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12推しの前では気合を入れる
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「オマタセシマシタ。いつも、ダイヤをお世話しています」
「挨拶おかしいだろ」
「あんたは黙って。ああ、ダイヤも麗しのフェイスだとは思っていましたけど、お姉さんはまるで女神様ですね」
「僕と姉さんは似てるだろ。何が違うんだよ」
「何がって、全部よ、全部。そう、その身に纏うアンニュイな雰囲気とクール美人な容姿のバランスがたまりません。ああ、どうしてモデルを辞められてしまったのですか?」
「はあ」
しばらくして、弟の彼女のアリアさんがリビングに顔を出した。そして、私たちが座っていたソファに腰掛ける。私が真ん中で、その両端にダイヤとアリアさんが座るという形だ。
自室で化粧を直したのだろうか。化粧がばっちり決まっていて、目力が増している。アリアさんは私やダイヤと違って、二重のたれ目で肌の色は小麦色。身長が低めの可愛らしい印象の女性だ。
帰宅直後は黒いパンツスーツを身に着けていたが、リビングに戻ってきた彼女は薄いピンクのワンピースの上に白いカーディガンを羽織っていた。まるでこれからお見合いでも始まるかのような服装に違和感を覚える。帰宅後は、私は夏なら半そでハーフパンツ、冬ならウェット上下というラフな格好に着替える。
「アリア、その服、僕とのデートの時に着ていた勝負服だろ。わざわざ姉さんの前だからって、そこまで気合入れなくても」
「いいえ!ダイヤ、わかっていないわね。ファンたるもの、いついかなる時でも推しの前ではきれいに着飾っていたいものなの。モデルなら、ファンの気持ちを理解しなさい!」
どうやら、アリアさんは私と顔を合わせることになり、自室で気合を入れてきたという訳だ。私のために気を遣ってくれているのはわかるが、今日はもう夜も遅い。家で過ごすいつも通りの格好でも私は気にしない。
「あの、私は別にアリアさんの格好をそこまで気にしな」
「いいえ、これは私の問題なので、お姉さんが気にしなくても私が気にします!」
「ワカリマシタ」
「姉さんが引いてるだろ」
「ご、ごめんなさい。つい、生の真珠さんに会えて興奮してしまって。電話ではお話しする機会がたまにありますが、実際にお会いすることはめったにないのでつい」
「いえ、大丈夫です。それにモデルを辞めてしまってもこうして、私のファンでいてくれるなんて、とても嬉しいです」
アリアさんはカメラマンとして働いている。ダイヤとは撮影現場で一緒になり、そこから親しくなり恋人になったそうだ。モデルは恋愛禁止という事務所もあるが、私が所属していた事務所は恋愛禁止とされていなかった。ダイヤも同じ事務所なので、アリアさんとの関係は公認となっている。
「相変わらず、姉さんのガチファンなんだよな。それで、アリア、姉さんの件なんだが」
「彼氏さんが浮気してるって話でしょ。マジでそいつ、ありえないんですけど。いっそのこと、私とダイヤで懲らしめとく?」
「僕もそれを姉さんに伝えたけど、ダメって言われた」
私に興奮していたアリアさんは、弟からすでに私のことは話を聞いていたようだ。先ほどまでの熱が一気に覚めて、今度は真冬の寒さのような冷たい雰囲気となる。弟と同じ物騒な事を言っているので、この辺が似た者同士でお似合いな理由だろう。
【お姉さん!!】
弟たちのたわいない会話に不意に涙がこぼれる。私を挟んでの会話で居心地が悪いが、お互いを信頼してため口をたたける親しい仲が羨ましい。例えそれが会話の内容が物騒だとしても。今の私にとっては自分を心配してくれている人がいるだけで心の支えとなる。
さまざまな要素が重なって、今まで溜まってストレスが爆発してしまう。目元を触ってみると、涙が流れている。泣こうなんて思っていないのに、これでは弟達にさらなる心配をかけてしまう。何とかして、涙を抑えないといけない。
「ええ、ええと、わ、わたしと彼、も、ダイヤ、や、アリア、さん、みたいな、かんけい、であり、たかった」
私を家政婦のようにしか扱わない相手に、だんだんと何も思わなくなった。最初は寂しいなとは感じたが、次第にあきらめるようになった。しかし、本来、あきらめてはならないことだった。私とあいつは恋人同士で同棲していた仲なのに。
【ぶっ殺してやる】
突然、低い声がリビングに響き渡る。何事かと目の前の二人に視線を向けるが、私と目が合ったとたん、二人はにっこりと私に微笑みかけてきた。あまりの低い声に驚き、涙が引っ込んでしまう。
リビングには私とダイヤ、アリアさんの三人しかいない。今の低い声は二人分だったので、彼らが出した声だろう。きれいにハモりを見せていた。
「だから、言ったでしょう?マッチングアプリみたいな怪しい出会いはやめたほうがいいって。でも、こうやって僕に悩みを打ち明けてくれたんだから。今からでも姉さんは幸せな道を歩めるよ。僕とアリアが絶対に姉さんを幸せにする相手を見つけてあげる。その前に彼には痛い目に遭ってもらうけど」
「そうそう、私たちで完膚なきまでに相手を倒しましょう。もう二度と立ち上がれなくなるくらいにね。そろそろ、助っ人が来るころかな」
アリアさんはテーブルの上に置いていたスマホをもって、リビングから離れて、誰かに電話をかけ始めた。
「もしもし、今どのあたり?もうすぐこっちに着く?了解。そうだ。もうすでに真珠さんが家に来てるから、ちゃんと身なりを整えてから来なさいよ。それと、ダイヤお手製の肉じゃがあるから、明日にでもみんなで食べましょう」
「助っ人って、いったい……」
私はダイヤに彼の事を相談したはずだ。だから、同棲中のアリアさんもこの件に巻き込んでしまうことは仕方ないことだと思っていた。しかし、アリアさんは自分たちの他に新たな助っ人を呼んでいた。
いったい、誰なのだろうか。これ以上、誰かに迷惑をかけたくなかったが、アリアさんがせっかく呼んでくれたので、おとなしく助っ人の来訪を待つことにした。
「挨拶おかしいだろ」
「あんたは黙って。ああ、ダイヤも麗しのフェイスだとは思っていましたけど、お姉さんはまるで女神様ですね」
「僕と姉さんは似てるだろ。何が違うんだよ」
「何がって、全部よ、全部。そう、その身に纏うアンニュイな雰囲気とクール美人な容姿のバランスがたまりません。ああ、どうしてモデルを辞められてしまったのですか?」
「はあ」
しばらくして、弟の彼女のアリアさんがリビングに顔を出した。そして、私たちが座っていたソファに腰掛ける。私が真ん中で、その両端にダイヤとアリアさんが座るという形だ。
自室で化粧を直したのだろうか。化粧がばっちり決まっていて、目力が増している。アリアさんは私やダイヤと違って、二重のたれ目で肌の色は小麦色。身長が低めの可愛らしい印象の女性だ。
帰宅直後は黒いパンツスーツを身に着けていたが、リビングに戻ってきた彼女は薄いピンクのワンピースの上に白いカーディガンを羽織っていた。まるでこれからお見合いでも始まるかのような服装に違和感を覚える。帰宅後は、私は夏なら半そでハーフパンツ、冬ならウェット上下というラフな格好に着替える。
「アリア、その服、僕とのデートの時に着ていた勝負服だろ。わざわざ姉さんの前だからって、そこまで気合入れなくても」
「いいえ!ダイヤ、わかっていないわね。ファンたるもの、いついかなる時でも推しの前ではきれいに着飾っていたいものなの。モデルなら、ファンの気持ちを理解しなさい!」
どうやら、アリアさんは私と顔を合わせることになり、自室で気合を入れてきたという訳だ。私のために気を遣ってくれているのはわかるが、今日はもう夜も遅い。家で過ごすいつも通りの格好でも私は気にしない。
「あの、私は別にアリアさんの格好をそこまで気にしな」
「いいえ、これは私の問題なので、お姉さんが気にしなくても私が気にします!」
「ワカリマシタ」
「姉さんが引いてるだろ」
「ご、ごめんなさい。つい、生の真珠さんに会えて興奮してしまって。電話ではお話しする機会がたまにありますが、実際にお会いすることはめったにないのでつい」
「いえ、大丈夫です。それにモデルを辞めてしまってもこうして、私のファンでいてくれるなんて、とても嬉しいです」
アリアさんはカメラマンとして働いている。ダイヤとは撮影現場で一緒になり、そこから親しくなり恋人になったそうだ。モデルは恋愛禁止という事務所もあるが、私が所属していた事務所は恋愛禁止とされていなかった。ダイヤも同じ事務所なので、アリアさんとの関係は公認となっている。
「相変わらず、姉さんのガチファンなんだよな。それで、アリア、姉さんの件なんだが」
「彼氏さんが浮気してるって話でしょ。マジでそいつ、ありえないんですけど。いっそのこと、私とダイヤで懲らしめとく?」
「僕もそれを姉さんに伝えたけど、ダメって言われた」
私に興奮していたアリアさんは、弟からすでに私のことは話を聞いていたようだ。先ほどまでの熱が一気に覚めて、今度は真冬の寒さのような冷たい雰囲気となる。弟と同じ物騒な事を言っているので、この辺が似た者同士でお似合いな理由だろう。
【お姉さん!!】
弟たちのたわいない会話に不意に涙がこぼれる。私を挟んでの会話で居心地が悪いが、お互いを信頼してため口をたたける親しい仲が羨ましい。例えそれが会話の内容が物騒だとしても。今の私にとっては自分を心配してくれている人がいるだけで心の支えとなる。
さまざまな要素が重なって、今まで溜まってストレスが爆発してしまう。目元を触ってみると、涙が流れている。泣こうなんて思っていないのに、これでは弟達にさらなる心配をかけてしまう。何とかして、涙を抑えないといけない。
「ええ、ええと、わ、わたしと彼、も、ダイヤ、や、アリア、さん、みたいな、かんけい、であり、たかった」
私を家政婦のようにしか扱わない相手に、だんだんと何も思わなくなった。最初は寂しいなとは感じたが、次第にあきらめるようになった。しかし、本来、あきらめてはならないことだった。私とあいつは恋人同士で同棲していた仲なのに。
【ぶっ殺してやる】
突然、低い声がリビングに響き渡る。何事かと目の前の二人に視線を向けるが、私と目が合ったとたん、二人はにっこりと私に微笑みかけてきた。あまりの低い声に驚き、涙が引っ込んでしまう。
リビングには私とダイヤ、アリアさんの三人しかいない。今の低い声は二人分だったので、彼らが出した声だろう。きれいにハモりを見せていた。
「だから、言ったでしょう?マッチングアプリみたいな怪しい出会いはやめたほうがいいって。でも、こうやって僕に悩みを打ち明けてくれたんだから。今からでも姉さんは幸せな道を歩めるよ。僕とアリアが絶対に姉さんを幸せにする相手を見つけてあげる。その前に彼には痛い目に遭ってもらうけど」
「そうそう、私たちで完膚なきまでに相手を倒しましょう。もう二度と立ち上がれなくなるくらいにね。そろそろ、助っ人が来るころかな」
アリアさんはテーブルの上に置いていたスマホをもって、リビングから離れて、誰かに電話をかけ始めた。
「もしもし、今どのあたり?もうすぐこっちに着く?了解。そうだ。もうすでに真珠さんが家に来てるから、ちゃんと身なりを整えてから来なさいよ。それと、ダイヤお手製の肉じゃがあるから、明日にでもみんなで食べましょう」
「助っ人って、いったい……」
私はダイヤに彼の事を相談したはずだ。だから、同棲中のアリアさんもこの件に巻き込んでしまうことは仕方ないことだと思っていた。しかし、アリアさんは自分たちの他に新たな助っ人を呼んでいた。
いったい、誰なのだろうか。これ以上、誰かに迷惑をかけたくなかったが、アリアさんがせっかく呼んでくれたので、おとなしく助っ人の来訪を待つことにした。
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