見た目と性格が一致しなくてもいいですか?

折原さゆみ

文字の大きさ
12 / 27

12推しの前では気合を入れる

しおりを挟む
「オマタセシマシタ。いつも、ダイヤをお世話しています」

「挨拶おかしいだろ」

「あんたは黙って。ああ、ダイヤも麗しのフェイスだとは思っていましたけど、お姉さんはまるで女神様ですね」

「僕と姉さんは似てるだろ。何が違うんだよ」

「何がって、全部よ、全部。そう、その身に纏うアンニュイな雰囲気とクール美人な容姿のバランスがたまりません。ああ、どうしてモデルを辞められてしまったのですか?」

「はあ」

 しばらくして、弟の彼女のアリアさんがリビングに顔を出した。そして、私たちが座っていたソファに腰掛ける。私が真ん中で、その両端にダイヤとアリアさんが座るという形だ。

 自室で化粧を直したのだろうか。化粧がばっちり決まっていて、目力が増している。アリアさんは私やダイヤと違って、二重のたれ目で肌の色は小麦色。身長が低めの可愛らしい印象の女性だ。

 帰宅直後は黒いパンツスーツを身に着けていたが、リビングに戻ってきた彼女は薄いピンクのワンピースの上に白いカーディガンを羽織っていた。まるでこれからお見合いでも始まるかのような服装に違和感を覚える。帰宅後は、私は夏なら半そでハーフパンツ、冬ならウェット上下というラフな格好に着替える。

「アリア、その服、僕とのデートの時に着ていた勝負服だろ。わざわざ姉さんの前だからって、そこまで気合入れなくても」

「いいえ!ダイヤ、わかっていないわね。ファンたるもの、いついかなる時でも推しの前ではきれいに着飾っていたいものなの。モデルなら、ファンの気持ちを理解しなさい!」

 どうやら、アリアさんは私と顔を合わせることになり、自室で気合を入れてきたという訳だ。私のために気を遣ってくれているのはわかるが、今日はもう夜も遅い。家で過ごすいつも通りの格好でも私は気にしない。

「あの、私は別にアリアさんの格好をそこまで気にしな」

「いいえ、これは私の問題なので、お姉さんが気にしなくても私が気にします!」

「ワカリマシタ」

「姉さんが引いてるだろ」

「ご、ごめんなさい。つい、生の真珠さんに会えて興奮してしまって。電話ではお話しする機会がたまにありますが、実際にお会いすることはめったにないのでつい」

「いえ、大丈夫です。それにモデルを辞めてしまってもこうして、私のファンでいてくれるなんて、とても嬉しいです」

 アリアさんはカメラマンとして働いている。ダイヤとは撮影現場で一緒になり、そこから親しくなり恋人になったそうだ。モデルは恋愛禁止という事務所もあるが、私が所属していた事務所は恋愛禁止とされていなかった。ダイヤも同じ事務所なので、アリアさんとの関係は公認となっている。

「相変わらず、姉さんのガチファンなんだよな。それで、アリア、姉さんの件なんだが」

「彼氏さんが浮気してるって話でしょ。マジでそいつ、ありえないんですけど。いっそのこと、私とダイヤで懲らしめとく?」

「僕もそれを姉さんに伝えたけど、ダメって言われた」

 私に興奮していたアリアさんは、弟からすでに私のことは話を聞いていたようだ。先ほどまでの熱が一気に覚めて、今度は真冬の寒さのような冷たい雰囲気となる。弟と同じ物騒な事を言っているので、この辺が似た者同士でお似合いな理由だろう。

【お姉さん!!】

 弟たちのたわいない会話に不意に涙がこぼれる。私を挟んでの会話で居心地が悪いが、お互いを信頼してため口をたたける親しい仲が羨ましい。例えそれが会話の内容が物騒だとしても。今の私にとっては自分を心配してくれている人がいるだけで心の支えとなる。

さまざまな要素が重なって、今まで溜まってストレスが爆発してしまう。目元を触ってみると、涙が流れている。泣こうなんて思っていないのに、これでは弟達にさらなる心配をかけてしまう。何とかして、涙を抑えないといけない。

「ええ、ええと、わ、わたしと彼、も、ダイヤ、や、アリア、さん、みたいな、かんけい、であり、たかった」

 私を家政婦のようにしか扱わない相手に、だんだんと何も思わなくなった。最初は寂しいなとは感じたが、次第にあきらめるようになった。しかし、本来、あきらめてはならないことだった。私とあいつは恋人同士で同棲していた仲なのに。

【ぶっ殺してやる】

 突然、低い声がリビングに響き渡る。何事かと目の前の二人に視線を向けるが、私と目が合ったとたん、二人はにっこりと私に微笑みかけてきた。あまりの低い声に驚き、涙が引っ込んでしまう。

リビングには私とダイヤ、アリアさんの三人しかいない。今の低い声は二人分だったので、彼らが出した声だろう。きれいにハモりを見せていた。

「だから、言ったでしょう?マッチングアプリみたいな怪しい出会いはやめたほうがいいって。でも、こうやって僕に悩みを打ち明けてくれたんだから。今からでも姉さんは幸せな道を歩めるよ。僕とアリアが絶対に姉さんを幸せにする相手を見つけてあげる。その前に彼には痛い目に遭ってもらうけど」

「そうそう、私たちで完膚なきまでに相手を倒しましょう。もう二度と立ち上がれなくなるくらいにね。そろそろ、助っ人が来るころかな」

 アリアさんはテーブルの上に置いていたスマホをもって、リビングから離れて、誰かに電話をかけ始めた。

「もしもし、今どのあたり?もうすぐこっちに着く?了解。そうだ。もうすでに真珠さんが家に来てるから、ちゃんと身なりを整えてから来なさいよ。それと、ダイヤお手製の肉じゃがあるから、明日にでもみんなで食べましょう」

「助っ人って、いったい……」

 私はダイヤに彼の事を相談したはずだ。だから、同棲中のアリアさんもこの件に巻き込んでしまうことは仕方ないことだと思っていた。しかし、アリアさんは自分たちの他に新たな助っ人を呼んでいた。

 いったい、誰なのだろうか。これ以上、誰かに迷惑をかけたくなかったが、アリアさんがせっかく呼んでくれたので、おとなしく助っ人の来訪を待つことにした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く

魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」 帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。 混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。 ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。 これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...