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23.gonna be ready this time?(1)
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そして、午後。
悠一は「第二グラウンド」で走る。
ストレッチとアップを終え、ジャケットとウォームアップパンツを脱いで走り出す前に、悠一は一瞬だけ、校舎を見上げた。
その窓の傍に、今は誰もいない。
もう、随分前から「そう」だった。
――奏は「走る俺」のデッサンを終え、美術室で描くようになっていたから。
けれど、その仕草は「癖」のように、走り出す前のウォームアップの一部分のように。
悠一の中で「ルーティン」になっていた。
開けられているはずもない窓が、日差しの反射に暗く沈む様子を見て。
なぜかすこしだけ、心が軋むような痛みを覚えるところまでが、まるで一連の「流れ」のように――
そして、整備されていない古びたレーンに上がりながら、「帰りに美術室に顔を出してみようかな」と考えた。
――ああ、そうだった。
悠一は気づく。
美術室にも奏はいないのだと。
「絵」はもう、仕上がったのだから。
それに、今日。
奏はまた、学校を休んでいる――
そんな雑念を振り払おうとするかのように、悠一は、ひとつゆっくりと「かぶり」を振る。
そして、走り出そうとした時、視界に現れたのは。
藤堂尊だった。
「え……なに、オマエ?」
思い切り「ぶっきらぼう」な問いが、悠一の口から洩れた。
「『なに』って、走りに来た」
尊が応じる。
ごく当然のことのように。
放課後に自分が「ここで走る」のは、あたかも、大昔からの「自然の理」かなにかであるかのように。
悠一は黙り込む。
あからさまな「不快さ」を隠そうとはしなかった。
その気配に気づき、尊が言う。
「なんだ? 『ここ』は、お前の私有地かよ?」
わずかに尊大に、軽く上げられた形の良い顎先。
悠一は、小さな舌打ちだけを返事がわりにして走り出す。
*
そして尊は、シンプルなジャージ姿のままで、悠一のトレーニングメニューをなぞるように走る。
自分以外の足音。
息遣い。
常に静謐な「悠一の場所」が乱されるには、そんな「ごく微かな気配」で事足りる。
同じようなスピード感で、同じメニューを追いかけられることにも、悠一の集中力は、ひどく乱された。
気が散って気が散って仕方がない。
イライラが募る。
ったく。
いっそ、今日はもう、帰ろうか――
そんなコトすら、悠一の脳裏をよぎる。
けれども、どうして自分の方が「追い出されなきゃならないのか」と思えば、理不尽さに腹が立った。
もともと、ずっと俺が使ってたのに。
「ひとり」で走りたくて、この場所にいたのに……と。だが。
――「ここ」は、お前の私有地かよ?
そんな尊の言葉には、もちろん、反論の余地もない。
邪念を振り払おうと、呼吸とフォームに意識を強く向けた瞬間、悠一の手首で、スマートウォッチがバイブした。
フワリと速度を緩めて、トラックをそれていく悠一の背中を、尊が視線で追いかける。
*
母親からのメッセージだった。
――ゴメン、悠一。今日、早めに帰ってこれる?
小さく溜息をついて、悠一は「わかった」とだけ返信した。
じゃあ、八百だけタイム取ってから帰るか――
そう決めて、悠一はトラックをダッシュする。
尊は、枯草まみれのフィールドに立って、走る悠一を眺めやっていた。
トレーニングに飽きたのか、それとも。
悠一の邪魔をしないよう、気を使ったのか――
そして、悪くないタイムが出た。
穏やかな満足感を得て、悠一はクールダウンのストレッチを済ませる。
そして、フィールドに立つ、怖ろしく背の高い、完璧な姿をしたアルファを振り返ると、
「……藤堂、クールダウンだけはしっかりやっとけよ? 身体痛めるぜ」と言い置き、立ち去った。
そして、午後。
悠一は「第二グラウンド」で走る。
ストレッチとアップを終え、ジャケットとウォームアップパンツを脱いで走り出す前に、悠一は一瞬だけ、校舎を見上げた。
その窓の傍に、今は誰もいない。
もう、随分前から「そう」だった。
――奏は「走る俺」のデッサンを終え、美術室で描くようになっていたから。
けれど、その仕草は「癖」のように、走り出す前のウォームアップの一部分のように。
悠一の中で「ルーティン」になっていた。
開けられているはずもない窓が、日差しの反射に暗く沈む様子を見て。
なぜかすこしだけ、心が軋むような痛みを覚えるところまでが、まるで一連の「流れ」のように――
そして、整備されていない古びたレーンに上がりながら、「帰りに美術室に顔を出してみようかな」と考えた。
――ああ、そうだった。
悠一は気づく。
美術室にも奏はいないのだと。
「絵」はもう、仕上がったのだから。
それに、今日。
奏はまた、学校を休んでいる――
そんな雑念を振り払おうとするかのように、悠一は、ひとつゆっくりと「かぶり」を振る。
そして、走り出そうとした時、視界に現れたのは。
藤堂尊だった。
「え……なに、オマエ?」
思い切り「ぶっきらぼう」な問いが、悠一の口から洩れた。
「『なに』って、走りに来た」
尊が応じる。
ごく当然のことのように。
放課後に自分が「ここで走る」のは、あたかも、大昔からの「自然の理」かなにかであるかのように。
悠一は黙り込む。
あからさまな「不快さ」を隠そうとはしなかった。
その気配に気づき、尊が言う。
「なんだ? 『ここ』は、お前の私有地かよ?」
わずかに尊大に、軽く上げられた形の良い顎先。
悠一は、小さな舌打ちだけを返事がわりにして走り出す。
*
そして尊は、シンプルなジャージ姿のままで、悠一のトレーニングメニューをなぞるように走る。
自分以外の足音。
息遣い。
常に静謐な「悠一の場所」が乱されるには、そんな「ごく微かな気配」で事足りる。
同じようなスピード感で、同じメニューを追いかけられることにも、悠一の集中力は、ひどく乱された。
気が散って気が散って仕方がない。
イライラが募る。
ったく。
いっそ、今日はもう、帰ろうか――
そんなコトすら、悠一の脳裏をよぎる。
けれども、どうして自分の方が「追い出されなきゃならないのか」と思えば、理不尽さに腹が立った。
もともと、ずっと俺が使ってたのに。
「ひとり」で走りたくて、この場所にいたのに……と。だが。
――「ここ」は、お前の私有地かよ?
そんな尊の言葉には、もちろん、反論の余地もない。
邪念を振り払おうと、呼吸とフォームに意識を強く向けた瞬間、悠一の手首で、スマートウォッチがバイブした。
フワリと速度を緩めて、トラックをそれていく悠一の背中を、尊が視線で追いかける。
*
母親からのメッセージだった。
――ゴメン、悠一。今日、早めに帰ってこれる?
小さく溜息をついて、悠一は「わかった」とだけ返信した。
じゃあ、八百だけタイム取ってから帰るか――
そう決めて、悠一はトラックをダッシュする。
尊は、枯草まみれのフィールドに立って、走る悠一を眺めやっていた。
トレーニングに飽きたのか、それとも。
悠一の邪魔をしないよう、気を使ったのか――
そして、悪くないタイムが出た。
穏やかな満足感を得て、悠一はクールダウンのストレッチを済ませる。
そして、フィールドに立つ、怖ろしく背の高い、完璧な姿をしたアルファを振り返ると、
「……藤堂、クールダウンだけはしっかりやっとけよ? 身体痛めるぜ」と言い置き、立ち去った。
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