幸せのロウソク【マカシリーズ・0話】

hosimure

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ハッピーキャンドル

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職員室にまで連れてかれて、そこで一時間グチられた。

芸能界入りをすれば、勉強をおろそかにするのではないのか、他の生徒に悪影響を与えるんじゃないかと言われ続けた。

しおらしく聞いていたが本当はイライラしていた。 

早くあの店に行きたいのに、こんな所で足止めをくらうなんて思わなかった。

やがて他の先生方が止めに入り、やっと解放された。

しかしすでに辺りは薄暗くなっていた。

最初に来店した時のように、夕闇がおとずれた。

思わず舌打ちしてしまう。

40過ぎても結婚していない担任の女性は、女子生徒に人気が無かった。

女子生徒には必要以上に厳しく、男子生徒には甘かったからだ。

今回のことだって、学校側は芸能界のことを容認しているのに、あえての呼び出し。

同じ学校の彼氏にも何かとちょっかいを出しているのも気にくわない。

―消えれば良いのに…!―

ふと出た呟きだったが、本心だった。

だがその考えもすぐに消えた。

目的の店の前に到着したからだ。

深く息を吐いて、扉を開けた。

―おや、いらっしゃいませ―

青年の笑顔を見て、ほっとした。 

―こんにちは。あの、この前買ったキャンドルが欲しいんですけど、まだ同じものありますか?―

自分でも信じられないほどの、最上級の笑顔と声を出した。

しかし青年の表情は一瞬にして困惑の色に染まった。

―無くなったんですか?― 

―いっいえ! もうすぐ切れそうなので、次のを買っておこうかなと―

―そうでしたか…―

青年はそう言うと、視線を棚に向けた。

―残念ですが、あのキャンドルは一つ一つ特別にできていまして、同じものはこの世に二つと無いんです―

―あっ、それじゃ別の形のでも…―

―まことに申し訳ありませんが、お一人様一点限りになっているんですよ―

―えっ、そうなんですか―

青年には揺るがない意志があるようだ。

しかしふと表情を和らげた。

―しかしもし、キャンドルが溶けて無くなり、その溶けたロウソクを当店へお持ちいただければ、また新品をお売りいたします―

溶けて原型が無くなったキャンドルを証拠品に持って来いと言うことか。

おかしな話だが、この店のやり方ならば仕方ない。

―わかりました。それじゃまた来ます―

頭を下げて帰ろうとした時、呼び止められた。

―お売りしたキャンドルですが、開花しましたか?―

青年に聞かれ、ふと何日か前のことを思い出した。 

確かにあのキャンドルは蕾から花開いた。

そのことを伝えると、青年は安堵した笑みを浮かべた。

―良かった。ならばあなたに幸せは訪れたんですね―

この問いには笑顔で答えた。

結局、キャンドルは買えなかったが、青年との会話で心が満ちた。

彼はあのキャンドルで自分が幸せになることを心から望み、喜んでくれている。

そのことが分かっただけでも来たかいがあった。

イヤな気分はすっかり消え去り、家に帰った。

だがその夜、キャンドルをつけて夢見た内容は、担任が車にひかれて亡くなる夢だった。

恐ろしい夢、悪夢のはずなのに、顔は笑ってしまった。



次の日の朝。

キャンドルがいよいよ残り少なくなっていることに気付いた。

良い夢を見ているほど、長くキャンドルをつけてしまう。

特にここのところは、自分の思い描く通りの夢が見られるせいか、キャンドルは急速に量を減らしていった。

もはや花の形はなく、あと一回火を付ければ終わりだろう。

最後はどんな夢を見ようかと、楽しく考えながら学校へ行った。


…だが。 

学校へ行くと、様子のおかしさにすぐ気付いた。

教室に入るとすぐ、クラスメート達が話しかけてきた。

―担任が死んだよ―

―昨夜、車にひかれたんだって―

…それは昨夜見た夢の内容そのままだった。 

しかし少しも恐ろしくは無かった。

けれど顔では不安を表し、心の中で笑った。

コレでもう、自分を不快にさせるものはいなくなったのだと―。



その夜、原型をとどめていないキャンドルを前に、考えていた。

最後の夢は何を見ようか、とか。

この不思議なキャンドルは2つめも同じ作用を与えてくれるのか、とか。

さまざまなことを考えているうちに、時間はすでに深夜になってしまった。

慌てて、とりあえず一つの願いを決め、キャンドルに火を付けた。




そしてその夜見た夢は、不思議だった。

暗い夢の中で、もう一人の自分と出会う。

イヤな笑い方をする自分はこう言った。

―燃え尽きる。全ては灰になる―

何のことか尋ねようとして口を開けたまま固まった。

目の前の自分の体が、サラサラと崩れ始めた。

言葉通り、燃え尽き、灰になっていく。

そして気付く。

自分の体も同じように灰になり、崩れていく。

言葉にならない悲鳴が、口からほとばしった。

翌朝、少女は冷たくなっていた。

起こしに来た母親は、娘の変わり果てた姿に絶叫した。

少女の体は冷たく固まっていた。

しかし体はまるでミイラのように水分がなく、手足はもがいた形で固まっている。

その表情は何かにすがるように、助けを求めていた。

そして母親は気付いた。

部屋を息苦しいほどに満たす、甘い香りに。

香りの元を探すも、見つからなかった。



それから数日後、少女の母親は泣きはらした顔で、少女の部屋を訪れていた。

警察は変死と決めたらしい。

確かにあんな死に方、変死以外はありえない。

ショックが強すぎて、娘の部屋にしょっちゅう訪れていた。

ぼうとしながら、何気なしに机の引き出しを引いた。

そこには可愛い包装紙があった。

手に取ってみて、そこからあの匂いがすることに気付いた。

悲しい記憶がよみがえり、思わずゴミ箱に包装紙を投げ捨て、部屋を飛び出した。

投げ捨てられた衝撃で、包装紙の中から説明書が飛び出ていた。



―その説明書には、こう書かれていた。 
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