9 / 38
9どうして俺なのか
しおりを挟む
楓子の2つ下の弟の紅葉は、自分の容姿が嫌いだった。あまり身長が伸びず、細身の体型の紅葉は姉に似ていた。どこか中性的に見える容姿は中学生の頃、女子と間違えられるほどだった。大学生になっても、女っぽいと友達からいじられることがあり、自分の容姿にコンプレックスを抱えていた。一重の吊り上がった目も嫌いだった。常に不機嫌にみられるのも苦痛だった。
「ねえ、そこの君、隣の席、いいかな」
だから、初めて学食で彼女から声を掛けられたときはとても驚いた。女性に声を掛けられることがなかった紅葉は、自分にかけられた言葉だと思わず、無視してしまった。周りを見渡すと、昼食時ということもあって、学食は混みあっていたが、席が全くないという訳ではない。あちらこちらに空席があった。紅葉はたまたま、一人で昼食をとっていた。
「君に言っているのだけど、もしかして耳が遠いのかな」
「お、俺のこと?」
「そうだけど、やっとこっちをみてくれた。やっぱり、私の好みの顔をしているね」
もう一度、その女性は紅葉に声をかけてきた。今度はしっかり紅葉に視線を向けている。さらには紅葉に近寄ってきて、明らかにに自分に話し掛けていることがわかる。自分の隣に座りたいということなのだろう。女性は紅葉の返事を聞かずに勝手に隣に座った。両手に持っていたお盆をテーブルに乗せている。どうやらここで昼食をとるらしい。
「お、俺はもう食べ終わったから、ど、どうぞご自由に」
紅葉には姉がいたが、あまり女性と話すのは得意ではなかった。初対面の女性などなおさら緊張してうまく話せない。その場でうまく取り繕えないと判断した紅葉は、急いで昼食のラーメンを口に放り込み、慌ててお盆をもって席を立つ。
「私は君とお話がしたいと思ったんだけど、もしかして次の授業の課題とかある?それなら無理には引き止めないけど」
女性は紅葉がその場から逃げ出そうとしたことに気づき、優しく声をかける。昼食後の急ぎの用事はない。しかし、このままこの女性と話をするのは危険だと本能が告げていた。女性の目は紅葉本人を見ているようで、実際はだれかほかの人を重ねているようだった。どこか視点が会っていないように見えた。
「ええと……」
しかし、女性から逃げるための嘘が思いつかない。紅葉は嘘をつくのが苦手で、周りからは馬鹿正直だとからかわれていた。答えに言いよどむ紅葉に、女性は強引な手段で紅葉を食堂にとどまらせる。
「友達が今日は予定があって一緒にお昼を食べられなくなったんだよね。私、一人で食事をするのって苦手でさ。もしよかったら、私の話し相手をしてくれない?ああ、怪しいものじゃないよ。私は4年生の乗附美耶(のつけみや)っていうんだけど……」
逃げようとした紅葉の腕をつかみ、上目遣いに懇願されてしまった。そこまで詰めよられて断るのは悪い気がして、しぶしぶ逃げたい気持ちを抑えて席に戻る。食堂の壁に掛けられた時計を見ると、昼休みはまだ十分に時間があった。
「俺の名前は」
「待って、私に名前を当てさせて!そうだなあ。なんとなく秋生まれっぽい感じがするから……」
席に座った途端に、女性はテンションがあがり嬉しそうに紅葉の名前を当てようとあごに手を当てて考え出す。仕方なく、紅葉は女性の話に付き合うことにした。
学食で出会った女性はそれからも、大学で紅葉を見かけるたびに声をかけてきた。紅葉が友だちと一緒にいようが一人でいようが関係なしだった。
「中道、最近声をかけてくるかわいい人と、どんな関係なんだ?」
「いいなあ。あんなにかわいい先輩に話し掛けられるなんて」
「別にうれしくはない。ただ相手が勝手に声をかけてくるだけで、俺は先輩が苦手だ」
友達にうらやましがられても、まったくうれしくない。紅葉にはどうして自分が先輩に選ばれたのか理由がわからず、すっきりしない毎日を送っていた。会えばたわいのない話をするのだが、いつ見ても、先輩の瞳は紅葉を見ているのにだれか違う人物を見ているかのように空虚だった。
「ねえ、そこの君、隣の席、いいかな」
だから、初めて学食で彼女から声を掛けられたときはとても驚いた。女性に声を掛けられることがなかった紅葉は、自分にかけられた言葉だと思わず、無視してしまった。周りを見渡すと、昼食時ということもあって、学食は混みあっていたが、席が全くないという訳ではない。あちらこちらに空席があった。紅葉はたまたま、一人で昼食をとっていた。
「君に言っているのだけど、もしかして耳が遠いのかな」
「お、俺のこと?」
「そうだけど、やっとこっちをみてくれた。やっぱり、私の好みの顔をしているね」
もう一度、その女性は紅葉に声をかけてきた。今度はしっかり紅葉に視線を向けている。さらには紅葉に近寄ってきて、明らかにに自分に話し掛けていることがわかる。自分の隣に座りたいということなのだろう。女性は紅葉の返事を聞かずに勝手に隣に座った。両手に持っていたお盆をテーブルに乗せている。どうやらここで昼食をとるらしい。
「お、俺はもう食べ終わったから、ど、どうぞご自由に」
紅葉には姉がいたが、あまり女性と話すのは得意ではなかった。初対面の女性などなおさら緊張してうまく話せない。その場でうまく取り繕えないと判断した紅葉は、急いで昼食のラーメンを口に放り込み、慌ててお盆をもって席を立つ。
「私は君とお話がしたいと思ったんだけど、もしかして次の授業の課題とかある?それなら無理には引き止めないけど」
女性は紅葉がその場から逃げ出そうとしたことに気づき、優しく声をかける。昼食後の急ぎの用事はない。しかし、このままこの女性と話をするのは危険だと本能が告げていた。女性の目は紅葉本人を見ているようで、実際はだれかほかの人を重ねているようだった。どこか視点が会っていないように見えた。
「ええと……」
しかし、女性から逃げるための嘘が思いつかない。紅葉は嘘をつくのが苦手で、周りからは馬鹿正直だとからかわれていた。答えに言いよどむ紅葉に、女性は強引な手段で紅葉を食堂にとどまらせる。
「友達が今日は予定があって一緒にお昼を食べられなくなったんだよね。私、一人で食事をするのって苦手でさ。もしよかったら、私の話し相手をしてくれない?ああ、怪しいものじゃないよ。私は4年生の乗附美耶(のつけみや)っていうんだけど……」
逃げようとした紅葉の腕をつかみ、上目遣いに懇願されてしまった。そこまで詰めよられて断るのは悪い気がして、しぶしぶ逃げたい気持ちを抑えて席に戻る。食堂の壁に掛けられた時計を見ると、昼休みはまだ十分に時間があった。
「俺の名前は」
「待って、私に名前を当てさせて!そうだなあ。なんとなく秋生まれっぽい感じがするから……」
席に座った途端に、女性はテンションがあがり嬉しそうに紅葉の名前を当てようとあごに手を当てて考え出す。仕方なく、紅葉は女性の話に付き合うことにした。
学食で出会った女性はそれからも、大学で紅葉を見かけるたびに声をかけてきた。紅葉が友だちと一緒にいようが一人でいようが関係なしだった。
「中道、最近声をかけてくるかわいい人と、どんな関係なんだ?」
「いいなあ。あんなにかわいい先輩に話し掛けられるなんて」
「別にうれしくはない。ただ相手が勝手に声をかけてくるだけで、俺は先輩が苦手だ」
友達にうらやましがられても、まったくうれしくない。紅葉にはどうして自分が先輩に選ばれたのか理由がわからず、すっきりしない毎日を送っていた。会えばたわいのない話をするのだが、いつ見ても、先輩の瞳は紅葉を見ているのにだれか違う人物を見ているかのように空虚だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる