Kiss

hosimure

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お坊ちゃんとのキス

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アタシは今、高校二年生。

夏休みになってもやることがなかった。

部活もしていなければ、宿題なんて夏休みがはじまってから一週間で終わらせてしまった。

なのでバイトをすることにした。

友達から紹介されたのは、大金持ちのメイドのバイト。

そこのお坊ちゃんがまだ中学生で、夏休みで家にいることが多くなるので、その相手をするのがバイト内容。

破格の給料なので、すぐにOKした。

そしてバイトをはじめて一週間後。

最初は8人いたメイド達は、すでにアタシのみになっていた。

原因はこのお坊ちゃん。

天使のような可愛い顔をしてて、最初はアタシ達を大歓迎してくれた。

最初は優しかった。思いやりがあると、メイド達ははしゃいでいた。

そう、『最初』は。

正しくは『最初』だけは、だった。

徐々に小悪魔的…いや、魔王クラスの意地の悪さを出してきた。

とんでもないイタズラ小僧。

おかげでアタシ一人が日々、このお坊ちゃんの相手をすることになった。

何故アタシ一人だけが残っているのかと言うと、実家が武道の道場をやっており、一通りの格闘技を身に付けていた。

おかげで運動神経と、心は強い。

なのでお坊ちゃんの仕掛けるイタズラも、イジワルな物言いもへっちゃらなのだ。

「お坊ちゃん、そろそろ宿題をなさった方がよろしいのでは?」

「メンドイ。お前、やっといてよ」

今日も今日でふてぶてしい態度。

アフターヌーンセットをベランダで食しているお坊ちゃんは、機嫌が悪い。

彼の両親は仕事が忙しく、滅多に日本にすら帰って来れない。

周囲の人間はそれを気遣って、彼を甘やかして育てたんだろうな。

「お坊ちゃん、中学の勉強についてこれないなら、家庭教師に教えてもらった方が良いですよ?」

「誰があの程度の問題を解けないと言った!」

「アタシに頼むぐらいですから、難しいのかと…」

「そんなワケないだろ! あのぐらい、すぐに全部終わらせてやる! 準備しろ!」

「かしこまりました」

うやうやしく頭を下げ、お坊ちゃんの部屋に向かう。

机の上には山積みの宿題。

私立の有名校とは言え、宿題は公立校と同じぐらいは出るんだな。

机の上に筆記用具を出して、並べた。

そして再びベランダに向かう。

「お坊ちゃん、準備できましたよ」

「今行く」

首にかけていた白いナプキンを放り投げ、部屋に入るお坊ちゃん。

やれやれ…。

ヤル気にさせるのも、一苦労だ。

お坊ちゃんはイスに座ると、物凄いスピードで宿題をこなし始めた。

やればできるのに…。

元々顔だけではなく、頭の方もトップレベル。

ただヤル気にならないので、夏休みがはじまって二週間も経つのに何にも手付かずだったのだ。

ここの執事さんが言うには、毎年やらず、家庭教師にやらせていたらしい。

しかし成績は変わらず良いという。

…変なお坊ちゃんだ。

呆れながらも、感心しながら見ていると、約二時間で宿題終了。

「どっどうだ! 全部できたぞ!」

げっそりした顔で、それでも自慢げに語りかけてくるお坊ちゃんに、アタシは頭を下げた。

「おみそれしました。お坊ちゃん」

「ははっ…!」

アタシはスタスタと近寄り、宿題を確認した。

一応眼を通しておかなければ、本当にやったかどうか怪しいものだから。

しかし彼は全てを本当に終わらせていた。

これなら大丈夫だろう。

「お疲れ様です。今、何か甘い物でもお持ちしますね」

頭を使った後は、甘い物を取った方が良いだろう。

「あっ、待った」

しかし部屋を出て行こうとしたアタシを、彼は呼び止めた。

「はい? 何でしょう?」

甘い物のリクエストかな?と思っていると、彼はニヤッと笑った。

…この悪魔の笑みはマズイな。

何かよからぬことを考えている顔だ。

しかしアタシは心境を悟られぬよう、ポーカーフェイスを続ける。

「ご褒美、ちょうだいよ」

そう言って手を差し出してきた。

「ですから今、甘い物を…」

「それとは別! ボクはお前の願いを叶えたんだよ! 何かくれたっていいじゃない」

宿題は自分の為でしょうが、とは言えない。

言ってもどうせ、反論されるから。

「ご主人様が使用人に何かねだってはいけませんよ。そもそもお給料は週払いの銀行振り込みなので、今は手持ちがありません」

「誰がお前の金なんてあてにするか! お金じゃなくて、お前が何かしてくれよ」

踏ん反りがえり、えらそうに命令してくる。

自分ができること…何だろう?

格闘技は得意だけど、彼にとっては興味もないことだろう。

「アタシがお坊ちゃんにできることですか」

「ああ、何だっていいよ。することはお前に任せるから」

人を試すようなことをやりおってからに。

…少し懲らしめる必要があるな。

アタシはお坊ちゃんの目の前まで歩き、跪いた。

「何? 足にキスでもしてくれるの?」

ニヤニヤしながら言ってくる。

…にゃろう。完全に調子付いている。

一生仕える主にならともかく、一夏のアルバイトの相手には絶対にしない。

「…そうですね。キス、します」

アタシは両手を伸ばし、お坊ちゃんの頬に触れた。

そしてそのまま素早く、唇に、キスをした。

「っ!?」

動揺が唇から伝わってくる。

キスは三秒ほどで、終わった。

「―コレがアタシからのご褒美です。満足いただけましたか?」

「おっ前っ!?」

見る見るお坊ちゃんの顔が真っ赤に染まっていく。

こういう顔を見ると、まだ中学生なんだなぁと思う。

いつもはこ憎たらしいけれど、まだまだ子供だ。

怒鳴られるかと思いきや、彼は口を噤んだ。

思ったより、刺激が強かったかな?

お坊ちゃんの眼が泳いでいる。

「…お前、夏休みの間しか、いないんだよな?」

「ええ。高校生ですから」

「ずっとは…いられないのか?」

まあ高校卒業して、就職先をココにすれば可能だけど…。

「ずっとはムリですね。今年の夏だけなら、いられますが…」

「ダメだっ!」

「えっ…いや、ダメだと申されましても…」

「お金ならいくらでも払う! だからお前はボクの側にずっといろっ!」

そう言って、お坊ちゃんはアタシをぎゅっと抱き締めた。

…可愛いなぁ。

こんなふうに一生懸命な彼の姿を、ずっと側で見続けたいとも思う。

できるんだろうか? アタシに。

きっと彼はすぐに成長する。

そうすればアタシなんか必要じゃなくなるだろう。

だけど『その時』までは、側にいても良いかもしれない。

彼の成長を、見続けるのも楽しそうだ。

「…分かりました。お坊ちゃん」

「えっ…?」

涙でうるんだ彼の頬を優しく撫で、アタシは微笑んだ。

「学校へ通いながらになりますが、お坊ちゃんが飽きるまでお側にいますよ」

「ほっ本当か?」

「ええ。アタシはお坊ちゃんに嘘はつきません」

「どうだか。お前は口が上手いからな」

「本当ですよ。お坊ちゃんがアタシを必要としてくれるまで、側におりますから」

「…ボクはお前を手放すつもりはないぞ? お前みたいな女、はじめてだったし…」

まあ普通の女の子ではないことは自覚している。

「ずっと…ずっとボクの側にいるんだぞ?」

「はい、お坊ちゃん。仰せのままに」

アタシは跪いたまま、深く頭を下げた。

「そっそれとだな」

「はい?」

お坊ちゃんは顔を真っ赤にして、呟いた。

「…もう一度、キスをしろ」

「はい、お坊ちゃん」

アタシはニッコリ微笑んで、彼にキスをした。

ずっと側にいるという、忠誠と愛のキスを―。 

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