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彼女も彼が流しているウワサでかなり傷付いているみたいだし、聞いた生徒達も半信半疑とちょっとヤバイ空気が流れている。
彼女がいくら否定しても、彼が次から次へと流すからキリがない。
それにこう言ってはなんだけど、彼と彼女では人望が違う。
社交的な彼と、消極的な彼女。
正反対だからこそ、余計にだ。
「まずはウワサを変えようかねぇ」
背伸びをして、近くにいるグループの中に入った。
そこでの話題は彼女のことだった。
何でも教師の一人と、不倫をしているとか…。
苦笑しながらまずは話を聞く。
「そうなんだ。そう言えばさぁ、ちょっと聞いたんだけど…」
わたしは自然に話を逸らす。
人のウワサに対抗できるのは、同じく人のウワサだけ。
また好奇心の強い高校生達は、こういう話題が大好きだときている。
「ええ~?」
「ウッソー」
思った通り、聞いても信じられないという顔をされた。
「まあわたしも聞いただけだしね。本当かどうかは分からないわよ?」
わたし自身もあやふやであることを言う。
そして話題は変わる。
―コレで良い。
ここであまり主張を強くしても、怪しまれるだけだ。
ウワサを流すのは一日に一度だけ。
そして前に言った人達とは、また別の人達に話す。
こうすることによってウワサの出所を分からなくして、そしてより多くの人達に興味を持たれるようにする。
興味とは時に残酷な面を見せる。
人を傷つけようが、陥れようが、より深みを求めてしまうものだ。
やがて一ヶ月も過ぎないうちに、効果はハッキリと出た。
彼の評判はガタ落ちに、彼女のウワサは綺麗さっぱり消えていた。
「どう? このぐらいで」
夕焼けの美しい中、わたしは彼女と再会した。
「まだダメよ! ただアイツの評判が悪くなっただけじゃない!」
う~ん。…コレでも頑張ったんだけどな。
わたしの流したウワサは、彼の悪さ。
もちろん、内容はフィクション。
だけどほんのちょっぴり、真実を混ぜた。
―そう、彼がバイクで一つの命を奪ったことを。
もちろん、彼女のことは一切匂わせなかった。
けれど思い当たる彼はそのウワサを聞きつけた時、生きた心地がしなかっただろう。
「でも今じゃずいぶん追い詰められているわよ? そのうちちゃんとアナタに謝罪してくると思うから、ここら辺で、ね?」
優しく諭すように言ったのは、せめてもの慈悲だった。
彼女に対してはもちろんのこと、彼のこともそうだった。
もう充分、精神的には追い詰められた。
彼はそもそも、そんなに悪い人ではない。
ただちょっと、臆病なだけだった。
今では近寄ってくる人も減り、教師から見られる眼も冷たいものへと変わってしまった。
成績も落ち込み、見かければ明らかに落ち込んでダメージを受けた姿になっている。
「ダメよっ! まだ足りない! もっともっと、アイツを『不幸』にしてよ!」
彼女は必死の形相で、わたしの両肩を掴んできた。
チラッとお墓に視線を向ける。
彼女は山で咲いている花を、毎日供えに来ているようだった。
きっと消極的な彼女にとって、ペットが唯一、心許せる相手だったのだろう。
それを理不尽な出来事で奪われた気持ちは分からなくはないけど…。
「でっでもコレ以上、『不幸』にするのなら、アナタも彼もただでは済まないわよ?」
一瞬、意志が揺らいだように見えた。
けれど次の瞬間には、きっぱりと言った。
「―構わない。アイツが『不幸』のどん底を味わうなら、どうなったって構わない」
…若いって、良いことでもあるけど、ダメな部分もある。
怖いモノを知らな過ぎるのだ。
「…本当に、どうなっても構わない?」
「ええ。だからお願い! アイツを『不幸』にして! 立ち直れないぐらいの、ダメージを与えてよ!」
「はあ…」
深くため息をついた。
この暴走、何を言っても最早止まらないだろう。
「…分かったわ。彼には最上級の『不幸』を与えれば良いのね?」
「やってくれるのね! ありがとう!」
彼女がいくら否定しても、彼が次から次へと流すからキリがない。
それにこう言ってはなんだけど、彼と彼女では人望が違う。
社交的な彼と、消極的な彼女。
正反対だからこそ、余計にだ。
「まずはウワサを変えようかねぇ」
背伸びをして、近くにいるグループの中に入った。
そこでの話題は彼女のことだった。
何でも教師の一人と、不倫をしているとか…。
苦笑しながらまずは話を聞く。
「そうなんだ。そう言えばさぁ、ちょっと聞いたんだけど…」
わたしは自然に話を逸らす。
人のウワサに対抗できるのは、同じく人のウワサだけ。
また好奇心の強い高校生達は、こういう話題が大好きだときている。
「ええ~?」
「ウッソー」
思った通り、聞いても信じられないという顔をされた。
「まあわたしも聞いただけだしね。本当かどうかは分からないわよ?」
わたし自身もあやふやであることを言う。
そして話題は変わる。
―コレで良い。
ここであまり主張を強くしても、怪しまれるだけだ。
ウワサを流すのは一日に一度だけ。
そして前に言った人達とは、また別の人達に話す。
こうすることによってウワサの出所を分からなくして、そしてより多くの人達に興味を持たれるようにする。
興味とは時に残酷な面を見せる。
人を傷つけようが、陥れようが、より深みを求めてしまうものだ。
やがて一ヶ月も過ぎないうちに、効果はハッキリと出た。
彼の評判はガタ落ちに、彼女のウワサは綺麗さっぱり消えていた。
「どう? このぐらいで」
夕焼けの美しい中、わたしは彼女と再会した。
「まだダメよ! ただアイツの評判が悪くなっただけじゃない!」
う~ん。…コレでも頑張ったんだけどな。
わたしの流したウワサは、彼の悪さ。
もちろん、内容はフィクション。
だけどほんのちょっぴり、真実を混ぜた。
―そう、彼がバイクで一つの命を奪ったことを。
もちろん、彼女のことは一切匂わせなかった。
けれど思い当たる彼はそのウワサを聞きつけた時、生きた心地がしなかっただろう。
「でも今じゃずいぶん追い詰められているわよ? そのうちちゃんとアナタに謝罪してくると思うから、ここら辺で、ね?」
優しく諭すように言ったのは、せめてもの慈悲だった。
彼女に対してはもちろんのこと、彼のこともそうだった。
もう充分、精神的には追い詰められた。
彼はそもそも、そんなに悪い人ではない。
ただちょっと、臆病なだけだった。
今では近寄ってくる人も減り、教師から見られる眼も冷たいものへと変わってしまった。
成績も落ち込み、見かければ明らかに落ち込んでダメージを受けた姿になっている。
「ダメよっ! まだ足りない! もっともっと、アイツを『不幸』にしてよ!」
彼女は必死の形相で、わたしの両肩を掴んできた。
チラッとお墓に視線を向ける。
彼女は山で咲いている花を、毎日供えに来ているようだった。
きっと消極的な彼女にとって、ペットが唯一、心許せる相手だったのだろう。
それを理不尽な出来事で奪われた気持ちは分からなくはないけど…。
「でっでもコレ以上、『不幸』にするのなら、アナタも彼もただでは済まないわよ?」
一瞬、意志が揺らいだように見えた。
けれど次の瞬間には、きっぱりと言った。
「―構わない。アイツが『不幸』のどん底を味わうなら、どうなったって構わない」
…若いって、良いことでもあるけど、ダメな部分もある。
怖いモノを知らな過ぎるのだ。
「…本当に、どうなっても構わない?」
「ええ。だからお願い! アイツを『不幸』にして! 立ち直れないぐらいの、ダメージを与えてよ!」
「はあ…」
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