え、待って。「おすわり」って、オレに言ったんじゃなかったの?!【Dom/Sub】

水城

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Row, row, row your boat

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「やあ、ゲン。本当にひさしぶり」

 左ハンドルの運転席から、涼しげな挨拶。
 「ああ」とだけ、オレは応じる。

 微塵の圧迫も感じさせないスムーズさで、車は発進した。
 微かに新車の匂いが漂う、エアコンのきいたひんやりした空気。

「……ミツ。悪いけど、少し寝かせて」
 言ってオレは、瞼を閉じる。

 コイツと「話したいコト」なんて何もないし。
 なにより本当に眠かった。
 体調不良が続いていたせいで、シゴトもすこし押し気味になっていたから。

「乗ってくるなりご挨拶だな、『積る話』もさせない気かい?」

 なんだよ、その白々しい言い草。

「それに、ずっと俺だけに運転させるつもり?」

 ああ、「そっち」が本音か。そうだろうな。

「……こんな高そうな新車、畏れ多くてハンドル握れないから。運転は遠慮しとく」
 
 オレもさ、これくらいの皮肉くらいは言えるようになったんだぜ?
 「オマエら」との付き合いの「おかげ」でな――

「ゲン、お前、本当に眠る気か?」
 光誠が、少し声のボリュームを上げた。

「シゴトがバタついてて、あんま寝れてない。ボート漕ぐには力足りてないんだよ」

 目を閉じたまま、オレがそう言い返せば、 

「仕方ないな」と呟き、光誠がスンと、フロントグラスに向き直る。

「体力は必要だ。ゲンにはさ、また四番あたりでガンガン漕いで欲しいから」

 ハイハイ、そうですか。
 やっぱりオレは、そういう使われ方のための「要員」かよ。

「しかし、そんなに忙しいのか? たしか…公務員になったんだろう?」

「ああ、市役所」

 ふうん……と、ミツが呟く。

「そんなに大変とは意外だけどね。ああ、もちろん、公に尽くす立派な仕事だと思ってるよ」

 「とってつけた」ような美辞麗句。
 オレは思わず、鼻息で笑いそうになってしまう。
 どうせ、「そんな稼げない仕事、よくやるな?」あたりが本心なんだろ? 
 
 コイツは、光誠は――

 どこをどう切り取られても。絶対に誰からも批判を受けないような話し方しかしやがらない。
 「表向き」だけは、絶対に。
 けどさ。

 「それ」がミツの「本当」なんだと。そう思ってた時もあったんだ。
 「誠実なヤツだ」って。

 おめでたいよな。オレって。
 まあさ、オレだけじゃなく。
 たいていのヤツは、ミツのこの「外づら」に騙されてるんだけど――

 ただ、ホント。
 眠りたいんだ。少しだけでいい。
 なのに――

 なんだよ? 皮膚がザワザワする。
 
 眠いんだ、オレは。
 ねかせてくれよ。頼むから。





 そんな風に、グルグルと半覚醒のもどかしさだけが頭に残っていたけれど、結局のところ、オレは、少しウトウトできていたらしい。

 ふと、違和感を覚えて目が覚める。
 エンジン音も車の揺れも感じなかった。

「……ここ、どこ? もう着いたのかよ」

 瞼を擦りながら周囲を見回す。

 外の景色は、高速とかじゃなくて。
 今、車が停まっているのは下道――しかも脇道のようだった。

 ――どこかの山の中か?
 
 そして、運転していたハズの光誠が、後部座席のオレの隣に座っていることに気づく。
 
 空気が――ちがう。
 
「なんだよ……ミツ、オマエ、発情してるのか?」

 ギラリと。
 鋭い夏の日差しみたいなglareが、オレの肌を刺していた。

「ゲン、とりあえず、俺を宥めろ。運転どころじゃない」
 
 そう言い放つやいなや、ミツはキスを始めた。
 ネチネチと、しつこくてイヤらしくて、乱暴なキス。

「……お前、臭うんだよ、ゲン」

 くちびるを離しながら、ミツが吐き捨てる。

「朝っぱらからヒドイ匂いさせてさ、欲求不満なのか」

 どっちがだ?!
 なんで「オレのせい」なんだよ。

 そうだな、コイツはいつも、全部「オレのせい」にする。
 ひとのせいにして責める。

 ミツがシートの上に膝立ちになり、自分のスラックスのベルトに指を掛けた。

Strip脱がせろ

 ガツンと、後頭部を殴られるように乱暴なcommand。

 オレはシートの下にしゃがみこむ。
 そして、ミツのスラックスのファスナーを引き下ろした。
 すでにそこは、十分に萌していて、下着にシミが滲んでいる。

Lick舐めろ!」

 叱責のような、焦れたような色彩の――
 ミツのcommand。

 オレはミツの屹立を引き出した。
 そして口に含み込む。

 まるで頭を両手で掴まれてしまったように、従わざるを得ない。
 「ソレ」には。
 ギラギラとしたglareを纏ったDomのcommandには――

 命令どおりに、口腔のそれに舌を絡めて舐め上げようとした瞬間。
 思い切り、腰を打ち付けられる。

 ミツのものが、いきなり喉奥にまでねじ込まれた。

 ぐうっと、息が詰まる。
 腹筋が痙攣しそうなほどに嘔吐いた。
 反射的に、喉がきつくすぼまって、犯す先端を締めつける。

 悪趣味なミツ。
 コイツは、こんな最低なイラマチオが好きで好きでしょうがないんだ。

 相手をオナホ扱いにすればするほど。
 やられてるヤツが、もがいて苦しんで、涙と鼻水まみれになればなるほど。

 気持ち良くてたまらなくなる。そんな最悪なDom―― 

 ミツが悦楽の呻きを上げた。
 腰の動きが激しさを増す。
 強く打ち付けられ、鼻が潰された。

「締めろ、もっと、締めろ……ゲン」

 ガサガサと、せっぱつまった囁きで、ミツがオレの髪を引き掴む。
 
 いたい、いたい、いたい――
 
 ゲボゲボと喉が鳴る。
 
 吐く。ヤメロ、やめてくれ。

 「セイフワード」は口にできない。
 ジェスチャーで、懸命にそれを伝える。
 
 もちろんミツは、そんなものを一顧だにしない。
 完全に無視して顎をそらし、さらに深くオレの喉を犯してから、

「イク……っ」と叫んだ。

 吐き出される熱液を、どう受け止めたらいいのか――

 本能と経験で。
 身体が、反射的に防御の体勢を取る。

 それでも、強引に流し込まれる白濁は喉に絡まって。
 息が詰まって、咳き込んで。
 ミツの腰を押しのけるようにして、ドアを開け、顔を外に出しながら激しく咳き込んだ。
 
 涙。鼻水。嗚咽。
 そして、すこしの精液とすこしの胃液を吐き戻す。

 全身の筋肉が波打つような荒い呼吸。
 ミツが、オレのジーンズの腰を乱暴に掴んで、車内に引き戻した。

Stay Stillジッとしてろ

 続けざま、ビンタみたいにcommand。
 凍りつくオレの身体から、ミツが下着ごとジーンズをはぎ取って。

 そして――
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