え、待って。「おすわり」って、オレに言ったんじゃなかったの?!【Dom/Sub】

水城

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Row, row, row your boat(2)

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 長い指に、裸の腰が捉えられた。
 肌に爪が食い込みそうなほどにきつく掴まれて。
 ミツがオレを割り開く。
 
 ――挿入されるのが、特別好きなワケじゃない。

 ミツ以外から、されたことはなかった。
 ミツ以外に、ちゃんと付き合ったDomはほとんどいなかった。

 圧迫感がこみ上げる。
 何の準備もいたわりもなくされる「それ」は、たいてい、いつも痛くて。 
 泣きそうに痛くて。

 でもオレはSubだから――

 だから、そうされても仕方なくて。
 痛みは「当たり前」だと、最初は思ってた。
 無理矢理イラマされたり、ぶたれたり蹴られたりするのと同じだと。
 ミツとの「プレイ」で、すくなくともSubとしての「被虐」と「服従」の快楽は生じていたし、射精自体はしていたから。

 ずいぶん後になって、「その行為セックス」は「やりよう」によっては痛みがなく、とてつもなく「気持ちいい」ことすらあるのだと、なにかで読んで知った。
 
 ごくたまに、ミツの機嫌が良かったり……行為のタイミングとか、なんらかが上手くいった時に、オレも快感を得ることがあって。
 その時に抉られた場所とか力の抜き方とか。
 そういう色々を身体に覚え込ませて、できるだけ痛くないように、可能ならば快感を拾えるように。
 オレは無意識に防御するようになってた。

 けれど今日は。
 いまの、この挿入は。
 
 ただ力づくに無理矢理にオレを割り開いていくコレは。
 もう、どうしようもなくつらすぎた。

「穴、きつすぎる……セックス、全然してないのか?」
 
 射精後の余韻をまとって、軽く息が上がったままのミツの声。
 蔑みだけをあらわにした口調。
  
「かたすぎだ……」

 そう、舌打ちまじりに呟いて、ミツが思い切り腰を打ちつけた。

 その後は、ただガツガツと乱暴な抽挿。
 突き上げて抉られる痛みと違和感に、悲鳴と呻き声が止まらない。

shushうるさい!」

 露骨に不快を滲ませた声音で、ミツがcommandを吐く。
 鞭打たれた家畜みたいに、オレはビクリと首筋を痙攣させた。
 悲鳴を嗚咽を、それ以上漏らさないよう、オレは必死に奥歯を噛みしめる。

 ミツの腰遣いが更に激しくなった。
 乱暴に奥を抉ってくる感覚。
 ひたすら寒気がこみ上げて、背筋に冷や汗が噴き出した。

 こらえきれず、また悲鳴。

shushだまれ! 二度も同じことを言わせるな」
 
 丁寧にすら聞こえるほどに怒りを押し殺した、ひどく鋭い声。
 みぞおちが凍りそうな冷たさだけを帯びた――

 command。

 オレは、自分の前腕に歯を立てる。
 きつく噛んで、完全に声を殺した。

 揺れる。
 車が。
 誰がどう見たって、中で何やっているのか。
 それがハッキリと分かるような淫らな軋み方で。

 でも、この光誠みつしげが。
 そう簡単に誰かに見つかるような場所で、「こんなコト」をするはずもなくて――
 
 ミツが、オレの「前」を掴んだ。手慣れた仕草で、それに刺激を与え始める。熱くかたく勃ち上がる。

 イキたいワケじゃない、でも。
 このままじゃ。痛くて、つらくて、みじめで。悲しい。
 だからもう――

「ゲン……すごく勃ってる。やっぱり気持ちいいんだな。Subっていうのは、本当に仕方のない連中だ」

 軽蔑を隠そうともしないミツの口調。
 勝手に決めつける、やたらとすました――声色。

 もうどうでもいい。なんだっていい。
 早く終わってくれ、早くオレを解放してくれ。
 早く、イカせてくれ。

 はやく――
 
 そしてミツが、オレを犯し終える。
 ほぼ同時に、オレもミツの手の中で射精した。





 「All Stop」と告げ、プレイを終わらせた後のミツは、ご機嫌だった。

 ハンドルを握りながら、「ローロー・ロー・ユアボート漕げよ」を口ずさんだりして。

 それも、やたらイケボの。
 ポッシュなブリティッシュイングリッシュの発音で――





 イラマとアナルへの挿入の後。
 ボロ雑巾みたいになったオレを、ミツはギュッと抱きしめた。
 そして、

「Good Boy、俺の可愛いゲン。Good Boy」と繰り返す。
 
 ――「ご主人様」がいなくて、ずっと寂しかったろう?

 ずっとステディなDomがいなかったコトなんてお見通しだといわんばかりに、ゆっくりとオレの首筋をなぞりながら、ミツが囁いた。

 頬に残る涙の跡を拭う気力もなく、オレは、ミツの胸にグッタリと寄りかかる。

「……ゲン」
 オレの髪をくしゃくしゃ掻き回して、ミツが呼ぶ。

 事後の、「All Stopプレイおわり」と告げる直前にだけ聴ける――
 ミツのいっとう優しい声。
 いっとう甘い呼びかけ。

「お前は可愛い、いい子だよ」

 指の背で、そっと頬を撫でられた。
 涙でムズつくその場所を、ミツの手に擦り付けたくなる。

「新しいcollarくびわ、買ってやろうか? ゲン」
 言ってミツが、オレの耳たぶを甘噛みする。

「ゲンには首輪が似合うから……『俺のモノ』って印が、すごく似合うから」
 
 ジツがない、誠意がない。
 心の底ではもう、そう分かっているのに。

 懲罰めいた性交の後の、とてつもなく優しいcareは、とてつもなく甘美なrewardでしかなくて。
 Sub Dropバッドトリップ寸前から、急激に引き上げられたオレの脳内には、大量の麻薬物質が放出されて。

 とてつもない恍惚感にあふれたSpaceに酩酊する――

 だから逃げ出したのに。
 ミツから逃げ出したのに、オレは――
 
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