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「それで本当は私の役目、立て直すことではなく、片付ける準備をすることなんです」
片付け…ってまさかっ!
「潰すつもりなのか? ウチの会社っ! って、うっ…」
つい力んでしまったせいで、オレの中にある利人を締め付けてしまった。
「ちょっ、いきなり興奮しないでくださいよ」
さすがに締め付けがきつかったのか、珍しく苦悶した表情を見せる。
「悪い…。でもびっくりして」
しばらく息を整えていると、何とか力が緩んだ。
「はぁ…。まあ言い方は悪かったですけど、事実そうなんです。それでも使える人材がいれば、見つけてこいとの上からのお達しで」
…本格的に見捨てられたな、ウチの会社。
「でも父から言われたことは違うんです」
「はっ? 何でそこでお前の父親が出てくるんだ?」
「父はおもしろいことが大好きですから。それで本当にあの営業部を立て直し、一年間で営業成績を上げれば、私は実家の会社を継ぐことができるんです」
どういう条件だよ。
っていうか、他人の会社を巻き込むなんて、やっぱり異常な血筋だ。
「私の方からも、条件を出しましたけどね」
「何をだ?」
利人はオレの眼を真っ直ぐに見つめた。
「私の推薦する人を、私の秘書にすること。本当ならば父から推薦された人物を秘書にするようにと言われていたんですけど、真っ平ゴメンですからね。私は雅夜を推薦したいと思っています」
何だか話がだんだん見えてきたぞ。
利人は父親の会社を継ぎたい。
その為にはウチの会社の営業部を、一年で立て直さなくてはならない。
そうすれば会社を継げる上に、オレを秘書として側に置くことができる。
それって…。
「…お前が『あの時』、言った言葉だな」
「はい、もちろん。言いましたでしょう? 恋は人を強くする、と」
自信満々という表情で、オレにキスをしてきた。
「とりあえず、指輪は一年後まで待ってくださいね? これからは忙しくなりますから」
「はいはい」
もうめんどくさくなって、適当に相槌を打つ。
利人は心底楽しそうに語り続ける。
「あと、引っ越しはすぐの方が良いですから…」
「誰の引っ越しだ?」
「雅夜のですよ。決まっているでしょう?」
「いつから決まった!」
「二人一緒にいれば、不可能なんてないです。それに見張りの意味もありますしね」
「くっ…!」
十年前のことは、いつまで言われ続けるんだ?
「まっ、今日ぐらいは何もかも忘れて、お互いを求め合いましょう」
「自堕落な後継者だな」
「そういう方が、魅力的でしょう?」
「言ってろ」
そう言いつつも、オレから利人にキスをした。
どうせ何を言ったって、聞き入れやしない。
コイツはオレのことで、いっぱいなんだからな!
―一年後。
オレは利人と共に、飛行機のファーストクラスに乗っていた。
「すみません、雅夜。自家用ジェット機、今メンテナンス中でして…」
「いや、いい。普通の飛行機でいい」
と言うより、ファーストクラスに乗っている時点で良い。
ちなみにこれからオレ達が向かうのはアメリカ。
そこには利人のご両親がいて、改めて秘書就任の挨拶に行かなくてはいけないのだ。
利人のヤツ!
まさか本当にウチのダメ営業部を立て直し、あまつさえ今年度の営業成績ナンバー1にするとは思わなかった!
…せめて3位ぐらいだと思っていたのに。
あれからオレはすぐに引っ越しを強制され、利人と共に暮らしていた。
オレは相変わらず事務で頑張っていた。
利人は本当に頑張って、あらゆる努力をして営業部の人間を奮い立たせ、全員をヤル気のある社員に変えてしまった。
その影響か、他の社員達もヤル気を出し、おかげさまで営業成績がうなぎ上りどころか、ジェット機上りだった。
居心地が良かった職場はすっかり変貌してしまい、オレは逆に居心地の悪さを感じていた。
そんな中、利人の期間が終了。
泣きながら子会社の人間達に縋られるも、アッサリ振り切って、会社も退職。
今では華宮グループの正式な後継者として、動き出している。
そしてオレも…コイツが退職する時に、同じく会社を辞めていた。
利人の正式な秘書になる為に。
「でも秘書って何をすれば良いんだ? そもそもお前の方が優秀なんだから、秘書なんていらないだろう?」
『秘書になる為の必勝法!』という怪しげな本を読みながら、思わず愚痴った。
「ええ、私に秘書は必要ありません。全て自分一人で何とかできますから」
「じゃあ何でオレなんだよ?」
ブスッとしながら言うと、左手を持ち上げられた。
薬指にはプラチナリングがある。
「ずっと一緒にいてくれるんでしょう?」
利人は自分の左手を上げて見せる。
オレがしているのと同じデザインのリングが、利人の薬指にもはまっていた。
「そっそれとこれとは違うだろっ!」
利人の手を振り払い、左手を背後に隠す。
「手段としては同じです。いつも一緒ならば、何だって良いんですよ」
コイツは…告白してきた時から、何にも変わっちゃいないな。
「ああ、あと両親には『生涯を共に過ごしたいしたい人がいる』と言っていますので、秘書兼結婚報告ですね」
「はあっ?」
それは聞いていないっ!
「今更隠すことでもないでしょう。高校の頃、しょっちゅう私の家に来ていましたし」
げっ! まさかバレてんのか!
「向こうに着きましたら、二人っきりで結婚式を挙げましょうね」
…すでに利人の頭の中は、オレとの未来のことでいっぱいなんだろう。
深くため息を吐くと、オレは真っ直ぐに利人の眼を見た。
「分かった。いくらでも付き合ってやる。お前がオレを飽きるまでは、な?」
「そんなの未来永劫、例え死んでもあり得ませんよ? 覚悟してくださいね」
そしてお互い笑い合い、キスをした。
【END】
★最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
片付け…ってまさかっ!
「潰すつもりなのか? ウチの会社っ! って、うっ…」
つい力んでしまったせいで、オレの中にある利人を締め付けてしまった。
「ちょっ、いきなり興奮しないでくださいよ」
さすがに締め付けがきつかったのか、珍しく苦悶した表情を見せる。
「悪い…。でもびっくりして」
しばらく息を整えていると、何とか力が緩んだ。
「はぁ…。まあ言い方は悪かったですけど、事実そうなんです。それでも使える人材がいれば、見つけてこいとの上からのお達しで」
…本格的に見捨てられたな、ウチの会社。
「でも父から言われたことは違うんです」
「はっ? 何でそこでお前の父親が出てくるんだ?」
「父はおもしろいことが大好きですから。それで本当にあの営業部を立て直し、一年間で営業成績を上げれば、私は実家の会社を継ぐことができるんです」
どういう条件だよ。
っていうか、他人の会社を巻き込むなんて、やっぱり異常な血筋だ。
「私の方からも、条件を出しましたけどね」
「何をだ?」
利人はオレの眼を真っ直ぐに見つめた。
「私の推薦する人を、私の秘書にすること。本当ならば父から推薦された人物を秘書にするようにと言われていたんですけど、真っ平ゴメンですからね。私は雅夜を推薦したいと思っています」
何だか話がだんだん見えてきたぞ。
利人は父親の会社を継ぎたい。
その為にはウチの会社の営業部を、一年で立て直さなくてはならない。
そうすれば会社を継げる上に、オレを秘書として側に置くことができる。
それって…。
「…お前が『あの時』、言った言葉だな」
「はい、もちろん。言いましたでしょう? 恋は人を強くする、と」
自信満々という表情で、オレにキスをしてきた。
「とりあえず、指輪は一年後まで待ってくださいね? これからは忙しくなりますから」
「はいはい」
もうめんどくさくなって、適当に相槌を打つ。
利人は心底楽しそうに語り続ける。
「あと、引っ越しはすぐの方が良いですから…」
「誰の引っ越しだ?」
「雅夜のですよ。決まっているでしょう?」
「いつから決まった!」
「二人一緒にいれば、不可能なんてないです。それに見張りの意味もありますしね」
「くっ…!」
十年前のことは、いつまで言われ続けるんだ?
「まっ、今日ぐらいは何もかも忘れて、お互いを求め合いましょう」
「自堕落な後継者だな」
「そういう方が、魅力的でしょう?」
「言ってろ」
そう言いつつも、オレから利人にキスをした。
どうせ何を言ったって、聞き入れやしない。
コイツはオレのことで、いっぱいなんだからな!
―一年後。
オレは利人と共に、飛行機のファーストクラスに乗っていた。
「すみません、雅夜。自家用ジェット機、今メンテナンス中でして…」
「いや、いい。普通の飛行機でいい」
と言うより、ファーストクラスに乗っている時点で良い。
ちなみにこれからオレ達が向かうのはアメリカ。
そこには利人のご両親がいて、改めて秘書就任の挨拶に行かなくてはいけないのだ。
利人のヤツ!
まさか本当にウチのダメ営業部を立て直し、あまつさえ今年度の営業成績ナンバー1にするとは思わなかった!
…せめて3位ぐらいだと思っていたのに。
あれからオレはすぐに引っ越しを強制され、利人と共に暮らしていた。
オレは相変わらず事務で頑張っていた。
利人は本当に頑張って、あらゆる努力をして営業部の人間を奮い立たせ、全員をヤル気のある社員に変えてしまった。
その影響か、他の社員達もヤル気を出し、おかげさまで営業成績がうなぎ上りどころか、ジェット機上りだった。
居心地が良かった職場はすっかり変貌してしまい、オレは逆に居心地の悪さを感じていた。
そんな中、利人の期間が終了。
泣きながら子会社の人間達に縋られるも、アッサリ振り切って、会社も退職。
今では華宮グループの正式な後継者として、動き出している。
そしてオレも…コイツが退職する時に、同じく会社を辞めていた。
利人の正式な秘書になる為に。
「でも秘書って何をすれば良いんだ? そもそもお前の方が優秀なんだから、秘書なんていらないだろう?」
『秘書になる為の必勝法!』という怪しげな本を読みながら、思わず愚痴った。
「ええ、私に秘書は必要ありません。全て自分一人で何とかできますから」
「じゃあ何でオレなんだよ?」
ブスッとしながら言うと、左手を持ち上げられた。
薬指にはプラチナリングがある。
「ずっと一緒にいてくれるんでしょう?」
利人は自分の左手を上げて見せる。
オレがしているのと同じデザインのリングが、利人の薬指にもはまっていた。
「そっそれとこれとは違うだろっ!」
利人の手を振り払い、左手を背後に隠す。
「手段としては同じです。いつも一緒ならば、何だって良いんですよ」
コイツは…告白してきた時から、何にも変わっちゃいないな。
「ああ、あと両親には『生涯を共に過ごしたいしたい人がいる』と言っていますので、秘書兼結婚報告ですね」
「はあっ?」
それは聞いていないっ!
「今更隠すことでもないでしょう。高校の頃、しょっちゅう私の家に来ていましたし」
げっ! まさかバレてんのか!
「向こうに着きましたら、二人っきりで結婚式を挙げましょうね」
…すでに利人の頭の中は、オレとの未来のことでいっぱいなんだろう。
深くため息を吐くと、オレは真っ直ぐに利人の眼を見た。
「分かった。いくらでも付き合ってやる。お前がオレを飽きるまでは、な?」
「そんなの未来永劫、例え死んでもあり得ませんよ? 覚悟してくださいね」
そしてお互い笑い合い、キスをした。
【END】
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