呪女

hosimure

文字の大きさ
3 / 6

3

しおりを挟む
彼女も彼が流しているウワサでかなり傷付いているみたいだし、聞いた生徒達も半信半疑とちょっとヤバイ空気が流れている。

彼女がいくら否定しても、彼が次から次へと流すからキリがない。

それにこう言ってはなんだけど、彼と彼女では人望が違う。

社交的な彼と、消極的な彼女。

正反対だからこそ、余計にだ。

「まずはウワサを変えようかねぇ」

背伸びをして、近くにいるグループの中に入った。

そこでの話題は彼女のことだった。

何でも教師の一人と、不倫をしているとか…。

苦笑しながらまずは話を聞く。

「そうなんだ。そう言えばさぁ、ちょっと聞いたんだけど…」

わたしは自然に話を逸らす。

人のウワサに対抗できるのは、同じく人のウワサだけ。

また好奇心の強い高校生達は、こういう話題が大好きだときている。

「ええ~?」

「ウッソー」

思った通り、聞いても信じられないという顔をされた。

「まあわたしも聞いただけだしね。本当かどうかは分からないわよ?」

わたし自身もあやふやであることを言う。

そして話題は変わる。

―コレで良い。

ここであまり主張を強くしても、怪しまれるだけだ。

ウワサを流すのは一日に一度だけ。

そして前に言った人達とは、また別の人達に話す。

こうすることによってウワサの出所を分からなくして、そしてより多くの人達に興味を持たれるようにする。

興味とは時に残酷な面を見せる。

人を傷つけようが、陥れようが、より深みを求めてしまうものだ。

やがて一ヶ月も過ぎないうちに、効果はハッキリと出た。

彼の評判はガタ落ちに、彼女のウワサは綺麗さっぱり消えていた。

「どう? このぐらいで」

夕焼けの美しい中、わたしは彼女と再会した。

「まだダメよ! ただアイツの評判が悪くなっただけじゃない!」

う~ん。…コレでも頑張ったんだけどな。

わたしの流したウワサは、彼の悪さ。

もちろん、内容はフィクション。

だけどほんのちょっぴり、真実を混ぜた。

―そう、彼がバイクで一つの命を奪ったことを。

もちろん、彼女のことは一切匂わせなかった。

けれど思い当たる彼はそのウワサを聞きつけた時、生きた心地がしなかっただろう。

「でも今じゃずいぶん追い詰められているわよ? そのうちちゃんとアナタに謝罪してくると思うから、ここら辺で、ね?」

優しく諭すように言ったのは、せめてもの慈悲だった。

彼女に対してはもちろんのこと、彼のこともそうだった。

もう充分、精神的には追い詰められた。

彼はそもそも、そんなに悪い人ではない。

ただちょっと、臆病なだけだった。

今では近寄ってくる人も減り、教師から見られる眼も冷たいものへと変わってしまった。

成績も落ち込み、見かければ明らかに落ち込んでダメージを受けた姿になっている。

「ダメよっ! まだ足りない! もっともっと、アイツを『不幸』にしてよ!」

彼女は必死の形相で、わたしの両肩を掴んできた。

チラッとお墓に視線を向ける。

彼女は山で咲いている花を、毎日供えに来ているようだった。

きっと消極的な彼女にとって、ペットが唯一、心許せる相手だったのだろう。

それを理不尽な出来事で奪われた気持ちは分からなくはないけど…。

「でっでもコレ以上、『不幸』にするのなら、アナタも彼もただでは済まないわよ?」

一瞬、意志が揺らいだように見えた。

けれど次の瞬間には、きっぱりと言った。

「―構わない。アイツが『不幸』のどん底を味わうなら、どうなったって構わない」

…若いって、良いことでもあるけど、ダメな部分もある。

怖いモノを知らな過ぎるのだ。

「…本当に、どうなっても構わない?」

「ええ。だからお願い! アイツを『不幸』にして! 立ち直れないぐらいの、ダメージを与えてよ!」

「はあ…」

深くため息をついた。

この暴走、何を言っても最早止まらないだろう。

「…分かったわ。彼には最上級の『不幸』を与えれば良いのね?」

「やってくれるのね! ありがとう!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

放課後に消えた少女たち~意味が分かると怖い、学校の怪談〜

荒井竜馬@書籍発売中
ホラー
意味が分かると怖い、学校の怪談。 あなたはこの話の意味に気づけるか? 学校の怪談に関するホラー話の短編集。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...