14 / 21
第一章
チート三本勝負、二本目【カノン】
しおりを挟む
「カカ!さて、私の相手は君カ」
「どうも」
直立した鳥人間であるカノンの姿はエルフ一般的な感覚からすれば少々異様だった。この世界にも鳥の獣人はいるが、彼らはあくまで人に翼や羽根が生えている、といった外見であり、カノンのような姿をした相手がいたとしたらモンスターの類だろう。
実際、カノンの本性はモンスター、その最高峰の一角な訳だから間違ってはいないが。
もっとも、今回の場合はその服装にも理由がある。カノンの纏う礼服などこんな森の中に住んでいるエルフ達には見た事のない服装だからだ。
「さて、私はあまり近距離戦が得意ではなくてネ。その武器から察するに君は得意なのだろウ?」
「ええ、まあ」
よく使いこまれた大剣。
小柄ながら、少年エルフの動きに、その大きさに振り回されるとか重さに耐えているという印象はない。
「ぼく、あまり飛び道具系の魔法が得意じゃないんですよ。でも、身体強化の魔法は得意なので……」
「おいおイ。自分の得手不得手をこれから対戦する相手に語るものじゃないヨ?」
「あ!す、すいません!」
「なに、そう言いつつ私も言ってしまうのだから気にしなくていいヨ!私は遠距離戦が得意なんダ」
カカカ、と嗤うカノンにどう反応していいか分からず困った様子を浮かべた。
傍から見れば、どう見てもカノンが悪役、少年エルフが邪悪に挑む勇者というキャスティングにしか見えまい。実際、カノンの体から何か黒いオーラのようなものが出ているようにも見える。
「【黒き風の守護】……さて、これでその剣で思い切り殴った所で私が死ぬ事はなイ。思い切りきたまエ!」
「……分かりました。では!」
少年エルフが剣を構え直す。
アニメや映画ならチャキッと音が鳴る場面だが、現実には鳴らない。何かに当たった訳でもないのに、そんな音がしたらどこか剣に緩みがあるという事で、最悪戦ってる最中に剣が分解する。故にただ静かに剣を肩に担ぐように構え直すだけで終わる。
「ではッ!」
「いざ尋常二!」
「「勝負ッ!!」」
その声を合図に少年エルフが一気に駆け出す!
「だが、断ル!」
「うえっ!?」
思わず少年エルフが戸惑いの声を上げるが、カノンのそれはあくまで戦いを止めるという事ではなく、近接される事を拒絶するという事だったらしく、巻き起こった風が少年エルフを押し戻そうと襲い掛かり!
「せいああっ!!」
剣に切り裂かれた。
「ほウ!剣に魔力を纏わせ、魔法そのものを切り裂くかネ!良きかな、良きかナ!」
風を切り裂いた少年エルフはそのまま近づくと振り上げた剣を。
「だが、それではまだ足りないなア!!」
全方位、無差別に放たれた風に今度こそ剣ごと吹き飛ばされた。それでも、剣を離す事なく、身体を捻って見事に着地したのはさすがというべきか。
しかし、それでは当然体勢は崩れる。
「そうら、次がいくゾ!!受け取りたまエ!」
風の攻撃の厄介な所は速度ではない。見えない事にある。
反面、本来その攻撃は軽い。質量がない分、どうしても一撃一撃の重みには欠ける、というのが本来の形のはずなのだが。
「いっ、ぐっ、くああああっ!!」
「そら、そら、そラ!どうしタ!?来たまエ!!来れるのならバ!!」
可視化された幾本もの風の刃が甚振るように少年エルフに放たれる。
巧妙、といって良いのかは分からないが、そのいずれもが必死に体を動かせばギリギリで攻撃を防げるレベルに留められている。ガン!ガン!ガン!と周囲に金属同士が叩きつけられ合うような轟音が響く。
北欧神話に曰く、フレースヴェルグは全ての風の源、風はフレースヴェルグより生まれるという。すなわち、哄笑もまた風を生み、持ち上げた腕がまた風を生む、行動自体が、いや存在する時点で風がカノンを守り、攻撃の刃となる。少年エルフは風によって左右に振られ、浮き上がり、叩きつけられ、それでも必死に防ぎ続けて。
「そラ!そラ!そラ!ほうら、疲れたかイ!じゃあもう終わりにしよう…」
「なにやってやがんだてめえわああああああ!!!!」
「…カッ!?」
そんな舞台は側面から轟音と共に飛来した拳大の石がカノンの頭部にクリーンヒットした事で終わりを告げた。
普通、そんなものがぶつかったら、軽く飛んできたものでも下手すれば命に関わる。ましてや、それが剛速球で飛んで来たら……思わず青くなる周囲だったが、直後にバタリと倒れたカノンは何もなかったかのように跳ね起きた。
「むう、何をするのかネ、ティグレ君」
「何じゃねーよ!これは模擬戦!!殺す気かてめええ!!見ろ、周囲ドン引きじゃねえか!!」
「ム?おお、そうだっタ!すっかり忘れていたヨ!!」
いや、失敗失敗と手を打ったカノンは唖然としていた少年エルフににこやかに告げた。
「いや、すまなかったネ。つい我を忘れていたヨ。今回は我が輩の負けという事で許して欲しイ」
そう言いつつ、立ち去るカノンの背中を苛立った様子で睨んでいたティグレだったが、ふと真顔になって呟いた。
「……あいつ、自分の事を『我が輩』だなんて言った事あったか……?」
「どうも」
直立した鳥人間であるカノンの姿はエルフ一般的な感覚からすれば少々異様だった。この世界にも鳥の獣人はいるが、彼らはあくまで人に翼や羽根が生えている、といった外見であり、カノンのような姿をした相手がいたとしたらモンスターの類だろう。
実際、カノンの本性はモンスター、その最高峰の一角な訳だから間違ってはいないが。
もっとも、今回の場合はその服装にも理由がある。カノンの纏う礼服などこんな森の中に住んでいるエルフ達には見た事のない服装だからだ。
「さて、私はあまり近距離戦が得意ではなくてネ。その武器から察するに君は得意なのだろウ?」
「ええ、まあ」
よく使いこまれた大剣。
小柄ながら、少年エルフの動きに、その大きさに振り回されるとか重さに耐えているという印象はない。
「ぼく、あまり飛び道具系の魔法が得意じゃないんですよ。でも、身体強化の魔法は得意なので……」
「おいおイ。自分の得手不得手をこれから対戦する相手に語るものじゃないヨ?」
「あ!す、すいません!」
「なに、そう言いつつ私も言ってしまうのだから気にしなくていいヨ!私は遠距離戦が得意なんダ」
カカカ、と嗤うカノンにどう反応していいか分からず困った様子を浮かべた。
傍から見れば、どう見てもカノンが悪役、少年エルフが邪悪に挑む勇者というキャスティングにしか見えまい。実際、カノンの体から何か黒いオーラのようなものが出ているようにも見える。
「【黒き風の守護】……さて、これでその剣で思い切り殴った所で私が死ぬ事はなイ。思い切りきたまエ!」
「……分かりました。では!」
少年エルフが剣を構え直す。
アニメや映画ならチャキッと音が鳴る場面だが、現実には鳴らない。何かに当たった訳でもないのに、そんな音がしたらどこか剣に緩みがあるという事で、最悪戦ってる最中に剣が分解する。故にただ静かに剣を肩に担ぐように構え直すだけで終わる。
「ではッ!」
「いざ尋常二!」
「「勝負ッ!!」」
その声を合図に少年エルフが一気に駆け出す!
「だが、断ル!」
「うえっ!?」
思わず少年エルフが戸惑いの声を上げるが、カノンのそれはあくまで戦いを止めるという事ではなく、近接される事を拒絶するという事だったらしく、巻き起こった風が少年エルフを押し戻そうと襲い掛かり!
「せいああっ!!」
剣に切り裂かれた。
「ほウ!剣に魔力を纏わせ、魔法そのものを切り裂くかネ!良きかな、良きかナ!」
風を切り裂いた少年エルフはそのまま近づくと振り上げた剣を。
「だが、それではまだ足りないなア!!」
全方位、無差別に放たれた風に今度こそ剣ごと吹き飛ばされた。それでも、剣を離す事なく、身体を捻って見事に着地したのはさすがというべきか。
しかし、それでは当然体勢は崩れる。
「そうら、次がいくゾ!!受け取りたまエ!」
風の攻撃の厄介な所は速度ではない。見えない事にある。
反面、本来その攻撃は軽い。質量がない分、どうしても一撃一撃の重みには欠ける、というのが本来の形のはずなのだが。
「いっ、ぐっ、くああああっ!!」
「そら、そら、そラ!どうしタ!?来たまエ!!来れるのならバ!!」
可視化された幾本もの風の刃が甚振るように少年エルフに放たれる。
巧妙、といって良いのかは分からないが、そのいずれもが必死に体を動かせばギリギリで攻撃を防げるレベルに留められている。ガン!ガン!ガン!と周囲に金属同士が叩きつけられ合うような轟音が響く。
北欧神話に曰く、フレースヴェルグは全ての風の源、風はフレースヴェルグより生まれるという。すなわち、哄笑もまた風を生み、持ち上げた腕がまた風を生む、行動自体が、いや存在する時点で風がカノンを守り、攻撃の刃となる。少年エルフは風によって左右に振られ、浮き上がり、叩きつけられ、それでも必死に防ぎ続けて。
「そラ!そラ!そラ!ほうら、疲れたかイ!じゃあもう終わりにしよう…」
「なにやってやがんだてめえわああああああ!!!!」
「…カッ!?」
そんな舞台は側面から轟音と共に飛来した拳大の石がカノンの頭部にクリーンヒットした事で終わりを告げた。
普通、そんなものがぶつかったら、軽く飛んできたものでも下手すれば命に関わる。ましてや、それが剛速球で飛んで来たら……思わず青くなる周囲だったが、直後にバタリと倒れたカノンは何もなかったかのように跳ね起きた。
「むう、何をするのかネ、ティグレ君」
「何じゃねーよ!これは模擬戦!!殺す気かてめええ!!見ろ、周囲ドン引きじゃねえか!!」
「ム?おお、そうだっタ!すっかり忘れていたヨ!!」
いや、失敗失敗と手を打ったカノンは唖然としていた少年エルフににこやかに告げた。
「いや、すまなかったネ。つい我を忘れていたヨ。今回は我が輩の負けという事で許して欲しイ」
そう言いつつ、立ち去るカノンの背中を苛立った様子で睨んでいたティグレだったが、ふと真顔になって呟いた。
「……あいつ、自分の事を『我が輩』だなんて言った事あったか……?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
転生女神さまは異世界に現代を持ち込みたいようです。 〜ポンコツ女神の現代布教活動〜
れおぽん
ファンタジー
いつも現代人を異世界に連れていく女神さまはついに現代の道具を直接異世界に投じて文明の発展を試みるが…
勘違いから生まれる異世界物語を毎日更新ですので隙間時間にどうぞ
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる