囚われの姉弟

折原さゆみ

文字の大きさ
10 / 38

10先輩の好きな人

しおりを挟む
「私、実は紅葉君に謝らなければならないことがあって……」

 三月の始めごろ、先輩が深刻そうな顔で謝罪してきた。すでに大学での講義は終わり、学食には人が少ない。紅葉はサークル活動のために大学に来ていた。学食でひとり、昼食をとっていたところに美耶が現れた。席はたくさん空いているが、美耶は紅葉の隣に座った。手には何も持っていない。美耶は四年生だが、何をしに大学に来たのだろうか。疑問に思ったが、美耶の言葉のほうが気になった。

「紅葉君は気づいていたかもしれないけど、私ね、好きな人がいるの」

 その言葉に紅葉はようやくすっきりしない気持ちの理由がわかった。やはり、先輩は自分と誰かを重ねていたのだ。しかし、そこである疑問が生じる。

(美耶先輩の好きな人と、俺はどこが似ているのか)

 好きな人と重ねるということは、その人と紅葉に共通点があるからだ。容姿だとは思いにくいので、性格や言動などが似ているのだろうか。

「それで、この前一緒に旅行に行ったときに、思い切って告白してみたの。でもさ、やっぱり結果はダメだった」

「それを俺に話して、どうしたいんですか?」

「そうだね。君に話しても仕方ないね。でもさ、少しくらい私の話をきいて慰めてくれたりとかしないの?私たちそれくらいの仲には進展していると思っていたんだけど」

 いつもは明るく冗談が好きな先輩だったが、今日はどこか寂しそうな顔で笑っている。

「先輩のいいところに気づけないそんな人なんて忘れて、俺にしますか?」

 そんな顔を見ていたら、自然と言葉が口から出ていた。初対面ではやばそうな人だと本能的に逃げ出そうとしていたのに、自分の気持ちの変化に紅葉自身が驚いていた。自分の言葉の意味を理解した紅葉は慌てて自分の口をふさぐが、先輩にはばっちり聞こえてしまっていた。

「そうだねえ。確かに私の魅力に気づけない人なんて、放っておきましょう。紅葉君なら私の望みをかなえてくれそうだし、ね」

 かくして、紅葉の告白まがいの言葉により、二人は正式に付き合うことになった。


「出会いはわかったけどさ、そこからどうやって美耶が同性を好きだってことを知ったの?今の話だと、紅葉が美耶に告白したことになって、それに美耶が応じた、みたいに聞こえるけど」

 弟と親友のなれそめなど聞きたくはなかったが事情はわかった。親友が弟を自分と重ねてみていたと聞いたときはまさかとは思ったが、美耶の家庭の事情を聞いた後ではなるほどと納得した。

「そうだよ。実際に二人の仲では俺から告白したことになってる。ここから、俺たちは楽しい思い出を作っていくのかと思ったんだけど。それが違ったんだよなあ」

 何やら急に弟は不機嫌そうに頬を膨らませた。いったい、この後、二人の間になにがあったのか。楓子は弟に話の続きを促した。


 紅葉は卒業式で初めて、姉と恋人が親友同士だということを知った。そして、そこで重大な秘密を知ってしまう。

(ああ、そういうことか)

 好きな人に振られたと言っていたが、確かに先輩の好きな人は、絶対に先輩の告白を受け入れることは無い。付き合うこと自体が難しい人だった。まさか、自分の恋人の好きな相手が。

(姉だったとか。でも、これで辻褄が合う)

 好きな人との共通点は容姿だった。容姿は候補から外していたが、それこそが美耶が紅葉に声をかけてきた理由だったのだ。親しげに話す様子を遠目に見ていても、美耶が一方的に姉に好意を寄せているのがまるわかりだった。紅葉と話しているときとは違い、焦点がしっかりと姉に定まっている。よく見ると、頬が紅潮して目が輝いている。いつも紅葉に話し掛けるときのような明るいのに空虚な笑顔ではない、本物の笑顔だった。

 卒業式が終わり、紅葉は先輩に一つの連絡を入れた。

「美耶先輩の秘密を知りました。少しそのことで話があります」

 連絡を待っていたが、卒業式当日に返事が来ることはなかった。

『引っ越しの準備で忙しくて会える時間が取れないから、私の秘密とやらは電話で聞いてもいい?』

 ようやく返事がきたのは卒業式が終わって三日後の夜の事だった。すぐに紅葉は美耶に電話を掛ける。

「美耶先輩、改めて大学卒業おめでとうございます」

「挨拶はいいから、用件を話しなよ。いったい、私のなにを知ったのかな?」

 電話越しに聞こえる先輩の声はどこか硬い緊張した声だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...