え、待って。「おすわり」って、オレに言ったんじゃなかったの?!【Dom/Sub】

水城

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So long(2)

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 正直に言えば。
 あれから一度も「間違い」……とかが、「ちょっとも」なかったってワケじゃない。

 ムギと隆督が部屋に遊びに来たり、隆督の夕食にオレが呼ばれたりすることは、普通になりつつあって。
 なんなら、週末の佐竹さんは、オレの分も「おり込み済み」でおかずを作り置いてるフシがあって――

 そんな風に、隆督の家で夕飯を取った夜のこと。

 オレはムギの毛にブラシを掛けてやったりしてた。
 ムギのヤツも、オレのブラッシングがキライではないらしく、すでに「ヘソ天」状態で、デレンと尻尾と四肢を垂らしている。

「なんだよ、オマエ。ご主人にしてもらわなくっていいのか。コラ、誰でもいいのかよ、節操ないぞ」

 なんて、ひたすらデカ犬をからかいながらも、当然オレは、まんざらでもなく、結構嬉しいワケなんだけどさ。

 隆督がほうじ茶を淹れて持ってきてくれた。
「サンキュ」と、手渡された湯呑を受け取りながら、オレは隆督に訊く。

「コイツって、何歳ぐらいなの」

「ムギはね、もう七歳だよ。結構……いい歳かな」

 いい歳?
 無言で問い返したオレの心を読んだみたいに、

「超大型犬だから、そんなに長命では…ないんだ」と、隆督は応じた。

 そして、ヘソ天状態のムギの腹の「下の方」をワシワシと撫でながら、こう続ける。

「ムギってさ……ほら、去勢してるけど、一応、その前にお父さんにはなってるんだよ」

「へぇ……」

「こども、たしか三十頭ぐらいいる」

「それって……結構スゴイ…のか?」

「うん、大型犬にしても、結構スゴイかも」
 頷きながら、隆督が言う。

「オマエ、やるじゃん」
 オレはムギの顎を思いっきりくすぐってやった。

「でも今は……ないから、だからもう、旗手さんほどは元気じゃないです」

「……オイ、ちょ、待て」
 オレの眉がピクリと痙攣した。

「ひとの名前に、変な意味込めまくるなよな」
「気にしすぎでは?」
「あのなぁ」

「旗手さんが、やたら『勃起』って口にするのを嫌がるから、婉曲に言ってあげただけです」

「もういい」
 オレはスイと横を向く。

「あれだ、三歳児がチンコうんこ連呼するようなものだよな。いちいち気にしてたオレがバカだった」

「旗手さん」
 やけにまっすぐな声で、隆督がオレを呼んだ。

「そんなに僕のコト、『子供だ』って確認したいんですか?」

 オレは答えを返せない。

「ええ、子供ですよ。いちいち言われるまでもなく、高校生です。なのに旗手さん、なんでそう、ことあるごとに僕のこと、子供子供って確認したがる…」

「ああ! そうだよ、確認したいんだよ」

 隆督をさえぎるみたいにして、オレは少し声を荒らげた。

「確認しないと、オレは……」

 そうなんだ。まだ隆督は。
 忘れないように、何度も言いきかせて、刻みつけて――
 そうじゃないと。

「『確認しないと』……?」

 淡々と隆督が訊き返した。
 オレはそのまま、また黙り込む。

「旗手さん、『確認しないと』、なに?」

 オレはくちびるを噛みしめて俯く。

Say答えて

 いきなりのcommandだった。
 問答無用に、それは背筋を走り抜ける。

「確認、しないと……」

 くちびるが、動き出す。
 ジワリ、股間が熱くなる。

「欲しくなりますか?」

 隆督……やめ、て。

「commandが」

 ビクンと、下着の内側で痙攣する――部分。

「いいんですよ、欲しがっても」
「たか、ま…さ」

「言ってあげます。だって旗手さんを躾けるのは、僕ですから」

「……ダメ、だ」

「ダメじゃないです」
 即座に否定して、隆督が続ける。

Kneelおすわり!」

 腰が抜けた。そのまま割座。
 ズボンのファスナーの部分が、露骨につっぱった。

「『元気』いっぱい、ですね」

「……言い方…っ」

「可愛い……いい子」

 グワリ、視界が歪む――恍惚感。
 ああまったく。クソチョロすぎだろ、オレも、たいがいに。

roll転がって
 絶妙なタイミングで、またcommand。

 命じられているのは、全然たいしたことじゃない。
 エロくもなきゃ暴力的でもない。なのに。

 服従。それに付随した被虐の感情がかき鳴らされて――オレは。
 オレの中でひたひたと、快感が貯水されて。

「Good boy」

 隆督が足の甲で、そっとオレの頬を撫でた。
 ゾワリ、腰からこみ上げて駆け上る電流。
 ひとりでに、腰が揺れそうで。もう。

 遊んでいるのかと勘違いしたムギが、遠くで同じようにゴロゴロと転がっている。
 その様子を見て、クスリと笑う隆督のくちびるが――

「いいですよ、旗手さん。イッて」

 隆督の囁き。
 オレは激しくかぶりを振る。

「でも……出したい、でしょう?」

 出したい。イキたい。
 
「じゃあ、イッたらいいですよ」

 オレはまた首を横に振る。そして、

「……いくな…って」

「え?」

「あのときは、『いくな』って、『いっちゃダメ』って、オマエ」

 すこしだけ思案気な横顔を見せてから、隆督が「ああ……」と頷く。

「そうでしたね……『行っちゃダメ』って、そう言いました。僕」
 そして小さな声で――笑う。

「はたてさん」
 クシャリと髪を撫でられた。

「ひとりで……したいですか。それとも、僕に命じられたい?」

 未成年者のcommandで「イク」なんて、さすがにそれはマズい。
 そんな間違いは、一度やってれば十分だろ? と。
 オレは必死に自制心をふりしぼる。
 ヨロリと立ち上がり、隣の座敷に入って後ろ手に襖を閉めた。

 ズボンを降ろして、勃起した男茎を掴み出して扱く。
 声を出さないように、なるべく早く済ませてしまおうと。
 ただそれだけを考えるのに、イヤらしい声が止まらなくて――

 のたうち回るように自慰を続ける。
 焼けつく快感。でも。
 イケなくて、どうしようもなく、達せなくて。

「あ、あっ…あ、ああ……あぁぁっっ………」

 ほとばしる悲鳴。
 泣きそうに喘いで、グチャグチャとペニスを摺り上げて。

「はたてさん」

 スッと細く襖が開く。
 逆光で、佇む隆督の――影。

Lookこっち見て

 立てた人差し指。視線が絡め取られる。
 息遣いが、少し落ち着いて。
 オレの呼吸が、ゆっくりと暗い部屋の畳に沈殿していく。
 それが、完全に凪ぎ切る寸前に――

Cumイって
 
 身体が腰が。
 エビみたいに激しくのたうって。
 熱液を、飛び散らせる。

 ビクビクと続く射精の間、隆督はずっと、襖の脇に佇んでオレを見守ってた。そして。

「んっ、ん…っ、ん……」
 余韻に腰を震わせ、甘えた鼻声を止められずにいるオレの傍に、隆督がスッと膝をつく。

「ちゃんとイケて、おりこうです。はたてさん」

 クシャリと、髪を撫でられた。
 身体が蒸発してしまいそうな――
 多幸感。

「僕はイヤじゃないんです。何度も言ってます。旗手さんが弄るのを見てもイヤじゃない。これは虐待じゃない。僕は……」

「はたてさんが、だいすきです」

 言って隆督は、オレの額にキスをした。

 そんなような――

 ひどく危なっかしかったけど、でもギリギリの。
 「間違い」はあったんだ。ゴメン。

 ――そして同じ頃。
 オレのLIMEに、メッセージが入った。

 ミツからの――
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