂々としている。自身がなく、他人の様子をうかがいながら生きている私とは正反対の性格だ。
それなのに、なぜか弟は昔から私のことを甘やかしてくる。いわゆるシスコンという奴かもしれない。理由はわからないが、私のことになると、途端にモデルとしてのダイヤの顔が台無しになり、デレデレとしまりのない顔になってしまう。まあ、そんな顔も魅力的なので、イケメンとはお得である。
今日も、久しぶりに会えたのがうれしいのか、私を玄関で迎え入れた弟の顔はとても良い笑顔をしていた。人前では見せない、本物の笑顔に弟だというのに見惚れてしまうほどだった。
弟の家は私の家から電車で1時間ほどの場所にある。家を出たのが20時過ぎだったので、まだ電車は走っている。最寄り駅までは歩いて10分程なので、歩きながら今後のことについて考える。
私は会社で事務の仕事をしている一般人だ。学生のころは、容姿の良さからモデルなども経験したが、どうにもあの華やかな世界が私には合わなかったので、転職した。そもそも、私は人見知りでコミュ障の陰キャなのである。容姿だけ見れば、陽キャの分類に位置するかもしれないが、容姿だけだ。一言話す機会があれば、私が陰キャの中身がばれてしまう。
モデルとしては結構人気があったと思う。辞めるときにはかなり引き止められたし、両親や弟にももったいないと言われた。彼とのデートの際にはファンだと言われる店員と出会った。しかし、この仕事を本業にすることはためらわれた。事務の仕事は容姿に関係がなく、黙々と自分の作業をするだけでいいので、私には向いていると言えた。会社とのトラブルもなく、今の仕事は気に入っている。
(仕事を辞めなくてよかった)
同棲する際、最初は彼が私に仕事を辞めても大丈夫なことを言っていた。
『僕が真珠さんを養ってあげますよ』
それに甘えて仕事を辞めていたらどうなっていたことか。お金に不安があっては、いざ、別れようとしたときにためらいが生じる。そこについては彼に流されなくて良かったとほっとしている。別れても家を新たに探すだけで何とかなるのは不幸中の幸いだ。
「まあ、今後のことは今後のこと。今はいかに穏便に別れられる方法を探して実行するか、を考えなくちゃ」
私の独り言は夜中の真っ黒な空に消えていく。空を見上げると、澄んだ夜空に冬の星座がキラキラと輝いていた。
「それでさ、彼女がさ、俺が家に帰るって言っているのに、ご飯の準備していないんだぜ。あり得ないだろ」
「マジか。でもさ、最初は飲み会があるって連絡したんだろ?その後、飲み会が急遽キャンセルになって、お前は連絡もなしに帰った。仕方ないと思うが?」
「でもさ、普通、恋人の夕食くらい準備しとくだろ。マジ使えない女。顔だけはいいんだけどなあ」
電車に乗ると、席は帰宅の人で混雑していた。たまたま、席が一人分空いていたので座っていたら、私の目の前の男二人組の声が耳に入ってきた。どうやら、私と同じ状況に陥っている女性がいるようだ。まだまだ男尊女卑の考えは残っているようだ。家事は女性の仕事だと思っている男性が一定数いるらしい。
(私も、同じようなことをされていますけどね)
口には出さないが心の中でつぶやく。そういえばとスマホで彼からのメッセージを確認する。そこには未読のメッセージが一件入っていた。
『今から帰る』
ずいぶんと簡素なメッセージだ。これだけでは夕食がいるのかいらないのかわからない。時間は19時35分。私が夕食を食べ終わり、食器を片付けていた時間だ。そもそも、夕食がすぐにできると思う方がおかしい。
(むかつくなあ。でも、弟に会うのを考えたら眠くなってきた)
そんな事を考えているうちに睡魔が訪れる。今日は金曜日で仕事をしていたのだ。疲れているのは当然だが、今ここで寝てしまったら、降りる駅を通り過ぎて寝過ごしてしまう可能性がある。私は必死に目を開けて、残りの電車の時間を睡魔と闘いながら過ごすのだった。
弟は駅から徒歩10分ほどの場所にある、高層マンションに住んでいる。なんとか睡魔に打ち勝ち、弟の住むマンションの最寄り駅で電車を降りることができた。その後は夜の冷たい風に当たり、眠気は一気に吹き飛んだ。
弟が住むマンションに入り、エントランスで部屋番号を押して弟の応答を待つ。
「ああ、姉さん。待っていたよ。入って、入って」
すぐにロックを解除してくれて、私はエレベーターに乗りこんで彼の部屋を目指す。弟はモデルと言う仕事が天職だったのか、社会人になってもモデルを本業にしている。人気モデルと言うこともあり、セキュリティがしっかりしたマンションに住んでいる。ちなみに弟の名前は保科大弥(ほしなだいや)。ダイヤとしてモデル活動をしている。
「お邪魔します」
「どうぞ、もうすぐアリアが帰ってくるから、話はそれからだね。ちょうどお土産の紅葉饅頭があるから先に食べようか。ああ、そういえば、緑茶も良いものがあったから、今から出すね。ああ、今は夜だから緑茶はまずいか」
「いやいや、そんなに気を遣ってもらわなくても」
「いいの、いいの、僕が姉さんにしたいだけだから」
弟のダイヤはモデルとして大活躍している。本来なら、私などが気軽に会って話せる相手ではない。容姿だけは似ているが、中身は全く違う。弟のダイヤは自分の容姿を理解して、常に堂々としている。自身がなく、他人の様子をうかがいながら生きている私とは正反対の性格だ。
それなのに、なぜか弟は昔から私のことを甘やかしてくる。いわゆるシスコンという奴かもしれない。理由はわからないが、私のことになると、途端にモデルとしてのダイヤの顔が台無しになり、デレデレとしまりのない顔になってしまう。まあ、そんな顔も魅力的なので、イケメンとはお得である。
今日も、久しぶりに会えたのがうれしいのか、私を玄関で迎え入れた弟の顔はとても良い笑顔をしていた。人前では見せない、本物の笑顔に弟だというのに見惚れてしまうほどだった。
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