現代版 光源氏物語

hosimure

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人生の分岐点? ありえない部署移動!

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とある有名企業の事務の社員になり、3年目。

穏やかで、とても心地良い日々をわたしは過ごしていた。

高校・大学と事務の職に就きたくて頑張ってきた。

おかげでリストラなんて無縁の会社に入社できた。

第一志望の事務の職にも就けたし、そこに働いている人達はみんな大人しく、おだやかな人ばかり。

「藤壺
ふじつぼ
くんは変わっているねぇ」

もうすぐ定年を迎える課長が、お茶をすすりながら言った言葉に、わたしはキョトンとした。

「何がです?」

「こんな地味で目立たない部署に、望んでいることがだよ。普通なら営業とか、秘書を目指すんだけどね」

「わたし、そういう行動的なタイプではないので。事務って地味だけど、良い仕事だと思いますよ? 会社にとって、なければならない存在ですし」

「まぁね。でも若い女の子、キミぐらいなものだから、遊びに誘ってくれる人、なかなかいないだろう?」

確かにここは平均40歳ぐらいになり、大半が男性社員だ。

「逆に楽で良いです。合コンとか、苦手なんで」

更衣室で仕事終わり、デートや合コンの話で盛り上がる女性社員達を可愛いとは思う。

だけど今のわたしは自分に時間を使いたい。

「本当に変わっているねぇ。ずっとここで良いのかい?」

「はい、できることなら」

「できるだろうよ。キミは優秀だし、あえてここから移動する人なんて滅多にいないから」

この部署は地味だが、成績が良くなくては入れない。

だから黙々と仕事をしたい人間が自然と集まった。

年に必要な人数は希望するので、増減激しくなく、ほとんど人事異動はない。

それに…ハッキリ言って、ここから栄転した人はほとんどいない。

みなさん、地味~に定年までここで過ごす人が大半だ。

「でもキミほど優秀なら、秘書課でも平気だろうに」

「それは本気で勘弁です。あんな派手で目立つ部署、移動しろと言われるのは会社を辞めろと言われていることだと同じ意味になりますよ」

秘書課は女性社員の花形。

それぞれ素晴らしい経歴の持ち主が多い。

特に秘書課トップの人は、モデル経験があり、海外留学の経験もありの、素晴らしい人だ。

ウワサでは良家のお嬢様だとも言う。

わたしとは別次元の人。そんな人と同じ所にはいられない。

窒息してしまう。

「うう~ん。もったいないねぇ」

「もったいないオバケに取り付かれていますよ。さっ、そろそろ仕事をしましょう。もうすぐ4月ですよ」

「そうだねぇ」

ぶつぶつ言いながらも、仕事を再開し始めた。

…しかし驚いた。

いつもはゆっくりのんびりの人から、ここまで強く言われるなんて…。

もうすぐ定年退職だから、ちょっとさみしくなっているんだろうか?

などと考えていたら、あっという間に春が来た。

課長を送り出し、少し心寂しくなりながらも新たな季節を迎えた。

春は人事異動が発表される季節。

まあわたしには無縁だけど、知っておくことは必要だ。

広いフロアにはすでに多くの人が集まっていた。

みんなザワザワと、不安そうな顔をしている。

何かとんでもない人事異動があったんだろうか?

輪の中に入ろうとすると、顔見知りの女性社員がわたしを見つけ、駆け寄ってきた。

「藤壺さん! あなた一体、どうしちゃったの?」

「えっ? 何が?」

「何がじゃないわよ! 見てないの?」

彼女は人事異動の紙を指さす。

「見てない…と言うより、見えない」

わたしの身長は、普通の女性とほぼ同じ。

しかし3メートル先にあり、人の頭と背が邪魔をして、文字は全く見えない。

かろうじて、掲示板に何か紙が張ってあるのが分かるぐらいだ。


「んもう! こっちよ!」

彼女に腕を捕まれ、移動した。

そして彼女は人だかりに向かって、声を張り上げた。

「ちょっとどいて! 藤壺さんが見えないじゃない!」

うえっ!?

彼女の出した声に驚き、全員がこっちを見た!

「藤壺…って、あのコが…」

「…そうなんだ」

しかし何故か視線がおかしい。

声を出した彼女ではなく、わたしを見て、みんな変な顔をしている。

「さっ、見て!」

彼女に言われ、わたしは前に歩いた。

そして人事異動の紙を見て………絶句した。

そこには、こう書かれていた。

【人事異動 事務→秘書 藤壺ゆかり】

「えっ…秘書? 人事異動? …わたしが?」

思わず自分を指さし、彼女の顔を見ると、険しい顔で頷かれた。

「そう。藤壺さん、あなたは今日から秘書課に転属です」

「えっ…へっ……はああああ!?」
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