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彼女は輝く笑顔を浮かべる。
…お礼を言いたいのはコッチの方なんだけどね。
最初に言った通り、願いが大きく・強ければ、反動も更に増すというもの。
まあ彼女がそれを願うのならば、わたしは実行に移すのみ。
学校ではすでに、わたしが言わなくても彼のウワサは暴走していた。
やがて教師に呼ばれ、親まで呼び出された。
けれど彼女のペットを轢き殺したことは言わない。
…う~ん。案外しぶとい。
だから今度はウワサの方向性を変えることにした。
彼の評判を落とす為ではなく、殺したモノに祟られていることにした。
だから彼は不運に見舞われるのだと―案外ウソではないことを広めることにした。
すると出るわ出るわ。
彼の周囲で起こるちょっとした悪いことは、全て祟りのせいにされてしまう。
人の見解とは恐ろしいものだ。
一度傾くと、勢い良く思考がそちらへ流れてしまう。
実際、祟り等ではない。
日常に起こる、ちょっとした不運なことだ。
誰でも何時でも起ってしまうことが、人の口で語られると祟りと成る。
彼が体育の時間に転んだことも、お財布を失くしてしまったことも、うっかりコップを割ってしまったことさえ、祟りのせいにされてしまった。
おかげで彼に近付く人はいなくなり、生徒達は遠巻きにヒソヒソとウワサを流す。
しかし彼は頑なだった。
決して祟りのせいにせず、偶然だと言い張った。
ここで神社にでも行けばまだ可愛げがあったんだけど…人の心はやっぱりよく分からない。
まあ確かにここでギブアップ宣言をすれば、彼は一つの命を奪ったことを認めることとなる。
彼にとって悪評が広まり続けることよりも、そっちの方が余程恐ろしいらしい。
やっぱりわたしには分からない感覚だ。
肩を竦めながら、わたしは彼に話かけた。
「顔色悪いよ? 大丈夫?」
「あっああ…」
彼は青白い顔で、二階の廊下の窓から外の景色を見ていた。
「ウワサなんて広まるのは早いけど、消えるのも早いから。気にしない方がいいよ?」
「…分かってる」
そりゃそうだ。
彼女のウワサもまた、広まるのは早く、消え去るのも早かったのを、彼は誰よりも知っている。
「なぁ…祟りってあると思う?」
「祟り、ねぇ…。祟りより、恨みの方がわたしは怖いわね」
「恨み…」
その一言は彼の胸に重く伸し掛かったのだろう。
「祟りって言うのは主に、死者が怨んで災いを起こすことでしょう? 恨みは生きた人間が発する感情だもの。わたしはよく分からない祟りより、分かりやすい恨みの方が恐ろしいわ」
「そう…だな。生きた人間の方が、よっぽど怖いよな」
彼は唇を噛み締め、窓から離れた。
「もう帰るな」
「ええ、さようなら」
彼は弱々しく微笑み、手を振って歩いて行った。
わたしは彼と同じように、窓の外に視線を向けた。
目の前に広がるのは、彼女と出会ったあの山。
…思ってしまうんだろうな。
そこでふと、駐輪場に視線を移した。
彼女がそこへ歩いて行くのを見かけたからだ。
彼女は自転車通学をしており、あのバイクもイヤでも眼につくだろう。
ちょっと可哀想な気もするけど…その時見えた彼女の表情が思い詰めたような顔をしていたので、少し疑問に思った。
しかしクラスメートに話かけられ、わたしは視線を逸らしてしまった。
…きっとここで彼女に声をかけていれば、未来は変わっていただろう。
―そう、彼がバイクで事故死するという未来を。
彼はわたしと別れた後、バイクに乗って、例の山の中を走っていた。
そこでバイクはトラブルを起こし、彼は亡くなってしまった。
翌朝、彼は祟りに合って死んだのだと、誰もが口々に言った。
しかしわたしは分かってしまった。
彼が本当は事故ではなく、殺されてしまったのだということを。
そう…あのペットのように。
ザアアア…
「豪雨、とも言えなくないわね。この雨の勢いは」
わたしは傘を差しながら、山のお墓の前に来ていた。
花屋から買った花束をお墓に供え、手を合わせる。
「お花、ありがとう」
声を聞いて、振り返る。
傘を差しながら、彼女が笑顔で立っている。
しかしこの笑みは、ペットのお墓に花を供えたから生まれたモノじゃない。
別の意味があることを、わたしは知っている。
「…コレで満足?」
「ええ、大満足よ。アイツ、このコと同じ死に方をしたんだもの」
彼女は笑いながら、石を撫でた。
…これで亡きペットが喜んでいるのか、分からないものだ。
「ちょっと言い方違うんじゃない?」
「ああ、あなたのおかげもあるわね。アイツを精神的に追い詰めてくれたのは、あなたの力があったからこそだから…」
「だからバイクで事故ったなんて話、わたしは信じちゃいないわよ」
言葉を遮って言うと、彼女の眼がぴくっと動く。
動揺したのだ。
「あの日、駐輪場へ行ったわね?」
「あの日って?」
「彼が死んだ日、よ」
「ええ、だって自転車通学しているもの」
「帰る前に、バイクに細工をしたでしょう?」
「………」
…この沈黙は、了承と受け取っていいだろう。
「彼、バイクの改造が趣味だったみたいね。だからアナタのペットを轢き殺すキッカケともなった」
昼間、たまたま彼の友達が話していたのを耳にした。
彼は手に入れたバイクを改造するのが趣味だったのだと―。
スピードをより早くしようと改造して、実験した。
成功はしたけれど、その代償は大きいモノだった。
「だから壊れたバイクを調べても、彼が勝手に改造したせいにされてしまう。よくもまあ良いタイミングで行ったものね」
彼はすでに精神的に不安定になっていた。
いつ自ら命を絶ってもおかしくないほどに。
「…だから言ったじゃない。あなたのおかげだって」
「わたしは確かに彼を追い詰めた。けれど死へ追い詰めたのは、あなたよ」
…お礼を言いたいのはコッチの方なんだけどね。
最初に言った通り、願いが大きく・強ければ、反動も更に増すというもの。
まあ彼女がそれを願うのならば、わたしは実行に移すのみ。
学校ではすでに、わたしが言わなくても彼のウワサは暴走していた。
やがて教師に呼ばれ、親まで呼び出された。
けれど彼女のペットを轢き殺したことは言わない。
…う~ん。案外しぶとい。
だから今度はウワサの方向性を変えることにした。
彼の評判を落とす為ではなく、殺したモノに祟られていることにした。
だから彼は不運に見舞われるのだと―案外ウソではないことを広めることにした。
すると出るわ出るわ。
彼の周囲で起こるちょっとした悪いことは、全て祟りのせいにされてしまう。
人の見解とは恐ろしいものだ。
一度傾くと、勢い良く思考がそちらへ流れてしまう。
実際、祟り等ではない。
日常に起こる、ちょっとした不運なことだ。
誰でも何時でも起ってしまうことが、人の口で語られると祟りと成る。
彼が体育の時間に転んだことも、お財布を失くしてしまったことも、うっかりコップを割ってしまったことさえ、祟りのせいにされてしまった。
おかげで彼に近付く人はいなくなり、生徒達は遠巻きにヒソヒソとウワサを流す。
しかし彼は頑なだった。
決して祟りのせいにせず、偶然だと言い張った。
ここで神社にでも行けばまだ可愛げがあったんだけど…人の心はやっぱりよく分からない。
まあ確かにここでギブアップ宣言をすれば、彼は一つの命を奪ったことを認めることとなる。
彼にとって悪評が広まり続けることよりも、そっちの方が余程恐ろしいらしい。
やっぱりわたしには分からない感覚だ。
肩を竦めながら、わたしは彼に話かけた。
「顔色悪いよ? 大丈夫?」
「あっああ…」
彼は青白い顔で、二階の廊下の窓から外の景色を見ていた。
「ウワサなんて広まるのは早いけど、消えるのも早いから。気にしない方がいいよ?」
「…分かってる」
そりゃそうだ。
彼女のウワサもまた、広まるのは早く、消え去るのも早かったのを、彼は誰よりも知っている。
「なぁ…祟りってあると思う?」
「祟り、ねぇ…。祟りより、恨みの方がわたしは怖いわね」
「恨み…」
その一言は彼の胸に重く伸し掛かったのだろう。
「祟りって言うのは主に、死者が怨んで災いを起こすことでしょう? 恨みは生きた人間が発する感情だもの。わたしはよく分からない祟りより、分かりやすい恨みの方が恐ろしいわ」
「そう…だな。生きた人間の方が、よっぽど怖いよな」
彼は唇を噛み締め、窓から離れた。
「もう帰るな」
「ええ、さようなら」
彼は弱々しく微笑み、手を振って歩いて行った。
わたしは彼と同じように、窓の外に視線を向けた。
目の前に広がるのは、彼女と出会ったあの山。
…思ってしまうんだろうな。
そこでふと、駐輪場に視線を移した。
彼女がそこへ歩いて行くのを見かけたからだ。
彼女は自転車通学をしており、あのバイクもイヤでも眼につくだろう。
ちょっと可哀想な気もするけど…その時見えた彼女の表情が思い詰めたような顔をしていたので、少し疑問に思った。
しかしクラスメートに話かけられ、わたしは視線を逸らしてしまった。
…きっとここで彼女に声をかけていれば、未来は変わっていただろう。
―そう、彼がバイクで事故死するという未来を。
彼はわたしと別れた後、バイクに乗って、例の山の中を走っていた。
そこでバイクはトラブルを起こし、彼は亡くなってしまった。
翌朝、彼は祟りに合って死んだのだと、誰もが口々に言った。
しかしわたしは分かってしまった。
彼が本当は事故ではなく、殺されてしまったのだということを。
そう…あのペットのように。
ザアアア…
「豪雨、とも言えなくないわね。この雨の勢いは」
わたしは傘を差しながら、山のお墓の前に来ていた。
花屋から買った花束をお墓に供え、手を合わせる。
「お花、ありがとう」
声を聞いて、振り返る。
傘を差しながら、彼女が笑顔で立っている。
しかしこの笑みは、ペットのお墓に花を供えたから生まれたモノじゃない。
別の意味があることを、わたしは知っている。
「…コレで満足?」
「ええ、大満足よ。アイツ、このコと同じ死に方をしたんだもの」
彼女は笑いながら、石を撫でた。
…これで亡きペットが喜んでいるのか、分からないものだ。
「ちょっと言い方違うんじゃない?」
「ああ、あなたのおかげもあるわね。アイツを精神的に追い詰めてくれたのは、あなたの力があったからこそだから…」
「だからバイクで事故ったなんて話、わたしは信じちゃいないわよ」
言葉を遮って言うと、彼女の眼がぴくっと動く。
動揺したのだ。
「あの日、駐輪場へ行ったわね?」
「あの日って?」
「彼が死んだ日、よ」
「ええ、だって自転車通学しているもの」
「帰る前に、バイクに細工をしたでしょう?」
「………」
…この沈黙は、了承と受け取っていいだろう。
「彼、バイクの改造が趣味だったみたいね。だからアナタのペットを轢き殺すキッカケともなった」
昼間、たまたま彼の友達が話していたのを耳にした。
彼は手に入れたバイクを改造するのが趣味だったのだと―。
スピードをより早くしようと改造して、実験した。
成功はしたけれど、その代償は大きいモノだった。
「だから壊れたバイクを調べても、彼が勝手に改造したせいにされてしまう。よくもまあ良いタイミングで行ったものね」
彼はすでに精神的に不安定になっていた。
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