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執事とのキス
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「おはようございます、お嬢様」
彼がニッコリ微笑んで言うと、周囲にいた生徒達はザワめく。
「カバンをこちらへ」
そう言って有無を言わせず、アタシのカバンを取り上げる。
「あっ、ちょっと!」
「ささっ、お席に」
手を握られ、腰を触られ、席へ誘導される。
すると席を引いて、再びにっこり。
「さっ、どうぞ。お嬢様」
ギクシャグした動きで座ると、
「のどは渇いておりませんか? 紅茶などいかがです?」
…と、女子生徒どころか男子生徒まで魅了しそうな笑みで言うモンだから、
「んがあああ!」
キれた★
彼の手を取り、走り出す。
そして人気の少ない中庭に来ると、手を放した。
「ゼーハーゼーハー…」
「どうしました? お嬢様。いきなり走り出して」
しかし彼は息1つ乱さず、平然としている。
…そう。彼は運動神経が高いし、勉強もできる。
それどころか、顔はモデル以上。
母親は有名女優、父親は世界中にいくつも会社を持つ大企業の会長。
彼は三男で、女子生徒達が虎視眈々と花嫁の地位を狙っている。
そんな人がアタシに対して、まるで執事のように振る舞うのには理由があった。
だけど!
「その背筋が寒くなるようなマネはやめて! 朝から血の気が引くわ!」
「心外だなぁ。オレはオレなりに、アンタのモノとしてちゃんと尽くしているのに」
「アンタは楽しんでいるだけでしょうがっ!」
「うん、それもある。でもそれもキミが言ったことでしょう? 『自分で人生を楽しめ』って」
「うっ…!」
くらっと目眩がする。
するとつい一ヶ月前のことが、走馬灯のように思い出せた。
一ヶ月前。
アタシは部活で遅くなって、とうに下校時刻が過ぎた後に帰りのバスに乗った。
学校から駅までのバスには、アタシと運転手、それに彼の3人しかいなかった。
彼には迎えの車が来る時と、こうやって帰る時があることを、何度か目撃して知っていた。
同じクラスで、周囲からは王子様扱いされている彼のことは、イヤでも意識に残っていた。
だけど断言できる。
恋愛感情では無かった!
だから彼と一緒にいることは、正直居心地が悪かった。
平凡な自分とは、まるで別世界にいるような人間だから…。
彼はぼんやりと外の景色を見ていた。
だからアタシは何気なく、彼を見ていた。
彼の顔はキライじゃないから…。
けれどいきなり、彼はアタシの方に視線を向けてきた。
だから慌ててそらしたら…。
キキィーっ!
グラッと体が前のめりになった…と思った瞬間、意識を失った。
…しばらくして目が覚めた。
その時、ようやく自分の置かれている状況に気付いた。
バスが…事故った。
バスの中はひどく歪んでいて、アタシはイスの下に倒れこんだから、無傷だった。
でも運転手の人や、彼は!?
「うっ…だっ大丈夫? 生きてるっ?」
何とか瓦礫を避けながら、彼のいた方向に進む。
運転席の方は…残念ながら瓦礫が邪魔で、行けなかった。
だから近くにいたはずの彼の元へ行った。
彼はいた。
…だけど、瓦礫で体のあちこちが傷だらけになっていた。
「ねっねぇ! 大丈夫?」
彼もまたイスの下にいた。
だから身を縮ませて、彼の頬を軽く叩く。
キレイな顔が、血とほこりに汚れていた。
ハンカチを取り出し、ぬぐった。
「うっ…」
ゆっくりと目を開き、彼はアタシを見た。
「あれ…? 一体何が…」
「…どうやら事故に合ったらしいの。運転手の人はどうなったのか分からない。でもお互い無事でよかったわね」
顔を拭いてあげながら言うと、いつも柔和な笑みを浮かべている彼の顔が、無表情になった。
「オレは別に…。どうなっても良かったんだけどな」
「えっ?」
彼の呟きに、手が止まる。
「…別に生きてても死んでても、オレにとっては同じだし。あ~でも痛いのはキライなんだよな」
…アタシの、目の前にいるのは、誰?
いっつもニコニコと笑っている彼じゃなく、とても冷めた目と表情をする彼は…。
「なっ何でそういうことを言うのよ! 人が羨むような人生送ってるんじゃないの?」
「あ~それね。よく言われるけどさ。自分が望んでいないものが周りに溢れてたって、意味無いと思わない?」
「それはっ…!」
…そうだけど。
「生まれてからこの方、何不自由ない生活を送っていると、逆に退屈で死にそうだった。だから今ここで死んだとしても、悔いはなかったんだけどね」
自分の体の傷を見ながら、彼は淡々と話す。
けれどアタシだんだん怒りが募ってきた。
「…アンタさぁ、人生なめてるでしょう?」
「えっ?」
顔を上げた彼の顔を、アタシは思いっきり、
パンッ!
平手打ちした。
「そんなバカな坊ちゃん考えで、簡単に生き死に口にするなっ! 生きることの難しさも酸いも甘いも分かっていないクセに、『死んでもいい』なんて言うんじゃない!」
そして胸倉を掴み、顔を近付けた。
「アンタもアタシも生きるの! これからもずっと、生きていくんだから! そして自分で人生を楽しみなさいよ!」
「…別に生きてても楽しくないんだけどね」
全てを諦めたかのような言い方に、頭にカッと血が上った。
彼はずっと、全てのモノが満たされてきた。
家柄もお金も、容姿も頭脳も運動神経も全て、足りなくて欠けたことなんてなかった。
だからこんなに足りない人になってしまったのか…。
周囲の人から羨ましがられても、彼の心は動かせない。
…ならっ!
アタシは彼の頭を掴み寄せ、彼の唇にキスをした。
「んんっ!」
何度も、何度も!
噛み付くように唇を合わせ、薄く開いた口の中に舌を入れた。
逃げようとする彼の舌を絡めとり、無我夢中で彼の口の中を貪った。
舌で味わう彼の唾液が、とても甘かった。
思う存分彼の唇を味わった後、どちらともつかない唾液で濡れた唇をはなした。
「…アンタが自分で自分のことをいらないと言うなら、アタシにちょうだい。アタシはアンタに生きててほしい。だからアタシのモノになって、生きなさい」
額を合わせ、間近で睨み付けながら言った。
すると彼は一瞬眼を丸くし、すぐに閉じた。
そしてしばらくして開いた目には、先程の冷たさは無かった。
「…良いよ。それ、おもしろそうだ」
そう言ってアタシの手を取り、甲に口付けた。
「オレの全てはあなたの為に―」
忠誠を誓うような姿に、思わず見入ってしまった。
その時から、彼はアタシのモノになった。
…その後、すぐにレスキューの人に助けられた。
バスは道路に飛び出してきた小学生を避けようとして、壁に突っ込んだらしい。
けれど幸いにも運転手もケガを負ったけれど無事で、誰も死ななかった。
めでたし、めでたし。
……と、終わるハズもなく。
走馬灯を見終わったアタシは、深くため息をついた。
その後、彼はアタシにまるで執事のように仕えるようになった。
彼いわく、
「だってオレはキミのモノだし?」
…だ、そうだ。
いくら緊急事態だったとはいえ、アタシったら何てことを…。
思い出すと赤くなるのを通り越して、青くなる。
「ううっ…。人生最大の汚点」
「何てことを言うんですか、お嬢様。オレはあなたのモノになれて、とても幸せなのに」
…と、満面の笑顔で言うも、うさんくさい。
「…アンタ、アタシをからかうことに生きがいを感じてるでしょう?」
「とんでもない。オレは」
突然、アタシの手と腰を掴み、引き寄せる。
「キミのこと、結構気に入っているんですから。最期まで、お付き合いいたしますよ」
アタシの左手の指に口付けた後、唇に優しくキスしてくれる。
…まるで結婚式の誓いのキスのように。
彼がニッコリ微笑んで言うと、周囲にいた生徒達はザワめく。
「カバンをこちらへ」
そう言って有無を言わせず、アタシのカバンを取り上げる。
「あっ、ちょっと!」
「ささっ、お席に」
手を握られ、腰を触られ、席へ誘導される。
すると席を引いて、再びにっこり。
「さっ、どうぞ。お嬢様」
ギクシャグした動きで座ると、
「のどは渇いておりませんか? 紅茶などいかがです?」
…と、女子生徒どころか男子生徒まで魅了しそうな笑みで言うモンだから、
「んがあああ!」
キれた★
彼の手を取り、走り出す。
そして人気の少ない中庭に来ると、手を放した。
「ゼーハーゼーハー…」
「どうしました? お嬢様。いきなり走り出して」
しかし彼は息1つ乱さず、平然としている。
…そう。彼は運動神経が高いし、勉強もできる。
それどころか、顔はモデル以上。
母親は有名女優、父親は世界中にいくつも会社を持つ大企業の会長。
彼は三男で、女子生徒達が虎視眈々と花嫁の地位を狙っている。
そんな人がアタシに対して、まるで執事のように振る舞うのには理由があった。
だけど!
「その背筋が寒くなるようなマネはやめて! 朝から血の気が引くわ!」
「心外だなぁ。オレはオレなりに、アンタのモノとしてちゃんと尽くしているのに」
「アンタは楽しんでいるだけでしょうがっ!」
「うん、それもある。でもそれもキミが言ったことでしょう? 『自分で人生を楽しめ』って」
「うっ…!」
くらっと目眩がする。
するとつい一ヶ月前のことが、走馬灯のように思い出せた。
一ヶ月前。
アタシは部活で遅くなって、とうに下校時刻が過ぎた後に帰りのバスに乗った。
学校から駅までのバスには、アタシと運転手、それに彼の3人しかいなかった。
彼には迎えの車が来る時と、こうやって帰る時があることを、何度か目撃して知っていた。
同じクラスで、周囲からは王子様扱いされている彼のことは、イヤでも意識に残っていた。
だけど断言できる。
恋愛感情では無かった!
だから彼と一緒にいることは、正直居心地が悪かった。
平凡な自分とは、まるで別世界にいるような人間だから…。
彼はぼんやりと外の景色を見ていた。
だからアタシは何気なく、彼を見ていた。
彼の顔はキライじゃないから…。
けれどいきなり、彼はアタシの方に視線を向けてきた。
だから慌ててそらしたら…。
キキィーっ!
グラッと体が前のめりになった…と思った瞬間、意識を失った。
…しばらくして目が覚めた。
その時、ようやく自分の置かれている状況に気付いた。
バスが…事故った。
バスの中はひどく歪んでいて、アタシはイスの下に倒れこんだから、無傷だった。
でも運転手の人や、彼は!?
「うっ…だっ大丈夫? 生きてるっ?」
何とか瓦礫を避けながら、彼のいた方向に進む。
運転席の方は…残念ながら瓦礫が邪魔で、行けなかった。
だから近くにいたはずの彼の元へ行った。
彼はいた。
…だけど、瓦礫で体のあちこちが傷だらけになっていた。
「ねっねぇ! 大丈夫?」
彼もまたイスの下にいた。
だから身を縮ませて、彼の頬を軽く叩く。
キレイな顔が、血とほこりに汚れていた。
ハンカチを取り出し、ぬぐった。
「うっ…」
ゆっくりと目を開き、彼はアタシを見た。
「あれ…? 一体何が…」
「…どうやら事故に合ったらしいの。運転手の人はどうなったのか分からない。でもお互い無事でよかったわね」
顔を拭いてあげながら言うと、いつも柔和な笑みを浮かべている彼の顔が、無表情になった。
「オレは別に…。どうなっても良かったんだけどな」
「えっ?」
彼の呟きに、手が止まる。
「…別に生きてても死んでても、オレにとっては同じだし。あ~でも痛いのはキライなんだよな」
…アタシの、目の前にいるのは、誰?
いっつもニコニコと笑っている彼じゃなく、とても冷めた目と表情をする彼は…。
「なっ何でそういうことを言うのよ! 人が羨むような人生送ってるんじゃないの?」
「あ~それね。よく言われるけどさ。自分が望んでいないものが周りに溢れてたって、意味無いと思わない?」
「それはっ…!」
…そうだけど。
「生まれてからこの方、何不自由ない生活を送っていると、逆に退屈で死にそうだった。だから今ここで死んだとしても、悔いはなかったんだけどね」
自分の体の傷を見ながら、彼は淡々と話す。
けれどアタシだんだん怒りが募ってきた。
「…アンタさぁ、人生なめてるでしょう?」
「えっ?」
顔を上げた彼の顔を、アタシは思いっきり、
パンッ!
平手打ちした。
「そんなバカな坊ちゃん考えで、簡単に生き死に口にするなっ! 生きることの難しさも酸いも甘いも分かっていないクセに、『死んでもいい』なんて言うんじゃない!」
そして胸倉を掴み、顔を近付けた。
「アンタもアタシも生きるの! これからもずっと、生きていくんだから! そして自分で人生を楽しみなさいよ!」
「…別に生きてても楽しくないんだけどね」
全てを諦めたかのような言い方に、頭にカッと血が上った。
彼はずっと、全てのモノが満たされてきた。
家柄もお金も、容姿も頭脳も運動神経も全て、足りなくて欠けたことなんてなかった。
だからこんなに足りない人になってしまったのか…。
周囲の人から羨ましがられても、彼の心は動かせない。
…ならっ!
アタシは彼の頭を掴み寄せ、彼の唇にキスをした。
「んんっ!」
何度も、何度も!
噛み付くように唇を合わせ、薄く開いた口の中に舌を入れた。
逃げようとする彼の舌を絡めとり、無我夢中で彼の口の中を貪った。
舌で味わう彼の唾液が、とても甘かった。
思う存分彼の唇を味わった後、どちらともつかない唾液で濡れた唇をはなした。
「…アンタが自分で自分のことをいらないと言うなら、アタシにちょうだい。アタシはアンタに生きててほしい。だからアタシのモノになって、生きなさい」
額を合わせ、間近で睨み付けながら言った。
すると彼は一瞬眼を丸くし、すぐに閉じた。
そしてしばらくして開いた目には、先程の冷たさは無かった。
「…良いよ。それ、おもしろそうだ」
そう言ってアタシの手を取り、甲に口付けた。
「オレの全てはあなたの為に―」
忠誠を誓うような姿に、思わず見入ってしまった。
その時から、彼はアタシのモノになった。
…その後、すぐにレスキューの人に助けられた。
バスは道路に飛び出してきた小学生を避けようとして、壁に突っ込んだらしい。
けれど幸いにも運転手もケガを負ったけれど無事で、誰も死ななかった。
めでたし、めでたし。
……と、終わるハズもなく。
走馬灯を見終わったアタシは、深くため息をついた。
その後、彼はアタシにまるで執事のように仕えるようになった。
彼いわく、
「だってオレはキミのモノだし?」
…だ、そうだ。
いくら緊急事態だったとはいえ、アタシったら何てことを…。
思い出すと赤くなるのを通り越して、青くなる。
「ううっ…。人生最大の汚点」
「何てことを言うんですか、お嬢様。オレはあなたのモノになれて、とても幸せなのに」
…と、満面の笑顔で言うも、うさんくさい。
「…アンタ、アタシをからかうことに生きがいを感じてるでしょう?」
「とんでもない。オレは」
突然、アタシの手と腰を掴み、引き寄せる。
「キミのこと、結構気に入っているんですから。最期まで、お付き合いいたしますよ」
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…まるで結婚式の誓いのキスのように。
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