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「コイツが…キミに何をした?」
「わたしには何も。ただ、結婚間近だった妹を誘拐され、暴行され、捨てられただけです」
ああっ…!
俺は両膝を地面についた。
例の連続婦女誘拐・暴行事件の犯人は、同僚のコイツだったのか…。
「妹はショックで、自殺しました。三週間も前の話ですけど」
「…それで、復讐を考えたのか」
「ええ。警察の人も気付いていました。犯人の男がこの高速道路を使っていることを。なのでわたしがオトリとなり、歩いていたんです。妹の姿を真似して」
彼女はそう言うと、自分の赤い服を見て、一回りした。
「この人、この高速道路を使って、被害者達を誘拐し、各地に捨ててたんです。なのでここを何度も通れば、必ず事故を起こしてくれると思っていました。わたしと妹の顔は、似ていますから」
「似て…いたのか?」
「ええ、何せ双子ですから。もっともニ卵生ですが」
彼女は淡々と語る。
アイツはさぞ肝が冷えただろうな。
夜の高速道路、自分が暴行した女の子を見かけたら…そりゃ事故るな。
「…だからキミのお父さんはあんなに疲れていたのか」
「ええ。捜査は難航していた上に、母が気をおかしくしてしまったので。ならば動くのはわたしの役目でしょう?」
「警察は信用しなかったのか?」
「いいえ。ただ力不足なのは憎んでいます」
この高速道路を犯人が使うと分かっていても、特定するのは難しかっただろう。
「どうして…犯人がコイツだと分かった?」
「犯人の行動パターンを、詳細に調べたんです。いろいろな手をつくして、いろいろなパターンを考えましたよ。そしたらあなた達の働く特殊な部署を見つけたんです」
特殊、か…。
確かにそう言えるな。
思わず苦笑が浮かぶ。
こんな特殊な部署でなければ、ヤツも犯罪に走ることもなかったのかもしれない。
そして彼女にバレることも…。
「それじゃあ俺のことも候補にあがっていたのか?」
「最初の頃は。でもあなたは本当に仕事をしていただけです。調べたらすぐに分かることですよ」
「…そうだな」
そしていつも定時に帰っているコイツは、その後、犯罪を繰り返していたというワケか…。
「何度かこの人をつけていた結果、犯罪の現場を目撃して、間違いないことを確信しました。だから死んでもらったんです」
「まさに自業自得だな」
俺は失笑しながら立ち上がった。
膝のほこりを払い、聞こえてきた救急車の音を聞く。
「それでは、わたしの役目はここまでです」
彼女は俺に向かって微笑んだ。
「もう…二度とここを歩かないでくれよ?」
「分かっていますよ」
「あっ、それともう一つ」
「はい? 何でしょう」
「キミと食事をした日、お父さんに叱られていただろう? 俺に向かって、何を言ったんだ?」
「ああ…あの時ですか?」
彼女はくるっと振り返り、数歩歩いた。
そしてまた振り返り、俺を見て微笑む。
…あの時のように。
「あなたは『違う』。だから生かしてあげます」
その言葉を発した唇の動きが、あの夜の彼女の唇の動きと重なった。
ぞくっ!と背筋が震えた。
「なるほど…。お父さんが怒るわけだ」
「はい。車の中でも説教されました。でも悪いことじゃなかったんですけどね」
「確かに。俺は何もしていないから、生かされているワケだし」
「ええ、無関係の人は巻き込む気はありませんでしたから」
辺りに救急車の音が響いてきた。
「それじゃあわたしはこの高速道路を降りますね。もう二度と歩くことはないでしょう。さようなら!」
彼女は眩しい笑顔で、その場を立ち去った。
俺には引き止めることはできなかった。
燃え盛る車から見えるアイツの犯罪を、止めることができなかったのだから…。
「わたしには何も。ただ、結婚間近だった妹を誘拐され、暴行され、捨てられただけです」
ああっ…!
俺は両膝を地面についた。
例の連続婦女誘拐・暴行事件の犯人は、同僚のコイツだったのか…。
「妹はショックで、自殺しました。三週間も前の話ですけど」
「…それで、復讐を考えたのか」
「ええ。警察の人も気付いていました。犯人の男がこの高速道路を使っていることを。なのでわたしがオトリとなり、歩いていたんです。妹の姿を真似して」
彼女はそう言うと、自分の赤い服を見て、一回りした。
「この人、この高速道路を使って、被害者達を誘拐し、各地に捨ててたんです。なのでここを何度も通れば、必ず事故を起こしてくれると思っていました。わたしと妹の顔は、似ていますから」
「似て…いたのか?」
「ええ、何せ双子ですから。もっともニ卵生ですが」
彼女は淡々と語る。
アイツはさぞ肝が冷えただろうな。
夜の高速道路、自分が暴行した女の子を見かけたら…そりゃ事故るな。
「…だからキミのお父さんはあんなに疲れていたのか」
「ええ。捜査は難航していた上に、母が気をおかしくしてしまったので。ならば動くのはわたしの役目でしょう?」
「警察は信用しなかったのか?」
「いいえ。ただ力不足なのは憎んでいます」
この高速道路を犯人が使うと分かっていても、特定するのは難しかっただろう。
「どうして…犯人がコイツだと分かった?」
「犯人の行動パターンを、詳細に調べたんです。いろいろな手をつくして、いろいろなパターンを考えましたよ。そしたらあなた達の働く特殊な部署を見つけたんです」
特殊、か…。
確かにそう言えるな。
思わず苦笑が浮かぶ。
こんな特殊な部署でなければ、ヤツも犯罪に走ることもなかったのかもしれない。
そして彼女にバレることも…。
「それじゃあ俺のことも候補にあがっていたのか?」
「最初の頃は。でもあなたは本当に仕事をしていただけです。調べたらすぐに分かることですよ」
「…そうだな」
そしていつも定時に帰っているコイツは、その後、犯罪を繰り返していたというワケか…。
「何度かこの人をつけていた結果、犯罪の現場を目撃して、間違いないことを確信しました。だから死んでもらったんです」
「まさに自業自得だな」
俺は失笑しながら立ち上がった。
膝のほこりを払い、聞こえてきた救急車の音を聞く。
「それでは、わたしの役目はここまでです」
彼女は俺に向かって微笑んだ。
「もう…二度とここを歩かないでくれよ?」
「分かっていますよ」
「あっ、それともう一つ」
「はい? 何でしょう」
「キミと食事をした日、お父さんに叱られていただろう? 俺に向かって、何を言ったんだ?」
「ああ…あの時ですか?」
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そしてまた振り返り、俺を見て微笑む。
…あの時のように。
「あなたは『違う』。だから生かしてあげます」
その言葉を発した唇の動きが、あの夜の彼女の唇の動きと重なった。
ぞくっ!と背筋が震えた。
「なるほど…。お父さんが怒るわけだ」
「はい。車の中でも説教されました。でも悪いことじゃなかったんですけどね」
「確かに。俺は何もしていないから、生かされているワケだし」
「ええ、無関係の人は巻き込む気はありませんでしたから」
辺りに救急車の音が響いてきた。
「それじゃあわたしはこの高速道路を降りますね。もう二度と歩くことはないでしょう。さようなら!」
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